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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第10話 新皇帝の事情

 パーティー会場へと姿を現したリオ。

 以前に出会った時は動きやすい冒険者服を着ていたが、今のリオは豪華な服の上にマントを羽織っており、頭には王冠のような装飾があった。

 堂々とした振る舞いにパーティー会場にいた誰もが『皇帝だ』と思った。


 その後ろには目を見張るほどの金髪の美女と白髪の女性がいた。

 皇妃となるカトレアさんと彼女のサポートの為に控えているボタンさんだ。二人ともドレス姿で貴族令嬢だと教えられれば信じてしまいそうなほど綺麗だった。


「皆、よく集まってくれた。私が新たに皇帝となるグロリオだ。知らない者もいるので名乗らせてもらうが、先々代皇帝の息子で皇族の末席に名を連ねていた者だ。詳しい事は言えないが、皇族だけに与えられる試練を突破した事により皇帝となる事が認められた」


 リオの言葉は騒がしかったパーティー会場へ響き渡った。

 誰もが皇帝となる男の声に聞き入っている。


 元冒険者で試練を突破する事によって皇帝となったのは少しでも情報を集めた者にとっては有名な話だ。だが、最後に迷宮の主となり皇帝となった者は200年以上も前の話だ。


「だが、新参者である事には変わりない。未熟な皇帝ではあるものの国を発展させて行きたいと考えている。その為にも帝国の皆は力を貸して欲しい。そして、諸外国の皆さまには今後もより良き付き合いを期待しております」


 メイドからグラスを受け取ると掲げていた。


「話はここまでにしてパーティーを楽しみ下さい。乾杯」

『――乾杯!』


 グラスを打ち付け合う音が聞こえる。

 俺もシルビアとグラスを打ち付け合わせる。


 そうしているとワイワイとした騒ぎが再び広がり始め、主賓席に座ったリオの前に列ができあがっていた。


「あれは?」

「リオさんと少しでも繋がりを持とうとする人たちが挨拶をする為に並んでいるんです」


 カトレアさんからパーティー時に起こる事を聞いていたシルビアが教えてくれる。二人は戦った経験から本当に仲良くなっていた。


「俺たちも並んだ方がいいのかな?」


 顔を覚えて貰う必要はない。

 お互いに迷宮主という最大の秘密を握り合っている状況だ。

 しかし、リオに招待された身なので感謝を伝える必要はあるだろう。


「そうですね。挨拶はしていた方がいいでしょう」


 列に並ぶ。


 待っている間、リオに挨拶をしている人が何をしているのか見せてもらう。

 新皇帝の前に立った貴族は自分の名前と爵位を名乗り、身振り手振りで自分にどんな事ができるのかを必死にアピールしていた。これまで表舞台に全く出て来ず、見向きもしなかった相手が権力のトップに立った。

 権力を武器にしている貴族にとってこれほど困る事は他にないだろう。


 話を聞いているリオはつまらないのを必死に堪えている様子だった。

 彼にもアピールしている貴族たちが既得権益に必死にしがみ付こうとしているのが分かっている。だが、そんな彼らの協力がなければ国家運営を続けて行くのは困難だと分かっている。だからこそ堪えているのを悟られないよう耐えている。


 それでも中には堪える事をしない相手がいた。

 その相手は自分の伯爵という爵位だけを自慢するばかりで何をして来たのか自分の功績をアピールしていなかった。

 冒険者から成り上がったリオにとって生まれ持った爵位にはそれほど興味がない。それほど、というのは迷宮を攻略できたのもリオの生まれが皇族だったからだ。相手の生まれを全て否定してしまうと自分の事も言えなくなってしまう。


