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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第30話 憑依

 オークション会場を競り落とされた商品を抱えた男性が歩いている。

 彼が抱えているのは、帝国内にいる武門の貴族が競り落とした2メートル近くあるバスターソード。見た目にあった破壊力を持っているのだが、魔力を流すことで重量を感じさせなくさせる魔法効果が付与されていたので戦場を駆けるには打って付けの武器だった。

 剣を抱えながら運んでいる男性も魔力を流しながら運んでいた。


「ちょっと待ってもらえますか?」


 オークション会場の廊下。

 曲がり角から姿を現して呼び止める。


「貴方はたしか……皇帝陛下が招待された冒険者ですね」


 さすがは皇帝主催のオークション会場で商品の運搬を任される人間。事前に俺の事を聞いて知っていたらしい。


「どのような用事でしょうか?」

「その剣をどこへ運ぶつもりですか?」

「どこへ……? おかしな事を聞かれる方ですね。競り落とされた商品は相手に渡す必要があります。普段は文官として城で働いている私ですが、今回のオークションでは信頼の置ける者でなければ働く事ができません」


 扱っている商品が大金を生み出す貴重品ばかりなので扱いには細心の注意が必要だ。


 それに間違っても運搬している最中に盗まれるような事があってはならない。だから商品を扱えるのは身元が確かな信頼の置ける者だけだった。

 目の前にいる男性もマリーさんに確認してみたところ、普段は帝城で帝都を発展させる為に日々イベントなどを考えて頭を悩ませている文官で、帝国に代々仕えてくれている家の3男で身元も確かだとメリッサ経由で教えてくれた。


「申し訳ありません。先を急いでいるので失礼させていただきます」


 男性が俺の横を通り過ぎようとする。


「もう一度聞きます。『どこへ行くつもりですか?』」

「ですから……」

「競り落とした商品を渡す場所へ行くなら2つ前の曲がり角を反対側へ進むべきでした」

「おっと……私とした事が道を間違えてしまったようです。態々教えていただきありがとうございます」


 男性が何食わぬ顔で踵を返す。


「どうやらストレートに言わないと理解できないようだな」

「……!」


 俺が立っていた場所とは反対方向へ進んだはずの男性の正面に立つ。

 普段は文官として働いて鍛えているわけでもない相手の意表を突いて回り込むなど簡単だ。


「カイエン・ブランダル」

「おや、私の名前ですね」

「違うだろ」


 たしかに目の前にいる男性――カイエンの名前だったが、今の状態では正しくない。


「お前の後ろにいる【憑依】能力を持った相手の名前は分からないが、オークション会場を騒がせている怪盗の正体はお前だ」

「一体、何を言っているのか……?」

「網は張っていたが、【鑑定】を使って確実になった」



==========

 名前:カイエン・ブランダル【憑依中】

 年齢:24歳

 職業:グレンヴァルガ帝国執政官

 性別:男

==========



 理由は不明だが、【鑑定】を使用してみたところ相手のステータスを覗く事ができた。


 スキルや魔力値などは重要ではないので割愛する。

 最も重要なのは、名前の後ろに今まで見た事のない【憑依中】が追加されていたことだ。


 接触する前は対象を『洗脳』する能力ではないかと予想していたが、実際は似たような能力を持っていたらしい。


「あんたが【憑依】を使える事は分かっている」


 指摘するとカイエンから表情が抜けて無表情になる。


「【憑依】は自分の意識を他者に移し、その体を支配するスキルだ」


 虚ろな目を俺へ向けて来る。


「まさか、オレの存在まで見つけられるとは思ってもみなかった」


 カイエンの声のままだったが、話し方が変わり、明らかに別人となっている。


「認めるんだな」

「オレがどれだけ惚けたところで、お前は俺の持っているスキルに詳しそうだ」


 相手の持っているスキルが【憑依】だと判明した瞬間に迷宮核(ダンジョンコア)に頼んで詳しい情報を教えてもらった。

 迷宮にも同じスキルを持った魔物がいるので情報には困らなかった。


 今もリアルタイムで色々と教えて貰っている。


「これでもオレの存在は露見しないようにしていたんだがな……」


 この男は、二人の怪盗のバックアップに徹していた。

 パーティー会場では、会場の警備を担当していた警備員の一人に憑依し、タイミングを伺ってパーティー会場の照明を落とした。警備兵には、照明を操作できる部屋に関する知識もあったし、万が一の場合に備えて最低限の知識だけは教えられていた為、照明を落とすのは難しい事ではなかった。

