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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第3章 報復計画
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第12話 徴収

 俺の傍に突然出現した宝箱。

 村人たちが状況に付いていけずに呆然としている。


 そんな村人たちを無視して宝箱の中味を確認していた。


「金貨が39枚。それに銀貨や銅貨が数百枚単位であるけど、金貨1000枚には全然足りないな」


 宝箱の蓋を閉じる。


「何だ、今の中身は……硬貨がたくさん入っていたぞ」


 一番近くにいた村長には、宝箱の中身が見えてしまったらしい。

 ま、見えたところで村長にはどうにもできない。


「おい、俺の金がないぞ」


 ようやく村人の1人が自分のポケットに入れていたお金が無くなっていることに気が付いた。

 そして、お金が無くなっているのは1人だけではない。


「わたしのお財布からもなくなっているわ」

「俺もだ」

「どういうことだよ」


 1人が気付くと全員が自分の財布を確認し始めた。

 結果、村人全員の財布からお金が無くなっていた。


「まさか……」


 全員の視線が突然出現した宝箱へと注がれる。


「その、まさかだよ。この宝箱に入っている金貨は全てみんなから徴収したものだ」

「か、返せ! それは私の物だ」


 村長がお金を取り戻そうと宝箱に飛び付く。

 しかし、宝箱に触れた瞬間、村長の体が見えない衝撃でも受けたかのように弾かれ、離れた場所に倒れる。


「な、何が起こったんだ?」


 村長は訳が分からずにいた。

 それは、村人たちも同じだ。


 なぜ、宝箱に触れると弾かれてしまったのかが分からない。


「村長、契約書の内容を覚えているか?」

「魔物を退治したら金貨10枚を支払うというやつか?」

「そこもだけど、今大事なのは『契約を一方的に破棄した場合には、報酬の100倍の金貨を支払う』っていう部分だ。なんで、そんな言葉を書いたのか理由が分かるか?」

「それは……お前が依頼を受ける為に失敗した時の補償を明確にするためだ」


 金貨が1000枚もあれば、村の復興も簡単だ。しかし、村長のことだからそのまま1人で預託金を持ち逃げして悠々自適に生活していたことも考えられる。


「たしかにそれも理由の1つだ。けど、その言葉は何も俺が依頼に失敗した時だけに適用される言葉じゃない。あんたにも適用されるんだよ、村長」


 倒れた村長に目線を合わせるように屈みながら言うと、俺を睨みつけながら立ち上がり、見下ろすような格好になる。


「どういうことだ!?」

「村長。金貨10枚を支払うことができないんだったら交渉して分割で支払うことにしてもよかったんだ。けど、村長はそんなことを一切せずに『契約書を破り捨てた』んだ。それが誓約書(ギアスロール)には、『契約の一方的な破棄』と見做されてしまったんだ」


 そう、あの4つ目の文面が適用されるのは俺だけではない。俺が依頼に失敗した時に支払うなど一言も書いていないのだから。


 村長が契約書を破り捨てたことによって村長が条件を満たしてしまった。


「つまり、デイトン村の村長が契約を一方的に破棄してしまったことにより、デイトン村は契約相手である俺に金貨1000枚を支払わないといけなくなってしまったんだ。そして、誓約書による契約の履行は絶対だ」


 村人から呪いにも似た力により強制的に搾取し、俺の傍に出現させた。


 さらに奪い取っただけでなく、既に俺へと渡されたお金なため、彼らが奪い返すこともできなくなってしまった。それが、触れた瞬間に弾かれるという結果で現れていた。

 彼らは、自分たちが元々持っていた金貨に触れることすらできなくなっていた。


「私たちから金を強制的に奪ったというのか! お前には血も涙もないのか?」

「だから、村長が素直に報酬を俺に渡していれば何の問題もなかったんだ。たとえ、村の貯蓄がなかったとしても村中から掻き集めれば金貨が39枚もあったんだ。事情を話して頭を下げればお金を出してくれたかもしれないぞ」


