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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第3章 報復計画
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第11話 契約破棄

 落とし穴に落とした鉄球を全力で殴り、粉々にすると穴の中に生き残りの魔物がいないか確認する。


 結果、何体かの魔物にまだ息があったので圧縮した風を叩き付けて潰す。

 わざわざ『迷宮魔法:気配探知』で生き残りがいないか確認しているので、討ち漏らしもいないだろう。


 普段なら素材の回収などを考えて、死体はなるべく綺麗な状態で残すところだが、今回はあまり気にしないことにしていた。


 本当に気を使わなければならないのはこの後だ。


 村の門まで戻ると全員が口を開けてポカンとしていた。


「あれ、どうしたんです?」


 俺の質問によって一番先に正気に戻ったのはルーティさんだ。


「どうした、ではありませんよ。本当に一人で魔物の群れを倒してしまうんですから、みんな呆然としているんですよ。たった一人で千体の魔物を倒すなんて冒険者で言えばSランク冒険者ぐらいですからね」


 つまり、Sランク冒険者は人外認定されているような連中ですか。


「まさか、本当に失敗するとでも思っていたんですか?」


 ルーティさんはそんなことを思っていなかっただろうが、騎士たちにはどこかそんな雰囲気があった。


「そうだな。我々の役割は、魔物の群れについて詳細を確認して、街へ一足先に報告することだった。それが既に討たれてしまったという報告に変わったというだけだ」


 それは、最初から予想していたことなので問題ない。


 母と妹、それに兄を見るとまだ呆然としていた。

 ちょっと家族に見せるには刺激の強すぎる力だったかな?


 一か所に固まっていたとはいえ、魔物の軍勢を落とし穴に落として一網打尽にして、空中にいた魔物も全て例外なく粉々に砕いた。軍勢を率いていた魔物も逃げるように背を向けたところを斬ってしまったからな。


「おい、俺たち助かったのか?」


 ようやく村人の一人が我に返っていた。


「ああ、そうだよな」

「あのマルスにこんなことができるなんて……」

「ちょっと信じられないけど、動いている魔物なんていないし」


 村へ向かっていた時は、魔物が動くだけで土煙が濛々と立ち込めていた。

 今は既に土煙が完全に消え、魔物が動く音も聞こえない。


「見ての通りだ。魔物は全て俺が倒した」


 俺が宣言すると村人が喜びを露わにして沸き立っていた。

 中には涙を流し、隣にいた者と抱き合っている村人までいた。


 そんな中で目立っているのが、喜びもせずに俺を睨みつけている村長と兵士長、それから名士のランドだ。


 村長たちの方へと歩く。

 俺が歩き出すと、騒いでいた村人たちも真面目な雰囲気を察したのか静かになり、村長のいる場所まで道を開けていた。


「村長。無事に依頼は果たしたぞ」

「あ、ああ……」

「依頼内容において特に問題点なんてあるか?」


 村長の依頼は魔物の討伐である。

 まだ微かに息のある魔物はいるかもしれないが、誰の目から見ても全ての魔物が討伐されたのは明らかだ。ここで、依頼が達成されていないと言えば喜び沸き立つ村人たちを無意味に不安にさせてしまう。

 村長ならば、そんな真似はできない。


「ああ、たしかに討伐されたことを確認した」


 俺から視線を逸らして、苦虫を噛み潰したような表情をしながら肯定した。

 村長としては、俺が依頼に失敗して預託金としてギルドが預かっている金貨100枚を受け取って、どこかで自由に生活する方が良かったのだろう。

 ただし、俺には最初からそんな約束を守るつもりなどない。


「じゃ、こいつにサインをくれ」


 収納リングから契約書を取り出して、ペンと一緒に渡す。


 村長が契約書に依頼が完遂されたことを証明するサインをする。


「うん。これで依頼は完了だな」


 契約書を収納リングにしまう。


「それじゃあ、報酬をお願いするよ」

「……?」


 俺の言葉に村人が首を傾げていた。


「まさか、俺が善意から故郷を守る為に報酬も貰わずに危険を冒して魔物の討伐を行ったとでも本当に思っているのか? 俺は、きちんと冒険者として村長から依頼を受けて魔物を討伐したんだ。報酬を貰うのは当たり前だろ」

