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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第17章 亡霊行進
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第17話 アンデッドからの逃亡者

メリッサ視点です

「凄いですね……」

「本当ですね……」


 私の隣でミシュリナさんとクラウディアさんがアンデッドの大群へと突っ込んで行った主を見ながら呟いています。


 突撃を仕掛けた主は大群に対して臆することなく斬り捨てて行き、主が駆け抜けた場所では次々と死体が転がって行きます。

 主の力を考えれば、あれぐらいはできて当たり前です。


「では、私たちは私たちにできることをすることにしましょう」

「はい。逃げて来た人たちを受け入れる準備です」


 これから主が助けた人々がここへ雪崩れ込んでくることになります。

 アンデッドから逃げている人々ですが、そのアンデッドは数十分以内には全てが3人の手によって討伐されてしまうので逃げる必要がなくなってしまうのです。


 なので、この場で逃げて来た人々の治療を行うことにします。

 掠り傷程度なら問題ないのですが、アンデッドの攻撃を受けてしまうと自らもアンデッドになってしまいます。その場合には、浄化魔法による呪いの浄化が早急に必要になります。私もミシュリナさんも使用することができるので、逸早く治療するべきです。


 あと、アンデッドからの攻撃による負傷以外にも逃げている最中に転んだり挫いたりという負傷もあります。

 そういう負傷の手当ても必要になります。


「ですが、今の私たちにできることは逃げて来た人たちを受け入れるぐらいです」

「いえ、このような不衛生な場所で治療をする訳にもいきません」

「……何をするつもりですか?」


 クラウディアさんが訝しそうに私のことを見て来ます。

 今、主の非常識な討伐を見たばかりなので私が何をするつもりなのか気になっているのでしょう。


 特別、おかしなことをするつもりはありません。

 魔法で周囲の石や地面を利用して小屋を製作。小屋は、怪我人の受け入れもできるように水魔法で清潔にして、内部の空気も風魔法で清浄な物へと変質させてもらいます。

 これなら衛生面でも問題ないでしょう。


「ありがとうございます。これなら負傷者の受け入れも問題ないと思います」


 他にも治療に必要そうな物を収納リングから取り出して準備を整えていると先頭集団の一部が辿り着きました。


「これは……」


 逃げた先に突然出来上がった小屋。不審に思ってしまうのも仕方ないでしょう。

 ですが、彼らは足を止めざるを得ませんでした。


「怪我をしている方はいらっしゃいませんか? 治療が必要な方は奥の小屋へ移動して下さい。休憩が必要なようでしたら飲み物などは準備していますので、こちらで休憩して行って下さい」

「メイドさんだ」


 小屋の前にはメイド服に着替えたシルビアさんが立っていました。

 近くに置かれたテーブルの上にはいくつもの飲み物が既に用意されていて、戦場にメイドが立っている、という異様さもあって足を止めざるを得ませんでした。


「どうぞ」

「あ、ありがとう」


 シルビアさんの笑顔に緊張を解された冒険者が渡された飲み物の淹れられたコップを受け取っています。


「あと軽い食事も用意しているので休憩してください」

「ありがとう」


 飲み物と食事をもらった冒険者は、逃げていた疲労が急に現れて来てフラフラと歩きながら近くに腰を落ち着かせてしまいます。


 メイドから飲み物と食事をもらう。

 普段では味わうことのできない対応に戸惑っているみたいです。


「みなさんもどうですか?」


 誰もが逃げていたせいで疲れていた。

 こんな状況を想定していた訳ではありませんが、必要な場合には食料を無料で配る必要があるだろうと前もって用意しておいた簡単な食事です。


「お、俺にもくれ!」

「腹が減っていたんだ」


 押し寄せる人にテキパキと飲み物と食べ物を渡して行きます。


「あの……」

「私もいいかしら」


 魔法使いと剣士の女性冒険者コンビ。

 剣士に周囲の男たちから守られながら二人も食事を受け取ろうとしています。


「女性にはこちらもどうぞ」


 二人に濡らしたタオルを渡しています。

 こんな戦場に来る冒険者とはいえ、女性であることには変わりありませんから少しでも綺麗にしていて欲しいという想いから渡しているのでしょう。


 二人の女性冒険者がお礼を言って離れて行きます。


 疲労しているだけの人々はシルビアさんに任せることにして私は負傷している人がいないか確認して行きます。


「た、助けてくれ……」


 ボロボロになった冒険者。

 体中が汚れてしまっているのは仕方ないのですが、問題なのは腕や足に噛み付かれたような跡があることです。獣や魔物ではない……人による噛み跡。


 その冒険者は既に自分の力だけで歩く力はなく、仲間と思われる大柄な冒険者に背負われていました。


「なんとかなりませんか?」


 背負っている冒険者がどうにかならないか私に聞いて来ます。

 噛まれた場所から体を侵食していた呪いは既に顔や腰付近まで及んでいました。もう数分もしない内に完全なアンデッドとなってしまうでしょう。残念ながら専門ではないので私の浄化魔法では助けることができません。


