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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第17話 本物との違い

 鼠が足元を駆け抜ける。

 月明かりだけが頼りな状況では小さな鼠は見逃してしまう。


 そうして逃げ果せるのが怪盗の目的だろう。


「クソッ」


 殺すつもりで兵士が剣を鼠へ向けるが、地面に突き刺さるばかりで鼠には全く当たらない。

 俺が動く事はない。


「イリス」

「うん」


 確認してみたところ準備は終わっていた。


「私を中心に半径50メートルで展開済み」

「それならそろそろだな……」


 ――ズサッ!


 誰かが転ぶ音が響き渡る。

 音の発生した場所へと目を向ければ見知らぬ人物が50メートルほど離れた場所に倒れていた。


 イリスによって展開されていた【迷宮結界】には、結界に触れたスキルや魔法を無効化する効果があった。

 当然、鼠に変身した状態で結界に触れれば変身は強制的に解除され、鼠で走っていた時の姿勢のまま人間へと戻り四つん這いになる。


「そろそろ観念したらどうだ?」


 4人で怪盗を取り囲む。


 その時、シルビアから連絡が入る。


「派手に登場した怪盗の方も俺の仲間が捕まえたらしいぞ」

「俺の【変身】を簡単に解除した。あいつを捕まえたっていう話もどうやら間違いじゃないらしいな。だが、こんなところで諦める訳にはいかない!」


 再び鼠へと変身する怪盗。

 ちょこまかと兵士の間を逃げ回っていた。

 イリスから離れすぎてしまうと変身が解除されてしまう事には最初の強制解除で気付いたらしい。


 怪盗が自分から変身を解除した。


「……ん?」


 鼠から兵士の姿へと戻った怪盗。

 ただし、今度は顔まで全く同じ人物がいた。


「そう来ましたか」

「どういう事だ?」

「怪盗は夜の暗闇に乗じて逃げるのも不可能だと判断しました。そこで兵士に紛れる事にしたのです。この場合、どちらかは怪盗でもう片方が善良な何の罪もない兵士という事になります」

「そんな事をして何になるんだ?」


 どちらかは怪盗だ。

 だったら両方とも捕縛すればいいだけの話だ。

 善良な兵士の方には申し訳ないが、後で謝る事にする。


「可能なら、その手段は採りたくありません」


 俺の考えを見抜いたメリッサがバッサリと切り捨てる。


「私もメリッサさんと同じ意見です」


 マリーさんからも反対されていた。


「皇帝の招待客が怪盗を捕まえる為とはいえ無実の兵士を捕らえた――これから色々と協力が必要な状況で皇帝の力に不信感を抱かれるのも困ります」


 怪しければ捕らえる。

 そんな噂が広まってしまうと皇帝の統治にも影響してしまうらしい。


「しかし、どうやって本物を見分けますか?」


 試しに振り子(ダウジング・ペンデュラム)を使用してみる。

 だが、何も反応しなかった。

 今の姿は先ほどまでの姿とは全く違うせいでイメージが足りずに反応しない。怪盗を見分ける為の対象として使用していた指輪も回収してしまったので何を対象に使用すればいいのか分からない。


「俺が本物です」

「いいえ、俺です」


 全く同じ顔をした兵士が自分こそ本物だと主張する。

 ご丁寧に声まで同じため声を聞いても判別できない。


「そう言われても……」


 本人しか知らない事を言われても彼について知らない俺たちには判断材料がない。

 本物の言葉が事実だと判断できる同僚や上司の言葉を信じるのも危険だ。もしも間違っていた場合には判断した人物の責任にも及ぶ可能性がある。


「もう、迷宮結界がある所まで二人とも歩かせればいいんじゃない?」


 アイラが危険性のない方法を提案する。

 迷宮結界に触れさせるだけなら本物に危険はない。


「それがいいかもしれないな。逃亡される危険性があるから俺とアイラで偽物だと分かった方を即座に捕らえられるよう傍に張り付いて居よう」


 アイラが頷いたのを確認して左側にいた兵士の横に立つ。

 兵士に囲まれた状況で態々兵士に紛れ込んだ以上こここまでは怪盗にも予想できるはずだ。それでも兵士に紛れる手段を選んだ以上は迷宮結界で変身が解除されても逃亡する手段に心当たりがある。


