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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第17章 亡霊行進
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第4話 イシュガリア公国の現状

「問題、というのは?」


 具体的な事が分からなければ依頼の可否を述べる事すらできない。


「では、こちらをご覧ください」


 ミシュリナさんが手を翳すと部屋の中央にあったテーブルの上に立体の映像が映し出される。

 手で触ろうとしてみると擦り抜けてしまったので幻影の類だろう。


「この映像は、私の使い魔が現在見ている光景をそのまま映し出した物です」


 使い魔は鳥か何かなのか上空から俯瞰している映像だった。


「うっ……」


 映像を見たメリッサが手で口を押さえて呻いていた。

 そこに映し出されたのは動く死体と化した人々が小さな村にいた人々の肉を貪り尽くしているところだった。

 生きたまま死んだ人間に喰われて行く人々は、苦痛に晒されながらも簡単に死ぬ事もできず、同じ人間に食べられるという嫌悪感から空へ向かって必死に手を伸ばして助けを求めていた。


 だが、食べられている人々を良く見てみると老人ばかりで、伸ばしている手もどこか弱々しかった。


「どうやら間に合ったみたいです」

「間に合った? これが!?」


 何十人もの人がアンデッドに食べられる。

 この状況を間に合ったと言えるクラウディアさんの神経が信じられなかった。


「死人の軍勢は既に巨大な物へとなっています。ミシュリナ様の魔法で見せられる範囲以外にも多くのアンデッドが蔓延っています。既に軍ではどうにもならないレベルの被害です」


 イシュガリア公国にも軍隊は存在する。

 しかし、周囲を海に囲まれているため戦争の経験も少なく残された練度の低い軍人では犠牲を出しながらどうにか時間を稼ぐだけで精一杯だった。


 今は中央寄りの街でアンデッドの軍団に対抗する為の組織を再編しているところであったためアンデッドの進路上にあった村で防衛線をするような余裕はなかった。


 幸いにしてアンデッドらしく移動速度が遅いため村の住人の一部を逃がす事にしていた。彼らも命が惜しい。


 それでも村に居残ってしまった人々がいた。

 自力で逃げるのが難しい年寄りたちだ。年寄りたちは生まれ故郷を離れる事を拒み、アンデッドに襲われようとしている土地で死ぬ事を決意した。


 それに年寄りたちの犠牲は無駄ではない。

 生きた人間を貪る事でアンデッドの足を止めている。

 この間に逃げた人々は少しでも中央の方へ向かおうと必死に足を走らせている状態だった。


「村の様子を見る限り、犠牲になった人々は老人ばかりです。こちらへ向かう前にギルバート様が考案された計画の一つでした」


 ギルバートというのがミシュリナさんの兄にして次期大公の名前だとミシュリナさんから紹介された。


 少しでも多くの人を生かす為に逃げるのが難しい老人を犠牲にした。

 人によっては非難するかもしれないが、異常事態にあって為政者は時に非情な判断もしなければならなかった。


 リオも次期大公の決断には納得していた。


「この状況が盗まれた結果、発生した問題ですか?」

「そうです。初めて確認されたのは10日前。海岸線に近い場所にある村で人々が次々に衰弱死するという謎の現象が発生しました。調査をしましたが、原因は未だに不明。そのうえ埋葬しようとしていたはずの人々が……」


 死んでいたはずの人々が急に動き始めた。

 あまりに亡くなった人が多すぎた為に近隣の村から人を徴集しても埋葬が追い付いていなかった。おまけに多くの人が怪死を遂げた場所での作業だったため募集をしても簡単に集まらなかったため作業が開始されたのは最初の死者が出てから3日後の事だった。


