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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第19章 巫女神舞
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第6話 鯨

 1キロほど先の海面が割れる。

 いや、海中から姿を現した存在によって海が押し上げられていた。


「なんだ、あれは……?」


 海中から姿を現したのは見たこともない魚に似た存在だった。


 ただし、巨大だ。

 海に現れる巨大な魔物として以前に全長30メートル以上の体を持つ蛸型の魔物――巨大海魔(ジャイアントクラーケン)と戦ったが、目の前に現れた正体不明の魔物は巨大海魔(ジャイアントクラーケン)以上の大きさだ。


「あれは鯨です」

「鯨?」


 シルビアに支えられながら近付いて来たミシュリナさんが教えてくれる。

 近くに海がない場所に住んでいる俺は鯨、という存在については聞いたことがなかった。


「鯨の魔物は元々あのように大きいんですか?」

「いえ、魔物でなくても鯨はあのぐらい大きいです。ですが、あれは……」


 姿を現したことでミシュリナさんにも鯨型の魔物の気配が分かった。


「ミシュリナ様!」


 船内からメリッサとイリスに守られたクラウディアが甲板に出て来た。


「ご無事ですか?」

「今のところは無事です。だけど……」

「……あのような魔物は見たことがありませんね」


 進路上にいる鯨型の魔物の姿を見て言葉を失っている。


「魔物化している、ということは普通の生物なはずがないのですが……」


 メリッサが言うように普通の鯨ではない。

 鯨の巨体から魔力が放出された瞬間、周囲の海が嵐に見舞われたように荒れ狂い海面から渦のような柱が上空へと立ち昇る。


「メリッサ、防御障壁」

「はい」


 2本の柱が船へと向けられる。


「……っ!」


 叩き付けられた衝撃に顔を歪ませながらも耐え切る。

 船の前に展開された防御障壁が消失すると同時に渦の柱が力を失ったように海面と落ちる。


 突如として襲って来た渦の柱には魔力が込められていた。間違いなく鯨の魔物が魔力を消費して使用したスキルによるものだろう。


「聖女様、今度こそ本当に船内へと入ってください」

「船長」

「私も長いこと船乗りをしていますが、あのような魔物は見たことがありません。全力で逃げてみますが、あれほどの魔物を相手に逃げることが本当にできるのか不安ではありますが、他に生き残る手立てがありません」


 船よりも巨大な魔物。

 そんな物を相手にして生き残れるはずがない。


「いいえ、あります」

「それは……?」


 不安そうにしている船長を無視してミシュリナさんが俺を見て来る。

 サハギン相手に無双するぐらいAランク冒険者なら簡単だったので積極的に討伐させてもらったが、さすがにアレを相手に少人数で討伐してしまうのは目立ち過ぎる。


 できることなら戦闘を避けたいところだったのだが……


「……分かった。俺たちで倒す」

「よろしくお願いします」


 シルビアと一緒に船から飛び出る。

 目標は1キロ先にいる鯨の魔物だ。


「無茶だ! あんな魔物に勝てるはずがない」

「大丈夫です。船はこのまま進めてください」

「……っ!? どうなっても知りませんよ!」


 船長の指示で船は進路を変えずに進んで行く。

 本当なら逃げ出したい気持ちで一杯だった。しかし、ミシュリナさんの言葉を聞いた瞬間に信じてもいい、と思えるだけの気持ちが沸き上がって来た。


「おっと」


 渦の柱が4本飛んで来る。


氷壁(アイスウォール)


 横へ跳んで回避すると船の前に立ち塞がった氷の壁が水の渦を受け止めた。

 氷の壁はメリッサ、それにミシュリナさんの援護を受けて強化されている。効率的にはこうした方がいいと判断したメリッサの指示だ。おかげで船を一撃で沈められる渦も止められる。


