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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第38話 スキル無効弾

イリス視点です

 変貌を遂げた怪盗。

 身長は3メートル以上になり、筋肉もはち切れんばかりに膨張している。


「うわ、気持ち悪……」


 アイラは嫌そうに眉を顰める。

 その意見には私も同調する。


 体の大きさが変貌しただけでなく、両肩から元々あった腕の上下に新たな腕が2本ずつ生えていた。口からは鋭い牙が見え、目も血走っている。

 ギリギリ人の形は保っていたものの化け物としか形容できない。


「これこそ最強の生物だ」

『おお~』


 思わず感心から4人で拍手をしてしまう。


「馬鹿にしやがって!」


 馬鹿にはしていない。


 私たちは変身を遂げた事でステータスが強化された事に感心していた。憑依中という事で相手のステータスを覗く事ができた。


 だけど、それは怪盗の望んだ反応ではない。

 彼としては化け物の威容に驚いて怯える少女の姿が見たかった。


「ひっ!」

「ば、化け物……!」


 ちょうどオークション会場から姿を現した貴族令嬢たちのように。


「クソッ、帝城へ行って精鋭を呼んで来い!」

「あんな化け物、俺たちの手に負えるような奴じゃないぞ!」


 オークション会場にいた警備兵は自分たちの手には余る相手だと悟って化け物に挑むような真似はしない。

 下手な事をして死なれても困るのでちょうどいい。


「なぜ、貴様らは怯えない……」

「どうしてって……」


 たしかにステータスも強化されている。

 あの姿は怪盗のイメージする最強の生物そのものなんだろう。


 けど、それまでだ。


「迷宮で言えば地下40~50階程度のステータス。本気で私たちが怯えるとでも思ったの?」

「きさま……!」


 巨大化した怪盗が殴り掛かって来る。

 女の子の体以上に大きくなった腕で殴られればひとたまりもない。


 私、シルビア、アイラが跳んで回避するけど、メリッサだけはその場から動かずにいた。動けなかったのではなく、動かなかった。


 彼女は魔法で地面から土壁を作り出すと化け物の腕を受け止めていた。

 化け物の攻撃を受けても壁はビクともせず、メリッサは悠然としていた。


「どうして回避しないの?」

「動き回りたくありません」

「は?」


 思わず聞き返してしまったけど、メリッサの服装を見て納得した。

 さっきまで貴族令嬢としてオークションに参加していたドレス姿のままだ。動き回るには、ちょっと難しい格好となっている。


「それでも魔法使いの私には関係がありませんけどね」


 化け物は何度も6本の腕による拳打を叩き付けて土壁を破壊しようとしているけど、メリッサが魔法で作り出した土壁が壊れる気配は一向にない。

 そこに空中に精製された氷柱が化け物の体に突き刺さる。


「クソッ!」


 化け物が痛がった様子も特に見せず氷柱を引き抜く。


「なるほど」


 随分とタフになっているみたい。

 だったら大規模な魔法で一気に倒してしまうのが手っ取り早い。


「大魔法の使用は控えて下さい」

「どうして?」

「忘れたのですか? 彼はライディヒアの葉も含めてオークションの商品を取り込んでいます」


 万が一にライディヒアの葉を紛失させてしまうと1番困ってしまうのは私たちだ。

 それに他の商品も傷付けてしまうと責任者から買い取るように言われてしまうかもしれない。


「仕方ない」


 魔法を使っていいなら全身を凍り付かせる方法でも良かったかもしれないけど、魔法が禁止されているので剣を抜く。


「そういう訳だから二人とも分かった?」

「分かった」

「問題ない」

「少し事情は変わりましたけど、当初の作戦通りに追い詰める事にします」


 まずは【迷宮結界】を解除する。

 見えない状態では逃がさないようにする為に必要だったけど、今の状態では悪手にしかならない。


「てい」


 アイラの蹴り一つで体勢を崩されて地面に倒れていた。


「倒しちゃっていいのよね?」

「皇帝の権力が強い帝国でこれだけの騒ぎを起こしたのです。極刑以外にはあり得ません」


 メリッサが言うように怪盗には極刑以外の結末はあり得なかった。

 ただし、裁判もなしに決めてしまうのは独裁以外の何物でもないので皇帝としても避けたいところだった。相手が民衆の支持を受けた義賊というのも問題だ。


 戦争で一時的な財政難に陥ってしまった帝国にとってオークションで資金を稼ぐ事は絶対に必要な事。

