第26話 宝石貴族のパーティー
「随分と儲けたみたいだな」
「まあな」
オークションの初日が終わる頃になって挨拶回りを終えたリオがようやく部屋に戻って来た。
部屋の中央にあるテーブルの上には今日の戦利品が並べられていた。
真紅の輝きを持ったヒヒイロカネの指輪。
金色の光を放つ宝石の付いた指輪。
碧色の宝石が付いたネックレス。
真っ赤なブローチ。
俺とシルビアが見つけたダイヤ。
宝石の類は大量の魔力を溜め込んでくれるためどうしても落札したかった。
指輪とネックレスについてはパーティー会場に展示されており、イリスとアイラが見つけてくれていたおかげで狙いを定めておく事ができた。
ブローチについてはパーティー会場に展示されていなかったので、事前に調べることはできなかったがオークション会場に姿を現した瞬間に価値を調べる事ができたので即決させてもらった。
どれも迷宮から産出した物らしく【鑑定】が使えたので魔力を蓄えている事が分かった。
他にも利益になりそうな物もあったが、あまり俺ばかりが落札してしまうと他の参加者から恨まれる事になる。他の参加者に気を遣ってこれ以上の落札は控えさせてもらった。
「なかなかの接戦だったな」
最初から落札する気などないリオは暢気にオークションを眺めていたらしい。
彼にしてみれば大金を落としているようにしか見えない。
「中にはギリギリ利益を出せる物もあったけど、しっかりと儲けさせてもらったよ」
どうしても競っている相手が折れてくれないせいで予想以上に落札価額が高額になってしまった品物もある。
それでも利益はしかりと出せている。
「そんなお前に面倒な依頼を持って来た」
「ええ~」
できれば宿屋でゆっくりしたかった。
オークションの初日が終わった事で会場からは人がいなくなっていた。とはいえ、参加者の多くが遠方からやって来た貴族や大商人なので、この後は貴族同士で話でもする為に豪華な食事会でも開催されるに違いない。
幸い、俺たちは貴族ではないので呼ばれていない。
「アメント伯爵がお前たちを自分のパーティーに招待したいらしい」
「ガランドさんか」
「パーティーに呼ぶ理由は二つ。一つは昨日のお礼を言いたいそうだ。もう一つの理由は今日のオークションで宝石を落札した人を呼んで鑑賞会をしたいらしい」
「子供かよ」
「そう言うな。アメント家は宝石を採掘できる山を所有しているせいか昔から宝石好きな当主が多いみたいだ。今日のオークションだって宝石関係は奴が半分近く落札していたぞ」
ネックレスを競り落とす時には競うように落札価額を釣り上げて来る相手がいて大変だった。
個室の位置的に相手の顔を確認することができなかったが、状況的に考えてガランドさんが競っていた相手だろう。
「この部屋を使っているのが皇帝である俺だっていう事までは知っていたけど、皇帝の俺がオークションに参加するはずがない。というわけで色々な宝石を落札した相手と自分を助けてくれた冒険者を招待したいらしい」
「なるほどね」
どちらもリオにしか伝手はない。
そういうわけでオークションで次々と宝石を落札するガランドさんをリオが挨拶に訪れた時に招待して欲しいと頼まれたらしい。
「どうする?」
隣に座るメリッサとシルビアに相談する。
俺としては知らない相手ではないので参加していいのではないかと思っている。
「私は話に聞いただけなので何も言えません」
「わたしはガランドさんの体調が心配です」
気絶させられただけとはいえ怪盗に襲われている。
パーティー会場では気持ちよく説明してくれたガランドさんの事をシルビアは本心から心配している。
「なら、行くか」
断る理由もないので了承する。
「ところで掛け軸の方は大丈夫か?」
掛け軸は既に【魔力変換】してしまったので手元にはない。
宝石類については後でまとめて変換しようと思っていたので、まだ手付かずだったので残っている。
「相手は宝石好きなアメント伯爵だ。掛け軸の方にはそれほど興味は示さないだろう」
それに興味を示されたとしても手元にはないと伝えればいいだけだ。
「そう言えばウチの王太子を虐めないでくれるか?」
「あれぐらいなら虐めた内に入らないだろ」
リオはそう言うが、午前中などずっと俯いたままだった。
