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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第19章 巫女神舞
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第25話 VS炎鎧―前―

 メンフィス王国の王都を疾走する。

 現在の王都は大通りに露店が並び、『巫女』の舞を少しでもいいから見られないかと集まって来た人が多い。


 だから、王都にある建物の屋上を足場にして移動する。


「酷い……」


 私が向かっている先は炎鎧がいると思われる方向。


 どこにいるのかは、はっきりと分かる。

 炎鎧は特定範囲内の気温を上昇させると同時に自分を中心に膨大な量の熱を生み出している。


「つまり、暑い方向へ向かえばお前がいる」


 王都の北門の前に炎鎧はいた。

 初めて見るけど、こいつが炎鎧だ。


「本当に大きな鎧」


 体長3メートルを超える巨体を誇る魔物が頑丈な銀色の全身鎧を着ていた。鎧の隙間から赤茶色の肌が見えることから鎧そのものではなく、何かが鎧を着ているのは間違いない。

 けれど、全身を鎧で覆っているせいで中身を予想する事すら叶わない。


 と、観察していたら眼のある部分に開けられた隙間から漏れた光がこちらへ向けられた。


「アン? なんだテメェ」


 意外にも炎鎧の方から応答があった。


「私はこの事態を解決する為にやって来た冒険者。可能なら元の世界に帰ってくれない?」


 炎鎧が背中にあった斬馬刀を抜いて私へ向けて来る。


「テメェ、バカか? どうしてオレがお前の言う事なんか聞かなくちゃいけねぇ」

「雷獣みたいに召喚魔法で従っているだけじゃないの?」

「あの虎野郎と一緒にするんじゃねぇ!」


 炎鎧が持っていた斬馬刀を地面に叩き付ける。

 すると、轟々と燃え上がる炎が斬馬刀の軌跡に沿って放たれ私のいる方へと向かって来る。


 飛んで来た炎の斬撃を回避すると私も自分の剣を抜く。


「オレは暴れたいから暴れているだけだ。召喚なんか関係ねぇ」

「そう」


 つまり、雷獣と違って自分の意思で暴れている。


 これは危険だ。

 早目に対処したいところだけど、ここじゃダメ。


 北門前の大通りの中心に召喚されてしまった炎鎧のせいで祭りを楽しんでいた多くの人が熱で倒れてしまっている。まずは、彼らに対処する必要がある。


「あん?」


 炎鎧が気付いた。


「テメェ、舐めているのか?」

「別にそういうつもりはない。私の勝利条件に全員の救出も含まれているだけ」

「そんなに冷気を垂れ流した状態でオレに勝てる訳がないだろ」


 聖剣を中心に冷気を発生させて急激に高められた気温を下げる。

 炎鎧が発生させる熱に対して私ができるのはそれぐらいだ。


 けど、炎鎧が言ったようにそんな方法は長く続くはずがない。


 今の私は魔力を垂れ流しにしているような状態。迷宮眷属になったおかげで破格の魔力を手に入れることができた。それでも常に冷気を発生させるなんて魔法は長時間保てるものじゃない。おそらく私でも全力で戦いながらだと10分ちょっとが限界。


「あれ?」


 フラフラしながら私の傍にいた一人の女性が立ち上がった。

 一番近くにいた事で最も強く影響を受けていた。


「私、たしか暑くて倒れていたはずなんだけど」

「気が付いたなら離れていてもらえますか?」

「え……?」


 女性が自分を守るように立っている私の存在に気が付く。

 そして、その向こうに自分ではなく私に対して強い敵意を向けて来る魔物の存在に気付いた。


「この場所はこれから戦場になります。巻き込まずに戦う自信がないので離れていて下さい」

「は、はい……!」


 女性がフラフラした足取りながら離れて行く。

 無事に逃げられるのか不安なところだけど、私は目の前の相手から離れる訳にはいかない。


「やってくれたな」

「この方があなたもやり易いでしょ」

「オレ相手に手加減をしているっていうのが気に入らないが、テメェをぶちのめすのは変わりねぇ」


 炎鎧が斬馬刀を振り被りながら走り寄って来る。


 私のいた場所へと振り落とされた斬馬刀を後ろへ跳んで軽々と躱す。

 地面が炎鎧の一撃によって抉られ、地面を叩いた直後方向を変えて私が着地するであろう場所へ伸びて来た。


 私は斬馬刀が方向を変えた瞬間に空中で足場を冷気で固めて更に上へ跳ぶ。

 魔法で作り出した冷気の足場なんて軽く踏み込んだだけで粉々に砕ける。けれども私にとっては一瞬だけ踏み込めればよかった。


 着地してくる場所がずれてしまったせいで斬馬刀が空振る。


氷柱雨(アイシクルレイン)