「やっぱり戦えるじゃないか」


 癒しの力は生物に対してばかりではない。壊れ行く物に対しても有効だ。

 壊されかける強化された氷の壁だったが、癒されたことで元の状態に戻って耐えられている。


「じゃあ、こっちも始めますか」


 先へ進む為にも船を壊される訳にはいかない。

 だが、彼女たちに任せておけば問題ないだろう。


 鯨まで辿り着くと頭の上に降り立つ。

 巨大な二つの目がこちらへ向ける。


「気持ち悪い魔物だな」


 遠くから見ていただけの時はどこか可愛らしく見えたが、間近に血走った眼を向けられると嫌悪感しかない。


 鞘から神剣を抜くと頭に突き刺す。鯨の表皮は踏み締めた感触から硬いことが予想されるが、俺の持つ神剣なら突き刺すことも可能だ。

 血が流れて来るが、鯨に苦しんだような様子はない。


「そうだよな。お前の大きさを考えれば、この程度の傷なんて掠り傷にもならないよな」


 それでも無視していられるような傷ではない。

 スキルで操られた海の渦が鯨の上に立っている俺に襲い掛かって来る。


「遅い」


 剣を突き刺したまま尾びれの方へ向かって走る。

 血が吹き上がり鯨の背が開かれて行く。


 剣を突き刺されたぐらいなら問題なかった。しかし、体が開かれて行くのは無視できない。どうにか阻止しようと10本の柱が背にいる俺へ向けられる。

 6本の柱を回避したところで2本の柱が左右から襲い掛かって来る。


雷爆(サンダーバースト)


 剣を持っていない左手で2本の柱に向けて雷撃を放つ。

 雷撃と渦の柱が衝突した瞬間、激しく弾けて渦の柱が海に落ちる。


 残っていた2本の柱は海面に叩き付けられていた。


 ――グオオォォォォォン!


 背びれまで到達すると苦痛から大きく雄叫びを上げる。

 雄叫びの衝撃によって海が震え、船乗りたちが怯えているのがメリッサを通して伝わって来る。


 そして、鯨の体が大きく震えた。

 怯えなどではなく、背中にいる俺を振り落とす為に体を震わせた。


 足場が不安定になり、振り落とされた体は海面へと落ちて行く。

 落ちて行く体勢の中、巨大な体を持つ鯨と目が合った。その目には頭の上に乗った時のような怒りはなく、怯えが見え隠れしていた。


 そのまま海中へと体を沈めて行く。

 体を傷付けられた鯨は海中へ逃れることにした。


 同時にそれまで嵐が起こったように荒れていた海が沈み始めた鯨を中心に渦を発生させていた。

 渦を柱のようにして発生させていた鯨なら自分を中心に巨大な渦を発生させるぐらいなら簡単な事だった。


「このままだと引き摺り込まれるぞ!」

「取り舵一杯」


 離れた場所にいる船も海流に流されて引き摺り込まれている。

 このままだと船ごと海の藻屑となってしまう。


 しかし、そうはならない。

 再び雄叫びを上げると沈んでいた鯨の体が横たわる。

 同時にスキルによって発生させられていた渦や嵐も全て止んでいた。


「いったい、何が……」


 呆然とした様子で大人しくなった海を眺める船員。

 俺たちにはこうなった理由が分かっている。


「ご苦労様」


 鯨の体内から出てきたシルビアを迎え入れる。


「魔石は回収しました」


 俺が鯨の背の上で暴れている間に鯨の体内に侵入したシルビアに魔石を回収してもらった。魔物は魔石が生み出すエネルギーを糧に生きている。そのため魔石を失えば命を失ったも同然の状態になる。

 海に浮かんでいるだけの鯨は死んでいるのと同義だった。


 【壁抜け】と【探知】を所有しているシルビアなら巨大な体を擦り抜けながら体内のどこかにある魔石を探し出して回収することもできる。

 俺が暴れて注意を惹いていたおかげで鯨は体内にいる存在に気付くことができなかった。


「それにしても随分と大きな魔石だな」


 シルビアは両手で大事そうに魔石を抱えていた。

 通常の魔石が片手で持てるぐらいの大きさであるのが平均であることを考えれば大きいと言っていい。


 改めて鯨の魔物を見てみる。

 そして、魔石を確認。


「今までの巨大魔物とは別物だな」


 鯨の魔石は偽核という訳ではない。

 単純に巨大な動物が魔物化したから巨大になっただけみたいだ。


「どうしますか?」

「とりあえず鯨を回収して船に戻ろう」


 この場でいつまでも考えていても妙案が浮かばない。

 せっかくの戦利品なので鯨の肉と魔石を道具箱に収納すると船へと戻る。


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