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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第3章 報復計画
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第8話 デイトン村

 朝早く。デイトン村へ向けてアリスターの街から2台の馬車が走っていた。


 1台は、デイトン村が所有する荷馬車で村長たちが乗ってきた物だ。その馬車には村長と兵士長が乗り、御者は村から付いて来た村人が行っていた。


 もう1台は、俺が伯爵にお願いして用意してもらった物で、かなり大きめに作られているので中に6人が乗っても余裕があった。御者については、俺でもできたが、いざという時に動けるように冒険者を雇っていた。

 乗っている人物は俺以外に、ギルドから随伴員としてルーティさん。騎士が二人。と言っても二人の騎士の内一人は兄だ。


 それから――


「なあ、どうして母さんやクリスを連れて来たんだ?」


 同じ馬車に乗っていた兄がもっともな疑問を投げかける。


「伯爵様からデイトン村の状況は聞いているから危険だっていうことは俺たち騎士の全員が知っている。俺たちは言わば状況の確認だ。逼迫した状態なら早馬を出して伯爵様に事情を説明しに行く必要があるからな」


 馬車の傍には馬に乗った騎士がおり、魔物が現れた時に備えてくれていた。


 騎士が3人いるが、戦いに行くわけではない。

 ルーティさんもギルドから派遣された監視員。


 実質的に魔物と戦うことになるのは俺一人だ。


 兄は、俺が向かうというのにデイトン村は助からないと考えていた。


「大丈夫。2人を危険な目には遭わせませんよ。2人には依頼を終えた後で話があるので同行してもらっただけですから」

「話?」


 2人だけでなく、兄にもあるのだが、ここで言うわけにはいかない。


「それで、改めて確認させていただきますが、魔物にはどのように当たるつもりですか? 相手は1000匹近い魔物の大群です。真っ当な方法では1人で討伐することはできませんよ」


 それが常識なのだろう。


 しかし……


「特に準備なんてしていないですし、真正面から当たるだけですよ」

「……それでは、ギルドで言っていたことと矛盾しますよ」


 ああ、村長たちを納得させる為に言ったセリフか。


「作戦らしい作戦なんて用意していません。ま、見ていれば分かりますよ」


 数時間も馬車に揺らされていると、デイトン村が遠くに見えてきた。


「あれが、デイトン村ですか」


 初めて訪れるルーティさんが呟く。


 母と妹は、少しばかり懐かしい思い出に浸っているようだが、俺には既に歯軋りしたくなるほどの忌々しい想いしかない。本音を言えば、魔物に滅ぼされてしまえばいいと考えていた。しかし、それでは生温い。


 ちょっと気になることがあったので前の方まで移動する。


「さて、あれについてはどうするか?」

「あれ?」


 騎士や家族には見えていないようだが、デイトン村の入り口前にフォレストウルフが3匹おり、2人の門番が相対していたが、完全に怯えてしまい腰が引けて苦戦していた。


「兵士の対応を見る限りマズそうですね」


 そう、全く対応できていなかった。

 それをいつの間にか俺の隣まで移動して、しっかりと把握できているルーティさんはやはり只者ではないらしい。


「おい、何があったんだ!?」


 後ろを走る馬車から村長の声が飛んできた。

 振り返ると、御者台まで村長が出て来ていた。どうやら馬車の前の方まで出て遠くの方を見ている俺たちを不審に思ったらしい。


「村がフォレストウルフ3匹に襲われている」

「なんだと!? だったらさっさと助けに行かんか!」


 ま、村長との契約内容は村を襲う魔物の討滅であるから、森に大発生した魔物でなくても退治しなくてはならない。


「というわけで、ちょっと先行して退治してくるんで家族の護衛をお願いします」

「いや、俺たちには何が起こっているのか遠すぎて見えないんだが……馬車が村に辿り着くまでまだ時間が掛かるぞ」

「ああ、それは大丈夫」


 馬車から飛び降りると装備している靴の能力で空中を2度蹴って減速させて着地すると、一気に加速して村まで近付く。


 走りながら両手をフォレストウルフへと向ける。


「サンダーランス」


 両手から放たれた2本の電撃の槍がフォレストウルフの体を貫き、一撃で感電死させる。


「え……?」


 2人の兵士が呆然としていた。


 彼らにとっては1人では勝てない強力な魔物だったフォレストウルフが一瞬の内に倒されてしまったのだから戸惑いもしてしまうか。


「久しぶりですね。2人とも」


 村の門に近付くと門番の2人もフォレストウルフを倒した俺の存在に気付いたらしい。


「冒険者の方ですか? 危ないところを助けてくれてありがとうございます」


 2人とも頭を下げて感謝を述べてきた。

 本当に俺だと気付いていないらしい。


「あ~、俺マルスなんだけど」

「マルス? え、だって……」


 ギルドで会った時の村長と同じで俺だと気付かなかったらしい。


 しかし、何度も俺の顔を見直している内に3カ月前に村を出て行った俺の顔と重なったらしい。


「おまえ、冒険者なんてしていたのか?」

「まあ、な……」


 相手は3歳年上の兄貴分みたいな存在で、よく遊んでもらった記憶もあるので俺がこれからしようとしていることを考えると目を合わせ辛い。


「そうか、今村が大変な状況なんだ。村長が街に冒険者を呼びに行っているから、その人たちと一緒に……」

「悪いけど、その冒険者が俺だ。村長たちなら直に来るから話を聞くといいよ」


 街道の先を示すと彼らの目からも馬車が近付いてきていることが分かった。


「分かった。責任者たちを呼んでくるからちょっと待っててくれ」


 1人が村の中へと消え、もう1人が残っていた。

 特に話す内容もないので意識を森の方へと向けると、


(そろそろ動き出しそうだな)


