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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第19章 巫女神舞
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第12話 メンフィス王国王都

 雷獣と戦った翌日には王都へと向かう。


 魔力をかなり消費したメリッサとイリスだったが、二人とも問題ないレベルまで回復している……と言うよりも絞り尽くされた。

 二人とも慣れた様子で平然と馬車の中で座っていた。


「あぅ……」


 馬車の中にいる人物の中で唯一顔を真っ赤にしながら俺たちのことを交互にチラチラ見ている人物が一人。

 ヴァートンを出発してかなりの時間が経つというのに朝からこの調子だ。

 そんな事を続けているのはミシュリナさんだ。


「みなさん……何をやっているんですか?」

「何って魔力を効率よく回復させたんですよ」


 急いで王都へ向かう必要があったので手っ取り早く回復させてもらった。


「昨日は隣の部屋から音が聞こえて来て眠れませんでした……」

「……私もです」


 御者席にいたクラウディアさんもミシュリナさんの言葉に同意している。

 主と眷属の間で魔力を循環させると回復が通常よりも速くなるので昨日の夜は二人と一緒に寝させてもらった。


 微妙に気まずい空気が馬車の中に満ちる。


「――それにしても熱いな」

「これが炎鎧の影響でしょうか」


 話題の変更にシルビアも従ってくれた。


 王都まで約1時間。

 近付くと徐々に暑さを感じるようになってしまった。


「まるで夏みたいだ」


 まだ春先だというのに真夏のような暑さを感じる。


 炎鎧――ヴァートンで少しだけ情報収集をしてみたが、王都において雷獣と同じように時折姿を現すことがある真っ赤な鎧の魔物。

 近付いただけで体が焼かれるような暑さを感じ、遠距離からの魔法は鎧に届く前に熱で消失してしまうらしい。


 その魔物が出現した場所は気温が上昇し続け、天気も快晴が続いてしまう。


 炎鎧が出現したことによって王都はもう3週間以上も晴れた日が続いている。

 このまま晴れた日が続いてしまうと日照りによって作物が育たなくなってしまう。さらに水の備蓄もどれだけ残されているのか分からないため人々は砂漠にいるような胸中だった。


 何よりも深刻な問題として取り上げられているのが暑さらしい。


「異常なまでの暑さにより人々がやる気を失くしている。そのため異常気象を鎮める為に『巫女』の舞に普段以上の期待が寄せられている、ですか」


 彼女にとっては、これ以上ないほどのプレッシャーになっているはずだ。

 それでも『巫女』は『豊穣の舞』をやり遂げることにしたらしい。



 ☆ ☆ ☆



「すまない。身分証を見せてもらえるだろうか?」


 王都へと到着する。

 メンフィス王国の王都――フィレントは少しだけ高くなっている丘を中心に作られた円形の都市で活気に溢れた街だと聞いていた。


 だが、人で賑わっているような気配を王都の外からだと感じない。

 それに身元検査を行っている門番に覇気が感じられない。


 やる気を失ったままの門番がクラウディアさんから受け取った身分証を確認し、相手の身元を確認すると驚きから目を丸くしていた。


「も、申し訳ございません! 『聖女』様でいらっしゃいましたか」

「はい。『聖女』様は馬車の中で休まれております」


 王都へ辿り着いた時の最高潮に達した熱気でミシュリナさんはダウンしてしまった。一応、魔法で作り出した氷で体の熱を冷やし、水分を補給してもらっているが早く休ませた方がいい体調だ。