「まあ、そうだよな」

「ちなみに金額は、金貨10枚だ」


 小さな村にとって金貨10枚というのは大金だ。


「ふざけるな、そんな大金払えるか!」


 一人の村人が言い出すと、村人が次々と声を上げ始めた。


 曰く、そんな大金を持っていかれては生活できない。そもそも持っていないというものだ。


「おい、お前には血も涙もないのか? 故郷から金貨を10枚も持っていこうだなんて」


 村人を代表してリューが文句を言ってきた。


「血も涙もない。あんたたちは、自分の命を助けてもらう代わりに金貨10枚を差し出す。それのどこがおかしなことなんだ? そもそも俺は村長とそういう風に契約しているんだぞ」


 再び収納リングから契約書を取り出して、契約内容を見せる。

 きちんと魔物を討伐すれば金貨10枚を報酬として支払う、という内容が書かれていることを認めると顔を歪めていた。


「それに、この村に金貨10枚もないなんてあり得ないぞ」

「そうだよな……もしものことが起きた時の為に、って貯めておいた金があるじゃないか」


 そう、少なくとも金貨が10枚以上なくてはならない。


「けど、そのお金はクライスが持ち逃げしたんだろ」


 その言葉に苛立ちながらもどうにか我慢しながら村に残っていることを伝える。


「村長は、その金貨10枚も伯爵様から借りて村に戻したぞ。そして、伯爵様へは既に俺が返しているから金貨10枚は確実にあるよな?」


 笑顔で村長に尋ねると視線を逸らした。

 やっぱり、村が貯め込んでいたお金と同様に使い込んでいたな。


「村長?」


 その様子を見ていた村人が呼ぶと、村長は動揺しながら、


「あの金は村の金だ。村長の私が自由に使って何が悪い!?」

「おい、あれは俺たちの金だぞ」


 そんなことを言ってしまったので、近くにいた男が村長の胸倉を掴んで持ち上げていた。


 魔物と戦うような力はないが、普段から農作業によって鍛えられた筋肉は、大して鍛えられていない村長の体を軽々と持ち上げていた。


 とりあえず宥めることにする。


「まあまあ、落ち着いて……村長も、村の金が村長の物だって言うなら、村の債務も村長の物だよな。なら、村長の家にある金目の物を適当に持っていくことになるけど、何の問題もないよな」

「な、なんだと……」


 村長自身、それなりにお金を貯め込んでいるので金貨数枚はあるだろう。

 それに使い込んだと言っても金貨10枚を3カ月の間で全て使い切ったとは考え難い。いくらかは残っているはずだ。


「私の家にある物は全て私の物だ。お前に渡すような物などない!」


 村長の家へ向かおうとする俺の前に村長が立ちはだかっていた。


 正直言ってちょっとウザくなってきたので、契約書を見せびらかす。


「村長、あんたは俺を金貨10枚で雇ったんだ。その金が払えないなら、どうにかして払ってもらうのが筋ってもんだろ」


 わざとらしく契約書をヒラヒラと動かして挑発する。


「こんな物があるからいけないんだ!」


 軽く摘まむようにしか持っていなかった俺から契約書を奪い取ると、ビリビリと音を立てて破り捨てる。


 細かく刻まれた契約書が風に飛ばされて消えていく。


「これで、お前は故郷の危機に立ち上がった冒険者でしかない。冒険者の中には、故郷だからという理由で、格安で依頼を受ける冒険者もいるそうじゃないか。お前も彼らを見習って無償で仕事をするんだな」


 ブレイズさんたちのことだな。

 生憎と俺にはブレイズさんたちのように助ける理由がない。


 それにしても……


「色々と、この状況に持って来る為の台詞を考えていたのに全てパーになったな」

「何を言っている?」


 騎士たちは、契約書を破り捨てるという愚行に出た村長を呆れた顔で見ていた。

 だが、ルーティさんは納得したように真面目な表情で成り行きを見守っていた。


「村長、あんたの自業自得だからな」


 俺の傍に金貨が詰まった宝箱が出現する。


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