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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第18章 拠点拡大
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第19話 不正の情報

 諜報員たちを迷宮に叩き込んだ後もメリッサやイリスと一緒に資料整理に翻弄されていた。

 頭を抱えて体を椅子の背に投げ出す。


「どうした?」


 アリアンナさんと一緒に兄が帰って来た。

 兄の前に資料を出す。


「見てもいいのか?」


 頷いて見るように促す。


「おいおい……」


 資料を見る兄の目が険しくなる。


「絶対に表には出さないで下さい」


 兄に見せたのは迷宮の力で情報収集した結果得られた情報の一部。

 ただし、領主のキース様に渡した諜報員とは別の情報になる。


「こんな物を出せる訳がない」


 兄は情報の危険性からも出せないと言っている。

 俺としても同感なので今は纏めながらどうするのか考えていた。


「どうしたんですか?」

「知らない方がいいんだけど、そういう訳にもいかないか」

「はい」


 アリアンナさんは別件とはいえ既に巻き込まれてしまっている。

 変に知らせずにいるよりも事情を知らせて心構えだけでもさせておいた方が精神的にはいい。もちろん肉体的にはシャドウゲンガーが必ず守ってくれる。


「これはアリスターで汚職をしている役人のリストだ」

「そんな……だって、この街の治安は良い方で……!」

「治安は関係ない。どんなに住みやすい街だって汚職している人間はいるっていう証拠だ」


 大規模な公共事業の責任者が受注した組織から賄賂を受け取っていた。

 小さな犯罪だが、金を受け取ってその罪を帳消しにしている役人。


「うわ……村への補助金を着服している役人までいたぞ」


 この辺は早めに片付けなければならない。

 ただ、時間を掛ければ掛けるほど情報が集まって来て纏めるだけの時間すら用意できない状態だ。


 おかげで諜報員たちへの対処がおざなりになってしまった。

 先ほど迷宮に放り込んだが、その後でどうなったのか未だ聞いていない。


「問題は、この資料をどうするのかという事です」

「どうするって……」


 兄が言葉に詰まる。

 正義感に溢れる騎士という立場からすれば賄賂や汚職など放置する訳にはいかない。


 だが、今集められた情報だけでもかなりの人数になる。

 おまけに地位の高い人間もいる。

 全員を摘発するような真似をすれば領が傾きかねない。


「さすがに帝国であった大量摘発みたいな事はアリスターではできないぞ」

「分かっています」


 グレンヴァルガ帝国の帝都で行われた貴族の大量粛清は辺境であるアリスターにもようやく届いた事件だった。しかし、辺境まで届いている時点で重大な事件だったと物語っている。

 帝都では大人数が粛清されることになったが、それでも帝都の機能は麻痺していない。


 その理由は、後を引き継いだ人々が死にそうなほど忙しい日々を送っているからで、大量粛清が行われてもそれだけ潤沢な人材があった。


 だが、アリスター規模の都市で同じような事をしてしまうとたちまち都市が機能しなくなってしまう可能性がある。


「ま、その辺を考えるのは領主の仕事です」

「渡すつもりか?」

「隠匿しろと?」


 危険因子は早い内に摘んでおきたい。


 さすがに無償で渡すような事はしない。

 何らかの見返りは後で要求するつもりだ。


「半年もすれば子供たちが生まれます。後々の為に厄介な連中には子供たちの為にも退場してもらうだけです」

「そうだな」


 子供の為だと言えば兄も引き下がってくれた。

 俺の役目は情報を集めた纏めた資料を領主に渡すだけだ。


「夕食の準備ができました」


 家でシルビアと一緒に夕食の準備を手伝っていたエルマーが呼びに来た。


「もう、そんな時間か」


 いや、いつもよりも遅いぐらいだった。

 騎士団に連れて行かれたせいでアリアンナさんの帰宅が遅くなったし、屋敷に連れて来たエルマーを早く屋敷に馴染ませるため食事の手伝いをさせていたこともあっていつも以上に時間が掛かってしまった。


