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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第18章 拠点拡大
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第18話 沼サバイバル

 若い女がキョロキョロと視線を彷徨わせる。

 直前まで何度か訪れた事のある屋台にいたはずなのにいつの間にか見たことのない森のような場所にいた。


 誰かに掴まれていた体が放される。

 自由になったところで振り向くと数秒前にも見たイリスの姿が見えた。


「ひっ……」


 若い女がイリスの笑顔の前に後退る。

 当のイリスはそんな反応を気にせずに離れた場所にいた俺の下へとやって来る。


「全員終わった」

「ご苦労」


 イリスとメリッサには手分けしてアリスターに潜伏していた諜報員を【転移】で迷宮へ連れ去ってもらった。

 全く痕跡を残すことなく拉致することができるので事が起こるまで誰も気付けなかった。


 唯一、異常事態に気付いた女性も他の同業者の所へ駆け付けるだけだったので、どのタイミングで拉致するのかが問題だっただけで苦労することはなかった。


「女将さん……」


 若い女が自分の目の前に屋台を営んでいた夫婦がいることにようやく気付いた。

 俺も彼ら夫婦が諜報員だった事には驚いた。彼らの屋台には何度か足を運んだことがあり、その時の夫婦の印象は気さくな人の好い人程度でしかなかった。


 他にも街で見かけた人が何人か……ま、何をしていた人かは気にしないようにしよう。


「これ、どういう状況ですか?」

「おそらくアリスターに潜伏していた連中が拉致されたんだろうね」


 女将さんの予想は正しい。

 ただし、その予想を肯定してくれるはずの者は遠くから見ているだけで何も言って来ない。それが逆に連れ去られた人々を不安にさせていた。


 それもこれまでだ。


「これで全員です」

「そうか」


 メリッサが最後の諜報員を連れて来た。

 これでアリスターに潜伏していた諜報員31人全員が拉致されて来た。


 知り合い同士で集まって情報交換をする彼らの前に立つ。


「一体、どういうつもりだ?」


 代表なのか屋台の店主が質問してくる。

 わざとらしく溜息を吐く。


「あなた方なら、ここに集められた者がどのような集まりなのか予想できますよね」

「……分からないな」


 あくまでも無関係な人たちが集められた。

 自分たちの素性を考えればそう答えるしかない。

 仕方ないので俺の方から答え合わせをする。


「ここにいるのは他国から来た諜報員の方々です」

「な、何を言っているの……!?」


 怯えた様子で主婦のような姿をした女性が尋ねて来る。


「あなたはジョアンナさん。病気になった父親の治療をする為にアリスターへ他の街から移り住んで来たという設定ですが、あなたの父親はアリスターのどこにもいませんでした。さらに治療費を稼ぐ為に時間のある時は働いているということですが、そんな形跡もありませんでした」

「いえ、私はジェシーという名前なんですけど……」


 たしかにアリスターではジェシーという名前を使用している。

 しかし、本名はジョアンナだ。


「他の奴らについても分かっているぞ」


 昼間は何をしているのか?

 人気のなくなった夜にどこへ出掛けているのか?


 どうしても彼らを迷宮へ連れて来る必要があった。

 とりあえず、近所の人の証言や届出と普段は違う事をしている、家に他国まで届くほど高性能な通信用の魔法道具を見つからないよう隠している、など限りなく怪しいと思われる人たちを連れて来た。


