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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第29話 聖剣競り

 オークション会場では聖剣が競りに掛けられている。


「――金貨210枚!」

「220枚

「240枚!」

「245枚」

「250枚!」


 ランドルフ殿下が落札価額を何度も釣り上げて行く。

 競っている相手は複数いるのだが、対抗するように金額を上げて行っているのは彼一人だけだった。


「まったく……人の金だと思って使いまくりやがって」


 金を貸すとは約束した。

 しかし、貸す約束である以上、返さなくてはならないはずなのだが殿下の落札の様子を見ている限り怪しくなって来た。


「よろしいではないですか。今の私たちにとって金貨数百枚程度なら無視できるレベルの金額です」

「そうだけど……」


 メリッサが言うようにオークションに備えて100万枚以上の金貨を用意しておいたので端金もいいところだ。

 それでも無意味に消費するなどしたくなかった。


「大丈夫です。タダよりも高い物はない、と後々に思い知ってもらう事にしましょう」


 メリッサが怖い笑みを浮かべる。

 俺も返されなかった場合に脅すぐらいのつもりで利権を貪り尽くすつもりだが、彼女がどこまでの事を考えているのか予想もできない。


「お前らは参加しないのか?」


 そう訊ねて来るのは正面のソファーに座ったリオ。

 今日は1時間もしない内に挨拶を終えて部屋に戻って来ていた。今は、シルビアの淹れてくれた紅茶を飲みながらのんびりとオークションの様子を見ながら過ごしている。

 挨拶をしなければならない相手は昨日の内に終えているので今日は余裕があるらしい。


 眷属も半数近くが傍にいるのだが、妊娠している二人や忙しく働いているメンバーを除いた彼女たちは給仕があまり得意ではなかったのでメイドとして自分たち以上の実力を持っているシルビアにリオの給仕も任せてしまっている。


「パーティー会場でも目ぼしい武器や防具はなかったんだよな」


 一昨日のパーティー会場に飾られたのは貴族の目を引きやすい綺麗な美術品や歴史を感じさせる骨董品。

 それに興味をそそられる珍しい効果を持った魔法道具。


 武器や防具も展示されていたが、貴族向けの物を中心に展示されていたので見栄えがいいだけの物ばかりになっていた。

 そういう物は俺たちの求めている物ではない。


「俺たちが今さらBランクやAランクの武器を手に入れたところで自分たちで使うと思うか?」

「思わないな」


 全員の主武器がSランクの武器だ。

 自分たちでは使わないし、効果が微妙な武器を大金を払って手に入れても赤字になってしまう可能性が高い。


「それでも全くなかったわけじゃないだろ」

「そうだな」


 パーティー会場に展示されていた金色に光り輝く短剣。

 迷宮から出て来た短剣だったおかげで効果が分かったが、魔力を込めれば込めるほど強力な一撃が放てるようになる短剣だった。

 だが、効果を発揮する為に必要な魔力量が一流魔法使い並に必要だったせいで短剣を好んで使う盗賊職などには不人気だった。彼らは速度に重点的に鍛えられている代わりに魔力が少ない者が多かった。


 そういう経緯もあって使われる事もなく売りに出され、装飾を気に入った貴族が自慢する為に手にしていた。


 せっかく強力な効果があるのに勿体ない。


「そういうわけで、その短剣が出て来たなら落札させてもらう事にする」

「お前だって自分で使う訳じゃないだろ」


 落札したら魔力変換させてもらう。


『聖剣ウェルは金貨990枚で落札されました』

「やり過ぎだろ……」


 聞こえて来た司会の声に頭を抱えたくなった。

 会場を見ていたイリスから落札したのがランドルフ殿下だと教えられた。


「1000枚近い金額を俺が支払うのか……」


 これは絶対に見返りを要求しなくてはならない。


「キタ!」


 聖剣の次に出て来た商品を見てイリスが声を上げる。


 出て来たのは何の変哲もないハンマー。それも貴族を相手に競りに掛けるには見た目で劣っている。

 現にハンマーを見た下級貴族の多くが落胆している。


『皆様、こちらのハンマーは武門でもあったストレイス家が所有していたハンマーです』

「ストレイス家?」

「帝国の中でも好戦的な一族として有名な貴族だ。元王太子を支援していた連中の中でも有力な支援者で、春の戦争でも率先して攻め込むように言っていた奴だ」


 帝国に仕え、軍の一部を取り纏める立場にあったストレイス家では数年後に当主交代を控えていて同じように城で軍の指揮官として勤めていた次期当主だった長男が功績を求めていた。

