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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第23話 オークション

 会場の照明が落ちる。

 とはいえ真っ暗になるわけではない。前日のパーティー会場で真っ暗になった最中に貴族が怪盗に襲われている事もあって視界がなくなる事を恐れている貴族が何人かいた為だ。


 薄暗くなったオークション会場。

 中央にあるステージに照明が当てられる。


 そこには、スーツを着た男性がマイクを片手に立っていた。


『これよりオークションを始めたいと思います』


 まずは司会者が軽い挨拶を始める。


 次いで、ステージの脇から司会者と同じようなスーツを着た女性が車輪の付いた台車を押しながらステージの中央へと歩いて来る。

 台車の上には碧色の竜が巻き付くように描かれた薄い水色の壺が置かれていた。


「いきなり今日の目玉を持って来たんだ」


 壺を見たソニアが呟いていた。


『皆様――! こちらは400年前の帝国に仕えていた陶芸家が残された最高傑作であるミズガルムドラゴンを描いた壺です』

「ミズガルムドラゴン?」


 名前からして竜の一種なのだろうが、聞き覚えのない名前だった。


「聞いた事がないのも仕方ない。当時の帝国の中心部――現在で言えば中央よりもちょっと北寄りの場所に大きな山があるんだけど、そこを棲み処にしていた強力な竜が大昔にはいたらしいの」


 その場所は北部との交易を行ううえで押さえておきたい場所だった。


 しかし、その山を棲み処にしている全長100メートル以上もあると伝わっている巨大な竜が山を利用しようとする人を次々と喰らい、人間には利用する事ができなかった。

 だが、その竜がいるおかげで山にいる魔物や山の向こうから魔物が攻めて来るような事はなかった。


 ミズガルムドラゴンはあくまでも自分の縄張りへ入って来る者だけを襲い、対象は人間や魔物を選ばなかった。

 そんな功績もあってミズガルムドラゴンは守護竜と呼ばれていた。


 しかし、守護竜はある時を境に姿を現さなくなってしまう。


 原因は分からない。

 どこか別の場所へ棲み処を移したとも強力な冒険者に襲われて死んだともいう話が伝わっているだけで真実は分からなかった。


 だが、守護竜の話は帝国内では人気だった。

 力もあり、結果的に魔物の脅威から守ってくれた竜。


 そんな憧れの的だった竜が山の頂上で休んでいる姿を見た当時の陶芸家の中でも最高の腕を持つ陶芸家が造った壺――それがミズガルムドラゴンの壺だった。

 状態保存の魔法も掛けられているので当時の美しさを保ったままだった。


『こちらは長年行方が分かりませんでした』


 しばらくは帝城で飾られていたが、時代の流れか財政的に厳しくなって骨董品を売りに出してしまったのか。

 帝国内にいる貴族の中にはそういった芸術品を所有している者が何人もいた。


『ですが、今回新たな皇帝就任を祝してある貴族の方が所有されていた資産を提供して下さいました』


 提供、などと言っているが、実際には粛清されて持っていた財産を全て奪われただけだ。


『ミズガルムドラゴンの壺ですが、金貨10枚から始めたいと思います』

「金貨11枚」

「金貨12枚」

「13枚っ!」


 オークション会場の下の方にいる貴族が金貨を1枚ずつ釣り上げて行く。

 金貨が10枚もあれば田舎の貧しく暮らしている家族が1年間生活する事ができる。

 貴族の彼らにとっては大した金額でもないので一つの壺を手に入れる為に平民にとっては大金である金額を懸けている。


「金貨50枚」


 5人目が金貨15枚を宣言した直後、少し上の方にいる貴族がそれまでは1枚ずつ釣り上げていたにも関わらず一気に35枚も釣り上げていた。


「金貨55枚」

「60枚」


 その後は少しずつ釣り上げられて行く。

 その中に最初は1枚ずつ釣り上げていた貴族の姿はなかった。


「そういうシステムですか」


 落札価額を釣り上げている人を見ながらメリッサが呟く。


「席の高さはそのまま身分の高さを現しています。爵位が高ければ高いほど持っている資産も多くなります」


 下の方の席にいる貴族――下級貴族の持っている資産では既に金貨100枚を超えた競りに参加できるはずがなかった。参加してもよいが、間違って自分が購入する羽目になった時には間違いなく破滅が待っている。彼らには壺一つに金貨を何十枚も懸ける余裕はなかった。


