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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第32話 オークション最終日

 オークション3日目。

 最終日である今日は迷宮から出土した魔法道具や貴重な薬品や薬草を中心にオークションが行われる。


 昨日、一昨日と同じようにリオが確保していた部屋を使わせてもらう。


「で、昨日の捕獲は失敗したわけだな」

「……ああ」


 それほど忙しくないリオが態々訊ねて来る。

 昨日、【憑依】スキルを持った怪盗を取り逃がしてからというものの失敗した報告をするのが嫌になって宿屋へ直行していた。念話で連絡したのでシルビアたちもすぐに合流してくれた。


「そっちこそそろそろ成果を出したらどうなんだ?」

「問題ない。お前たちが色々と動いて情報を集めてくれたおかげでこっちは進展があった」


 リオ……と言うよりも帝国はパーティー中に捕らえた二人の怪盗を尋問して情報を集めていた。


 二人の身元、裏にいる人物の情報。

 昨日、捕獲には失敗してしまったものの接触した事で『スラムに居る住人を利用している』事が分かった。


「スラム関係から事情聴取をした」

「結果は?」


 まず、怪盗二人も元々は帝都とは違う街にあるスラムに住んでいた兄弟だという事が分かった。


 母親は弟が生まれてすぐに亡くなり、父親も居たには居たが母親を失った頃から酒癖が酷くなり、気付いた時には兄弟二人だけで生きて行かなければならない状況になっていた。


 日々の生活にも困っていた二人はスキルを活かして盗みを働いていた。

 兄が全く知らない人間に変身し、追い掛けられても弟が壁の向こうから手助けする。盗まれた者も変身した後の姿しか見ていないので捕らえる事ができない。


 そんな生活を続けていると、接触して来た人物がいた。


「そいつが【憑依】スキル持ちか」


 男の名前はグレッグ。

 真っ赤な髪を刈り上げた10代後半ぐらいの青年で、その日もスキルを駆使して食糧を盗んだところに話し掛けて来た。


『どうせなら、もっとデカい事をしないか?』


 スキルの使い方や魔力の鍛え方について教えてくれた。

 気付いた時には父親がいなくなっていた二人にとっては初めてできた頼りになる男性。本当の兄のように接していた。


「その青年だって本当の姿なのか怪しいな」


 態々影武者まで置いておいた人間だ。

 兄弟に接している時に自分の本当の姿で接しているとは限らない。


「いや、それはないだろう」

「どうして?」

「スキルを使っている間は魔力を消費する。それは【憑依】だって変わらないはずだ。兄弟はグレッグとずっと一緒にいる時だってあったんだ」

「……無理だな」


 俺たちみたいな規格外な存在なら一日中スキルを使用し続ける事も可能かもしれないが、一般人にそんな無茶ができるはずがなかった。

 兄弟と接している間は魔力を消費する必要がない本体で接していた。


「デカい事――貴族相手に大々的に盗みを働くのが目的だったらしい」

「怪盗として活動していたのは?」

「その方が自分たちの活動を世間に知らしめる事ができるからだと」

「はあ?」


 窃盗、という犯罪をしているのに自分の名前を知らしめる必要性が分からない。


「自分たちは生きて行くだけでも精一杯なのに貴族連中は毎日のように贅沢な暮らしをしている」


 実際には貴族もそれなりの苦労をしている。

 毎日のように美味しい物を食べられるかもしれないが、その分だけ気苦労の絶えない仕事をしているので多少の贅沢をしなければ保てないと思っている。


「グレッグから言われて怪盗をし始めたらしい」

「唆されたのかよ」

「貴族を狙って窃盗を繰り返しているのも本人たちの復讐だし、義賊のように民衆へ渡しているのも本人たちの自己満足らしい」


 思わず溜息を吐きたくなった。

 たしかに物心付いた時から兄弟だけで支え合って生きて来たというなら人間不信になるのも分からなくはないが、本人たちの八つ当たりで窃盗事件に巻き込まれるのはいい迷惑だ。


 もっと真っ当に生きる方法もあったはずだ。


 それに気付かなかった事こそ彼らの罪だ。


「よく、そんな情報まで手に入れる事ができたな」


 話に聞く限り、グレッグの提案した怪盗の件などを兄弟は受け入れている。

 スキルや魔力の使い方など色々な事も教えてもらっているようだし、本当の兄のように慕っているような気がした。


 だから拷問されてもグレッグの存在については言わないと思っていた。


「ウチのパーティには情報収集担当がいるからな」


 リオの隣で大人しくシルビアの淹れたお茶を飲んでいたソニアが右手でⅤサインを作って自慢げな顔をしていた。


 【親善貌(グッドフェイス)

