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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第19章 巫女神舞
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第1話 大捕り物

「ええい、貴様ら私が何者なのか分かっているのか!」

「もちろん把握しておりますポートマル男爵」


 大きな屋敷で騎士団の手によって一人の男が連行されていた。

 屋敷の中にいる肥え太った大きなお腹を揺らしている40歳過ぎの男はポートマル男爵。祖父の代からアリスター領にある村のいくつかを任せられる優秀な家系だったが、残念ながら孫にまで引き継がれることはなかった。


 先代が亡くなって当主の地位を引き継いでから好き放題にしてきたポートマル。

 その生活は贅に富んでおり、どこから捻出しているのかと首を捻るほどお金を懸けていた。


 怪しいと思うところはあった。

 しかし、証拠の隠滅に関しては才能があったらしく、決定的な証拠を得ることができなかった。


「貴方に逮捕状が出ております」

「ふん、そんな物を持ち出してくるという事は証拠があるんだろうな」


 嫌味たらしい笑みを浮かべながらポートマル男爵が言う。


「いいえ、ありません」


 それに対して代表の騎士が首を横に振る。


「証拠はこれから手に入れます」

「は……?」


 騎士の言葉にポートマル男爵が呆ける。

 だが、すぐに騎士の言葉の意味を理解した。


 証拠は未だに手元にないが、これから屋敷へ押し入ることで手に入れようとしている。


「ですが、貴方はアリスター家に仕える貴族です。伯爵が屋敷の捜索を命令されたのなら従わなくてはなりません」

「その通りです。気の済むまでお調べ下さい。ですが、屋敷の中にある物を壊された場合には騎士団の方々に弁償してもらうことになります。それに何も出て来なかった場合には慰謝料を払ってもらうことになりますが、よろしいですか?」

「いいでしょう」


 代表が答えると騎士が次々と屋敷の中へ駆け込んで行く。

 代表も屋敷の中に入る。


 玄関に立って上を見上げると獰猛な魔物の剥製が目に入る。


「グリフォンですか……」

「ええ、私が目にしたのは剥製にされた後だけですが、剥製された後でもこのように勇ましい姿を保つことができている。少々値が張ることになってしまいましたが、我が屋敷を訪れた方々はこの剥製を見て驚かれております。対価に見合っただけの報酬を得ていると私は思います」

「そうでしょうか」


 そんな物を買う為の資金には貧しい村を救う為の物が含まれている。

 騎士には必要な買い物に思えなかった。


「まあ、いいでしょう。貴方の犯罪が露見した際には資産は全て没収されることになっております。息子さんに残せる資産や地位は何一つ残っていないと思っておいて下さい」

「きさま……さっきから聞いておれば――」

「――ありました」


 屋敷の奥から声が聞こえる。


「そうか」


 騎士が喜び勇んで声のした場所へ向かう。


 最初からそこにあるのは分かっていたが、実際にあったとなれば喜んでしまうのも仕方ない。


 そこは、屋敷の中でも大きな書斎。

 書斎にある本棚の一つが動かされており、本棚の影に隠された部屋があった。


 隠し部屋の中には村へ渡すべき補助金から中抜きされた状態で渡された金額のやり取りが記録された書類だった。村の関係者にのみ見せる書類はこのように隠しておき、補助金を出したアリスター家に対する書類は偽造したうえで提出している。


「何か言い訳はありませんか?」


 村の開発に資金を必要としているところへ渡さずに着服していた。


「こ、これは……」


 何か言い訳をしようとする。

 しかし、その段階になってようやく屋敷へ駆け込んだ騎士の全員が書斎に集まっていることに気付いた。しかも声が掛かるまでの時間を考えると真っ直ぐに書斎へ駆け込んでいる。


