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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第31話 憑依逃走

 意識を覚醒させるとゴミ箱の陰からゆっくり立ち上がる。


「チッ、厄介な事になったな」


 オークション会場が見える路地裏。

 会場を見つめながら舌打ちをする。


 オークション会場にいる貴族連中どころか、その辺を歩いている平民よりもみすぼらしいボロボロの服を着たオレンジ色の髪をぼさぼさに伸ばしており、体や服の至るところが汚れていた。普段はスラムで生活しており、体を洗ったことなどほとんどなかった。


 帝都の中心にある煌びやかな場所にいるには場違いな男。その証拠にオレは路地に居たのだが、大通りから路地にいるその姿を見た人々は嫌悪感を隠さずにヒソヒソと話をしている。


 オレこそ【憑依】スキルを使用していた人物で、オークション会場に潜り込ませていた相手の体から戻って来たところだった。


「奴の存在は知っていたが……」


 パーティー会場でも怪盗兄弟の補佐をしていたおかげで新皇帝と知己だというあいつらのようなイレギュラーがいる事を知っていた。


 あんな連中ならオレみたいな付け焼刃で紛い物の怪盗は簡単に捕まる。


 これまで貴族や大商人みたいな金を持っている奴らを相手に商売をして来た。

 その実績を考えれば、捕まった後に待っているのは単純な死では済まされない。


 大人しく逃げるのが利口な選択だった。


 それでも今回の仕事を成功させたかったから諦めずに何度も挑戦していた。

 オークション会場に潜り込ませていたオレの憑依先に指定できる連中は、理由は分からないが、悉く憑依ができなくされていた。あんなに警備が厳重な場所で新たに潜り込ませるのも難しい。


「俺はこんな所で捕まるわけにはいかない」


 路地の陰からオークション会場を一瞥して踵を返す。

 今日は失敗してしまったが、まだ明日がある。


「こんな離れた場所まで一瞬で移動すれば追って来る事はできないだろ」


 得体の知れない相手。

 さっさと逃げ出したい衝動に駆られたオレは一刻も早くオークション会場から離れたい一心で足を動かす。


「悪いけど、そうでもないわよ」


 俯きながら歩いていると正面から声がする。

 顔を上げれば紅い髪の少女が腰に手を当てて立っていた。


 何度もオレの邪魔をし、さっきもオレの前に立ち塞がった男の仲間。


「ど、どうして……! お前がこんな場所にいるんだ!?」



 ☆ ☆ ☆



 男がアイラのいる場所とは反対側――大通りの方へと駆け出そうとする。


「はい、ストップ」


 屋根の上を駆けて辿り着いた俺が男の前に立って大通りへの道を塞ぐ。

 左右は建物の壁に阻まれ後ろにはアイラ、前には俺が立っている。


 男の逃げ道は完全に塞がれていた。


「数十秒振り……でいいんだよな?」


 憑依していたカイエンを介して会話をしていたものの本人とこうして会話をするのは初めてだ。


「ああ、そうだ」


 男が諦めたように頷く。


 カイエンの意識が本人へと戻ったのを確認した直後、大急ぎでその場を離れると本人のいる場所へと向かう。


 その際にアイラを派遣して足止めをしてもらうのを忘れない。

 事前に本人のいる場所が判明したら念話で連絡して伝えるので待機しているように言っておいたので俺よりも速く辿り着く事ができていた。


「どうやってオレの居場所が分かった?」


 カイエンの居場所ならオークションの商品を見張っていれば分かる。

 ただし、自分のスキルに自信のあった男には、この場所が知られた理由が全く分からなかった。


「こっちにはちょっと特殊なスキルを持った魔物が味方にいてな」


 俺の影がユラユラと揺れる。


 影の中から顔のない真っ黒な人の形をした魔物――シャドウゲンガーが現れる。

 普段は戦闘能力のない家族の護衛として影の中から見守っているのだが、本来なら誰も訪れてくれない深い階層で生活している彼らにとって外に出られる状況は何かが起こるのを待っているだけの退屈な護衛任務だったとしてもシャドウゲンガーの順番待ちが起こるほど人気だった。


 そんな順番を待っていて暇な1体を喚び出した。


 とはいえ、シャドウゲンガーの役割はある魔物を俺の影に潜り込ませる事。


「こいつがお前の位置を特定した魔物だ」


 シャドウゲンガーと共に現れた魔物は紫色のローブを着た人型の魔物だった。ただし、その魔物の顔は目が窪んでおり、薄らと開けられたまま覗く事ができる口の中には歯が1本もなかった。