午後には気を持ち直していたらしくオークションに参加していたようだったが、あまりお金を持ってきていなかったのか1品しか落札する事ができなかった。
「あの王太子もパーティーに呼ばれているぞ」
ランドルフ王太子が落札したのも豪華な金色の指輪だった。
残念ながら見た目が豪華なだけで大した力を持っていなかったので俺たちは競りに参加しなかった。
☆ ☆ ☆
アメント家が所有する屋敷。
広いホールには100人近い人が招待されていた。
「やあ、久しぶりだね」
「元気そうですね」
ホールに入った瞬間、ガランドさんが笑顔で迎えてくれた。
彼にはリオの口からいくつもの宝石を落札したのが俺だと教えられている。
「君たちはお礼の為にも招待したいと思っていたんだ。今日は他の仲間も一緒に楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
4人ともドレス姿になっている。
俺もスーツをそのまま着ている。
さすがにパーティーで使用人服や冒険者服は躊躇われた。
ガランドさんに案内されてパーティー会場の中心へと進む。中心には大きなテーブルがあり、その上には様々な宝石が並べられていた。宝石の前では落札した貴族が自慢していた。
宝石は子供でも一目で高価だと分かり、それを持っている事がその貴族の財力を表していた。
「凄いですね」
「そうだろう。君たちも並べてみないか?」
自慢するつもりはない。
だが、これだけの品物を持っている相手を招待できた、という事実がそのままガランドさんの評価に繋がっている。
パーティー会場で守ってあげられなかった罪悪感から一番目立つダイヤを置く。
「ほう、これはパーティー会場で展示されていたダイヤだね」
「はい。これほど目立つ宝石はないでしょう」
現に宝石を眺めていた招待客の視線が一斉にダイヤへ向けられている。
「これは君が落札したのかね」
「はい」
「これだけのダイヤを落札するか。よければ名前を教えてくれないかな」
俺をどこかに貴族だと思った人たちが一斉に話し掛けて来る。
念話でシルビアたちに離れているよう伝える。万が一にでもセクハラのような事をされた時には手加減ができないかもしれないからだ。
貴族からの質問を適当にはぐらかして行く。
決定的な事は言わずに勘違いさせたままにしておく。その方が有力貴族だと勘違いして来た向こうが色々な情報をポロッと言ってしまうからだ。
「そう言えば聞いておりますか? 新皇帝の出された皇帝宣言」
「なんでも彼が在位中には王国へ攻め込まないとの事です」
俺との約束で王国へ侵攻しない事を約束させていた。
「おそらく我が国の軍を壊滅させた相手を恐れているのでしょう」
俺も戦争に関わるつもりはないと宣言している。
「まったく嘆かわしい……弱気な皇帝にも困ったものだが、既に秘密裡に友誼が結ばれているとの話だ。ここは無理に攻め込む必要もないでしょう」
しかし、この約束には致命的な問題が存在している。
「そうですね。今日、皇帝陛下に挑発されている王太子殿下の様子を見させてもらいましたが、あの様子では向こうから攻めて来る可能性が高いですね」
「その時には我らが向こうの物資を奪ってやりましょう」
彼らが言うように帝国が攻め込まれた時に戦う分には全く問題はない。
俺もその問題については分かっていたが、自分から攻め込んでおいて負けそうになる相手に力を貸すつもりはない。
だからランドルフ王太子が自分の意思で戦争を決めた時には協力は一切しない。
宝石が置かれたテーブルの前を離れる。
ダイヤは置きっ放しだが、今も盗もうとしている不埒者がいないか目を光らせているアメント家の警備員が責任を持って守ってくれている。
「そういう訳ですので抑えて下さいね」
「……分かっている」
パーティー会場の隅の方では不機嫌そうな様子を隠そうともしないランドルフ王子が数人の側近だけを連れて参加していた。
側近がランドルフ王太子に気を遣って離れて行く。
「……どうして、お前がここにいる?」
「色々とあるんですよ」
自国の王太子がこのような表情をしていると困る。
ちょっと手助けぐらいはさせてもらおう。
落札商品
・真紅の輝きを持ったヒヒイロカネの指輪。
・金色の光を放つ宝石の付いた指輪。
・碧色の宝石が付いたネックレス。
・真っ赤なブローチ。
・大きなダイヤ。