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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第19章 巫女神舞
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第21話 儀式前の祭り

 豊穣祭1日目。


 1年間の豊作を祈願する舞を神に奉納する為の儀式。

 本来ならば儀式という側面が強くなるのだが、大昔に娯楽の一つとして利用されたことで2日間のお祭りとなっている。


 舞が行われるのは2日目の昼前。

 1日目である今日は純粋にお祭りとして楽しまれていた。


 王都の広場にはいくつもの屋台が出ており甘いお菓子の匂いや香ばしい食べ物の匂いが立ち込めていた。


「美味しいですね!」


 露店で売られていた餡を使ったお菓子を食べたノエルが笑顔になっていた。


「喜んで貰えたなら何よりだよ」

「ずっと『巫女』として息苦しい生活をして来ましたから本当に久しぶりの自由行動です」


 今日はノエルの希望で祭りを楽しむことになった。

 彼女の隣にはミシュリナさんたちもおり、護衛対象が3人もいる状態で人混みの中へ行くのはシルビアとメリッサだけでは不可能なので俺とイリスも護衛として同行している。

 と言うよりも地図を作ってしまったし、今のところ怪しい動きをしている人物も見られないので基本的に待機しているしかない。


 俺たちものんびりと祭りを楽しませてもらっている。


「でも、本当に気付かれないものなんですね」

「そういう魔法道具だからな」


 こんな場所に『巫女』がいれば騒ぎになる。

 そこで、遊びに行きたいと言った彼女の為に眼鏡型の魔法道具を渡した。これは掛けるだけで素顔を認識し辛くさせるという効果がある。メティス王国の王都にある魔法道具店で一つだけ購入した後で迷宮に与えて量産させてもらった。金を払うよりも魔力を消費した方が効率的だったので迷宮に生産させた。


「私たちまでありがとうございます」


 ミシュリナさんが感謝を述べ、クラウディアさんが頭を下げていた。

 彼女たちにも同じ魔法道具を渡して『聖女』だとバレないようにしていた。


 俺たちは顔を知られている訳ではないので眼鏡を掛けていない。さすがに高級品である眼鏡を7人もの人間が掛けていれば不審に思われる。


「あ、大道芸をやっているみたいですよ」


 憩いの場として造られた公園。

 広い公園内では芸を披露している大道芸人が何人かおり、中でも一番見ている人の多かった芸人に興味を示していた。


「仕方ない……」


 人混みに駆け寄ったノエルに近付く。


 1番人気のあった芸人は5本のナイフでジャグリングをしていた。

 芸を見ていた女の子が見えないように両手で目を覆っている。

 刃物を使ってのジャグリングは一歩間違えれば手の指を斬り落とす事に繋がりかねない。そんな恐怖は芸人の表情からは感じられない。


 やがて、ナイフのジャグリングが終わり空中を飛び交っていたナイフは芸人の手に戻っていた。見えないようにしていた女の子もジャグリングが終わった気配を感じ取って目を覆っていた手を退けていた。


 だが、芸は終わりではなかった。

 芸人は手に持っていた6本のナイフを口の中に入れて行く。


 ――バリバリ!