 だが、もしかしたら間違いがあるかもしれない。

 残念ながら全員アウトだった……【鑑定】を使用したところ、職業が『諜報員』になっているのが含まれていた。


「……私たちの素性については知られている、という事だ」

「その通り」


 諦めた様子の店主に答える。


「だが、あなたたちを捕まえる為の証拠はない」


 騎士団が諜報員を捕らえる為には迷宮の力に頼らない証拠が必要になる。

 実際には彼らの自宅などに押し入る事ができれば手に入れられる。どこに、どんな証拠があるのかも俺は知っている。


 しかし、押し入る為にも証拠が必要になる。

 残念ながら迷宮の力で手に入れた情報は表に出せないので押し入って証拠を手に入れることができない。


 諜報員がいた、という事実は闇の中に埋もれることになる。


「だから、闇から闇へと葬ることにさせてもらった」


 戸惑う諜報員たちを無視して道具箱から剣やナイフ、槍など様々な武器を地面にばら撒く。


「あなたたちならここがどこなのか分かりますね」

「迷宮、ですね」


 さすがに迷宮で稼いでいる冒険者を調べているだけあって自分たちが今いる場所がどこなのか一目でどこなのか理解した。

 連れて来た方法については全く分からなかったが、自らの置かれた状況ぐらいは把握できるようで、目の前に置かれた武器も考慮して表情が青褪めていた。


「葬る、と言ってもこの場で処刑するとかこの武器を使って殺し合いをさせるとかじゃない。この場で解放する」

「……は?」

「後は好きにして」

「ま、待て……!」


 【転移】でその場から離脱する。

 後は呆然とするしかない諜報員だけが残された。



 ☆ ☆ ☆



「どんな感じだ?」


 3日後の朝。

 迷宮の最下層へ【転移】して迷宮核に状況を尋ねる。


『今のところ8人が脱落したよ』

「けっこう生き残っているな」


 31人中8人の脱落。

 俺たちの予想では3日で半数ぐらいまで脱落すると思っていたので、ちょっと予想外だ。


「彼らも諜報員とはいえ正式な訓練は受けている。魔物を相手にサバイバルをするぐらいはできる」

「そうだけど、彼らがいるのは地下62階だぞ」


 迷宮に放置されていた彼らは地下62階の沼フィールドをウロウロしていた。

 沼フィールドはぬかるんだ地面を歩く必要があるので体力の消耗が激しく、探索速度も落ちる場所となっている。その代わり、木には美味しい食べられる実が成っているので食糧には困らない。

 環境的にはサバイバル訓練をしているなら生きられる。


「けど、出没する魔物はどれも最上級レベルだけどな」


 迷宮からの脱出を決めた彼らは食糧を探しながら階層の探索を開始した。


 最初のトラブルは翌朝に起こった。

 迷宮を訪れて最初に遭遇した魔物がベヒモス。人など簡単に踏み潰せてしまうほどの巨体を持つ鼻の両端に鋭い牙を持つ象型の魔物。

 今まで見たことがない魔物を前にして諜報員たちは震え上がりながらも逃げることを選択した。


 その選択は間違っていない。彼らの実力ではどう足掻いたところで倒せるような魔物ではない。

 だが、間違っていたのは彼らの実力でも逃げることが叶わなかったという事実。


 結局、逃げ遅れた一人が捕食されている間に残りの者が逃げた。


 逃げ切った者はあまりの恐怖に魔物と遭遇することを恐れた。

 その後は、魔物との遭遇を避けることを最重要事項として食料も得られる環境でのサバイバルを決心した。


 だが、彼らは忘れていた。

 この場所がただの沼地ではなく迷宮だということを……


 初めの内は普通のサバイバルと同じように考えていた彼らだったが、致命的な問題が2日目の正午に起こった。


 一人が魔力枯渇によって動かなくなった。

 迷宮では常に魔力が吸い取られて行く。

 その事を忘れて肉体的に生き延びる事を優先させていた彼らは魔力の残量を気にする事を失念していた。

 どうにか回復するのを待って先へ進む。


 迷宮へ連れて来たのは、【鑑定】ができるようにするのと同時に魔力を搾り取って有効利用する目的もあった。


「ま、死ぬまで魔力を吸い取られる訳じゃないからな」


 大凡1割程度になれば迷宮も搾取を止める。

 それでも1割まで魔力が減ってしまうと体から気力がなくなり、サバイバルどころではなくなる。


『それで、昨日の昼には沼の近くで休んでいたところにブラックダイヤクロコダイルに5人が食い殺されていたよ』


 沼の近くこそ中から何が現れるのか分からないので危険だ。

 そんな判断ができないほど消耗した彼らは自ら死地に飛び込んでしまった。


『おまけに恐慌状態に陥った彼らは叫び声を上げながら逃げるものだから逃げた先にいたベンジーチンパーの群れに襲われて2人が帰らぬ人となったよ』


 死者だけでなく負傷者もいる。

 全員が何かしらの怪我を負っていた。

 もう彼らが帰還できる確率はないに等しい。


「それで、問題な奴らはどうなった?」


 諜報員の中には冒険者として活動しながら情報を集めている者もいた。

 その中には迷宮へ潜った者もおり、転移結晶まで辿り着かれると迷宮を脱出される可能性があった。


『うん。昨日バンジーチンパーに襲われた時に倒れたよ』

「そっか」


 これで脱出できる可能性のある者はなくなったと思っていい。


『今こそ食料の得られる階層にいるからいいけど、沼フィールドを越えた先は墓地フィールド。そこでは食糧も得られないから脱出は不可能だね』


 そういう訳で脱出されることについては全く心配していない。

 数日中に全員が迷宮に吸収されることは確実だ。


『それで、アリスターの拠点はどうするの?』

「それが困っているんだよな」


 問題はまだ解決していない。


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