「あの……本当に迷惑を掛けていませんか?」

「いいや」

「でも、僕がこんな風に自由にできているのは皆さんのおかげですよね」


 エルマーには自分が悪い事をしたという自覚がある。

 その件が発覚した後も奴隷に堕ちて首輪を嵌められることもなく広い屋敷で自由にさせてもらっている。


 優遇してもらっている状況が居心地悪い。


「気にしなくていいわよ。それより資料を片付けるのを手伝って」

「は、はい」


 リビングにあるテーブルの上に散らかっていた資料を片付けるように言うアイラ。


 資料整理ではほとんど戦力にならないのでエルマーと一緒にシルビアを手伝ってもらっていた。

 今まで妹たちに優しく接してくれていたアイラだったが、エルマーにはそれ以上に気を遣って接している。


「やっぱり弟の方がいいか?」

「そうね」


 これまで妹しかいなかった。

 新たに弟が加わったことで気合を入れているのかと思った。


「あの子、あたしの弟には全然似ていないんだけど、どうしてなのかあの子と接していると弟の事を思い出すの」


 アイラの弟は魔剣に支配された父親の手によって亡くなっている。

 その時に魔剣に支配された父親も含めて家族を守れなかったことをアイラは酷く後悔していた。


 エルマーは諸々の事情を考えてこちらで引き取らせてもらうことにした。屋敷には齢の近いクリスたちもいることだし、姉弟のように接してくれるかもしれないと思っての措置だったが、アイラの方が強く影響を受けていた。


「あ、手伝いますよ」


 エルマーの事情について知らないアリアンナさんが片付けを手伝っていた。

 事情を説明するのはもう少し落ち着いてからでもいいだろう。


「それよりも迷宮はどうするの?」


 正確には拠点化させた状態。

 当初の予定ではエルマーを捕らえたら魔力が勿体ないので接続を解除するつもりでいた。


「今の状態で解除できると思うか?」


 少なくとも次々と情報が舞い込んでいる状態では無理だ。


「これぐらいの不正ならどこだってやっているんだから無視してもいいんじゃない?」


 アイラが言うように不正そのものはありふれたものだ。

 俺も諜報員の件については間接的に原因があったので排除に手を貸したが、よくある不正にまで手を出すつもりはなかった。


 しかし、無視できない情報を目にしてしまった。


 作業を始めてから最初に纏めた資料を渡す。


「うわ……40代の男が少女を襲って殺している……しかも、自分の権力を使って揉み消している」


 資料の内容にアイラが眉を顰める。


 この問題が見つかったからこそ一気に不正にも手を出す気になった。

 資料整理を手伝ってくれているメリッサとイリスは大変さに苦笑しながらも俺の気持ちに賛同してくれているので手伝ってくれている。


「これがどうしたの?」


 資料を読んでもアイラには苦労してまで纏めている理由が分からないみたいだ。


「分かりませんか?」

「サッパリ」

「アイラさんの為なんですけどね」

「え……?」


 メリッサの意外な言葉にアイラが戸惑っている。


「正確にはアイラさんの子供です」

「あ……」

「その子が女の子だった場合、都市に自分の犯罪を揉み消せてしまうような権力を持った小児愛者がいるのに子供を残して別の都市へ行くことができますか?」


 少なくとも俺は安心できない。

 さっさと諜報員たちと同じように処分してしまいたいところだが、それなりの権力を持っているので闇へ葬ってしまうのも問題になるので領主に任せる必要がある。もちろん権力に屈して裁けなかった場合には闇へ葬るつもりでいる。


「マルス……」


 アイラが俺の名前を呟いた後で愛おしそうに自分のお腹を撫でていた。

 なぜか目立っていないので気が早いような気がしなくもない。


「でも、迷宮はどうするの?」

「大丈夫だ。迷宮核とも相談したけど、迷宮の入口近辺で経路の一部を切断して定期的に繋ぎ直せば屋敷までの経路も消失するようなことはないから定期的に繋いで情報を集めることにする」


 今後もそういった輩が現れないとも限らない。

 継続的な監視が必要になる。


 さすがに2カ月や3カ月も繋がない状態が続くとせっかく構築した経路も消失してしまうらしいが、1カ月ぐらいなら耐えられるそうなので消失しないよう定期的に繋ぐことにする。


「でも、魔力が……」

「必要経費だ」


 繋ぎ直す度に魔力をそれなりに消費する事になる。

 だが、子供の安全を考えるならこれぐらいは必要と思えるぐらいに父親になるという自覚が芽生え始めていた。


『君が今最も優先させなければならない仕事は子供を安全に産む事』

「それは、分かっているんだけど……」

『子供が生まれるのは悪い事ばかりじゃない。むしろ喜ばれるべき事だよ。それに分かり易い効果としてレベルが上がっているからね』

「え……?」


 迷宮核の言葉に驚かずにはいられない。


『あれ、気付いていなかった?』


 そう言えば最近はレベルが上がり過ぎてなかなかレベルが上がらなかったのでステータスの確認を怠っていた。


 急いでステータスを確認すると最後に見た時よりもレベルが3上がっていた。

 ついでに眷属のレベルを確認してみると妊娠しているアイラも3、他の3人も妊娠していないにも関わらず2上がっていた。


『ね、悪い事ばかりじゃなかったでしょ』


 3人についても母親になったような自覚があるので『経験』を積んだ。


『僕も君たちの為に精一杯の協力をするよ』


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