 ナイフを噛み砕く音が響き渡る。

 6本のナイフが全て口の中へと収められたが、芸人は怪我をした様子もなく平然としていた。


 それで芸は終わりだったらしくポーズを決めていた。


 芸人の前に置かれていた空の鞄の中に次々と硬貨が入れられて行く。

 売上として満足の行く成果だったのか芸人は鞄と商売道具を抱えてどこかへと消えて行った。また、別の場所で芸を披露するつもりなのだろう。


「凄かったですね」

「ええ、魔法を使った形跡もなかったですしどうやったのでしょう」


 本当に不思議な芸だった。

 俺も魔法を使って良ければ同じ事をするのは難しくない。


 けど、芸人が凄いのは魔法も使わずに俺たちでは分からない方法で不可思議な芸を披露した事にある。

 なので奮発して銀貨を10枚投げさせてもらった。


「凄かったね」

「うん!」


 芸を見ていた女の子二人も興奮冷め止まぬ様子で話をしている。

 一人は熊に似た丸まった獣耳を持つ少女で、もう一人はノエルと同じ狐耳の少女だ。二人とも興奮している証拠に獣耳が激しく動いていた。


「明日は『巫女』様の舞を見に行くんだ」


 女の子の純粋な言葉にノエルが緊張していた。

 大神殿を訪れる貴族や同僚の巫女から「頑張ってください」と言われても平然としていたノエルだったが、子供の純粋な想いには困らされてしまうらしい。


「楽しみね」

「ああ、『巫女』様は偉いんだぞ」


 二人の女の子の傍には4人の男女が立っていた。

 友達同士の女の子とそれぞれの両親といったところだろう。


「次はどこへ行く?」


 公園内にいる他の芸を見に行くのもいいし、屋台巡りを再開するのもいい。


 ノエルに尋ねるものの彼女は俯いたまま足を公園の外へと向けていた。

 様子が普通ではない。


「どうした?」


 公園からの端にあるベンチに座らせ、買って来た果物を使ったジュースを渡して落ち着かせる。

 最初は答えずに黙っていたノエルだったが意を決して教えてくれた。


「さっきの親子」

「……?」

「片方の両親は、わたしの産みの親なんです」

「え!?」


 ノエルの告白に全員が言葉を失っていた。

 たしか平民として生活していたところを『巫女』に選ばれて獣王に義娘として引き取られたって言っていたな。


「わたしが『巫女』に選ばれた理由は今でも分かっていません。ただ、もしかしたら両親が敬虔なティシュア教の信者だったからなのかもしれません」


 そう言っているノエルの表情は酷く寂しそうだった。


「いきなり『巫女』に選ばれたわたしは義父に引き取られました。その後、わたしが平民だった事を可能な限り隠す為に両親と会う事は一切禁止されました。わたしが住んでいた場所は王都から離れた小さな町だったんです。以前に1度だけ故郷を訪れる機会があったので我慢できずに住んでいた家に行ってみた事がありました。けど、そこに両親はいませんでした。会う事ができず、連絡する手段もなかったわたしは両親の事を忘れるようにしました。それが、こんな場所で会うことになるなんて……」


 意図せず離れ離れになってしまった両親と遭遇してしまいどうすればいいのか分からないノエル。

 何よりも幸せそうな表情をしていたのが遣る瀬無い。


 そんな困惑した様子を見せているのは芸を見て興奮していた少女が理由だろう。


「あの娘は、わたしがいなくなった後で生まれた両親の子供――妹なんですよね」


 あの様子は親子にしか見えなかった。


 ノエルの両親が連れていた実の子供、という事なら妹になるはずだ。

 それに改めて少女の顔を思い出して二人の比べてみると姉妹だと言われれば納得できるぐらい似ている。


「実は、本当に生き残る事ができたらどうしようか……なんて考えた事があるんです。たとえ、今回の件で生き残ることができたとしても、たぶんわたしは『巫女』を続けることができません」


 既に周囲は敵だらけだという事が分かった。

 そのまま『巫女』を続ける事は精神的に厳しかった。


 それに死が神託によって告げられたという事は、神からも豊穣の舞以降に『巫女』を続ける事を認められるはずがない。


「だったらイシュガリア公国においで」


 ミシュリナさんが提案するもノエルは首を横に振った。


「そこまで迷惑は掛けられないですよ」

「もう一つ『侍女』の枠が残っているからそこに……」

「わたしが『聖女』の傍にいると次代の『巫女』との間で無用な確執が生まれることになります。だから、ミシュリナさんの傍へは行けません」


 『聖女』はイシュガリア公国にとって重要な役職。

 公人としての役割がある以上ミシュリナさんは自分の我儘だけを貫く訳にはいかない。


「だから、行方不明の両親でも探す旅にでも出ようと思っていたんですけど……」


 偶然、王都で遭遇してしまった。


「もしも可能なら両親の下でもう一度生活できたら、なんて考えていたんですけどあの様子では無理そうですね」


 あの家族は3人で完結していた。

 その証拠にノエルの妹は自分の姉が『巫女』だなんて知らないように無邪気に憧れていた。おそらく、自分に姉がいた事実すら告げられていない。


「生き残れても、自由過ぎて何をしたらいいのか分かりません」

「自由か」


 自由、というのは何物にも縛られない代わりに自分で責任を負わなければならない。『巫女』という重圧に縛られていた彼女は、立場から解放されたことで体が軽くなりすぎてしまっていた。


「だったら冒険者にでもなってみましょうか」

「あまりおススメしないな」


 自由の代名詞とも言える仕事が冒険者だが、危険な依頼を引き受けることもある冒険者の死亡率は高い。

 生き残れる力があれば問題ないが、ノエルは見たところ戦闘能力が高い訳ではないので生活に困った挙句に無茶をして失敗する。


「これから時間はたくさんあるんだからゆっくりと考えるといいよ」


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