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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第27話 金欠王太子

「そちらこそオークションでは散々だったみたいですね」

「……そうだ。私は王太子だぞ! なのにオークションが始まる前には新皇帝に馬鹿にされ、どうにか手に入れた指輪も必要以上の金額を出す羽目になってしまったせいで貴族連中から笑われてしまった」


 競りに挑んでいるランドルフ殿下の顔を見れば意地になってなんとしてでも落札しようとしているのが伺える。

 だから競い合っていた貴族はギリギリのところまで競ってランドルフ殿下に多額の落札価額を出させたうえで競りを下りた。


 結果、大金を支払う羽目になった。


 近くにいた側近も途中で止めるよう言ったはずだが、ランドルフ殿下は全く耳を貸さなかった。

 ……この人が国王の国にいるのは危険だな。


「オークションは明日も明後日もあるのですから頑張ればいいではないですか」

「いや、それは無理だ」


 どうやら本気でたった1回の落札で所持金を使い果たしてしまったらしい。


 王太子とはいえ国庫を好きにできるわけではない。そのため王太子に与えられる年金をやり繰りしてオークションに挑んでいた。

 その金も尽きてしまったので明日は見学するだけみたいだ。


「狙っていた物とかないのですか?」

「明日のオークションで出される聖剣には興味があった」

「聖剣、ね……」


 迷宮から出土した剣で、所有者の傷を癒す効果がある。装飾も豪華で真っ白な剣は見ている者に聖剣だと思わせる力がある。

 ただし、ランクはかなり低くB。


 Sランクの聖剣を持っているアイラやイリスにしてみれば興味を抱く対象にすらならない。


「なら、その聖剣を落札して下さい」

「……金がない」

「金なら俺が出します」

「なに……?」

「次期国王で王太子がそのような落ち込んだ表情をしていたのでは帝国に舐められる事になります。貴方にはもっと威厳を持ってもらわなくてはなりません」


 いくら俺が王国の王族を嫌っていても本拠地にする場所をアリスターから変えられない以上、王国にいなければならない。

 いいように使われるつもりはないが、王族が役立たずだったために面倒事に巻き込まれるぐらいなら少しぐらい手助けした方がいい。


「貴方が欲しいのは聖剣そのものではないでしょう。聖剣を競り落とした自分の姿を帝国貴族に見せつけたいのでしょう」


 見た目だけはいい剣なので注目は集まる。

 そんな剣なら落札価額もかなりの高額になり、それを落札した者にも注目が集まる事になる。


 だから金の出処については気にしない。


「いくら掛かっても構いません。私が落札額を出します」

「いや、無償で提供されるわけにはいかない。だが、今所持金がない事も事実だ。だから私が王位を継承したなら返済する事を約束しよう」


 国王なら王太子よりも年金の額が圧倒的に多い。

 プライドの高いランドルフ王太子ならそう言ってくれると思っていた。


「では、期待して待っています」


 思わず笑みが零れそうになるのを我慢しながら離れる。


「ありがとうございます」


 離れた場所にいたメリッサが近付いて来てお礼を言う。


「何が?」

「私の為に王太子に金を貸すよう言ってくれたのですよね」


 そういう側面があったのも事実だ。

 今は精神的に弱っているから金を貸す、と言った俺に縋って来たランドルフ王太子だが、後で落ち着いて考えれば王族として冒険者から金を借りるなど恥だと気付くはずだ。


 メリッサの王族嫌いも相当なもので満面の笑みを浮かべていた。

 色々とあって過去の責任は追及しない事にしたメリッサだったが、それでも1度は抱いてしまった王族に対する嫌悪感は彼女の中にしっかりと残っていた。

 彼女にしてみれば項垂れる王族の姿が想像できるだけで『ざまぁ』といったところなのだろう。


「ま、俺にとって1番の目的は『ランドルフ王太子に対して金を貸した』っていう事実の方なんだけどね」

「たしかに有利に立てますね」


 後で返すと言っていたランドルフ王太子。

 たしかに返済すれば借金は消えてなくなるかもしれないが、俺に対して借金をしていたという事実まで消えてなくなるわけではない。


「この事実があれば1回くらいなら脅す事ができるだろ」


 あの調子だと実権を握った後で戦争でも仕掛けそうだった。

 俺たちの力を頼る事ができれば戦争に勝利するのも可能なはずだ。


 だが、誰が好き好んで自分から戦争を仕掛けるような相手に協力するものか。戦争を始めた場合には真っ先に逃げるつもりだ。もちろん脅したうえで罪には問われないようにする。


