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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第36話 帝城地下牢からの脱出

怪盗視点です。

 帝城の地下牢。

 帝城の奥にある石造りの階段を下りて行く事で辿り着く事ができる。

 さすがに鎧を着た身では石造りの階段を歩いていて足音を消すことができない。


「……ん?」


 階段を下りて地下牢に辿り着くと手に槍を持って暇そうに見張りをしていた兵士がオレの存在に気付いた。


「どうした……? 交代には早いし、お前は今日の担当じゃなかっただろ」

「ああ、お前にちょっと用があってな」

「伝令か?」


 警戒した様子もなく見張りが近付いて来る。

 手を伸ばせば届く距離まで近付いて来たところで見張りの目を手で塞いで何も見えなくする。


「な、何だ……!?」


 見張りが突然の事にあたふたとしている。


 スラムで育った自分の非力な体なら鍛えられた兵士の体を掴んだままでいるなんてことができるはずなかった。だが、今使っている体は見張りと同じように毎日鍛え続けた体。数秒の間、掴んでいるぐらいの力はある。


「よし……!」


 掴んでから10秒が経過すると見張りの体から力が抜けて人形のようになる。

 同時に俺が今まで使っていた体も床に倒れる。


「この体はもういらないな」


 目の前にさっきまで使っていた体が転がっている。

 特に思い入れもないオレは手に持っていた槍で心臓を突き刺す。


「さて……」


 新たに手に入れた体の記憶を探る。

 地下牢の前には頑丈な金庫があり、中に地下牢の鍵が収まっている事が見張りの記憶から分かった。


 金庫にはダイヤル式の4桁の暗証番号を揃える必要がある。

 当然、オレは正しい暗証番号なんて知らない。

 だが、地下牢の見張りとはいえ、帝城に勤務できるという事でそれなりの地位にあった見張りは、いざという時に備えてきちんと暗証番号を教えられていた。


「開いた」


 正しい暗証番号を揃えると金庫が開いた。


 中から鍵束を取り出して地下牢の入口を開ける。

 地下牢には多くの何人かの囚人が入れられていたが、オレが態々危険を冒してまで会いたかったのは一人(・・)だけだ。


「なんだ? メシの時間ならもっと先のはずだろ」


 そいつは牢に入れられているにも関わらず暢気に飯を楽しみにしていた。

 明日の食料が手に入るのか分からないスラムの生活に比べれば、きちんと食事の出て来る地下牢の生活の方が考えようによって快適なのかもしれない。


「オレだ」

「アニキ!」


 オレの指示で怪盗をさせていた男――ゴンが近付いて来て鉄格子にしがみ付く。


 アニキ、なんて呼ばれているがゴンとその弟であるボンとは血が繋がっている訳ではない。同じ街のスラムで暮らしていて自然と一緒にいるようになっただけの間柄。年齢の関係からオレが兄として親しまれている。


「助けに来てくれたんだな」


 弟のボンも近付いて来た。


「だから俺の言った通りだろ。アニキなら言った通りに俺たちを救い出してやるって」


 こいつらが捕らわれた最初の日の深夜。

 その頃は、まだオレの存在が露見する前だったから事前に仕込んでおいた憑依対象の一人に憑依して地下牢に難なく忍び込むことができた。その時に世間話をするように『必ず助け出すから、それまで大人しくまっていろ』と指示を出していた。


 オレに対して絶対の信頼を寄せてくれる二人だけど、さすがに帝城の地下牢から逃がすのは難しいと思ってどこか諦めていたようだ。


「アニキ、その体は見張りの奴だよな」

「そうだ」

「ここまではどうやって?」


 二人の入れられていた牢の入口を開けて外へと出る。

 オレのスキルについて聞かれるのは囚人とはいえマズいので見張りが立っていた場所まで戻る。


「こいつの体を使って忍び込んだ」


 地下牢に辿り着く為にオレが使った体は帝城で働く軍人で、戦時下でもない今は帝城の外にある訓練場で訓練に励んでいた。

 訓練場も帝城内にあるので休憩がてら軍人がウロウロしていてもそこまで怪しまれることはない。


「殺したんですか?」

「ああ、家柄がいいだけでそこまで強くもないし、真面目な軍人でもないから問題ないだろ」


 実際、オレが憑依できるようになったのもこいつが不真面目だったおかげだ。


 オレが【憑依】スキルを相手に使用する為には条件がいる。

 最初にオレ本人、もしくはオレが憑依した奴が対象の頭に数秒間触れている必要がある。触れている必要がある時間は相手の強さによって違う。


 さっき見張りの視界を塞いだのは、地下牢について詳しい見張りを新しい憑依対象にする為だ。一般人が相手なら3秒もあれば十分なのだが、10秒もかかったという事は見張りでもかなり強かったという事だ。