「ですが、今回は国の要請ではなく個人的な理由での訪問です。あまり騒ぎ立てるようなことがないようにお願いします」

「かしこまりました」


 王都の門が開き、検問を問題なく通過できる。

 その様子を検問の順番を待っている一般人に見られながら進む。『聖女』がいるということで貴族だけが使用できる門を使って優先させてもらった。


「いいんですか? こんな目立つような真似をして」


 貴族専用の門を使えば「内密にして欲しい」とお願いしても『聖女』が王都を訪れた事は確実に上層部へと伝わる。


 一般用の門を使えば冒険者として身分を偽ることもできたはずだ。


「残念ですけど、今はミシュリナ様を休ませる方が優先です」


 待つ事に時間を費やしてしまうとミシュリナさんの体調が更に悪くなる。


「……私なら大丈夫です。それよりも早くノエルの下へ行きましょう」

「そんな体調で顔を見せても逆に彼女を心配させるだけです。もうお昼を過ぎていますから何か食べて休んでから明日向かうことにしましょう」

「そういう訳には……それに食欲が全くありません」


 熱にあてられたせいですっかり食欲を失くしてしまっている。

 夏の猛暑にはよく見られた光景だ。


「ダメです。少しでも栄養を取ってからでないといけません。今のミシュリナ様は内密ではありますが、『聖女』という立場でもあるのですから周囲の人に気を遣って下さい」

「分かっているけど……」


 クラウディアさんの忠告も頭に入っているのか怪しい。

 そんな状態にも関わらず王都の様子が気になったのか顔を出して伺う。


「やっぱり以前に来た時のような活気はありませんね」

「この暑さでは仕方ありません」


 進ませる馬車から見える人の姿。


 俺が驚かされたのはほぼ全ての住人が獣人であるという事だ。全員が何かしらの獣の耳や尻尾のような特徴を体に持っていた。メティス王国では見たことのない光景だ。


 ミシュリナさんやクラウディアさんにとっては何度か見たことのある光景。

 だが、大通りを歩く人から生気が失われて俯いている光景は今までに見たことがなかったらしく衝撃的だったみたいだ。


「シルビア、イリス」

「はい」

「今日はこのまま宿へ直行する。彼女たちの護衛は俺とメリッサで引き受けるからお前たちは自由に動け」

「分かりました」


 合流は適当な場所で【召喚】を行えばいい。

 馬車から跳び下りたシルビアとイリスが大通りの雑踏の中へと消えて行く。


「『巫女』を守る為には情報が必要です。彼女が死ぬ原因が分からなければ護衛のしようがない」

「そういうことにしておきますね」


 俺たちの行動を見てミシュリナさんが力ない笑みを浮かべる。


 情報収集は大切だ。

 王都の様子をミシュリナさんが気にしているようだったので二人に情報収集に出てもらった。


「ありがとうございます。私はもう少し寝させてもらいます」


 それだけ言うと馬車の椅子に横になって寝てしまった。


「クラウディアさんは大丈夫ですか?」

「私は平気です……と言いたいところですが、さすがに暑いので脱いでしまいます」

「あ、はい」


 クラウディアさんの脱いだスーツを受け取る。彼女はこの炎天下の中でもしっかりとスーツを着て御者を務めていた。暑いし、動き難いのでどうにかした方がいいと思うのだが、彼女の中では『侍女』はしっかりとした姿をしていなければならないらしくスーツ姿を止めなかった。


 しかし、この暑さでは我慢できなかったらしい。

 スーツの下に着ていたシャツが汗で張り付き体のラインが浮き彫りになっていた。普段はスーツの上からよく分からなかったが、クラウディアさんのスタイルはスラッとした落ち着きのある感じだったのだが、こうして体のラインが浮き彫りになると出るところはしっかりと出ているので妙に艶めかしいというか……


「よかったですね。今、この場に私以外の眷属がいなくて」

「お、おう……」


 後ろから妙な冷気を感じてクラウディアさんから離れる。


「ただし、今の様子は全員が共有しているので戻って来たら覚悟していて下さいね」

「はい……」


 こういう状況では勝てないので素直に謝る。

 そして、ジロジロと見られていたクラウディアさんは自分の体を抱いて俺から離れていた。


「き、昨日あれだけの事をしておいて、まだ不満なんですか!?」

「ちがっ……そういう訳じゃないです」


 とにかく誤解を解かなくてはならない。

 そこまで広くない馬車の中。宿へ辿り着くまでの数十分間は誤解を解く為に費やされた。


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