 しかし、他に安全そうな方法が思い当たらない以上は……


「本物がどっちなのか教える程度の手助けなら問題ないでしょう」


 そんな杞憂はマリーさんの言葉によって吹き飛ばされた。


「え、マリーさんにはどっちが本物か分かっているんですか?」

「ありがとうございます!」


 俺の傍に立つ兵士が満面の笑みを浮かべる。

 自分の変身に絶対の自信を持つ怪盗は安全だと信じ込んでいる。


「偽物はあなたですよ」

「え……」


 その笑みが一瞬で凍り付く。


「【変身】スキルは使用者のイメージに基づいて変身します。かなり観察してから変身したみたいでしたけど、イメージが拙いせいで所々違いがありますよ」


 俺には同じ人物にしか見えない。

 しかし、マリーさんに言わせると違いがあるらしい。


「何を根拠に……」

「本物よりももみ上げが長い、眉が細い、鼻が低い、歯が綺麗、右手の甲にある古い傷跡がない、ズボンの右ポケットからはみ出ていたハンカチがいつの間にかなくなっている……」


 細かい所まで本物との違いを指摘するマリーさん。

 言われて確認してみるともう一人の兵士よりも微妙にもみ上げが長いし、眉も細いように見える。本物と目される方のズボンの右ポケットを見てみるとハンカチが一部だけ本当に飛び出していた……他の指摘した箇所にも言った通りの違いが見えるが、あまりに微妙過ぎる。


「そんな細かい所まで覚えているはずがありません!」

「言ったでしょう。私は人の顔を覚えるのが得意なんです」


 そういうレベルを超えている。

 が、そもそも関係がなかった。


「私のスキルで彼を捕らえた場合の未来を視ました。間違いなく彼が怪盗です」


 俺にだけ聞こえるよう近付いてから小さな声で教えてくれる。


 マリーさんには迷宮眷属になって手に入れた【未来観測(フーチャービジョン)】がある。必要な情報を得る事によって未来に起こる光景を覗く事ができるスキル。

 本物との差異、指摘された時の反応から必要な情報が集まったみたいだ。


 未来が見えた以上は間違いもない。


「そもそもいつの間に本物の顔を覚えたんですか!?」

「鼠に【変身】する前にこれ見よがしに兵士の事を見ていれば何かあると思うのが普通です。私なら3秒も観察すればあの程度の事は把握できます」

「クソッ、もっと離れてから使うつもりだったのに……!」


 変身して離れる事を諦めた怪盗が懐から何かの筒を取り出す。

 それを軽く投げると筒の中身が弾け、昼間よりも明るい世界の全てを白く塗り潰すような光が周囲に満ち溢れる。


 何も見えない。


「うわっ!」

「何も見えないぞ」

「どうなっている!?」


 目を潰された兵士たちに動揺が広がる。

 その隙に怪盗が【変身】を行う。


「怪盗は逃走手段をいくつも残しておくものだ」


 怪盗のそんな言葉が聞こえて来る。


 光によって視界が確保できなくなった兵士たち。

 そんな中でも自分だけは視界を確保できる何かへと変身したらしい。


 本来の予定では迷宮結界に触れるギリギリ、もしくは触れた瞬間に明かりを生み出す魔法道具をつもりだったのかもしれない。傍に俺が張り付いていてもいきなり視界が潰されれば逃走する怪盗に対処できないかもしれない。


 10秒ほどすると視界が元に戻る。


「クソッ、逃げられたか」


 怪盗の立っていた場所を見て誰もいない事を確認した兵士が悔しさを露わにする。


「いや……」


 下を指差して兵士に俺の足元を見るように言う。

 そこでは地面に叩き付けられて気絶していた青年がいた。兵士の格好もしていない青いシャツに灰色のズボンを履いた帝都のどこにでもいそうな黒髪の青年。


 気絶したことによって【変身】スキルが強制的に解除された怪盗の本当の姿。


「あの光の中で捕らえたのか?」

「視界が潰された程度で見逃すようではAランク冒険者は務まらない」


 戸惑いを隠せない隊長にイリスが教える。

 何も見えていない状態でも【変身】スキルを使用しようとしている時の魔力を感じ取る事ができる。そもそも手を伸ばせば届く距離にいたのだから光に動揺しても足を踏み出せば簡単に気絶させる事ができる。


「さて、これで怪盗は捕まえましたよ」

「それでは二人ともパーティー会場へ運んでください」


 パーティー会場を騒がせた罪を問う為にも、皇帝の権威を示す為にも多くの人の前でリオの手によって断罪するつもりらしい。


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