 飽き飽きとしながらも話を聞いていた。


 俺たちの番が来る頃には数十分が経過していた。


「皇帝陛下、本日はお招きいただきありがとうございます」

「よせ、俺たちの仲だ。変に畏まる必要はない」

「そう?」


 必死なアピールを聞いて飽き飽きとしていたリオは次に並んでいたのが俺とシルビアだと知って笑っていた。


 リオの両隣にはカトレアさんとボタンさんがおり、二人とも笑っていた。

 お互いに正体を知り合った仲なので気兼ねすることなく話せる。


「どうだ? パーティーは楽しめているか?」

「ああ、料理は美味しい。仕事の方はこれからするつもりだ」

「面倒な仕事を頼んでしまって申し訳ない」


 リオが謝っているのは怪盗捕縛の依頼だ。

 本来なら神酒(ネクタル)のお礼にパーティーを楽しんでもらうつもりだった。


「俺が動ければ簡単に片付くような問題なんだけどな」

「事情はカトレアさんとマリーさんから聞いている。だから気にする事はない」


 探し物が簡単に見つかる『天の羅針盤』があれば怪盗は簡単に見つかる。

 対象を『怪盗バット』にしても本人を見つけられるだろうし、何らかの理由で反応しない場合でも盗まれた宝の場所は確実に分かる。手元に置いていれば怪盗を捕まえる事ができるし、何よりも宝を取り戻す事は難しくない。


 だが、リオの立場が行動できなくさせている。

 冒険者から成り上がったリオは、国に長年仕えてくれた重鎮たちから見下されている。実際、迷宮の力と冒険者としての戦闘力は持っているものの政治的な能力に関しては不足していると言っていい。


 だからこそ皇帝という最高権力の椅子に座りながらパーティー会場に姿を現してすぐに協力してくれるよう頼み込んだ。

 皇帝という絶対的な立場を思えばあり得ない。


「重鎮たちからは冒険者のような真似事は控えるようにと言われた。だから、俺は一切の協力ができない。まったく……体面なんかを気にするぐらいなら怪盗による被害の方をどうにかするべきだろうに」


 リオの言葉はもっともだ。

 それでも立場を気にしてしまうのが貴族という存在だ。

 今の彼にできたのは捕縛できる可能性が最も高い者に頼み込むだけ。


「前々回の怪盗の被害者はとうとう俺の所まで泣き付いて来た。できる事なら助けてあげたい。だが、無理をしてもらう必要はない。盗まれた品を取り戻すだけならどうにでもなる」


 それだけ俺に恩義を感じてくれている。

 依頼主が失敗してもいいと言っている。だが、依頼を受けた冒険者として受けた依頼を放棄するような真似はできない。


「こっちは色々と考えたうえで必要な事をするつもりでいる。怪盗は必ず捕まえさせてもらう」

「なら、それまではパーティーを楽しんでくれ」


 簡単に挨拶を済ませてその場を離れる。

 皇帝としてリオが話をしなければならない相手は他にたくさんいる。俺たちがいつまでも話をしているわけにはいかない。


 料理が置かれているパーティー会場の中心ではなく、壁の方へと向かう。

 パーティーが開かれた理由は、新皇帝であるリオの披露もあるが、それと同時に新体制となったグレンヴァルガ帝国の威信を見せつける意味があった。


 最も分かり易いのが所有している財を見せつける。

 パーティー会場の至る所にはオークションに出品されることになる絵画や美術品といった物が飾られていた。


「なかなかの物ですな」

「この絵など100年ほど前に亡くなられた帝国の宮廷画家が描かれた当時の皇妃様だそうです。大変美しい方だったと聞いていましたが、この絵を見る限り誇張などではなかったようですな」


 白いドレスを着た女性が描かれた絵を見ていた二人の貴族男性の会話が聞こえて来る。

 100年以上も前に描かれた絵だったが、状態を保存する為の魔法が掛けられている為、今でも当時の美しさを保ったままだった。


 他にも帝国内にある美しい秘境を描いた風景。皇妃様と同じように著名な人を描いた肖像画。何を描いているのかよく分からない絵まであった。芸術のよく分からない俺には絵画に興味が持てない。


 リオがパーティーへと招待してくれた本来の目的はオークションに出される品物を俺に確認させる為だ。直に確認すれば掘り出し物を【鑑定】で見分ける事ができる。


 美術品は誰かに見せて楽しませる為にある。

 俺のように実用性を求めている者が手にするべき物ではない。


 絵画の傍には壺などの骨董品が置かれていた。

 多くは絵画と同じように興味を惹かれるほどではなかったが、ある壺へと興味をそそられた。


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