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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第3章 報復計画
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第14話 断罪

 村長たちが無事に真実を告げると、契約書が燃えてなくなる。

 それこそ、村長たちが嘘を吐いていないという何よりの証拠になった。


「お、俺の財布に金が戻っているぞ」

「わたしもだわ」


 村人が自分の財布を確認してお金が戻ってきていることを確認する。


「さて、これで契約は履行され、村にお金が戻ってきて、俺の父さんを殺したのが村長たちだっていうことが分かったみたいだな」


 無表情で告げると村人全員が村長たちに冷めた視線を向けた。


 そんな視線を受けて村長たちは狼狽えていた。

 なにせ村長たちは、数年に渡って村が貯め込んでいたお金を使い込んでいたばかりか、それを問い詰めた父を殺しただけでなく、村はずれに埋めて行方不明扱いにし、伯爵様からお金を借りる為に家族である俺たちに借金を押し付けた。


 村長を信用する者など一人もいない。


「なんだ、その目は!? 私は村長だぞ!」


 誰も村長として扱っていなかった。


「お前が父さんを!」


 全く反省している様子のない村長にとうとうキレてしまった兄が剣に手を掛けて斬りかかろうとしていた。

 しかし、それを同僚である壮年の騎士が止めていた。


「先輩!」

「残念だが、俺たちにはお前の父を殺した罪で彼を裁く権利がない」

「そういうことだ」


 その言葉を聞いて村長が笑みを浮かべていた。


 開拓村で、自治を任されているだけに最低限の税さえ収めていれば、村の中での出来事は村長に裁量権がある。村長が黒だと言えば黒になるし、村長が罪を犯しても裁く者がいない。本来は、村長の独裁にならないように補佐として名士がいるし、事件の捜査などには兵士長の方が持っている権限が強い。


 だが、今回の事件に関しては権限を持っている3人が罪を犯してしまっている。


 父を殺した件では、犯人を見つけることはできても裁く者がいない。

 だから、俺は真実が分かっても罪を公にするだけ、なんてことはしなかった。


 村長たちに父を殺した罪を認めさせると同時に、自分たちが冒してしまった致命的な罪を騎士たちの前で認めさせる必要があった。


「村長。あんたは村人から信用されていない状態で村長をしていかなければならないことを不安に思っているようだけど、そんなことを心配する必要はないぞ」


 収納リングから縄を取り出すと壮年の騎士に渡す。


「あ、これ使って下さい」

「かたじけない。道具は全て馬車に置いてきてしまったので助かる」


 全て計画通りに事が運んでいたので、収納リングの中には必要になる物が全て入っている。


「アリスター伯爵家として、貴方方3人を拘束させていただく」


 壮年の騎士がもう1人の騎士に縄の一部を渡すので、俺は兄に縄を渡した。


 3人の騎士があっという間に縄で村長たちを拘束した。


「なんだこれは!? どうして、私たちが捕まらなければならないんだ!」


 兄と先輩騎士は分かっていないようだが、それでも壮年の騎士に指示されたので拘束しただけだ。


 事情を知っている壮年の騎士が村長に告げる。


「貴方がたを拘束する罪状は詐欺罪です」

「詐欺? 私たちは、そんなことをしていない」


 村長としては、詐欺のつもりはないのだろうが、結果的に詐欺となってしまった。


 杜撰な対応をした村長に怒っているアリスター伯爵家としては、理由は別になんでもよかった。ただ、詐欺が適用できそうだっただけである。


「貴方がたはアリスター伯爵からお金を借りましたね」

「ああ、それがどうした!」

「理由は、村人の一人が村のお金を持ち逃げして困っているので、お金が戻ってくるまで持ち逃げされた金額を補償してほしい、というものです。そして、後に話を聞いたところ、その持ち逃げした村人というのは白骨遺体として見つかった兵士のクライス殿で間違いはありませんね」

「ああ」


 アリスター伯爵に事情を説明する時、村長は持ち逃げした犯人の名前については伏せていた。相手にも何か事情があるのだろう、と深く追及をすることをせず、金貨10枚程度なら、とデイトン村に貸すことにした。


「はっきり言いましょう。貴方は持ち逃げされた、などという虚偽の報告をして貴族である伯爵様からお金を借りていたんですよ」

「そ、それは……」

「しかも、その人物は持ち逃げなどしておらず、既に死んで……いえ、貴方がたの手によって殺された後だった。つまり、貴方方は持ち逃げなどされていないと分かっていながら、伯爵様に『持ち逃げされた』と嘘を吐いた。よって、貴方がたを拘束させていただく」