 炎鎧の頭上で人と同じくらいの大きさがある氷柱を10本生み出す。

 先端は鋭く尖っており、並の魔物なら簡単に体を貫けてしまう。


 氷柱をそのまま落とす。重力に従って落下する氷柱は炎鎧に当たる。

 けど、全ての氷柱は当たっただけ。硬い鎧に阻まれて弾かれてしまい、炎鎧の放つ熱によって地面に落下する頃には先端部分が溶かされて水になっていた。


 溶けた氷柱が作った水たまりが蒸発している。


「この程度か」

「まさか」


 地面に聖剣を突き刺す。

 私の魔力が地面を伝って炎鎧の近くまで伸びて魔法によって生み出された巨大な氷の柱が炎鎧の体を外へと大きく吹き飛ばす。


 突然の攻撃に地面を気にしていなかった炎鎧が無防備に氷柱を受け止める。

 そもそも炎鎧に相手の攻撃を気にした様子がない。

 自分の纏っている鎧の防御力に絶対の自信がある。


 王都を苦しませている存在が内側から外へと吹き飛ばされた。

 その過程で北門の上部が少しだけ壊されてしまったけど、気にしていられない。


「今の内に倒れた人の回収を!」

「は、はい!」


 少し離れた場所では王都の警備を担当していた兵士たちが待機していた。

 彼らは上からの命令を受けて炎鎧をどうにかしないといけなかったけど、今までの経験から自分たちではどうにもならない事を知っていた。けれども、命令である以上は駆け付けなければならない。それに炎鎧の発生させた熱に倒れた多くの人を救出する必要がある。


 そんな中、駆け付けてみれば始まっていた私と炎鎧の戦い。

 仕方なく巻き込まれないように遠くから見ているしかなかった。

 その中心では私が逃がした女性が救助されていた。私と一瞬だけ目が合うと女性は何度もペコペコと頭を下げていた。


「炎鎧の相手は私がする。皆は負傷者の救出を優先させて」

「ありがとうございます」


 訓練を積んだ兵士でも炎鎧の周囲は危険だ。

 熱に倒れた人たちだけじゃなくて自分たちも気を遣われていると気付いて兵士が礼を言っていた。


 私は礼を言って来る人たちに構わず王都の外まで吹き飛ばされた炎鎧を追う。


 炎鎧は北門からそれほど離れていない場所に倒れていた。

 私の接近に気付くと体を起こした。


「テメェ……」

「――閉門」


 北門が勢いよく閉まって行く。

 神獣と呼ばれるほどの魔物が暴れれば王都を守る門と言えども気休め程度にしかならない。それでも何もしないよりはマシだ。


「見捨てられたな」

「何を言っているの? これで私も本気で戦うことができる」


 私の戦果はそのままノエルの評価に繋がる。

 炎鎧を倒せばそのままプラスに評価されるけど、その過程で王都に無視できない被害が出ればマイナスになる。

 王都への被害を最小限に留めるなら外で戦う必要がある。


 さらに倒れた人たちを助ける為に冷気を放つ。


「テメェは炎鎧の恐ろしさを何一つ分かっていないさ」


 炎鎧の銀色の鎧が炎を纏う。

 さらに天頂から感じる太陽の熱が強くなった。


「オレも召喚された命令があるから王都を熱で焼き尽くさないといけない。王都を攻撃しないといけない者と守らないといけない者。条件は同じように見えるが違う。オレの熱はそのままオレの糧になる」


 時間が経過することで――天から降り注ぐ熱を受け止めることで炎鎧の鎧が発する熱が強くなって行く。


「オレは鎧を防御の為に着ているんじゃねぇ! オレの発した熱を受け止める為に着ているんだよ!」


 巨体の炎鎧が跳び上がり私のいる場所へ斬馬刀を落としてくる。


 ――さっきより速い!


 後ろへ跳びながら氷の壁を生み出す。

 すると爆風が襲い掛かって来て氷の壁を押し退けた。氷の壁ごと私の体も吹き飛ばされる。


「熱を利用すればこんな事もできるんだよ」

「……よく分かった」


 熱を攻撃に転用することもできる。

 私は冷気を発しながら戦っているから熱の影響を受けずに攻撃が可能な場所にも立っていることができるけど、大抵の相手は炎鎧に近付くこともできない。


 本当に厄介な熱だ。

 氷の壁を生み出しても今のように溶かされて破壊されてしまう。


「次は、その氷の壁ごと破壊してやる」


 炎鎧が赤く光る斬馬刀を手に近付いて来る。


「本当に相性が最悪な相手」


 最初から分かっていた。

 熱を操る炎鎧が相手だと氷を操る私では相性が悪い。


 それでも引き受けたのは雷獣の相手をマルスがしたいと言い、離れた場所まで移動できる空間魔法だけど対象が本人だけなせいで海蛇の相手はメリッサがしなければならなかった。

 結局のところ、私が炎鎧と戦っているのは消去法。


 それでも私には勝つことができると思ったから引き受けた。


宝箱(トレジャーボックス)


 ただ、その為には迷宮の秘宝に頼る必要があった。

 迷宮の魔力を消費する事に罪悪感を覚えながら切り札を取り出す。



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