 それを邪魔したのだから皇帝であるリオは本気で怒っていた。


 追い詰める必要があるのは憑依している相手だけ。


 ――斬。


 化け物の足元を駆け抜けたアイラが剣を振るうと右足が根元から吹き飛ぶ。


「なんだと……!」


 最強の生物となった自分の足が斬り飛ばされた事に驚く化け物。

 その間に斬り飛ばされた足を道具箱(アイテムボックス)に回収する。


「こっちには盗まれた商品はない」

「分かった」


 私の言葉を聞いたアイラが今度は左足を斬り飛ばす。

 同じように足を回収するもののオークションの商品は含まれていなかった。


 化け物の巨大な体のどこかに盗まれた商品があって、その場所が斬り飛ばされた足なら一緒に回収されるはずだと思った。

 結局、両足のどちらにもなかった。


「テメェら……!」


 怒った化け物が立ち上がる。

 斬り飛ばされた両足は肉が盛り上がるように再生していた。


「手加減しているのか!?」

「ううん。私たちは本気でやっている」


 どうやって無傷で盗まれた商品を取り返そうか?


 本気で頭を悩ませている。


 化け物が6本の腕を2本ずつ私、アイラ、メリッサへ向ける。

 だけど、掲げたところで腕の動きが止まり、体を襲う不快感から表情が歪んでいた。


「そこまでにして」


 いつの間にか化け物の視界から姿を消していたシルビアが化け物の背後に回り込んで腕を化け物の右肩辺りに突き入れていた。

 化け物の体から手を抜いたシルビアが化け物の攻撃を回避しながらこっちへ近付いて来る。


「回収完了」


 シルビアの手には収納リングが握られていた。

 魔力を流して中にある確認させてもらうと、私たちの落札したライディヒアの葉以外にもオークションに出されていた商品がいくつかあった。


「どうして、それがその状態である!?」

「てっきり私の予想では化け物の体と同化していると思ったのですが?」


 私もそう予想していたから盗まれた商品だけを取り返すのは難しいと思っていた。


「怪盗騒ぎの間に新しく手に入れたスキルの恩恵。まだ全てを把握したわけじゃないけど、そのスキルを使えばスキルで肉体に同化させた状態でも収納リングの状態で取り返す事ができるようになる」


 しかもシルビアは【神の運(ゴッドラック)】と併用する事で運良く目当ての収納リングを引き当てる事に成功していたらしい。


 詳細は気になるところだけど、目的の物を回収したなら後は簡単だ。

 メリッサが魔法で作り出した巨大植物の蔓で化け物の体を絡め取ると身動きをできなくさせる。


 私はスキルを成功させる為に意識を集中させる。

 右手を銃のように構えて人差し指の先端に魔力を……スキルによる光弾を生み出す。


 光弾を放つ。

 化け物へ向けて真っ直ぐに飛んだスキル――【迷宮破壊】が化け物の体を貫く。


「な、なんだ……体が熱い……!」


 体の不調に耐えられなくなった化け物が膝を突く。


 次の瞬間、化け物の体が霧散し怪盗の青年が姿を現す。

 強制的に【憑依】と【変身】が解除された事で意識を失った青年――ゴンが姿を現し、憑依していた意識は元の体へと戻っていた。


「こっちもダメ……」


 魔力不足から思わず倒れそうになる。

 地面に倒れてしまう前にシルビアが受け止めてくれた。


「ありがとう」

「成功したのね」

「ほとんどぶっつけ本番だったけど」


 スキルの効果については迷宮にいる魔物を相手に使用して確認していた。


 どんな強力なスキルの効果すらも打ち消してしまう弾丸。

 私のスキルである【迷宮結界】と【迷宮破壊】、さらに【天癒】を組み合わせた攻撃。


 本来は結界のように自分の周囲に展開させて防御する【迷宮結界】だけど、迷宮の壁のような非破壊属性を持った物を破壊する事ができる【迷宮破壊】による力を包み込み、全ての魔力と引き換えにどんな傷すらも癒してしまう【天癒】と組み合わせることで安定させ、どんなスキルすらも無効化し続けてしまう弾丸を生み出す事に成功した。


 ただ【迷宮結界】をぶつけてスキルを無効化させるのではなく、スキル無効弾で無効化させる必要があった。

 後は結果を待つのみ。


「疲れた……」

「盗まれた商品に関してはアイラとメリッサに任せる事にして、わたしたちはVIPルームに戻っていよう」


 少なくともメリッサに任せておけば変な事にはならない。

 結果が出るまで、もう少し時間が必要になる。


 魔力が尽きた私はシルビアに任せてVIPルームへ連れられる事にする。


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