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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第17章 亡霊行進
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第6話 次期大公

 土が剥き出しの荒野。

 そこに数百人の冒険者が野営を行っていた。


「随分といるんですね」

「国中から集められるだけ集めましたから」


 野営をしている冒険者を無視してミシュリナさんとクラウディアさんが奥へと進んで行く。


 この場にいる冒険者全員がCランク以上という訳ではなく、野営地の準備や炊き出しなど戦闘活動を行う冒険者を支援する為の冒険者もいるため数百人規模の集団になっていた。

 危険なアンデッドとの戦闘を行う冒険者に比べれば少ないが支援を行っている冒険者にもそれなりの報酬が出るので協力的だ。


「ここにお兄様がいます」


 ミシュリナさんたちの足が大きな天幕の前で止まる。


「失礼します」


 彼女たちが天幕の中へ入ったので俺たちも入る。


 天幕の中では大きなテーブルが置かれ、4人の男たちがテーブルを囲って話し込んでいた。

 その中でも中心になって話をしているのはミシュリナさんと同じ黒髪の男性で背が高くスラッとしており、目付きは鋭いものの身分の高い立場にあっては力強さと頼もしさを感じさせてくれる。


 彼こそミシュリナさんの兄にして次期イシュガリア公国の大公として正式に任命されているギルバートさんだろう。


「すまない」


 俺たちが入って来た事に気付いたギルバートさんが手を掲げて話の腰を折る。


「一旦、会議は中断しよう」


 ギルバートさんと会議をしていた3人の男性が天幕を出て行く。


 天幕の中に残ったギルバートさんが入口近くにあった水晶のような魔法道具を操作した。


「これで中での会話が外に聞かれる事はない」


 ギルバートさんが操作した魔法道具には天幕内の音を外に漏らさない効果があるらしい。


「さて、報告を聞かせてもらおうか。お前はグロリオを連れに帝国まで行っていたはずだ」

「はい……」


 リオを連れて来る事には失敗したのだから言い難そうにしている。


「問題ない。さすがに私も皇帝となったグロリオを連れて来られるとは考えていなかった。良くて手の空いている側室の誰かを身分を隠して派遣してくれる、そんなところだろう」


 さすがに皇妃となるカトレアさんは身分を隠していてもマズい。そもそも妊娠中なので来られるはずがない。


 側室の中でも挨拶回りに勤しんでいなかったピナやソニアならどうにかなったかもしれない。現に離れたアメント伯爵領にいた俺の下にソニアが来てくれた。

 連絡手段として『遠話水晶』も渡されていたが、あれは道具箱に収納してある状態では繋がらないため使えない。普段、屋敷に居る時は気付ける場所に置いておいて連絡があった時には気付けるようにしていた。


「で、パーティメンバー以外の奴が一緒にいる、という事はグロリオから紹介された優秀な冒険者っていう事でいいのか?」

「はい。グロリオ様よりも強い、もしくは同程度の強さを持っていると考えてよろしいかと思います」

「そうなのかもしれないな」


 俺たちを見定めるギルバートさんの視線が俺の後ろにいたシルビアたちに向けられる。


「グロリオもパーティメンバーは女性ばかりだった。そんな奴の方が優秀なのかもしれないな」


 酷い言い掛かりなのだが、俺とリオの間にある『迷宮主(ダンジョンマスター)』以外の共通点と言えばそれぐらいしかない。


「冗談だ。お前もグロリオと同じ秘密を抱えているのだろう?」


 その秘密が『迷宮主(ダンジョンマスター)』。

 だが、ギルバートさんの口振りから迷宮主について知らないようだ。


「不思議そうな顔をしているな。世の中には知らずにおいた方がいい事実なんていくつもある。グロリオの強さの秘密なんて国の指導者としている分には危険な情報だって私の勘が囁いているのだよ」


 それでも特に問題はなかった。

 抱えている秘密が弱味になり、今回のように色々と融通してもらう事も可能だったが、その程度の事は『聖女』にして妹であるミシュリナさんに頼めばいいだけ。


 将来的に公王として皇帝と付き合う分には知らない方がいいと判断した。


 俺たちについても深く追及されないだろう。


「こちらとしては、明日の侵攻に協力してくれれば問題ない」

「ちょっと待って下さいお兄様! 予定ではまだ数日の猶予があったはずです」


 今回、連れて来るのが俺たちだったからこそ【転移】を用いてイシュガリア公国まで一瞬で来る事ができたが、リオから紹介されたのが迷宮など全く関係のない優秀なだけの冒険者だった場合には船を使って海を渡る必要があった。

