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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第12話 宝石

 宝石が纏めて置かれていた場所で一番目を引いたのはダイヤだ。

 キラキラと輝くダイヤは他の品物よりも分厚いガラスケースに入れられており、常に使用人の誰かが張り付いていた。

 間違いなくオークションで最大の目玉となる品物だ。


「綺麗な宝石ですね」


 シルビアもうっとりとした表情で眺めていた。

 ただ、先ほどのような骨董品を眺めていた時みたいなテンションではない。

 女性として憧れるような品物ではあるものの欲しいとは思っていないみたいだ。


「お、結構な価値があるな」


 試しに【鑑定】を使用してみたところランクがBと表示された。


 それだけではない。宝石には内部に周囲の魔力を取り込み、溜め込む力がある。迷宮で何十年という時間埋まっていたらしいダイヤは長い時間を掛けて魔力を取り込み、ダイヤを大きくして行った。

 あのダイヤを【魔力変換】すればかなりの魔力が手に入る。


「あれは相当な値が付きそうだね」


 ダイヤを眺めていると隣に立ってダイヤを見ていた男性が声を掛けて来た。

 男性は30代ぐらいの男性はスラッとした長身に金髪を後ろに流した爽やかな笑顔を浮かべたイケメンだった。


「ええ、そうですね」

「私の名前はガランド・アメント。失礼だが、先ほどの皇帝陛下との気さくなやり取りを見させてもらった」


 リオとの挨拶を見られてしまっていたらしい。

 俺も他の人の挨拶を見ていたので見られていた事そのものは問題ない。


 ただ、新皇帝と少しでも親密になろうとしている人が多くいる中で砕けた口調で話をしている俺は異様に見えたはずだ。


「君は冒険者だね」

「そうです」


 パーティー会場に入ったばかりの時にも面倒事を起こしてしまっているので否定するのも間違っている。後で調べられたりして冒険者だと知られる方が面倒になる可能性がある。

 俺がリオと親密だと知って話し掛けて来る意図。


「私は3年前に父から領主を継いだばかりでね。新皇帝とは仲良くしていきたいと考えている」

「だから、俺に仲介をして欲しいと?」

「頼めないかな?」


 ガランドさんはあくまでも下手から頼み込んでいる。

 貴族が冒険者を相手にする態度としてはあり得ない。


 彼の態度にはそれなりに好感が持てるが、これからさらに忙しくなることが分かるリオに迷惑を掛けるような真似はできない。


「残念ですけど仲介はできません」

「そうかい」


 ガランドさんはあっさりと引き下がった。


「実は、私の領地は現在開拓の真っ最中でね」


 そう思えば話題を全く違う方向へ変えて来た。


「今回、帝都へ来たのはパーティーに招待された、というのもあるんだけど同時に優秀な冒険者を見つけて開拓地の奥にいる厄介な魔物を討伐してもらうよう依頼をするのが目的だったんだ」

「それを俺に頼みたい、と?」

「新皇帝陛下は優秀な冒険者だったらしい。同じ冒険者でこのようなパーティーにいるという事は、招待したのは新皇帝陛下とのやり取りから彼だろう。ただ仲が良かったから、というだけでパーティーに招いたりはしない。おそらく個人的に恩義があったりしたのだろう」


 ……鋭い。

 個人的に話をしていただけで色々と探られてしまっている。


「そこを探るつもりはないから安心していい」

「……もしかしたら新皇帝の弱味になるかもしれませんよ」

「自分から藪蛇を突いて噛まれるほど愚かではないつもりだ。彼とは適度な距離を保って付き合っていた方がいい。距離を縮めるなら君みたいにもっと親密になってからでなければならない。彼の弱味でも握って上に立とうものなら、彼は私の持っている何もかもを破壊し尽くすだろう。どこかの伯爵が自滅したようにね」


 ガランドさんはネリアさんに毒を盛って脅した愚かな伯爵が一族郎党粛清された事を知っている。

 弱味を握ってもリオなら全力で相手を蹂躙してから解決に乗り出す。

 伯爵がどのような末路を辿ったか知っているなら、自滅願望でもある者でなければ弱味を握ろうとは考えない。


「私は父から受け継いだ領地が大切だ。領地を守る為なら何でもするつもりだが、領地を破滅させるような事態に繋がるような真似をするつもりはない」


 リオと敵対するつもりはないみたいだ。

 おそらく優秀な冒険者を探している事は本当みたいだ。


「俺が信用できるんですか?」

「少なくとも新皇帝のお墨付きだ」


 ガランドさんにとってはそれだけで信用できるらしい。

 溜息を吐く。はっきり言って討伐対象が多少厄介な程度なら俺たちでなくても対処できるはずだ。他の冒険者の仕事を奪うような真似はしたくない。


 だが、ガランドさんは俺の溜息の意味を勘違いした。


「報酬に宝石を出そう」

「宝石、ですか?」

「私の祖父は宝石を集めるのが趣味だったみたいでね。私の屋敷にはいくつもの宝石が手付かずで遺っている。中には白金貨で何十枚という価値がある物まで遺されているはずだよ」


 ガランドさんの右手の人差し指には白い宝石の付いた指輪があった。


 ――なっ!?


