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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第35話 薬の使い道

 ライディヒアの葉という名前の植物を競り落としたメリッサたち。

 競りは他の参加者も落札しようとしていたため白熱し、落札金額も高額になってしまった。


 メリッサたちが欲しがる物が何なのか全く予想できていなかったが、あの様子からして相当手に入れたかった代物であるのは違いない。


 調合ができるメリッサがいるので落札したライディヒアの葉も問題なく使用することができるのだろう。

 ただ、残念ながら俺は調合には詳しくないのでライディヒアの葉がどのような薬に使われるのか分からなかった。


「随分と慕われていますね」


 部屋でのんびりと寛いでいたカトレアさんが呟いた。

 暇だという事で大人しくしているなら、という条件付きでリオの傍にいることを許されていた。


「ライディヒアの葉は頭髪育成の薬として使われる素材です」

「え?」

「彼女たちと競っていた人の姿を思い出して下さい」


 言われて初めて頭部が薄い事に気付いた。

 彼らの姿を思い浮かべれば必死にライディヒアの葉を落札しようとしていた理由が分かる。


 だが、メリッサは違うはずだ。

 たしかに彼女なら材料さえ手元にあれば作れるかもしれないが、誰が使用する?


 身内で必要になりそうな人を考えてみる。


 とはいえ、選択肢は非常に少ない。

 俺たちはメリッサ以外が父親を亡くしているので身内に高齢の男性が少なかったからだ。


 可能性として1番高いのはメリッサの父であるガエリオさんへのプレゼント。ただ、ガエリオさんは頭髪薬が必要なほど高齢ではないし、紳士然としたあの人なら高齢になっても必要ではないかもしれない。