 森の奥にいた魔物が入り口の方へと移動を始めていた。


 今も使い魔の鷲が高い木に止まって魔物の軍勢を監視しているので、軍勢の動きが手に取るように分かる。


 十数分も待っていると村の名士であるランドがやって来た。


「お前が冒険者をやっていたのは驚きだな」


 挨拶もなしに不躾な言葉をぶつけてきたので無視することにした。


「おい、無視をするんじゃない!? 村長たちはどうした! それに他の冒険者はどこにいるんだ!?」


 煩いので視線だけで街道の先を見るように促すと2台の馬車が見えた。


 さらに数分待って馬車が到着した。


「村長、冒険者を連れて来たんだな」

「あ、ああ……」


 名士の言葉に村長が気まずそうな声を発した。


 期待していた街の兵力は借り受けることができず、連れてくることが出来た冒険者も俺1人という状況だ。


 もう1台の馬車から下りてきた騎士やギルド職員の姿を見て青ざめていた。


「まさか、マルスみたいな冒険者1人と騎士3人に任せるつもりなのか?」

「これしか連れてくることができなかったんだ」

「何を考えているんだ。相手は数百匹の魔物なんだぞ」

「分かっている」

「いや、分かっていない。そんな数を相手にするのにたった4人で足りるはずが……」


 あまりにしつこく詰め寄ってくるため村長が名士を連れて隅の方へと移動してしまった。

 おそらく街であったことの経緯を説明しているのだろう。説明を聞いた名士は、頭をガリガリと掻きながら村長に怒鳴っていた。それでも、最後に何か耳打ちするとニヤニヤとした笑みを浮かべ始めた。俺が失敗した時の事でも話をしたのかな?


「村長、約束通り魔物が動き出したら俺も動くから、しばらくは俺たちが昔住んでいた家を使っていいんだよな」

「ああ」


 事前に確認を取っており、俺たちが住んでいた家はそのまま残されている。

 そこで一先ず休憩させてもらうことにしよう。




 ☆ ☆ ☆




 家の中に入ると、数カ月間放置されていたせいで埃が溜まっていたので母と妹に掃除を頼んで、俺たちは外で待機していた。


 すると、2人の男女が近付いてきた。

 年頃は俺とほとんど変わらない2人。


「どうして、お前みたいな追い出された奴がこの村にいるんだ?」

「そうよね」


 相手は、村長の娘カレンと1歳年上の少年リュー。リューは、俺たちの世代の間ではガキ大将のような存在だった奴だ。


「村に魔物の大群が押し寄せようとしているから冒険者として依頼を受けて救援に来たんだよ」

「お前が、冒険者? ハハッ、冗談も休み休み言えよ」


 別に構ってやる必要もなかったが、あまりに煩かったので証明として収納リングから契約書を取り出す。

 因みに契約書は俺が預かっている。収納リングがあれば紛失も破損も心配する必要がないからだ。


 突然現れた紙に驚いている間にルーティさんが詳しく説明してくれる。


「この村の近くにある森に魔物が大発生しました。近い内に村へ押し寄せてくることは確実なので、こちらにいるマルス君が討伐依頼を受けました」

「近い内、というか明日だな。俺たちの到着が間に合って良かったな。間に合わなければ全員死んでいたぞ」


 既に夕方になっており、森の入り口の方へと移動していた魔物も入り口で止まっているので今日襲い掛かってくることはないだろう。


 しかし、2人とものんびりしすぎである。どうやら魔物が大発生したことは伝えられていないらしい。


「嘘を吐くな! そんな話、村長から聞いていないぞ」

「だったら確認してくればいいだろ」

「クソッ」


 2人で村長のもとへと急いでいた。


「あの2人は?」

「村長の娘とその彼氏かな。このまま順当に行けば次期村長になる予定の人物ですよ」


 ガキ大将のように暴力で同世代をねじ伏せ、力を増していったのがあの男だ。

 村長の娘であるカレンと結婚すれば村長の地位を継ぐのは間違いない。


「ま、こんな状況になってしまった時点で順当ではないんですけどね」


 村の様子を眺めている間に家の掃除がある程度終わったらしく、呼ばれたので夕食を準備する為に家の中へと入る。調理は2人に任せることになるが、食材などについては俺の収納リングに入っているので俺の協力が必要なのだ。


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