 ミシュリナさんの計算では、それでも次の侵攻には間に合うはずだった。


「……お前の力が弱まっているというのは本当らしいな」


 溜息を吐きながらギルバートさんがテーブルの上にある地図を見るように言う。

 ミシュリナさんが魔法で見せてくれた地図よりも精度が落ちるが、必要最低限の地形や村の位置などが描かれているので軍隊を侵攻させるうえで問題にはならないはずだ。


 南側には『敵』であるアンデッドを示す赤い駒が置かれていた。

 これがミシュリナさんの言っていた中央へと侵攻してくるアンデッドだろう。


 それとは別に南東側にも赤い駒が置かれていた。


「まさか……」

「本当なのですか?」


 事態の深刻さに気付いてミシュリナさんとクラウディアさんの表情が暗くなる。


「一昨日の午前中の事だ。私たちの下へ『疫病で何人もの人間が同時に死んだ』という報告が上がって来た」


 現在の状況を考えれば、普通の疫病以外の原因を考える。

 しかも、その村は最初にアンデッドが発生した海岸近くの村からそれほど離れていなかったらしい。


 急ぎ偵察を向かわせて昨日の昼頃に確認した光景は悲惨の一言だったらしい。


「疫病で死んだはずの知り合いが起き上がり、数日前までは笑い合っていた友の肉を喰らっていた。肉を喰われた人も数分すると死体のまま起き上がって次々と生者を襲うような始末。どうにか生き残った人々は必死に北へと逃げているところだ」


 最初の村から近かったという事もあり、中央へと向かっているアンデッドの軍勢から逃れる為に北東へと逃げていた近隣の村の人々。


 新たに異常があった村は田舎だった事もあり、異常について中央からの情報が伝わっていなかったが避難して来た人々から聞いて知る事ができたため避難準備を始めている最中に異常が起こったらしい。


 偵察の一部を避難している人々の護衛に残し、残った偵察は新たに生み出されたアンデッドの監視へと赴いた。

 彼が見たのは一心不乱に中央へと歩き続けるアンデッドの軍勢。


「中央へと向かっている別の新たな軍勢がある事を聞かされたのが今から3時間前の事だ。既に南側から押し寄せる軍勢にだけ対処していればいい、という状況でもない」


 先ほどまで行われていたのが新たな軍勢への対処方法。


 当初の予定では、集められるだけ戦力を集めてからアンデッドの軍勢へ対処するつもりでいた。

 だが、その時になっては新たに南東側で生まれたアンデッドの軍勢に対処しても手遅れになってしまうかもしれない。


 だから、早急に南側の軍勢に対処し、南東側の軍勢に対処する事が決まった。


「その場合は犠牲が出ることになりますが……」


 通常の軍事行動なら犠牲が出る事も考慮に入れなければならない。


 だが、今回相手にしているのはアンデッドの軍勢。敵に倒された人々まで次に起き上がった時には、味方だった者が敵になっている。

 犠牲は最小限に抑えなければならなかった。


 その為に集められるだけの戦力を集めて生き残る事を優先させるつもりでいた。


「だが、状況を考えるとそんな事を言っている暇がない」


 アンデッドの生まれる原因が分からない。

 そんな状況で新たな軍勢が生まれてしまった以上、他の軍勢が生まれるかもしれない可能性があった。

 為政者である以上、常に最悪の事態を想定して動く必要がある。


「分かりました……」


 ミシュリナさんがギルバートさんの決定に渋々ながら引き下がる。

 彼女としては軍勢への対処をお願いしている立場として純粋な想いから可能な限り犠牲者の数を減らしたかった。


「あの……」


 話を聞いていたイリスが手を上げる。


「軍勢、と言っていますがどの程度の数がいるのでしょうか?」

「アンデッドは今も数を増やし続けている。最後に確認した時でも南側から来るのは約1200、南東側から来るのは約200だ」


 かなりの犠牲者が出てしまっている。

 これ以上の犠牲者を出さない為には現状の解決と原因の究明が必要だ。


「その数なら問題ありません。自由行動が許されている私たちが南東側から来る軍勢に対処します」


目立ちたくないといいながら事態が予想以上に深刻なので目立たなくてはならなくなってしまう。

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