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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第22話 新皇帝と王太子

「こっちへ来て」


 部屋の入口とは反対側はガラスで覆われていた。

 ガラスの向こうはオークション会場が一望できるようになっており、そこからの眺めはVIP席と呼ぶに相応しいものだった。


 オークション会場は扇状に広がっていて俺たちがいる部屋は一番高い場所にあった。

 低い場所にはテーブル型の席が設けられており、オークションへ招待された客が次々と座っている。


「俺たちはあっちへ行かなくていいのか?」

「問題ないよ。リオが招待した客なんだから、あたしたちが使う部屋にいたままでも問題ないし」


 ソニアの言う通りだ。

 間違ってはいないし、貴族の多い場所へ自分から態々出向く必要もない。


 視線を低い場所から徐々に上へずらして行く。

 席の高さはそのまま身分の高さを現しているらしく、上へ行くほどテーブル席が豪華になって行った。


 さらに上の方へ行くと俺たちのように個室が与えられていた。


 左を見る。

 右を見る。

 どちらにも同じくらいの部屋があり、今いる部屋が中心だと分かる。


「このオークション会場は元々集会なんかを行う場所を帝国が買い取って急遽改装したものなの」

「財政的に厳しいのに改装したのか?」

「それくらいの余裕ならあるし、カトレア様によれば今後もオークションは開催する予定みたいだし、皇帝になったリオが貴族を集めて会議を行う場所として使うつもりでもあるみたい」


 せっかくこんな場所を手に入れたのだから今後も利用しない手はない。


 それよりも気になったリオとカトレアさんの呼び方だ。

 リオは呼び捨てなのにカトレアさんは様付け……彼女たち眷属の中でリオも含めてどのような序列になっているのか気になるところだ。


「あそこを見て下さい」


 シルビアが誰かに気付いたらしく会場の中にあるテーブル席の中でも一番高い場所にいる人物を指差していた。

 そこへ視線を向けると見知った人物がいた。

 俺たちパーティメンバーは全員が知っている相手だったので驚いていた。


「まさか、あの人が来ているなんて……」

「誰?」

「メティス王国の王太子ランドルフ殿下」


 興味津々で聞いて来たソニアに答える。


 ランドルフ殿下。

 既に王太子となった事が国内外へ発表され、王位を近い内に継承する事も国王から発表されていた。


 そもそも年齢的に遅いぐらいだった。第1王子にも関わらず、第3王子だった弟から横槍が入ったせいで20代後半になるまで王太子になる事も叶わず、国の重要な仕事をする事も叶わなかった。

 そのせいで王都の外における認知度は低い。


 帝国でもその顔を知っている人物は少なく、次期国王に挨拶へ来る貴族の姿が全く見受けられない。

 顔を知らなかったとしても傍には護衛や執事を引き連れているので誰かが挨拶に来てもおかしくないのだが、顔が知られていないせいで身分の低い者が従者を連れて背伸びをしていると思われているような感じだ。


「そもそもテーブル席にいる時点で挙って挨拶に来るような人物ではない」

「そう言えば一国の王子に対する応対ではありませんよね」


 隣国の王太子が相手なら個室へ案内してもおかしくないはずだ。


「たぶん席順を決めた担当官なりの嫌がらせ、かな?」

「嫌がらせ?」

「そう。わざと人目に付きやすい場所に案内する事で人々の衆目に晒して笑い者にするの」


 帝国は戦争で王国に大敗をしているはずである。

 そんな国の王太子に嫌がらせなどできるのだろうか?


「たぶんだけど、その担当官はあなたたちに……というよりも『たった5人の冒険者』に軍は倒されたという事実を知っている」


 帝国内でも既に有名な話みたいだ。


 しかし、たった5人の冒険者に大軍が大敗するはずがない、という常識が邪魔をして本気で信じている者はごく少数だった。

 その少数の人物は、しっかりと情報収集をして俺たちが実在している事を知っている。現在はいなくなったが、アリスターへは帝国の諜報員が何人も隠れ潜んでいたし、リオに誘われて帝国へも訪れているのでそれなりの地位にいる者なら情報を手に入れる事はそれほど難しくなかったはずだ。


 だからこそ、本気で信じている帝国人にとっては『大敗した』という事実は別の見方もできる。


 ――戦争で敗北してしまったのは、5人の冒険者が王国にいたせいであって王国に負けたわけではない。


 その考えは決して間違っていない。

 俺たちがいなければクラーシェルは確実に占領されていたし、その後も占領領域を広げられていたのは間違いないからだ。


 その結果、王太子軽視という行動に繋がっている。


「どうするの?」


 ソニアが聞きたいのは手を差し伸べるのか、という事。

 知り合いなら助けてあげるべきなのかもしれない。


「別に必要ないだろ」

「そうですね。これも王太子として知られるようになったランドルフ殿下にとっては必要な儀式です。今後はこういった事が増えて来るはずですので、その度に私たちが手を差し伸べるのも王族としては失格でしょう」


