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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第17章 亡霊行進
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第5話 聖珠のレプリカ

「『聖珠』の役割は今も土地の浄化を続ける事です」


 不浄な土地の浄化。

 使い道としては王都にある迷宮に似ているが、王都の迷宮はリソースのほぼ全てを浄化に費やす事で王都と周辺までの浄化にどうにか成功していた。元々、浄化を目的とした施設ではないので、都市一つ分が精一杯だった。


 だが、『聖珠』は迷宮以上に広い範囲をカバーできる。

 なにせ『聖珠』一つで国の浄化を行っている。


 イシュガリア公国は、島国であるため王国ほど広大という訳でもなかったが、王都規模の都市がいくつもあるため王都の迷宮とは比べようもなかった。


「そして、土地を浄化した際に周囲から瘴気を含んだエネルギーを吸い取り、浄化させた際には大地に純粋なエネルギーだけが還元される事になっているのですが、その時に大量の瘴気も得る事になります」


 問題なのは瘴気の処理方法。

 さすがにそのまま放置するわけにもいかず『聖珠』の用いた手段が別の入れ物に瘴気を集めて保存しておくという方法。


 その入れ物がレプリカであり、目の前のテーブルに置かれていた。


「大丈夫なのか?」


 俺が問題にしているのが瘴気の塊という点だ。


 魔力以外のエネルギーでも【魔力変換】を行えば魔力に変換される事は、神樹の実で確認済みだ。


 ただ、神気と瘴気を同じように考えていいものなのか?

 どうなるのかは実際に【魔力変換】してみなければ分からない。


「問題ない。瘴気でも【魔力変換】は有効だ」

「リオ?」


 この場には俺と同じように【魔力変換】の行使が可能な者がもう一人いる。

 そもそも既にミシュリナさんと知己であったリオなら瘴気を対象に【魔力変換】を行っていてもおかしくない。


「リオ様には皇帝になる前……迷宮主になったばかりの頃に接触して難しい依頼を受けて頂いた際に報酬として『聖珠』のレプリカを渡しております」


 既に実績があるなら報酬としての価値があるのは間違いない。


「よく引き受けたな」


 報酬に魅力は感じ始めている。

 だが、依頼の内容が危険なため承諾を躊躇している。

 それに初対面の相手から依頼が齎されているとあって警戒していた。


「俺も最初に会った時は胡散臭かった」

「胡散臭いって……」


 リオの評価にミシュリナさんが落ち込んでいる。


 見た目だけなら清楚なお姉さんなので困っている姿を見ていると引き受けて助けたい気持ちにさせられる。


「だけど、その時は迷宮主になってから3日目の日だったんだ」


 本当に迷宮主になったばかりの頃だった。

 俺の場合、その頃なら自分に何ができるのか少しずつ確認していた頃だったので俺なら危険な依頼は引き受けようとしない。


 だが、俺とリオでは致命的な違いがあった。

 眷属の存在だ。


 迷宮主になった段階でパーティを組んでいたメンバー全員を眷属にする事は決めていたが、3日目では全員を眷属にするだけで精一杯だったため強化が間に合っていなかった。


 自分以上に迷宮について知る相手。

 不測の事態が起こってしまった事を考えると敵対するのは得策ではなかったため一時的にでも協力するしかなかった。


 俺も可能なら敵対したくはない。

 これ以上、敵対している人物を増やしたくなかった。


「いいでしょう。依頼を引き受けます」

「ありがとうございます」


 ミシュリナさんとクラウディアさんが頭を下げる。

 こちらも隠しておきたい情報を知られてしまって弱味を握られているような状況なため協力するしかない。


 ただし、報酬以外にも条件を付け加えさせてもらう。


「依頼の成功・失敗に関わらず俺が迷宮主である事は永久に黙って頂きたい」


 これだけは絶対に譲れない。

 むしろ承諾されないようなら口封じの為にアンデッドの大軍と一緒にイシュガリア公国を滅ぼす側に回らせてもらう。


「かしこまりました……ですから、そのような危険な事を考えるのは絶対に止めて下さい」


 承諾されなかった時にどんな行動に出るのか予測できたミシュリナさんが頬を引き攣らせていた。

 実際、それが可能なだけの力を持っている事を知っているからこそ全力で回避しようとしている。


「それから依頼の内容はアンデッドの殲滅でよろしいですよね」

「はい。今はアンデッドの軍勢が国内を跋扈しているせいで正確な位置が分かりませんが、聖女には『聖珠』の位置を正確に知る事ができる力があります。その力で今は国内のどこかにあるところまでははっきりしていますので、アンデッドの軍勢さえどうにかして貰えれば『聖珠』については私の方で探します」