 そのせいで、ほとんどの死者が埋められずに外へと歩き出してしまった。


「現在の状況を説明します」


 村の様子を映し出していた映像が消え、円形の島を上から見下ろした映像が映し出される。

 島の南側が赤く光る。


「イシュガリア公国の南側で発生した異常は既にイシャウッド領まで半分の所まで到達しています。このままだと1週間以内には到達すると思われます」

「軍は何かしていないのですか?」


 メリッサの質問にミシュリナさんが首を横に振る。


「イシュガリア公国軍は事態を解決する為5日前に出撃しましたが……」

「帰って来なかったのですか?」

「はい。全軍の1割近い損失を出してしまいました」


 軍に1割もの損害が出てしまったのなら1度は撤退させて何らかの対策を考えなければならないところだ。


 だが、状況はそこまで易しくなかった。


「押し寄せる大量の死人をどうにかする為に向かい、死んで行った者まで翌日には死人の軍勢の仲間入りをしていました」


 撤退する事になっても放置していい訳ではない。

 せめて動向を監視する必要があり、数日監視していた人が見つけたのは自分と同じ軍服を身に纏った者が死人となって軍勢の中に紛れ込んでいる光景だった。


 同僚が死人の仲間入りをしている。

 しかも目の前から迫って来るのは万を超える軍勢。


 とても正気を保っていられなかった監視は、その場から全力で逃げ出してしまった。


「死人の軍勢に対しては力のない兵士を連れて行ったところで足手纏いになるだけです」


 もしも、殺されてしまえばこちらの人数が減るだけでなく向こうの人数が増える事になる。

 足手纏い以上に厄介な存在だ。


「イシュガリア公国は、この異常事態に対して国内を拠点にしている優秀な冒険者を招集。強制依頼も発動させて依頼に参加してもらう事にしました。私がこの場を訪れたのも似たような理由です」


 この部屋にはグレンヴァルガ帝国を拠点に活動していた優秀な冒険者だった(・・・)男がいる。

 ミシュリナさんの話をここまで聞けば俺にも用件は分かる。


「つまり、リオにも異常事態の対処へ参加してもらえないかと?」

「そのつもりでやって来たのですが……」

「無理なものは無理だ」


 帝国の皇帝になろうとしている者が危険な場所へ簡単に赴ける訳がない。

 隣国の皇帝として戦地の近くまで赴く事ぐらいならできるかもしれないが、それはリオの戦闘能力に期待している彼女の本意ではないだろう。

 皇帝となった今では冒険者として活動するのも難しくなった。


「帝国としても所詮は海の向こうにある島国での異変だ。これが海を越えて帝国にまで影響を及ぼすようなら人を向かわせるところだが、相手がアンデッドならそこまで気にする必要もない」


 アンデッドはなぜか流水を苦手としていた。

 浅瀬ぐらいなら渡れるかもしれないが、海を渡れるほどではない。


「そういう訳で船を使っての上陸も今後は許可できないものと思ってくれ」


 万が一にでも帰って来た船にアンデッドが紛れ込んでいた場合には、帝国にまで異常を招き入れてしまう事に成り兼ねない。


 リオの決断に対してミシュリナさんが睨み付ける。

 しかし、本人が申告したように戦闘能力がないらしく迫力に欠けていた。


「そう睨むな。代わりに俺の知っている冒険者の中で最も強い奴を紹介してやったんだから」


 それが俺だった。

 随分と評価されているみたいだったが、厄介な気配しかしない話を持ち掛けられた身としては勘弁して欲しいところだった。


「……報酬は?」


 それでも報酬次第では引き受けていいと思えた。

 と言うよりも頭の中で煩い。


『この依頼は絶対に受けようよ。アンデッドの大軍だよ。大量のアンデッドから魔石を奪えた時には大量の魔石が手に入る事になるんだよ。迷宮の力を増強させる為にも受けておこうよ』


 既に受ける気満々の迷宮核(ダンジョンコア)が煩かった。


 たしかに迷宮核が言うように大量の魔石が手に入るのは魅力的だった。しかも、アンデッドの魔石は肉体が活動に向かないため他の魔物よりも魔石の純度が高い。

 魔力を求めている俺たちにとっては得な話だ。


「こちらからは成功報酬としてこれを提供します」


 ミシュリナさんが自分のバッグから水晶を取り出した。

 テーブルの上に置かれた水晶の中では虹色の光が唸っていた。


「みなさんでは【鑑定】が使えないから分かり辛いかもしれませんが、これを迷宮に与えた時には10億以上の魔力が手に入る事を約束します」


 ……は?

 魔力で10億という事は『神樹の実』と同等の価値があると思っていい代物という事だ。


「これは、私の受け継いだ神の遺産『聖珠』が生み出したレプリカです」


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