 他に考えられるのは俺の祖父にしても気にするような頭髪でもなかったので違うだろう。


「たぶんマルスさんの為に手に入れたのではないですか?」

「いやいや……」


 思わず自分の頭に触れてしまう。

 心配になるような頭髪ではないはずだ。


「頭髪の衰退は遺伝すると言われています。お父様はどうでした?」


 父は頭髪を心配するような年齢になる前になくなってしまった。

 父方の祖父は俺が生まれる前に亡くなってしまったので見た事がない。


 母方の血が濃ければ祖父のアーロンのようにダンディな大人になれるかもしれないが、将来どんな姿になるかなんて分からない。


「きっと将来髪が薄くなった時に備えて手に入れようとしたんですね」


 道具箱があれば保存状態を気にする必要もない。


 そうか……気にしてしまうのか。


「分かりました。プレゼントされた時には変に意地になったりせず素直に受け取る事にします」


 頭髪薬をプレゼントされるのは恥ずかしいが、本当に恥ずかしいのはその時に俺の隣に立っているメリッサたちだ。彼女たちが恥ずかしいと言うのなら素直に受け取るだけだ。


「ち、違います!」


 しかし、シルビアがテーブルを叩いて使い道を否定した。


「あれはわたしたちが使うんです」

「女性が頭髪薬を使用するのはもっと恥ずかしいですよ」

「だから使い道そのものが違うんです!」


 本当の使い道を教えてくれなかったが、シルビアによれば頭髪薬以外の物にライディヒアの葉は使われるらしい。


 それを聞いてホッとしていた。

 自分で使わなくて、彼女たちが使わなくて安心した。


「そうなの? 帝国だと頭髪薬として使われるのが有名だから知らなかったわ」

「はい。わたしも詳しくないんですけど、ウチの魔法使いに言わせると手に入れるのに苦労する素材みたいです」


 だから大量に手に入れられる今回をチャンスだと思って大金を投入してまで落札した。


 カトレアさんがライディヒアの葉について知っていたのは帝国貴族の壮年の男性の多くが手に入れようと躍起になっている事実を知っていたからだ。


「あいつらもそろそろ戻って来るだろうな」


 昼の休憩時間になって時間が長く取れるようになったので落札したライディヒアの葉を受け取る為に移動しているのが地図で分かる。


 地図でライディヒアの葉の現在位置を確認するとオークション会場から運び出されているところだった。

 今のところ他の商品も含めて怪しい動きはない。


「それにしてもかなりの量を落札したんじゃないか?」

「せっかくだから一つでも多く落札しないと」


 3日目の今日は魔法道具が中心に出品されている。


 植物の成長を促進させる植木鉢。

 遠くの物が近くにあるように見える筒。

 周囲に幻影を映し出す事ができる球体。

 載せた物の重量を軽減する事ができる手押し車。


 他にも色々と落札させてもらったが、効果が微妙で貴族受けしないしない物を中心に落札させてもらった。そういった物は落札価額も低いので簡単に落札する事ができた。


「今回は招待してくれてありがとう」

「礼には及ばない」

「できる事なら怪盗の方も捕まえたいところなんだけど……」

「お前の策は昨日と同じように怪盗が動いてくれないと意味をなさない。失敗した時は気にすることなく帰ってくれてかまわない」


 リオの依頼にはオークションの成功も含まれている。

 このまま何事もなく今日が終われば依頼は一応の成功をしたことになる。


「ま、午後もゆっくりとオークションに参加させてもらう事にするさ」


 そろそろライディヒアの葉を受け取れそうなのでシルビアが昼食の準備を始める。

 と言っても事前に準備しておいたお弁当を広げて、全員分のお茶を用意するだけだ。


「いただきます」


 リオたちの分もシルビアが用意する。

 彼らには本来なら帝城の料理人や使用人が付いているはずなのだが、帝城で貴族たちを相手にして来た高級料理が得意な料理人が作る食事よりも元冒険者だったリオはシルビアの作る食事の方を気に入っていた。

 皇帝になっても冒険者だった頃の感覚が抜けていなかった。


 リオの仲間である女性陣は料理ができないわけではないのだが、大雑把な味付けの料理になってしまうので冒険者をしていた頃はどこかのお店に入って外食で済ませる事が多かったらしい。

 カトレアさんは貴族令嬢らしくお茶を淹れるぐらいならできるのだが、料理となると使用人に任せるものだという認識が強かった。


 俺もフォークを手に弁当箱の中にあった唐揚げを口に運ぶ。


『大変です、主! 私たちの落札した商品が盗まれました!』

「は!? げほっ、げほっ……!」


 突然聞こえて来た声に驚いて唐揚げを喉に詰まらせそうになる。

 急いで地図を確認するとメリッサたちの落札したライディヒアの葉の反応が消えていた。


「どういう事だ?」


 リオたちには俺たちの念話は聞こえていない。

 内容は分からなくても俺の様子から緊急事態だと判断したのか食事の手を止めていた。


「ライディヒアの葉が受け渡し場所の部屋まで運ばれた事は確認していたぞ」


 だからこそ、すぐに戻って来ると思って食事を始めていた。


『それが――』


 メリッサの報告は中断される事になった。

 言葉だけでなく、お互いの視覚も共有しているので相手の状況が分かる。


「報告します!」

「何だ?」


 皇帝の私用するVIPルームに兵士が駆け込んで来た。

 緊急の事態でもなければ、この部屋に伝令が訪れる事はありえない。


「先ほど、地下牢に閉じ込めていた二人の怪盗が逃げ出した事を確認しました」

「なに!?」


 地下牢に閉じ込めていた二人――パーティー会場を騒がせてくれた兄弟だ。


「目撃情報によれば二人の怪盗はこのオークション会場へ向かったとの事です。万が一の場合が考えられますので皇帝陛下には急ぎ帝城へ避難していただきたく思います」


 皇帝の安全の為にも帝城へ避難する。

 それは分かる。


「断る」


 だが、相手の能力を考えると正しくないかもしれない。


「な、なぜですか?」

「相手は【変身】スキルを持つ奴だ。誰が信用できるのか分からない状況で人の多い場所へ移動するつもりはない。それよりも、この部屋で待機している方が安全だ。お前は職務を全うしろ」

「はっ!」


 VIPルームとあって壁は頑丈に造られていたし、スキルの効果を和らげる効果もあったのでシルビアならともかく怪盗レベルの【壁抜け】なら部屋に侵入することはできない。


 この部屋に居るのが一番安全だった。


『実は、その怪盗ですがこちらへやって来ました』


 オークションに出品される品は警戒していたが、捕らえた怪盗については完全にノーマークだった。


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