 その後、パーティー会場へ何食わぬ顔で戻ると警備兵からは照明を落としたという一切の記憶が消えてなくなり、その間の記憶も別に補完される。


 オークション会場でも憑依した人間を利用して商品を盗み出そうとしていたらしいが、ピナに憑依を無効化されて全て失敗してしまっていた。


「オークション会場には他にもオレが憑依可能な奴がいる。可能ならオレを特定した方法を教えてくれないか?」


 憑依には、一つ致命的な欠点があった。

 自分の意識を他者に移し替えるという効果である以上、1度に支配する事ができる相手は1人に限られる。

 何らかの怪しい動きをしている人物がいれば、その人が憑依されている人物だと容易に想像できる。

 目の前にいるカイエンが憑依されている以上、他の人間については気にする必要がない。


「たしかに剣を運び込んではいたが、そんなにおかしい事か?」


 カイエンが落札された商品を運ぶ事に違和感はない。

 だからこそ憑依対象に選ばれた。


 唯一、おかしい事があるとすれば本来持って行くべき場所へ真っ直ぐに向かわなかった事だが、それを知る為には商品がどこへ運ばれているのか見張っていなければならない。


「まさか……」

「苦労したよ。オークションに出される全ての商品の現在位置を特定し続けるのは」


 【迷宮操作:地図(マップ)】。

 周囲の地図を作成し、いつでも確認できるようにするスキル。


 本来なら多くの魔力を消費してしまうところなのだが、地図の提供のみリオに協力してもらいオークション会場の地図を得る事ができた。

 おかげで魔力をほとんど消費していない。


 地図には、応用方法として対象の物体にマーカーを施し、現在位置を常に把握し続ける事ができるという効果がある。今回、オークションのステージに出された全ての商品にマーカーを施させてもらった。

 ステージに出されて姿を確認するだけでマーカーを施す事ができるので言うほど苦労はしていない。敢えて言うならずっと確認している方が精神的に疲れた。


「なるほど。そうなると今後の持ち出しは難しそうだな」


 【憑依】は特別なスキルだが、このスキルを使って物を盗む為には外へ持ち出す必要がある。

 しかし、迷宮主というイレギュラーによって不可能になった。


「逃げられると思っているのか?」


 おまけに目の前にいる男は逃げられるつもりでいるらしい。

 俺が目の前にいる以上、こいつを逃がすつもりはない。


「大人しく捕まって帝国の裁きを受けてもらおうか」

「そういう訳にはいかない。オレには金が必要なんだ。それに、せっかく手に入れたスキルで面白おかしく生きてやる。こんなところで捕まる訳にはいかない」


 無表情だったカイエンに表情が戻る。


「申し訳ございません。慣れない会場で私の方が道に迷ってしまったようです」


 口調が最初の頃に戻る。

 憑依時の記憶の補完も行われたらしく、おそらく自分が迷ってしまったのを招待客に指摘されて恥ずかしい、と言ったところだろう。


「元の体に戻ったか」

「はい?」


 俺の呟きが聞こえたが、意味の分からないカイエンが首を傾げている。


 憑依していた本人は、憑依を解除して本来の体に戻ってしまったらしい。


 ここでカイエンを捕らえても意味がない。憑依時の記憶がないので尋問しても相手に辿り着く事は不可能だし、彼を捕らえてしまうのは可哀想だ。むしろ、これまでの憑依された人物と同様に被害者だ。

 捕らえるなら憑依していた本人でなければならない。


「さて、捕まえに行きますか」


 既に相手がどこの誰なのかはっきりしている。

 俺が接触したのは、相手の正体を知る為に必要な事だったからだ。


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