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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第18章 拠点拡大
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第15話 少年の罪

「事情を知っているなら話は早い。君には罪を償ってもらわないとならない」


 エルマーがコクンと頷く。

 この子は聡いのかある程度の事情を理解している。


「何を言っている!?」


 対してロビンは何も気付いていない。


「この子には少なくとも盗賊団を金で雇っていた罪、それから襲撃者を雇ってアリアンナさんを襲った罪がある。それらの罪を認めさせる為にこんな場所へ連れて来たけど、本人が覚悟しているならこんな所にいる必要はないな」


 エルマーの手錠を外してあげる。

 シルビアによって解放されて痛めていた腕を擦っている。


「ありがとう、ございます」


 少年が小さな声でお礼を言う。

 ポンポンと頭を撫でられると瞳から涙を流していた。


「ううっ……おかあさん……!」


 泣きながら近くにいたシルビアに抱き着いていた。


「どうして、いなくなっちゃったの……? 寂しいよ……」


 聡いのかもしれないが、それでも10歳の少年。

 いきなり母親を亡くした生活に耐えられるはずがなかった。


 それに何より少年は唯一の頼れる大人の為に耐え続けていた。

 色々な事情を理解していると知った時点で【鑑定】を使って更に深い情報を探っていた。本来ならこんなプライベートを暴くような真似はしたくないのだが、こちらも色々と事情をしらなければならないので緊急事態だ。


 結果、知ることができた事実に頭を抱えたくなった。


「待て! エルマーの罪とは何だ?」


 一方、ロビンの方は何も理解できていなかった。


「たしかに盗賊団は雇っていたし、お前らに家族を失った悲しみを与える為に襲撃者を雇った。だが、それらを雇ったのは全て私だ」


 たしかに実務的な交渉は全てロビンがやっていたのだろう。

 だから、こいつも共犯者である事に変わりはない。


 それでもエルマーの罪が消える訳ではない。


「あんたが交渉して連中を雇った。それは間違いないのかもしれないけど、誰の金で雇ったんだ?」

「それは……」


 サルマが養育費として送っていた金だ。

 その金は、エルマーもしくはエルマーの母親の手に渡った時点でサルマの金ではなくなっている。そして、エルマーの母親が亡くなった現在では全額がエルマーの金となっている。

 だから、グリーソン一家を壊滅させた俺たちに所有権はない。


 法律上は、赤の他人という事になっているのでグリーソン一家の悪事でエルマーを裁くこともできない。


 しかし、エルマーの金で雇われた連中が引き起こした問題についてはエルマーの罪となる。


「あんたはエルマーから許可を得ていたのかもしれないけど、少年の金を使って盗賊団と交渉して罪を犯させていたんだ。しかも、グリーソン一家再興の為に必要な資金を稼ぐ為に商人を襲う? あんたも頭はそれなりに切れるみたいだから参謀みたいに作戦を立てて盗賊団に指示を出していたみたいじゃないか。随分と罪を重ねているな」

「ど、どうしてそんな事まで……!」


 もちろん鑑定内容を読み進めて行ったからだ。

 詳しいプライベートの内容まで知る事はできないが、こいつの犯した罪の経歴は手に入れることができる。


 あまり人相手には使ってこなかったせいか読み取れる内容が人によって偏りがあるな。


「全ては私がやった事だ。罪を償う必要があるというなら私が一人で――」

「――もう止めておじさん!」


 それまで泣いていたエルマーが叫んだ。


「エルマー……」

「僕、お父さんがどういう人だったのか知っているんだ……」

「な!?」

「お母さんにお父さんが死んだ事を言いに来た日の夜。おじさん、僕の家にずっといたけどお酒を飲みながらずっと独り言を言っていたんだ」


 それは妻と子供を遺して死んだサルマに対する愚痴だった。

 その時にサルマがどのような商売をしていたのかポロッと口から出てしまった。


 普段ならぐっすりと眠っていてもおかしくない時間だったのだが、その日は母親の様子がおかしかったこともあって心配でなかなか寝付くことができなかったせいで起きて来てしまった。

 しかも話を聞いていたエルマーは聡いせいで父親の商売を理解してしまった。


「だが、一人っきりになった後でお父さんがどこにいるのか尋ねて来たじゃないか?」


 その時に父親の商売を理解していたなら、父親が亡くなっている事も理解していたはずだ。


「おじさん、お母さんの事が好きだったんでしょ」

「そ、それは……」

「お母さんが死んで、おじさん迷子になったみたいにどうしたらいいのか分からない顔をしていたの」


 エルマーの質問に視線を逸らしていたロビンがバッと振り向く。

 そんな風に見られていたなんて予想していなかった。

 あの時の自分はどんな顔をしていたのか、どれだけ思い出そうとしても思い出せない。


「だから、僕はおじさんに『どうしたいの?』って聞いたの」

「そんな……」


 自分は母親を亡くしたばかりの少年を気遣っているつもりでいた。

 だが、逆に自分の方が気遣われていた。


「あんたは少年から尋ねられてようやく縋る物を見つけたんだ。それが少年の為になると思い込んでな」

「あ、ああ……!」


 ロビンから嗚咽が漏れる。

 少年の為を想って行動したつもりだったが、結局は少年に気遣われた末の自分の為だった。しかも、その行動によって少年はありもしないはずの罪を背負わなくてはならなくなってしまった。


「私は……そんなつもりでは……!」


 泣いているロビンはそのままにしておこう。


 それよりも今はエルマーの方だ。


「君は悪い事をしたっていう自覚はあるのかな?」

「……ごめんなさい」

「謝れるならいい子です」


 シルビアがあやしている。

 少年の対応は彼女に任せよう。


「悪い事をした時は叱ってもらわないといけないよね」

「うん」

「だったら叱ってくれる人の所へ行こうか」


 シルビアがエルマーの手を取って牢から出て来る。

 色々な手間が省けて助かった。


「待て! その子をどこへ連れて行くつもりだ?」

「あんたを連行する事になるが、あんたたちを裁く権利を持った人の所だ」

「……騎士団の詰め所か」


 アリスターのような大都市だと必ず騎士が詰めている場所がある。

 アリアンナさんを襲撃した連中もそうだが、騎士に捕まった人たちは必ずそこへ連れて行かれる。


 自分たちが犯罪者だという自覚がしっかりとあるのか答えに淀みはない。


 ただし、行き先は間違っている。


「いいや違う」


 今回の一件に関しては途中から裏にいる人物について分かっていた。


 自分から罪を犯している連中が捕まるのは問題ないとして俺たちが問題にしたのがエルマーの存在だ。


 話を聞く前に全員で話し合った結果出た結論が『何も知らずに利用されている子供』という立場だった。


 だが、ロビンに自分の金を勝手に使われただけだったとしても王国の法律的にはエルマーも罪を犯していることになる。

 さすがにそれは可哀想だという話が女性陣から出た。


 相手が子供だったからだ。

 もうすぐ自分たちにも子供が生まれるということで子供に同情的になっていた。


 けれども罰しないという訳にはいかなかった。

 だから、色々と事情を聞いて自分が罰を受けなければならない立場だという事を理解してもらったうえで俺たちから騎士よりも偉い立場にあって直接罰を下すことができる人物に掛け合うことにした。


 ところが、実際には俺たちから諭す必要はなかった。

 相手は聡いだけで寂しがりやな子供だった。


「どこへ連れて行くつもりだ?」

「領主様の所だよ」


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