「きさまら、最初から……」


 初めからどこに証拠になる書類があるのか分かったうえで押し入っている。

 そうでなければ真っ先に駆け込むことなど不可能だ。


「実は、既に補助金が出されている村の村長から受け取った金額の聴取などは済んでいます」


 その結果、出された金額と渡された金額に差があることが分かった。

 後は、男爵側でも証拠を集める必要があった。


「これで私たちが必要としていた証拠が全て揃いました」


 諸々のお膳立てをするのに色々と苦労した。

 迷宮の力で得た情報は表に出すことができないので領主であるキース様に情報を渡して、少し手を伸ばせば手に入れられる関係する証拠を徐々に集めて捕まえてもらう。


 そんな作業をしている内に冬が終わろうとしていた。


「男爵……元男爵を連行しろ」

「はっ!」


 騎士二人によって男爵の両腕が掴まれる。


「は、放せ……!」


 何か色々と言いながら出て行くが、既に言う事を聞かせられるだけの権力が男爵にはない。


「お前たちは屋敷にある証拠品の運び出しだ。それから残りの者は屋敷の包囲だ。補助金を着服していた男爵が裁かれた後、私財は没収になる。残された家族が私財を持ち出して逃げないように見張っていろ」

「はっ!」


 騎士がキビキビと動いて仕事を終わらせて行く。

 その中には騎士として仕事に従事している兄の姿もあった。こちらの事を気にしているようなので頷いて仕事に集中するよう伝える。兄としては不正をしている相手を捕らえるのに弟である俺を頼らなければならない状況が申し訳なかった。


 だが、兄の気持ちはアリスターの風通しを良くする為には関係ない。

 俺は捕り物の一部始終を離れた場所から見させてもらっていた。


「これで大凡の件は一件落着かな」

「そうですね」


 隣に立ったシルビアが頷く。

 今回の依頼には俺の他にシルビアとメリッサが参加していた。


 迷宮の力で様々な情報が手に入るようになってから2カ月。

 その間、今みたいに小さな証拠をいくつも集めて貴族すら逮捕できるようにした。もちろん小さな証拠がどこにあるのかは俺から情報を提供させてもらった。


 今回の捕り物にしても屋敷のどこに証拠書類があるのか伝えてある。

 そうでなければ厳重に秘匿されていた屋敷の隠し部屋へ直行することなど不可能である。


「君のおかげでポートマル男爵を捕らえる事ができた」

「俺はちょっと協力しただけです」

「情報提供にはもちろん感謝している。だが、こうして後ろで控えていてくれるおかげで私たちは取り逃がしを気にすることなく屋敷を捜索することができている」


 情報を提供していることは一部の騎士しか知らない。

 それでも代表が頭を下げているのは逃亡を阻止する為に優秀な冒険者である俺が包囲網の一角を担っていたからだ。


 実際、そういった役割を担う者は必要だった。

 しかし、今回のような件では相手に気付かれないように事を進める必要があったのであまりに多くの人手を割いてしまうと相手に気付かれる可能性があった。


 そのため少数精鋭でも進められるよう俺たちが頼られた。

 俺なら既に情報提供の段階で協力しているので事情にも詳しい。実力があることもあって頼らない理由はキース様にはなかった。


「それに報酬はいただくことになっています」


 金での支払いは待って欲しいと言われた。

 多くの貴族が粛清されたことによって人手不足に陥ることは目に見えている。


 組織の改革や新たな人材の募集。

 これからの事を考えれば資金が必要になる。


「頑張って回収して下さいね」

「あ、ああ……」


 騎士も没収した私財の一部がどのように使われることになっているのか知っているので顔が引き攣っていた。


 貴族が所有していた貴重な魔法道具。

 高価な物も含まれるが、そういった価値のある物は資金を必要とするキース様にとっては換金することができて初めて価値のある物となる。

 すぐに価値がないなら、ということで俺がいくつか貰うことになった。

 俺なら魔力を蓄えている魔法道具なら即座に換える事が可能だ。


「この捕り物が終わるまで屋敷には誰も近づけませんし、屋敷から誰かを出すこともありません。しっかりと頑張ってください」


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