「なるほど……私も彼には協力したくありません」


 少しは傲慢なところが落ち着いたようだったが、それでも平民の俺たちから見れば未だに傲慢な様子が消えていないようなものだ。


 彼は王太子という立場から世界が自分を中心に回っていると思っている。

 そんな事は、自分の国の中だけだし、自分の国にしても自由にできているわけではない。


 帝国に来て自分のいる場所が低い事を知ったはずだ。


「こっちも王が力を失うと大変だから手伝いぐらいはするさ」


 その為に必要な資金は持っている。


「金があるって素晴らしいな」


 王族に金を貸す。

 金貨10枚を返済する為に四苦八苦していた頃から考えられないセリフだ。


「だから、人の金を盗もうとする奴は許せないな」

「はい」


 宝石の置かれているテーブルへと近付く。


 そこには自慢できるほど豪華な宝石を落札した貴族たちが自慢しており、その周りには自慢話を羨ましそうに聞いている貴族が取り囲んでいた。


 俺たちの落札したダイヤは自慢するつもりがないのでそのまま置かれている。


 ダイヤの前に近付く人影があった。

 その人影は、青いスーツを着た小太りの男性で体型のためかスーツはゆったりとしていた。


 余計に開いた胸の内ポケットに手に取ったダイヤを入れる。

 自慢話をしている、聞いている貴族たちはダイヤが盗まれた事に気付いた様子もなく、宝石を守っているはずの警備員もこんなに堂々と盗まれるとは思っていないらしく気付いていない。


 何事もなく離れて行く小太りの男性。


「はい、そこまで」

「な、何をする!?」


 小太りの男性を羽交い絞めにする。

 突然、パーティー会場内で起こった出来事に貴族たちの注目が集まる。


「どうされました?」


 焦った様子の警備員が近付いて来る。


「こいつがいきなり暴行を働いて来たのだ!」

「どういう事ですか?」

「俺たちを疑う前に彼の胸ポケットの中身を確かめてくれますか?」


 俺の言葉を聞いた警備員が小太りの男性の胸ポケットを探る。

 自分で言ったセリフだが、貴族であるはずの男性よりも俺の言葉を信じてくれたのが信じられない。


「……これは、どういう事ですか?」


 胸ポケットから取り出された警備員の手の中にはダイヤが握りしめられていた。


「し、知らない……! 私は本当にそんな物は知らない」


 本当に驚いているらしく目を見開いていた。

 あまりに動揺するせいで暴れているが、俺に羽交い絞めにされているせいで体を少し動かす事すらできない。

 そんな状態のせいで知らないという言葉が全く信用できない。


「それは、俺の落札したダイヤです」

「な、なに!?」


 羽交い絞めにしている俺を睨みつけて来る男性。


「こいつが何かをしたんだ! 私は本当に何も知らない」

「彼は帝国に来たばかりの冒険者です。それに皇帝陛下とも知己の仲だとアメント伯爵様から伺っております」


 俺の素性について予めガランドさんから聞いていた警備員。

 だから貴族の男性よりも俺の言葉を信用した。


「冒険者だと!? ますます怪しいではないか! それに、あれだけの人混みで私へすぐに声をかけてくるのもおかしい」


 別におかしくない。

 万が一、盗まれてしまった場合に備えて事前にマーカーを設定して現在位置が地図に表示されるようにしていただけだ。


「俺は冒険者です。自分の持ち物が盗まれた時に備えておくぐらいはします」


 真実を言う訳にもいかないので当たり障りのない言葉で濁す。


「私には貴方の言っている事よりも彼の言葉の方が信用できます」

「なんだと!? 私はダレンバーグ男爵だぞ!」

()男爵ですね。今は降格させられてダレンバーグ騎士爵だったはずです」

「……っ!」


 悔しそうに歯を噛み締めるダレンバーグ卿。


「戦争賛成派だった貴方は責任を追及されて降格させられたと聞いています。降格させられても男爵だった頃の生活を捨て切れず、現在の財政は火の車だと伺っております。どうやら盗みを働いてしまうほど生活は困窮しているようですね」

「ち、違う……!」


 顔を真っ赤にして反論するダレンバーグ。


 だが、周囲の声は冷ややかだった。


「……盗みを働くなど貴族として恥ずかしくないのか?」

「あのようにはなりたくないわね」


 ヒソヒソとした話声。

 怒った様子のダレンバーグ卿の耳には届いていないようだが、自分の噂話をされていると分かっただけで怒っている。


「とりあえず、どこかの部屋に運ぶので案内して下さい」

「かしこまりました」


 羽交い絞めにしたままダレンバーグ卿を運ぶ。

 せっかくのパーティーだが、あまり楽しめそうにない。


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