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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第17章 亡霊行進
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第3話 聖女登場

 帝城にある客室の一つ。

 ソニアの【転移】で騒ぎにならないよう目立たない帝城の庭に降り立つと正面入口へと回り、たまたま近くを通り掛かったメイドに目的の人物がどの部屋にいるのか確認するよう指示を出していた。


 しばらくすると別のメイドと一緒に現れ、俺たちを案内する。

 帝城へと戻って来た瞬間に眷属の誰かに念話で連絡を取っていたので事前に指示が伝わっていたらしい。


 城に勤められるのはメイドとはいえ優秀な人物でなければならない。

 そんな人物に慣れた様子で指示を出している姿を見ていると幼い容姿に反して本当に皇帝の側室なんだ、と思わせられるだけの威厳が僅かながらにあった。


 メイドがある客室の前で足を止める。


「そう言えば誰に会うんだ?」


 到着するまでの時間が短すぎた。

 事前に会う人物の確認すら行っていなかった。


「イシュガリア公国の『聖女』様」

「聖女……?」


 女性の事だというのは分かるのだが、俺は聞いた事のない名前だった。

 シルビアとアイラの反応を見てみると二人も同様だ。

 だが、冒険者として活躍していたイリスや他国でも主要な人物に詳しいメリッサは知っていたらしい。


 客室の中へ入る。

 中には長い黒髪を腰辺りまで伸ばした白い法衣を着た女性がソファに座って紅茶を飲んでいた。

 その所作は優雅で品の良さが伺える。


 黒髪の女性の隣には金髪の黒い法衣を着た女性が座っていた。

 その対面ではリオが座っており、金髪の女性とリオが何かを話し合っていた。


「来てくれたか」


 客室に入って来た事にリオが気付いた。

 すぐに黒髪の女性も立ち上がり、話をしていた金髪の女性も立ち上がって俺たちに頭を下げて来る。


「初めましてマルス様。私は帝国の南にあるイシュガリア公国で『聖女』を務めております。ミシュリナ・イシャウッドと申します」

「私はミシュリナ様の付き人をしているクラウディアと申します」


 黒髪の女性がミシュリナさん。

 金髪の女性がクラウディアさん。


 二人とも聖職者らしく落ち着いた挨拶だった。


 それよりも気になるのはミシュリナさんが俺の名前を知っていた事だ。


「貴方の事はリオ様から伺っております」

「人の事を勝手に話したのか?」


 お互いに同じ秘密を抱えている者同士で不用意に紹介などしたりしないはずだと思っていた。

 だが、リオは勝手に俺の事を紹介してしまっていた。


「そう言うな。儲け話に噛ませてやろうっていう話なんだから」

「儲け話?」


 そういう事なら聞かなければならない。


 リオの隣に俺が座り、メリッサとイリスが横にあったソファに座っていた。アイラはいつの間にか護衛のように俺の後ろに立っていた。

 メイドが新たに客室へ入って来た俺たちの為に紅茶を淹れてくれた。


「ありが……」


 礼を言おうとしたら紅茶を淹れてくれたメイドはシルビアだった。

 着替えてはいないが、収納リングから給仕に必要な道具一式を取り出して近くに待機していた。

 いつの間に用意したのか全く気付かなかった。


「あの……彼女も眷属(サーヴァント)ですよね?」

「……!」


 ミシュリナさんの確認に思わず動揺してしまった。


 彼女は明確に『迷宮眷属(ダンジョンサーヴァント)』と言っていた。

 もう――迷宮(ダンジョン)の関係者、もしくは迷宮主(ダンジョンマスター)などについて知っている者である事は明白だ。


「シルビアは俺の眷属ですけど、同時に俺のメイドでもあるんです」


 眷属である彼女たちには、やりたいようにさせているので納得してもらうしかない。


「分かりました」


 ミシュリナさんもどうにか納得してもらえた。


 その間に【鑑定】を使用させてもらう。

 向こうが先に【鑑定】したのだから、こちらも行っても咎められないはずだ。


 ところが、何度【鑑定】をやり直しても情報が表示されず成功しない。


「無駄だ。彼女は迷宮主じゃない」

「じゃあ……」

「その前に皆さんはイシュガリア公国についてどれだけ知っていますか?」


 俺は全く聞き覚えのない名前だ。

 そもそも隣国のグレンヴァルガ帝国すら戦争があった時に名前を聞くぐらいの認識しかなかった。他の国の名前など辺境にある小さな村に住んでいる者にとっては興味の対象にすらならない。