 ここで消息不明の『聖珠』までどうにかして欲しいと頼まれた場合には面倒な事になるところだった。

 これでアンデッド退治に集中できる。


「倒したアンデッドの魔石については?」

「全て討伐した者にお譲りする事になっています」


 随分と気前のいい話だった。


「実は、強制依頼で集めた冒険者たちにも強制依頼の報酬だけでなく、討伐した魔物の魔石を譲る、という同じ条件で集めています。ですので冒険者として参加されるマルスさんが気にする必要はありません」


 と、クラウディアさんが説明してくれる。


 俺たちは、表向きはあくまでも割のいい報酬に釣られて討伐に参加した冒険者で構わない。

 それなら人目のあるところではAランク冒険者程度に抑えるだけでいい。


 報酬については問題なさそうだ。


「私たちは他の冒険者と一緒に行動する事になるのですか?」


 メリッサに目線を向けると疑問を発していた。


「はい。今回の依頼は強制依頼とはいえ、実力が不足している者を連れて行ってしまいますと足手纏いどころか敵の戦力を増強する事に繋がりかねないので最低でもCランク以上の冒険者でなければ参加できない事になっています。さらに犠牲を少しでも減らす為に国内では名高いSランクの冒険者が指揮を執ることになっています」


 少数精鋭の冒険者を当てて犠牲を最小限に抑えてアンデッドの軍勢を抑える。

 現状を考えれば最も望ましい結果。


 だが、その場合の問題点は明確だ。


「私たちも一緒に行動するのですか?」


 【迷宮操作】や【全属性適応】。

 通常ならばあり得ないようなスキルもあるので目立たないように行動したい。

 そのため団体行動は避けたかった。


「さすがに外国から来ていただいた方々の行動まで縛るのは難しいです」


 強制依頼の対象になっているのはイシュガリア公国内にある冒険者ギルドを拠点に活動している冒険者のみ。

 外国から来ている冒険者は強制依頼の対象にはならないので自由が許可されている。


「ただし、あまりいい顔はされないので注意して下さい」


 元々が個性的な人物である冒険者が集まっているためパーティ以上の集団行動には向かない。

 そんな人たちからして見れば自由に動き回っているところは好ましくない。


「分かりました」


 とにかく自由行動は許されているが、自重しなければならない事は分かった。

 それぐらいなら問題なさそうだ。


「他に質問が無ければ早速向かってもよろしいでしょうか?」

「それはいいんですけど、どうやって行くんですか?」


 シルビアが首を傾げている。


 イシュガリア公国がどれほど離れた場所にあるのか分からないが、かなりの距離を移動しなければ海まで辿り着かないことぐらいは俺も知っている。

 さらに、港から船に乗って何日も揺られてしまう可能性だってある。


 その場合は次の大攻勢に間に合わない可能性だってあった。


「安心して下さい。聖女である私はイシュガリア公国へ一瞬で行くことができます」


 俺たちの【転移】と同じように拠点としている場所へ空間転移する事ができるらしい。

 それなら移動時間は短縮される。


 収納リングや道具箱の中には何日も過ごせる水や食料、消耗品が入っているので遠征に関して準備する物もない。

 ミシュリナさんの要請に頷く。


「今回は優秀な冒険者を紹介して頂いてありがとうございました」


 リオに頭を下げると俺たちの方を向いて両手を差し出してくる。

 彼女の右肩にはクラウディアさんが手を置いていた。

 迷宮魔法の【転移】と同様に誰かと一緒に移動する為には触れている必要があるみたいだ。


 早速、ミシュリナさんの手を握ろうとするがメリッサとイリスが咄嗟に彼女の手を両方とも掴んでしまう。


「えっと……」


 ミシュリナさんもこの反応には戸惑っていた。

 どうやら俺が身内以外の女性と手を繋ぐことが許容できないらしい。


「あと女の勘ね」

「そういう訳です」

「あれ?」


 俺の両手をアイラとシルビアが掴んでいた。

 彼女たちの反対側の手はメリッサとイリスの体を掴んでいた。


「……これでも移動は可能なので問題ないんですけど」

「よろしくお願いします」


 少々微妙な空気になりながらイシュガリア公国へ転移する。


「うっ……」


 転移による視界の急激な変化。

 自分たちの転移で慣れていたので視界の変化は問題なかったのだが、すぐに襲い掛かって来た鼻を突くような異臭に思わず顔を歪ませてしまった。


 アンデッドの放つ死臭にイシュガリア公国は満ち始めていた。


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最悪、アンデットの魔石は確保できるし成功報酬もおいしいお仕事だー
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