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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第17章 亡霊行進
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第1話 冬の蜘蛛

「初めまして、私オットナーという者です」


 帝都でのオークションが終了してから6日後。

 王国とは反対側である帝国の東側にあるアメント伯爵領にある都市へと辿り着いていた。


 依頼内容は開発地に居座る魔物の討伐。

 魔物がきちんと討伐されたのか確認する為の人が必要になる。

 そんな危険な依頼に伯爵本人が付いて行く訳がなく、ガランドさんの近くで内政を担当していた人物が付いて来る事になった。

 彼には本当に戦闘能力がないので、可能なら付いて来て欲しくないのだが俺たちの方から断る事はできない。


「みなさんの仕事内容には私の護衛も含まれています。しっかりと守って下さい」


 かなり価値のある物を譲ってもらう事になっているので依頼主からそのように言われては断れない。

 結局オットナーさんと一緒に馬車でアメント伯爵領の北部へと移動する。


「長閑な所ですね」


 馬車の中から見える景色を眺めながらイリスが呟く。

 アリスターでの狩り3日間は順調に終え、討伐した魔物の肉は道具箱(アイテムボックス)の中に回収されている。


 調理担当であるシルビアが俺の護衛の為にこちらにいるので、全員で落ち着いてアリスターへ帰ってから調理する事になっているのでイリスはまだ食べていない。


「長閑、と言うよりも何もない場所ですね」


 これから開拓が行われようとしている地域なので小さな町が端にあるだけなので、そこで1泊してから魔物のいる場所へと向かう。


 馬車に2時間ほど揺られていると遠くからペキペキという音が聞こえる。


「なんだ?」


 不審に思いながら馬車から顔を出すと葉が枯れた木々を押し退けながら大きな魔物が移動していた。


「げっ……!」


 その姿を見た瞬間、声を漏らさずにはいられなかった。

 そう言えば、魔物について強さについて聞いてはいたが、どんな容姿をしているのか詳しい情報を集めていなかった。


「すみません。ここまでです」


 御者が馬車を停止させる。

 俺たちとオットナーさんが馬車から下りる。


「普段は森の中を徘徊しているのですが、運のいい事に森の入口近くにいてくれたようです」


 運が悪ければ魔物を探すところからしなければならなかった。


「あれが今回の討伐対象ですか?」

「そうです」


 体長5メートルほどの白い毛むくじゃらな魔物。

 討伐対象はあの魔物で間違いないみたいだ。


「あの巨大な体に雇った冒険者たちは為す術もなく敗北しました」

「たしかに大きな体ですね」


 俺の方からは『巨大』という言葉は使わない。

 一般人から見れば人間の2倍以上もあれば『巨大』と言って差し支えないかもしれないが、これまでに体長10メートルを超える魔物を何体も見て来ているせいか『巨大』とは思えなかった。


「どうやら食事中だったみたいですね」


 その魔物は、口に狼の死骸を咥えながら移動していた。

 狼の死骸は既に半分近くが貪られてなくなっており、魔物が獰猛である事が窺い知れる。


「こっちに気付いたみたいです」


 咥えていた狼をペイッと捨てると俺たちの方へ向き直る。

 貪っていた狼よりも美味しそうな餌が舞い込んで来た事で意識が向いてしまったのだろう。


 オットナーさんを守る為にも戦わなくてはならない。


「さて、戦わなくてはならなくなったけど、誰が戦う?」


 後ろにいた4人に尋ねる。

 俺と視線があった瞬間、4人の視線が一斉に逸らされる。


「やっぱり、そうなったか……」


 魔物との戦闘を女性陣が拒否するのは分かっていた。


 なぜなら……


「だって、あれ見た目は少し変わっていますけど蜘蛛ですよ」


 8本の足を動かして森の中を徘徊する魔物。

 白い毛に体中が覆われているせいで見た者にモコモコした可愛らしいイメージを抱かせるが、正面から顔を見た時の印象は間違いなく蜘蛛そのもの。


 こちらを見たせいで正面から顔を見た女性陣がサッと後ろに跳ぶ。


 全員、示し合わせた訳でもないのに一斉に動いていた。


「おい……」

「だって!」


 嫌がっても困る。


 エルフの里近くにある迷いの森に現れた巨大蜘蛛(ジャイアントスパイダー)と戦った後では巨大な蜘蛛から感じられる嫌悪感から一目散に逃げ出してしまった事で同行していたルイーズさんから説教されていた。

