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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第24話 ミズガルムドラゴンの壺

「そんなに使って大丈夫なの?」


 ソニアの心配ももっともだ。


 大金を動かせるオークションとはいえ、金貨100万枚など上級貴族でも用意するのが難しい。


 そんな大金を冒険者が用意する。

 間違いなく目を付けられる事になる。


 先ほどのミズガルムドラゴンの壺は、オークションに出される骨董品の中でも目玉商品である事は間違いない。


 それでも落札価額は金貨440枚。

 もしかしたらオークションの商品全てを落札する事ができるかもしれないが、そんな事をしたところで意味がない事はよく分かっている。


「実は、数カ月前に金貨を生み出してくれる巨大土竜を討伐しているんだ」


 その際に大量の金貨が手に入った事は冒険者ギルドへ報告している。

 正確な数は教えていない。それでも数万枚の金貨は手に入れたと冒険者ギルドは予想している。

 実際には100万枚以上の金貨が手に入っていた。


 大金を消費して疑われたとしても巨大土竜から大金が手に入ったと言えば納得してもらうしかなくなる。なにせ相手は今まで現れた事のない特殊な魔物。自分の知らない特性を持っていてもおかしくない。


「それなら問題ない、のかな?」


 一応は納得してくれたみたいだ。


 説明している間にもオークションが続く。


 2品目に出て来たのは大皿。これも既に故人となった芸術家が遺した物で歴史的価値があるらしい。

 こうして付加価値を与える事で落札価格を釣り上げている。


 俺たちにとっては特に価値のない代物なのでスルーする。

 3品目、4品目もそれほど興味のある品ではない。


「そうそう魔法効果のある骨董品なんてあるわけないか」

「そもそも迷宮から出て来る骨董品そのものが少ないからね」


 迷宮から出て来た芸術品など作成者不明の贋作と言っていい代物だ。

 芸術的・歴史的価値などないに等しい。


「ちょっと待って」


 5品目として出て来た竜が描かれた掛け軸。

 試しに【鑑定】を使ってみても何も起こらず、司会の説明によると大昔にいた画家が掛け軸に描いた竜らしい事が分かった。これも芸術品としての価値はあるのかもしれないが、魔法的な価値を持っているのか確信が持てなかった。