 そう、宝箱の中に入っていた金額は村中から掻き集めた物だ。


「まさか、その箱の中に入っているのは私たちが今持っている金貨だけでなく、家に保管している金貨も含まれているのか?」

「もちろん」


 タンス預金、誰にも隠し場所を教えていないヘソクリ……そんな物は関係ない。村人が所有しているお金は、全て強制的に徴収させてもらった。


「それと、勘違いしているようだから教えておいてあげるけど、俺が貰う権利があるのは金貨で1000枚だ。まだ900枚以上足りない。足りない分については、あなたたちが今後得た硬貨からも強制的に徴収させてもらうよ」

「なっ!?」


 村人から驚いた声が上がる。

 それは、彼らが収入を得て、硬貨を手にする度に俺へと強制的に搾取されてしまう。極論を言ってしまえば彼らは今後硬貨に触れることすらできなくなってしまうということを意味していた。


「そんなことされたら生活できないじゃないか!?」

「まあ、伯爵様に頼んで最低限の生活ができるだけの食料や日用品は支給してもらうようにするよ。あ、その分の費用はきちんと返済額から差し引くから、俺が負担しておくよ」


 笑顔で、そう言うと村人たちの顔に怒りが満ちていた。


「そんなの……奴隷と変わらないじゃない!」


 生活に必要な物は最低限だけ与えられ、毎日借金返済の為だけに働かされる。

 奴隷契約は結んでいないが、奴隷とあまり変わらない待遇だ。


 そして、奴隷よりも酷いのが、


「それに全員で協力したって金貨1000枚なんていつ返し切れるのよ」


 解放までの期間だ。


 生活レベルを生きていける最低限のレベルにまで落としたとしても月々に貯蓄できる金額など村全体で金貨4枚、多くて5枚もあればいい方だろう。

 つまり、金貨1000枚を返し切る為には20年近い歳月が必要になる。


 20年以上の奴隷生活など慣れるはずがない。終わりがあるからこそ希望があり、絶望に身をやつして奴隷生活に慣れて諦めることもない。


「だから? そもそも村長が人と契約を交わしておきながら、その契約書を破り捨てるとかいう最低な行為をしなければこんなことにはならなかったんだから。ちなみに言うと、俺にも契約をなかったことにすることはできないから」

「きさま……!」


 黙っていられなかったリューが俺の胸倉を掴んでいた。


 若い世代では一番力があり、力で俺たちの世代を支配していたリューに胸倉を掴まれながら睨まれれば、村に住んでいた頃の俺なら怯んでしまっただろう。


 しかし、今の俺には見ただけで実感できる。

 村人レベルで強かったとしても冒険者レベルで言えば弱い。せいぜい駆け出しのEランク冒険者と同等レベルの強さだ。


「暴力に訴えるか? そんなことをしたところで契約がなくなるわけでもないし、そもそもあれだけいた魔物を倒した俺に勝てると本気で思っているのか? その気になれば、こんな村は簡単に滅ぼすことができるんだぞ」


 魔物の軍勢を倒した時と同じように村の中心に大穴を作って鉄球を転がすだけで、文字通りに村を潰すことなど簡単にできる。


 その光景を想像してしまったのだろう村人の表情が青ざめていた。


「ギルドはこんな横暴な契約に関して、どう責任を取るつもりなんだ」


 俺から手を放すと、近くにいたルーティさんに叫ぶように尋ねた。


「別に、何も」

「なに?」

「そもそもこの依頼はギルドを通さずに契約された依頼です。ギルドの方で何かをすることはありません。それに冒険者ギルドは、あくまで依頼人と冒険者の仲介組織でしかありません。依頼を受ける前に注意を呼び掛けるなどのことはしても、一度交わされた契約内容に関して何かを言うことはありません」


 ギルドのスタンスが分かっていたからこそ契約を交わす場においてルーティさんにも同席してもらっていた。


「それに、私は村長さんに誓約書の効力についてきちんと説明をしました。そのうえで契約を交わしたのは、あなたたちの村長ですよ」


 騙されていたのならともかく、村長は自分たちのことにまで考えが及ばなかったからあんな契約を交わしてしまった。


「そもそも交わした契約書を破り捨てるような人たちを擁護する気はありませんね」


 冒険者ギルドはデイトン村を突き放した。


 リューが今度は騎士たちへと視線を向ける。騎士たちは首を横に振っていた。つまり、冒険者ギルドと同じように村人を助けるつもりなどないということだ。


 さて、そろそろ助けることにするか。


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