 対象と接触し会話する事で自分の事を親しい人物だと思わせるスキル。

 その親しさは、どんな秘密でも簡単に喋ってしまうほどでグレッグの事もソニアが接触するだけで簡単に知る事ができたらしい。


「俺には使わないでくれよ」


 既に見知った相手だったが、自分の知らない内に親しさを感じてしまうなど怖くなってしまう。


「大丈夫。あなたたち相手だと効果がない」


 【親善貌(グッドフェイス)】は、自分より弱い相手でなければ効果がなく、ちょっと強い相手でギリギリ違和感を抱かせるぐらいらしい。


「あたしは色々と役立つスキルを持っている代わりに戦闘能力が眷属の中で一番低い」


 とはいえ、迷宮眷属なので一般人のほぼ全員がソニアより弱く、簡単に情報を手に入れられる相手になる。


 だが、彼女の申告通り俺の眷属も含めて全員の中でステータスが一番低いので俺たち相手では【親善貌(グッドフェイス)】は効果を発揮しない。


「そんなに便利なスキルがあるならさっさと尋問すればよかったんじゃないか?」

「皇帝の側室がそんな事をして兵士の仕事を奪ってみろ。作法やあまり意味のない決まりに煩い昔の貴族連中から色々と嫌味を言われる事になる」


 だから1日だけ猶予を与えた。

 しかし、一昨日の尋問では芳しい結果が得られなかったので様子を見るついでにソニアが色々と話し掛けて世間話の延長で重要な情報を引き出したらしい。


「彼らの境遇には共感するけど、リオに迷惑を掛けたのはいただけない」


 ソニアも一人ぼっちになったところをリオとカトレアさんに拾われた境遇だ。

 彼らの境遇には共感するが、今はリオの味方でいる事の方が重要だ。


「で、グレッグを捕まえる方法については考えたんだろうな」

「もちろん」


 用意しておいた捕獲方法を説明する。

 この方法を試す為には前提条件としてリオの協力が必要不可欠だった。


「随分と多彩な魔物がいるんだな」

「せっかく迷宮内にいる魔物を自由にできる権利を持っているんだから有効利用しない手はないだろ」

「魔力の余裕の問題だ。こっちは帝都の結界の維持に、帝都全体まで迷宮を広げているから魔力をかなり消費してしまうんだ」


 だから、ホイホイと簡単に喚び出す事ができない。

 帝都全体を迷宮にしたおかげで様々な情報が手に入り、新皇帝の統治を問題なく進めることができるようになったが、その分だけ魔力を消費してしまうというデメリットも存在している。


 一長一短。

 それぞれにできる事、得意な事があるということだ。


「ま、地図(マップ)データを渡すぐらいなら魔力も消費しないからいいけどな」

「ありがとう」


 俺が必要としているのは昨日もらったオークション会場と周辺の地図ではない。

 帝都全体の地図を欲させてもらった。


「これで次は逃げられても問題ない」


 後は向こうが動き出すのを待つだけ。

 最悪、全く動かない事も考えられるが、その時はオークションが無事に成功したと安心する事にする。


「ところで、他の連中はどうしたんだ?」

「シルビア以外は――」


 部屋には俺の眷属ではシルビアしかいなかった。


 他の3人については自由行動を許可している。

 本当ならシルビアも一緒に行動したかったはずなのだが、さすがに俺を一人にするわけにはいかなかったので使用人として傍に控えていた。


「――オークションに参加する為にカトレアさんとマリーさんに頼んで急遽オークション会場の席を確保してもらったんだけど、聞いていないのか?」

「……聞いていないぞ」


 リオとカトレアさん。

 どちらの方が権力を握っているのか明確になって来たような気がする。


「この部屋から参加すればよくないか?」

「俺もそう言ったんだけど……」


 何を落札したのか知られたくないらしく別行動をメリッサから提案されてしまった。


 何か、男の俺や主が傍にいると手に入れ難い物を落札しようとしているのかもしれない。

 いくら眷属とはいえ自由がないのは可哀想だ。

 そこまで隠しておきたい秘密なら俺の方から暴こうとは考えない。


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