 メリッサの言葉に賛成だ。

 これぐらいの事は自分でどうにかできるようになってくれなくては困る。


「ほら、オークションの間は俺のパートナー役なんだから落ち着け」

「……はい」


 メリッサの手を握って落ち着かせる。

 その様子を見ていたシルビアたちは何も言わない。


 いつもとは違って辛辣な言葉を発していたメリッサ。彼女は第3王子に故郷を奪われているので一応は許したとはいえ、王族に態度まで温和にするつもりはなかった。

 困っていたところで彼女にとっては何も感じない。


「なんだ。ちゃんと手を差し伸べる相手がいるじゃないか」


 手を握りしめていたランドルフ殿下に近付くリオの姿が見える。


 リオが顔を赤くしていたランドルフ殿下に話し掛けていた。

 ランドルフ殿下は実年齢よりも上に見えてしまうので年下のリオが話し掛けて落ち着かせようとすると子供が大人を諭しているように見える。


 何を話しているのか気になるところだ。


「聞きたい?」


 ソニアが訊ねて来るので頷く。


「なにやら顔色が優れないようですが、どうされました?」

「いや、気にしないでくれ」

「申し遅れました。私、グレンヴァルガ帝国の皇帝となったグロリオ・グレンヴァルガです。若輩者の皇帝ですが、よろしくお願いします」

「……っ! 初めまして、メティス王国の王太子であるランドルフ・メティカリアです。本来なら昨日のパーティーにも参加したかったのですが……」


 新皇帝に挨拶をする為に帝国を訪れたランドルフ殿下。


 招待されていたのは国王陛下だったが、名代としてランドルフ殿下が帝国を訪ねていた。招待状を出した帝国の担当官も国王自らが訪問するとは思っておらず、名代として訪れた者を嘲笑うつもりでいた。

 国王も隣国でありながら訪問経験のないランドルフ殿下の為に名代として帝国を訪れる事を許可した。


 しかし、慣れない初めての遠征とあって昨日の午前中に帝都へ着いていたにも関わらず疲れてしまったランドルフ殿下は、体調が優れないと言ってパーティーへの参加を断念せずにはいられなかったらしい。


「ま、普通に馬車で来たなら疲れるのは仕方ないわよね」


 【迷宮同調】でリオの見聞きした内容を魔法で再現してくれたソニア。


 ランドルフ殿下の現状を聞いたアイラは同情的だった。俺たちは全速力で駆け抜けたので1週間ほどで辿り着く事ができたが、王族が馬車で移動するとなると途中にある街で宿泊しながらの移動となるので想像以上に時間が掛かる。

 それで辿り着いた安心感から疲れ果てても仕方ない。


「……王族なら、それぐらいは耐えるべきです」

「メリッサの言葉は置いておくとして……」


 普段は頼りになるのだが、王族を相手にした時だけはポンコツになるのでメリッサの意見は脇に置いておく。


「春先に起こった戦争ではご迷惑をお掛けしました」

「いえ……」

「不幸な出来事がありましたが、それは先代皇帝の仕出かした事。もちろん皇帝を引き継いだ者として十分な謝罪をさせてもらうつもりですが、お互いに国を背負う次代の指導者。過去の事は水に流す事にしましょう」

「は、はい……」


 ランドルフ殿下は完全にリオの雰囲気に呑まれていた。

 彼も鍛えているはずだが、それはよくて兵士以上騎士未満。一流の冒険者よりは確実に弱く、迷宮主でもあるリオに勝てるはずがない。


 リオがランドルフ殿下の傍を離れて行く。

 背を向けられているランドルフ殿下には見えなかったが、上から見下ろす事ができる俺たちには離れて行くリオがほくそ笑んでいるのが見えた。


「あいつ、助けたわけじゃなかったんだな」


 次期国王を言い負かした新たな皇帝の姿に帝国貴族は感心していた。

 俺との約束があるので王国に攻め込むような真似はしないはずだが、次期国王に負けない姿を見せることで着実に自分の賛同者を増やしていた。


「しっかりしているよ」


 言葉は年下らしく丁寧だったが、完全にリオが優位に立っていた。


 その後はしばらく会場にいる人たちを観察していると会場内の照明が落ちて暗くなる。

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[一言] 殿下も迷宮主になったんじゃなかったっけ?
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