「イシュガリア公国は、グレンヴァルガ帝国の南にある海を渡った先にある大きな島国です」


 いつものように博識なメリッサが知らないメンバーの為に教えてくれる。


 円形の島国であるイシュガリア公国は、中央の領地を治めるイシャウッド大公家を頂点に他の東西南北の領地を治める貴族がイシャウッド大公家を支えて政治を執り行う大国だった。


「イシャウッドっていう事は……」

「はい。私はイシュガリア公国の代表を代々務めておりますイシャウッド家の長女になります」


 ミシュリナさんには兄がいるらしく、長女だったので領主ではなく『聖女』を継承した彼女には、血縁断絶のような余程の事情がなければイシャウッド家の継承権が戻って来るような事はない。


「イシュガリア公国は周囲を海に囲まれて自然豊かな国なので農業や漁業を中心に栄えて参りました」


 しかし、そんな土地も大災害があった頃には人が住めるような土地ではなかったらしい。

 大災害によって周囲の海は荒れ狂い、島の中に閉じ込められる形になってしまった人々は次第に追い詰められて餓死するようになった。

 亡くなる時には空腹で何も感じられなかった。


 そんな状態だったからこそ死後は生にしがみ付いてしまった。

 自然豊かな場所だったイシュガリア公国となる場所は、アンデッドと化した死人が闊歩する場所と成り果ててしまった。


「そんな話は聞いた事がありません」

「はい。他国の人には知られるような話ではありません」


 農業が盛んな土地がかつては死人が闊歩する土地だった。

 自然、イシュガリア公国で作られた農作物の安全性を気にする人が出て来て、農作物の出荷に影響を及ぼし、経済が破綻する可能性があった。


 為政者として、そんな事態を看過できるはずがなかった。


「私たちのような者に教えてしまってよろしいのですか?」


 俺たちが噂するだけで悪影響を及ぼす可能性がある。

 万全を期すなら教えない方がいい。


「貴方方はイシュガリア公国にとって不利益となる情報を言い触らさないと自信を持って言えます」


 ミシュリナさんの言葉を聞いた瞬間、俺ではなくリオが舌打ちをしていた。


「だから、お前は嫌いなんだよ」

「必要な事です」

「国としては必要な事かもしれないが、『聖女』としては悪いイメージを与える事になるぞ」


 俺もリオの言いたい事が分かった。

 イシュガリア公国にとって不利になる事を言い触らせば俺たちの正体について言い触らすつもりなんだ。


「それから?」

「全てのアンデッドはイシャウッド大公家が所有している魔法道具『聖珠』によって浄化され、現在も土地は浄化され続けていました」


 一時の使用だけでは根本的な解決にはならなかった。

 何らかの理由により常に穢れ続けるようになってしまった土地――それがイシュガリア公国だった。


「国を存続させるうえで欠かせない『聖珠』。その管理を任されているのがイシャウッド家だったため我が家は代々国の政に携わる事ができました」


 管理を行っているのはイシャウッド家の者だが、領主が行っている訳ではない。

 『聖珠』の管理を行い、同時に『聖珠』の力を行使する事ができるのが『聖女』の役目だった。


「もう、『聖珠』が何なのかお分かりですね?」

「ああ……」


 大災害時に避難場所として用意された『迷宮』、汚染された環境を浄化する為に植えられた『神樹』と役割を同じくする物。

 穢れてしまった土地を浄化する為の道具。


「聖女である私には戦闘能力はほとんどありません。その代わりに様々な事ができるようになっています」


 中でも俺やリオに対して効果的だったのが『神託』。

 同じように『神の遺産』を引き継いだ者を探知する力に長け、こうして相対してしまえばステータスを覗く事ができるようになる。


 だからこそリオからの情報がなかったとしてもミシュリナさんは俺の名前だけでなく詳しいステータスまで知る事ができた。


「それで、用件は?」

「イシャウッド領の中心にある神殿に安置していた『聖珠』が盗まれてしまいました。貴方たちには盗まれてしまった結果、発生してしまった問題の解決をお願いしたいのです」


 どうやら【転移】が使えても年末までに帰られるのか分からなくなって来た。


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最近の仕事は全く報酬が釣り合ってないように感じる 情報も漏らしていいかは主人公が決めることであって皇帝が決めて良いことじゃないし とてもじゃないけど友好関係で仲良しで行ける要素がない
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