 その後、再び戦った時には色々な方法で抑え込んだうえで巨大蜘蛛(ジャイアントスパイダー)を討伐する事に成功していた。


 しかし、普段から嫌悪感を抑えられた訳ではない。

 明らかに討伐対象との戦闘を避けたい気でいる。


「頑張ってください!」


 挙句に他力本願で主に戦わせようとしている。


「おい、護衛はどこに行った?」

「大丈夫。危険な相手が近くにいて狙っていないかの警戒はしている」


 蜘蛛から感じられる気配から俺たちにとっては脅威ではないと判断した。

 彼女たちにしてみれば、蜘蛛よりも危険な相手がいないか警戒する方が護衛として大切だと思っているみたいだ。


「あのな……」


 ルイーズさんからも言われていたが、相手の姿が蜘蛛だからと言って戦えないようでは俺が一緒にいない状況では討伐ができなくなってしまう。


 討伐依頼の失敗は冒険者の経歴に傷が付く。

 冒険者ギルドを通して受けた場合では今後受けられる依頼に影響を及ぼしてしまうし、今回のように冒険者ギルドを通さずに貴族から直接受けた場合に失敗してしまうとガランドさんの影響がある貴族全員と問題になってしまう。


 今回の依頼では、討伐対象の魔物がどれくらいの強いのしか聞いていなかったせいで問題なく討伐できると判断して魔物の詳しい姿について確認していなかった俺にも責任がある。


 だが、そろそろ女性陣にも蜘蛛と戦えるようになって欲しい。


「相手は雑魚なんだ。蜘蛛の姿をしているぐらい気にせずに戦え!」

「あの……」


 もうこうなったら意地でも俺は戦わない。

 彼女たちに経験を積ませる意味でも今回は彼女たちに討伐してもらわなければならない。


「嫌な物は嫌なのよ」

「無理です」

「拒否します」


 アイラ、メリッサ、イリスから拒絶されてしまった。


「大丈夫です。ご主人様なら一人でもどうにかできます!」


 シルビアからは意味のない信頼を寄せられてしまった。


 そうじゃない。

 苦手意識を克服する意味でも彼女たちに討伐して欲しい。


 しかし、俺のそんな想いは一向に伝わる気配がない。


「あの……!」

「どうしました?」


 後ろから聞こえたオットナーさんの声に振り返ると蜘蛛が目の前まで迫っていて口を大きく開けて鋭い牙を俺の体に突き立てようとしていた。


 魔物からすれば背中を見せて自分に全く意識が向いていない俺は絶好の餌に見えたのだろう。


 俺が襲われるのは問題ない。

 しかし、すぐ隣にはオットナーさんもいるので巻き添えにする訳にはいかない。


「今は作戦会議中だ」


 魔物の顔を殴って吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた魔物は木を何本も薙ぎ倒しながら森の奥で止まる。


 やがて、プルプルと足を震わせながら立ち上がる。

 だが、殴られたせいで力の入らなくなった足では自分の重みに耐え切れずに崩れ落ちてしまう。まだ生きているようだが、既に虫の息だ。


「へ?」


 近くで見ていたオットナーさんが呆ける。

 これまでに雇った何人もの冒険者が何もできずに討伐を失敗した凶悪な魔物をいとも簡単に殴り飛ばして倒してしまった。


 とても目の前で繰り広げられた光景が信じられない。


「やっちまった……」


 シルビアたちに任せる予定だった魔物に致命的なダメージを与えてしまった。

 こんな状態になったら蜘蛛に慣れる訓練も何もない。


 剣を抜いて斬撃を飛ばすと魔物が両断され、左右に倒れる。


「これで、討伐完了でいいですよね?」


 一応、オットナーさんに確認すると首を何度も縦に振っていた。


 依頼主の代理人から認可して貰えたが、証拠となる蜘蛛型魔物を道具箱へ回収する。

 さすがに討伐依頼を終えて戻って来たにしては速すぎるのでガランドさんから何か言われる可能性があったので証拠品を回収する必要があった。


「では、戻りましょうか?」


 何食わぬ顔で俺の傍に寄って来たシルビア。

 他のメンバーも俺に任せた事に対して何も思っていないようだ。


「今度ルイーズさんと会った時に報告するからな」


 眷属がブーイングを起こす。

 間違いなく説教が始まることになるので避けたいのだろう。だが、反省している様子がない以上は彼女に頼るのが最も確実だ。


白蜘蛛討伐報酬

・神樹の実の欠片

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