 彼の手前、動揺を表わさないようにしながらランクSの指輪に驚く。


「申し訳ないが、これはあげられないな」

「何か思い入れのある品物なんですか?」


 驚いている俺をフォローする為にシルビアが尋ねてくれる。


「これはアメント家を受け継ぐ者が代々継承して来た大切な指輪なんだ。申し訳ないが、これだけはどうしても渡すわけにはいかない」


 先祖代々の指輪。

 そんな大切な品物を譲ってもらうわけにはいかない。


 ガランドさんは宝石の散りばめられた腕輪、首から提げられたペンダントと他にも宝石を所有していた。家宝の指輪には劣るものの素人目に見てもそれなりの値段がしそうな宝石だ。


「ここで出会ったのも何かの縁だ。よければ魔物討伐を引き受けてもらえないだろうか?」

「残念ですけど、今は皇帝陛下から別の依頼を引き受けているので無理なんです」

「そうか」


 残念そうに離れて行くガランドさん。


「少しぐらいなら手伝ってあげてもよかったのではないですか?」

「そうなんだけど……」


 無碍にしたのは失敗だったかもしれない。

 貴族にしては人の好さそうな人だったし、人助けのつもりで依頼を引き受けるのも良かったかもしれない。


「ま、オークションが終わっても冒険者を探しているようなら手伝う事にしよう」

「はい」


 シルビアもガランドさんの事を気に入ったらしく笑顔で頷いていた。


「楽しそうね」

「アイラ……」


 疲れた表情をしたアイラ。

 両隣にはメリッサとイリスが支えるように立っていた。


「楽しかったですか?」

「ええと……」

「楽しかったんだ」


 メリッサとイリスもどこか疲れた表情をしていた。

 3人には仕事を頼んでいた。というよりも手分けしてするつもりだったのに俺とシルビアにできた数が少ない。


「仕事の方は順調か?」

「オークションに出品される事になる品物全てに【鑑定】を掛けて来ました。結果は【迷宮同調】でお知らせします。私は色々な人と話をしながらだったので、それほど多くできたわけではありませんが、二人が頑張ってくれました」

「助かる」


 申し訳なかったがパーティーの方を楽しませてもらった。

 色々な料理を楽しませてもらったし、鑑賞目的でのんびりと骨董品や宝石を眺める事ができた。

 それに人の好さそうなガランドさんとも知り合えた。


「この埋め合わせは必ずする。何かして欲しい事があったら何でも言ってくれ」

「そうね……」

「3人ともお腹空いているでしょ。パーティーの料理だけど食べて元気出して」


 いつの間にか皿に色々な料理を載せたシルビアがぎこちない笑顔を浮かべながら料理を手渡していた。

 彼女なりに申し訳なさがあった。


「わたしにできることがあったら何でも言って」

「そうね……」


 願い事を考えるアイラの耳に美しい音色が届く。

 会場へ楽器を携えた人が入って来て演奏を始め、照明の一部が落ちると暗くなる。


「そう言えば、しばらくするとダンスができるようになるって言っていたわね。という訳でシルビアへの罰は、あたしたちの中でマルスと最初に躍る事」

「ど、どうして!?」

「あんなに練習したんだからあたしもパーティーで踊りたい。けど、真っ先に躍るような度胸もない」


 昨日、一昨日とパーティーに出席するということでダンスの練習をマリーさんとメリッサにしてもらっていた。

 マリーさんは詐欺師として必要な技能の一つというだけでなく、側室ということできちんとした教育を受けている最中で、メリッサは幼い頃に学んでいたということで踊る事ができた。


「ま、俺はいいけど」


 どうせ全員と踊らなければならないのなら誰から躍っても変わらない。

 一生懸命練習していたのだから付き合うぐらいで償いになるなら安い物だ。


 シルビアの手を取ってホールの中央へと移動する。


『今日はシルビアにとってせっかくの休暇なんだから、しっかりとエスコートしてあげなさいよ』


 アイラたちの傍を離れる瞬間に念話が届く。

 罰だ何だと言いながらいつも彼女たちなりに料理や掃除をしてくれるシルビアの事を想ってくれていた。


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