 死人を思わせる姿に男が「ヒッ」と呻き声を上げている。


 ネクロマンサー・デューク。

 公爵の名を関する死霊使いの魔物で迷宮内にいる死霊系の魔物なら全てを支配下に置く事ができる最強クラスの魔物だ。


 最強クラスの死霊使いであるネクロマンサー・デュークに掛かれば、他者に憑依させていた意識がどこへ戻って行くのか感覚で追う事ができる。憑依状態から元の体へ戻る時、意識が元の体へ吸い寄せられるように戻るため俺の影に潜んで姿を隠していたネクロマンサー・デュークには方向と距離が正確に分かっていた。


 後は教えて貰った場所へアイラを先行させ、時間を稼いでもらえば捕獲も簡単に済ませる事ができる。


魔物使い(テイマー)だったのか!」

「似たようなものだ」


 迷宮内にいる全ての魔物を支配下に置ける特殊な存在なのだが、そこまで教えてあげる必要はない。


「さて、そろそろ観念したらどうかな?」


 逃げ道を完全に塞がれているというのに男には諦める様子がなかった。

 視線を落ち着きなくキョロキョロと前後に動かし、俺とアイラのどちらかに隙ができないか伺っている。比率としてアイラの方が多いが、それは俺の傍には正体不明の魔物が2体も侍っており、女であるアイラの方が付け入り易いと考えているからであろう。


 だが、アイラに油断した様子はなく動き出した瞬間に捕らえる気でいた。

 できる事なら帝国を騒がせた怪盗の一人である捕まえて皇帝であるリオに引き渡したい。リオからも捕縛を依頼されている。


「お前が憑依を解除したオレを追えるのは理解した。【憑依】について詳しいのも分かった。だけど、全てを知っている訳でもないようだ」

「……!」


 何かに気付いたネクロマンサー・デュークが俺のスーツを引っ張る。


 次の瞬間、目の前にいる男から表情が抜け落ちる。


「あ、あれ……? おれは一体なにを……ヒッ!」


 目の前に知らない男。さらにアンデッドの魔物がいる事で怯えていた。

 この反応には覚えがある。


「こいつも憑依されていた人物だったのか」

「あ、あの……」


 怯えた男が後退る。

 だが、その先にはアイラが仁王立ちしており、すぐに拘束される。


 スラムに住んでいるようなみすぼらしい男の力ではアイラの拘束を振り解くことができず項垂れてしまう。


「何者なのか説明してくれるか?」

「は、はい……!」


 オドオドしながら男が説明してくれる。

 男は元々帝都にあるスラムで生活しており、帝都の中心街に来るような人物ではなかったし来るつもりもなかった。


 だが、一週間前に突然現れた男が報酬を出すのでオークションの開催されている数日間だけでいいからここに居て欲しい、と頼みこんで来た。日々の生活にも困っているスラムの住人である男にとって報酬さえ貰えるならどんな仕事でも引き受けた。


 目の前にいる男に依頼を持ち掛けた男こそ本当の【憑依】スキル持ち。


「どうして、ここに居るよう言われたんだ?」

「し、知らない……おれはただ居て欲しいって頼まれただけだ」


 男に嘘を吐いているような様子はない。

 事情を説明しながらチラチラとネクロマンサー・デュークとシャドウゲンガーのことを見ている。見た目は恐ろしい魔物なので怯えてしまうのも仕方ない。


「どう思う?」


 男を羽交い絞めにしながらアイラが訊ねて来る。


『可能性は二つあります』


 状況を覗いていたメリッサが推測を言ってくれる。


『考えられる一つ目の可能性は私たちのようなイレギュラーがいた場合に備えて影武者のような役割をする人物を置いておく為です』


 現に俺たちは目の前で羽交い絞めにされている男を本人だと勘違いしてしまった。影武者としての役割は十分に果たしていると言っていい。


『もう一つは【憑依】を使用する為に必要だった場合です』

「必要?」

『こんなオークション会場が見える近い場所に配置する必要……【憑依】を使用する場合には距離の制限があった場合などです』


 俺たちの【憑依】に関する知識は迷宮核から教えられたものだ。

 迷宮核の知識も迷宮内にいる【憑依】を使える魔物の力から得られた場合なので人間が持った場合に発生するデメリットや制限などがあるかもしれない。


『ネクロマンサー・デュークに逃走先を教えてもらって追い掛ける事も可能かもしれませんが……』


 何人配置されているのか分からない状況では延々と追い掛ける事になる可能性もあった。

 何か別の方法を考えなければならない。


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