「あれは買いよ」


 しかし、アイラには確信があるのか掛け軸から目を離さなかった。


「根拠は?」

「あたしの勘」


 勘、という曖昧な物に頼った根拠。

 けれども剣士としてアイラの勘は馬鹿にしたものではないので信用する事にする。


「イリス」

「うん」


 今、落札価格が金貨15枚まで上げられていた。

 司会の紹介によれば掛け軸は100年前に描かれたもので歴史的価値はまだそれほどでもないらしいため価格は抑えられていた。


「あたしにやらせて」

「いいけど……」


 マイクを通して落札価格を言う姿を見て憧れてしまったのかウキウキとした足取りで近付いて行く。

 その様子に護衛としての姿はない。


「ま、この部屋にいる内は大丈夫だろ――」

「金貨50枚!」

「おい……」


 金貨15枚から一気に50枚へと釣り上げるアイラ。


「こういうのは駆け引きが大事なんだよ。何をいきなり釣り上げているんだ」

「だって、あたしまだるっこしい駆け引きとか苦手なんだもん」


 だから誰もが手を出しにくい金額まで釣り上げる。

 どうしても手に入れたい品物が対象の時にはいい手なのかもしれないが、この方法には大きな赤字を出してしまうという欠点があった。


「おまえ、自分の稼いだ金じゃないから問題ないとか思ってないよな」

「……てへっ」


 可愛く謝ってもダメなダメだ。

 資金的に余裕があるとはいえ、無駄遣いをしていい理由にはならない。


「まあいい。次から気を付けるよう――」

「金貨51枚」


 諦めて金貨50枚を払おうと考えていると1枚釣り上げて来る人物がいた。

 上からオークション会場にいる人たちの様子を見させてもらうと全員が上の方にあるボックス席を見上げていた。


「ほう……」


 俺たちの事を見られているのかと思ったが、彼らの視線は少し横にズレていた。

 どうやら左の個室を利用している人物が落札価額を釣り上げて来たらしく、それほど価値があるようには見えない掛け軸に対して大金を払う事に驚いているみたいだ。


「どう思う、メリッサ?」

「司会は画家の名前といつ頃に描かれた物なのかしか語っていません。もしかしたら司会者でも知らない価値があるのかもしれません」

「え~、そう?」


 俺たちと同じように掛け軸を眺めているソニアは不満そうにしている。

 彼女の調査では著名な画家が描いたものではあるものの普通の掛け軸であるという情報しか得られなかった。


「金貨62枚!」

「63枚」

「64!」

「金貨65」


 気付けばアイラと隣の個室にいる人物との勝負が白熱していた。

 1枚ずつ釣り上げて相手の心が折れるのを待っているらしい。


「チッ、なかなかしぶといわね!」


 80枚を超えたところでアイラが舌打ちをした。

 このまま行くといくらになるのか分からない。


「無駄遣いはするなよ。黒字になるのかどうか分からない掛け軸に100枚以上の金貨を懸けるつもりはないからな」

「分かっているわよ」


 アイラは100枚に届く前に相手の心が折れると予想しているみたいだ。

 しかし……


「金貨99枚!」


 アイラが最後の入札をしてしまった。


「金貨100枚」


 相手が100枚を入札してしまった。

 これ以上は出すつもりがないのでアイラには諦めてもらうしか……


「金貨101枚」

「おい!」


 俺との約束を無視して入札してしまった。


「あんたとの約束はきちんと守るわよ」

「いや、守れていないだろ」

「パーティのお金からは100枚までしか出してもらうつもりはないわよ。きちんと100枚を超えた分についてはあたしが自分の懐から出すつもりだから」


 それなら約束を守った事にはなる。

 負けず嫌いのアイラとしてはここまで白熱した戦いをした相手がいるのだから自分から下りるような真似はしたくないのだろう。


 結局、相手の心が折れたのはアイラが109枚で入札した時だった。さすがに掛け軸に対して110枚も出すのは躊躇われたのかもしれない。


「貰って来る」


 アイラが部屋を出て行く。

 オークションは1時間ごとに20分の休憩時間と途中で1時間の休憩時間が設けられており、その休憩時間の間なら落札した品物を受け取る事ができるようになっている。


 警備は万全なはずなのだが、怪盗が紛れ込んでいた事もあり警備の担当者としては後で纏めて渡したいところだった。それでも先に受け取りたい人の為に休憩時間なら受け取れるようにしているので渡された品物の管理については自己責任という事になっている。


「ただいま」


 15分ほど待っているとアイラが戻って来る。

 胸の前には先ほどの掛け軸が入った木箱が抱えられていた。

 部屋のテーブルの上に木箱を置いて掛け軸を取り出す。


「さ、【魔力変換】をやって」

「いいのか?」


 【魔力変換】を行えば掛け軸は失われる事になる。

 魔力さえ消費すれば同じ物を再度生み出す事ができるので永久に失われてしまうわけではない。


「これを見た瞬間からあたしの勘が絶対に手に入れるべきだって囁いているの。必ず役に立つ物だからやっちゃって」


 そこまで言うなら反対する理由もない。

 掛け軸が消え、魔力へと変換される。


『惜しい!』


 迷宮核の悔しそうな声が聞こえて来る。


「惜しい?」

『うん。【魔力変換】をしたら魔力が50万も手に入った』


 だいたい魔力1000で金貨1枚。

 50万が手に入ったということは金貨500枚分。


「やった!」


 金貨109枚で500枚分の利益を出した。

 アイラの勘は間違っていなかったわけだが、何が惜しかったのか?


『これで手に入れたのが「絵」の方じゃなくて「筆」の方だったならもっと多くの魔力を手に入れる事ができたんだけどな』


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