 だが、そろそろ金貨100枚も越えそうになると中級貴族でも手が出しにくくなるらしい。

 落札価額の動きが鈍くなる。


「そろそろ俺たちも参加するか」


 このまま見ているだけでは面白くない。

 ミズガルムドラゴンの壺は迷宮産ではないので、【鑑定】を使用することはできなかったし、直に見た限りでは魔法的な価値があるようには感じられなかった。


「金貨100枚!」

『おおっ!』


 上級貴族が競りに加わった事で落札価額が一気に上がった。


「そこまでして欲しい物なのか?」


 パーティー会場でもそうだったけど、かなりの数の美術品や骨董品がオークションに出されていた。

 骨董品には詳しくないので価値についてはよく分からない。


「帝国は、周囲の国に戦争を仕掛けて併合することで大きくなって行った国ですから少々攻撃的な貴族が多いのです」


 グレンヴァルガ帝国の貴族事情についてメリッサが説明してくれる。


「その関係もあって戦争のない暇な時期には自らの権威を示す為に美術品などを見せて自らの権威を示す傾向にあったらしいです」


 略奪によって得た金もあったので芸術家を囲う事にも問題がなかったし、侵略によって得た地位だったためそういう人物を囲っていることこそ貴族のステータスだと信じられていた。


『他にはいらっしゃいませんか?』


 司会が他に落札価額を提示する者がいないか確認する。

 他の上級貴族に動きがないというよりも様子を伺っているような様子だった。


「とりあえず何枚?」

「そうだな……」


 イリスの質問に考える。

 壺そのものはそれほど欲しくはないが、落札価額を一気に釣り上げた時にどんな反応が起こるのか見てみたい。


「とりあえず倍で」

「了解」

「え……」


 執事役であるイリスが部屋に備えられたマイクに近付く。

 個室からオークションに参加している者は部屋のマイクから落札価額を提示し、会場に面した壁に設置された道具から声が会場内に響き渡るようになっていた。


「金貨200枚」


 俺の宣言通りにイリスが金貨200枚を提示する。

 必要ない物ではあるものの万が一落札することになっても問題ないレベルの余裕があるので落札する事になっても構わない。


「金貨210枚」


 すぐに別の個室から10枚増やされた。

 この段階になると中級貴族でも手を出せなくなるらしく、悔しそうに個室のある場所を見上げていた。中にはランドルフ王子の姿も見られる。


「なるほど。上級貴族ならこの程度の金額は簡単に出せる」


 先ほど出し渋っていたのは様子を見ていたから。

 最終的に金貨440枚で落札されていた。

 金貨200枚を提示してからはオークションに参加せず、他の落札者の動向……というよりもいくらぐらいまで余裕で出せるのかを見ていた。


「あの壺って帝国にとってはかなり価値のある物なんだよな」

「金貨100枚程度なら簡単に出せるぐらいは歴史的・芸術的価値のある物なんだけど……持っていた貴族が非合法な手段で手に入れたせいで表に出せず、しばらく行方不明になっていた事もあって価値はさらに跳ね上がっているんだよ」


 金貨200枚を提示してから様子のおかしいソニアが教えてくれる。


「詳しいんだな」

「あたしは情報収集が担当だからね。色々な人と話をしたり、調べ物をしている内に色々な事に詳しくなったの」


 ただし、情報に詳しいだけで難しい事は考えられない。

 そのためリオのパーティーではソニアが集めた情報を下にマリーさんが色々と考えるような役割になっていた。


 それでも馬鹿というわけではないので自分が調べた事はしっかりと記憶していた。


「ところで、さっき金貨200枚も出して問題なさそうにしていたけど、一体いくらぐらい用意していたの?」

「ああ……」


 そういう事か、と納得する。


 いくら稼げている冒険者でも金貨200枚は簡単に出せるような金額ではない。

 とはいえ、ソニアも俺が迷宮主である事は知っているので魔力さえあれば無限に金貨を生み出せる事は知っている。


 それでも持っているはずのない金額を持っていると不審に思われる。

 自重はしなければならなかった。


 だが、それも巨大土竜のおかげで解決されていた。


「とりあえず、今回のオークションに向けて金貨100万枚を用意してきた」


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