 少しでも息子に箔を付けさせたいと思った父親が戦争を唆し、息子を指揮官に推した。


 結果、息子は戦場から返って来る事がなく父親は戦争を唆した責任を取らされる事になり、ストレイス家は取り潰される事になった。


 そんな家の屋敷から出て来たハンマー。


『こちらは魔力を込めながら殴る事で通常よりも強力な力で対象を割る事ができるようになっております』


 司会がハンマーに魔力を込めながら一緒に運ばれて来たレンガを軽く叩く。

 軽く叩かれただけのレンガは一撃で粉々に砕けてしまった。


『おおっ!』


 ハンマーの効果を知らなかった下級貴族が唸る。


「ストレイス家では、どのような物でも砕けるハンマーという事でお守りとして屋敷に飾られていたらしい」


 せっかくの強力な効果だったが、ハンマーという形状が貴族らしくないという理由で実践的に使われる事はなかった。

 そのため、お守りとして用いられていた。


『では、金貨5枚から行きましょう』


 お守りとして使うつもりなのはオークション会場に来ている貴族も変わらない。

 主催者側もハンマーの効果にそれほど期待している訳ではなく、『武門の名家がお守りとして持っていた武器』という部分に期待していた。


 イリスに合図を送る。


「金貨20枚」

「……!」


 一気に釣り上げた事に会場が驚く。

 お守りとして使うつもりのただのハンマーに金貨20枚も出していいのか。


 金に余裕のある上級貴族は文官の者が多く、武器にはあまり興味がなかった。武官の者もいたが、そういった者は狙っている強力な武器があり、お守りに金をかけている余裕はなかった。


 だが、下級貴族はお守りを必要としていた。

 国からの命令があれば兵を出さざるを得ないし、自分の領民を指揮する事になるのは自分になる可能性が高かった。

 少しでも生存率を上げる為には神にでも縋り付きたかった。


 迷い、躊躇している内に時間は過ぎて行く。


『他にいらっしゃいませんか? ……いらっしゃらないようなので、金貨20枚で落札させていただきます』


 休憩時間になるとシルビアとアイラにハンマーを取りに行かせる。

 戻って来た二人からハンマーを受け取ると即座に魔力にする。


「躊躇ないな」

「お守りもいらないからな」


 今さら神頼みしなければならないほど弱いつもりはない。

 そんな効果があるのか分からない事に頼るぐらいなら魔力にして有効利用した方がいい。


 取っておいても肥やしになるだけなので迷う必要もない。


「そこそこの力になったな」


 俺たちレベルがもっと強力な一撃が放たれる効果があった。

 それに司会者は知らなかったみたいだが、周囲の金属を取り込んで自己修復する効果もあったので予想以上の魔力が得られた。


 結果、金貨10枚分の得にはなった。


 その後、狙っていた商品を次々に落札していく。


 金色の短剣。

 稲妻が走ったような紋様のある魔剣。

 聖鎧。

 魔盾。


 事前に【鑑定】で調べて利益が出ると分かっている物にだけ狙いを定めていたので不利益になるような取引ではなかった。


「かかった」


 2日目のオークションも落ち着いて来た頃にようやく張り巡らせていた罠に敵が引っ掛かってくれた。


「行くのか」

「ああ。可能なら今日中に蹴りを付けたい」


 帝城やオークション会場でチョロチョロと動き回っている怪盗の仲間。

 罠を張り巡らせているところに向こうから飛び込んで来てくれた。


 明日のオークションでは魔法道具が中心に出品される。俺たちが本当に利益を出せる日なので誰にも邪魔される事なく競り落としたい。


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