「こちらへ」


 なので、専門家に任せることにします。


 背負っていた冒険者だけでなく、仲間と思われる心配そうに見ている者も含めて小屋へと案内します。

 中には私が用意したシーツを整えているクラウディアさんの姿がありました。


「これは……」


 背負われた負傷者を見て言葉を失っています。


「やはり、無理ですか?」

「いえ、ミシュリナ様なら可能です」


 負傷者をシーツの上に寝かせると同じように準備をしていたミシュリナさんが寝ている冒険者の隣に座って治療を始めます。


 私も参考の為に治療を見せてもらいます。


 ……結果から言えば全く参考になりませんでした。

 今にも死にそうだった人の体に手を翳しただけでアンデッドの呪いが瞬く間に消えてしまっています。それだけでなく、噛まれた跡も含めて傷が全て癒されていました……何をしたのか全く分かりません。


『おおっ!!』


 ミシュリナさんの治療を見ていた冒険者はただ驚くばかり。

 もう助からないと思っていた仲間が目に見えて治療されているのですから驚くのも無理はないかもしれません。


 聖女は『癒し』と『浄化』に特化した存在。

 ですが、他の人にとっては全く参考にならない力です。


「この方はもう大丈夫です。他にも負傷している方がいましたらここへ連れて来て下さい」

「はい!」


 勢いよく小屋を出て行った冒険者がすぐに負傷した者を小屋へ案内してくるとミシュリナさんによる治療が始まります。冒険者もなるべく重傷者を任せた方がいいことを分かっているのかアンデッド化の症状が重い人から優先して連れて来ています。


 ここは任せて立ち上がると外から喧騒が聞こえてきます。

 ここまで逃げ延びて来た人のほとんどがシルビアさんから渡される飲み物と食事を並んで待っています。


「どけ!」


 先頭に並んでいた小柄な冒険者を押し退けて豪華な鎧に身を包んだ騎士が割り込んできます。


「私はイシャウッド家に仕える騎士だ。貴様が所有している食料などの物資は全て騎士を優先的に配給しろ」


 騎士の後ろには、彼の部下と思われる騎士や兵士が数十人と並んでいました。軍内での自分の支持力を増す為に自分の部隊の騎士や兵士を優遇するよう要求してくる騎士。

 肌や髪が綺麗なところを見るにどこかの弱小貴族の家を継げなかった者が騎士として仕えているといったところでしょうか。


「えっと、騎士ならイシャウッド家の依頼を引き受けて下さった冒険者の方々を優先させた方がいいと思うんですけど」


 この状況下でイシャウッド家に仕える騎士が冒険者を蔑ろにすればイシャウッド家に対する不評が瞬く間に一般市民の間に広がる事になります。


 雇われている家の評判を考えるのなら騎士よりも平民を優先させた方がいいはずです。

 その前段階として騎士は既に冒険者たちから睨まれています。


「ふん……貴様のようなメイドは私のような高貴な身分の者の命令に従っていればいいんだ」


 普通は、こんな場所にメイドがいるはずがありません。

 近くの貴族家が自分の名声を高める為に戦場へ自分に使えるメイドを派遣した、とでも考えたのでしょう。


 シルビアさんの態度に機嫌を悪くした騎士が彼女の襟を掴もうと手を伸ばした瞬間……騎士の視界が天地逆さまになっていました。


「残念ですけど、わたしは普通のメイドではなく冒険者を兼業しているメイドです。あなた程度なら簡単にあしらうことができます」


 ……いえ、メイドを兼業している冒険者です。


 騎士は、重たい騎士鎧を着ていましたが、伸ばして来た手を掴んだシルビアさんの手によって地面へ投げ飛ばされていました。


 華奢なメイドが騎士を投げ飛ばす。

 信じられない光景に驚いたテーブルに殺到していた人たちが静かになっています。


「みなさん、きちんと1列に並んでくださいね。でないと飲み物も食事もあげませんよ」

『はい!』


 兵士も含めて全員が1列に並んで配給を受け取っています。

 一人で処理しなければならないシルビアさんですが、持ち前のスキルを活かして全員を上手く捌いています。


 私も回復魔法で並んでいる人たちの傷を癒して行きます。


「いましたか」


 私たちが態々こんな事をしているのには理由があります。

 その原因たる人物が平然とした顔で列に並んでいます。


「おじいさん」

「なにかね?」


 黒いマントを羽織った白髪のお爺さんに声を掛けます。


「――貴方は何者ですか?」


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