 こいつも憑依できるようになるには時間が掛かったが、スラム近くの酒場で酒を飲んで酔い潰れていたところを触れていたので予想以上に簡単に手に入れることができた。


 帝城には他にも憑依対象がいたが、どうやったのかたった1日の間に悉く無効化されていた。ただ、こいつは不真面目だったおかげで上司に怒られて仕方なく参加した今日まで訓練をサボっていた。おかげで対象の無効化に漏れがあることに気付かれずに済んだ。


「出るぞ」


 二人を連れて石造りの階段を上がる。


「僕のスキルで出た方が速くない?」


 ボンが自分のスキル【壁抜け】で出た方が速くないかと提案してくる。


 だが、ここでは使えない。

 ずっと地下牢に閉じ込められ、尋問の間は騎士に見張られていたせいでスキルを使って逃げようという気すら起こらなかったせいで試していないのだろう。


「この地下の壁にはスキルを無効化する効果がある」


 侵入や破壊を阻止する為なのか特別な材質で造られているおかげだと見張りの記憶にはあった。

 噂によると迷宮の深部から得られた特別な材質らしいが、詳しい事は見張りの記憶を探っても分からなかった。


「だから地上までは自力で出る必要がある」


 特殊な壁で違法な手段による侵入は阻害されていたが、正統な方法で入口から出入りする人物までは想定されていなかった。


 地上へ出ると日の光が眩しい。


 地下牢の入口には人気がなく誰にも見られていなかった。

 ここまで来れば安心だ。


 ボンのスキル【壁抜け】で帝城の壁を擦り抜け、さらに外壁も擦り抜けると帝城の外へ出る。


「やったね」


 魔力の少ないボンでは想像以上に魔力を消費する【壁抜け】の使用に耐えられずにフラフラしていた。


「ああ、よくやってくれた」


 フラフラしているボンの胸に槍を突き刺す。


「え……?」


 何が起こったのか分からず胸を見下ろすボン。

 その目には、槍が引き抜かれると血が大量に流れて来る自分の胸が見えるはずだが、信じられずに呆然としたまま地面に倒れる。


「ボン! アニキ何をやって……っ!」


 倒れたボンに慌てて駆け寄ろうとしたゴンの頭を掴む。

 怪盗として活動していたゴンはオレ本人よりもステータスが高かったが、オレが今憑依している見張りより筋力は低い。必死に手足を振り回しているが、オレの拘束から逃れられずにいる。


「アニキ……」

「オレが必要だったのはお前だけだ」

「何を言って……」

「これまでお前たちを憑依対象にしていなかったのは、お前たちを憑依先にする訳にはいかなかったからだ」


 3人で仕事をする場合、二人に仕事をさせている間にオレが別の人間に憑依して二人をサポートする方が効率よかった。

 だから憑依先にはしていなかった。


 おかげで、こいつらは敵の警戒から逃れていた。


「アニキ……」


 オレを呼びながらゴンの体から力が抜ける。


「何年も一緒にいたが、この体を使うのは初めてだな」


 2日以上も地下牢に閉じ込められていたせいで体が鈍っているが、これぐらいは仕方ない。


「旦那」


 少しばかり待っていると、この場所で待機するよう金を出して指示していたスラム街に住む男が近付いて来る。

 憑依できる相手だと敵を警戒させてしまうかもしれないから金で雇うことにした。


「例の物を渡せ」

「は、はい!」


 男が懐に忍ばせていた瓶を手渡してくる。


「たしかに受け取った」


 報酬として男に銀貨を1枚手渡す。


「ありがとうございます」


 慌てて男が逃げるように駆け出して行く。

 これから盗みを働く貴族連中にとっては端金同然の金額だが、スラムで生きている連中にとっては大金同然だった。手に入れた大金を盗まれたくないのだろう。


「さて……」


 受け取った瓶の中身を飲み干す。


「うっ……」


 体が燃えるように熱くなる。

 オレが飲んだ薬は、服用者の持つスキルを劇的に強めてくれる効果を持つ。その反動として服用者の寿命を縮めてしまう。具体的に言えば明日の朝陽を拝めればマシな方だろう。


「悪いが、お前のスキルを有効に使わせてもらうぞ」


 服用者の体には反動がある。

 ただし、体を使わせてもらっているだけのオレには燃えるような高揚感はあるものの命に関わるような影響はない。


「最期ぐらいはしっかりと役に立ってもらおうか」

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