「い、いやだ……死にたくない」


 村長たちが哀れにも命乞いを始めた。


「安心して下さい。罪人として裁くことになりますが、死刑にはなりませんよ」


 その言葉を聞いて安心して息を吐いていた。


 しかし、現実を突き付けられると表情が凍り付く。


「おそらく、犯罪奴隷として鉱山などでの過酷な環境において強制労働をさせられることになるでしょう。数年の労働で解放されるはずですが、普段から鍛えておらず、貴方がたの年齢を考えると生きて出るのは難しいでしょうね」


 村長たちは既に40を過ぎたおっさんだ。

 そんな人物が過酷な環境での強制労働。


「そ、それも嫌だ……」

「残念ながら、貴方がたの自業自得だ。しっかりと罪を償うんだな」


 拘束された村長たちが隅の方へと追いやられる。


 壮年の騎士は、騎士団長などのような役職には就いていないが、騎士団の中では先代のアリスター伯爵の頃から仕えている精鋭で、騎士団長とは違った意味での権力を与えられている。


「さて、村長も含めて村の名士がいなくなってしまうわけだが、責任者が不在というのは非常にマズイ。代理でも構わないので、ここで責任者を決めてもらえないだろうか」


 壮年の騎士が腰に差した剣を抜いて地面に突き立てる。柄の上に手を置いて威圧感を放たれれば村人では直視することすらできない。

 さすがはベテランの騎士だ。聞き分けのない村人を威圧する方法も心得ている。


「そういうことなら俺だな」


 村人のほとんどが委縮している中、自信たっぷりにリューが出てきた。


 あの嬉しそうな表情を見れば、今の状況を喜んでいるのが分かる。なにせ、俺が村にいた頃から村長の地位を狙っており、それもあって村長の娘であるカレンとの結婚を狙って付き合っていたぐらいである。


「君は?」

「次期村長になる予定だったリューです」


 別に結婚しているわけでも、村長が認めていたわけでもないので、あくまでも自称だ。

 それでも、こんな状況で異を唱える者はいない。


「分かった。少し若い気もするが、君が次の村長になるんだな」

「はい」

「反対する者はいるか?」


 村人は反応を示さない。


「分かった。君を次の村長と認めるようアリスター伯爵にも伝えておこう。これから大変だと思うが、頑張ってくれよ」

「ありがとうございます」


 リューが恭しく頭を下げる。

 だが、下げられた顔は、予想以上に早く巡ってきた自分の時代を思ってニヤニヤしているに違いない。


 だけど、世の中はそこまで甘くない。


「まずは、伯爵様から借りている金貨10枚を返済する必要があるな」

「へ?」


 予想外な言葉を聞いて驚いていた。


「伯爵様も返済期限を特に決めずに貸してしまったが、貴族から借りたお金をいつまでも返さずにいると、踏み倒すつもりだと思われて略奪に踏み切られてしまう可能性があるから気を付けた方がいいよ」


 その時は、私も参戦させてもらうよ。などとニコニコしながら言っている。

 あの人は全て分かって行っている。


「ど、どういうことですか?」

「どういうことも何も……人から借りたお金は、返すのが当たり前だろう」

「そのお金はマルスが返したらしいじゃないですか」

「マルス殿が? なぜ、デイトン村とは無関係なマルス君が返済する必要があるんだね」

「え、それは……」

「たしかにマルス殿からは金貨10枚をいただいているが、それはデイトン村に貸した金貨10枚とは全く無関係なお金だ。きちんとデイトン村の新しい村長として、前村長から引き継いだ借金を返済することだね」


 そういうことになっているらしい。

 この辺は俺の計画にはないことだな。


「そんな大金は村にはありません」

「大丈夫。村中から掻き集めれば金貨だけでも39枚あることは確認済みだから」


 誓約書(ギアスロール)の力によって金貨を39枚集めることには成功している。


「村の貯蓄がなかったとしても村長として村人に頭を下げ続ければ金貨10枚分のお金を集めることができるかもしれないよ」

「くっ」


 村長の贅沢な生活を見ていたリューは、村長になれば自分も贅沢な生活ができると思い込んでいた。だが、実際に村長になってみると、金貨10枚の借金返済に追われて、村人に頭を下げなければならないという事態だった。


 しかも、問題はそれだけではない。


村長たちはアリスター伯爵によってきちんと裁かれ、犯罪奴隷として鉱山で強制労働に勤しむことになり、鉱山に骨を埋めることが決まりました。

めでたしめでたし。

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