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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第9話 帝城のパーティー

 馬車に揺られること数十分。

 貴族街から帝城へと無事に辿り着く。


 さすがに城へ行くというのに徒歩で向かうわけにもいかず、身分を保証して貰う為にも用意してもらった馬車で向かう事になった。


 時刻は既に日が暮れており、夜の帳が下り始めていたが灯りが焚かれていたおかげで帝城は中だけでなく外まで明るかった。


 帝城の周囲は高い壁で囲まれており、唯一の出入り口では何人もの兵士によって厳重に警備されていた。

 たとえ帝城に入ろうとする者が貴族であろうとも検問の前で確認が行われていたが、俺たちの乗っている馬車だけは簡単に目視されるだけで通してもらう事ができた。それと言うのも馬車を用意したのが新皇帝で、御者を務めているのもリオが用意した人物だったため簡単に身分証を提示するだけで信用してもらえた。


 馬車は壁を潜ると城の入口前で止まる。

 俺たちはこの場で下りて城の中へと向かう。借りた馬車はパーティーが終わるまで近くの駐車場にでも止められる事になっている。


 城の使用人の手によって馬車の戸が開かれたので下りる。

 すぐにシルビアたちも下りて来たので手を差し出して支える。


「じゃあ、行こうか」


 馬車を下りた時と同じように手をシルビアの前に出す。


「えっと……」

「今日ぐらいはエスコートさせてくれないかな?」

「わたしはご主人様のお世話をしないといけないので」

「必要か?」


 城へ来る為に使用した馬車の扉さえ使用人が開けてくれる。

 招待客の中には信用の置ける自分の使用人を連れて来ている者もいるかもしれないが、給仕はホストである城の方に任せておけばいい。


「仕事はあたしたちの方でやっておくから、こういう時ぐらいはゆっくりしておいた方がいいわよ」

「アイラ……」

「そういうわけでよろしくお願いします」

「任された」


 やるべき事はあるものの全員でやる必要もない。

 仲間からの許可も貰えたので改めてシルビアに尋ねる。


「ご一緒していただけないでしょうか、お嬢様」

「……はい」


 差し出した手をシルビアがそっと掴んでくれる。

 シルビアと二人で先へ進ませてもらうと執事服を着た男性が現れ、パーティー会場へと案内してくれる。


 そこは大きな広間で、パーティーが開かれている今日は広間の中央部分に白い布が掛けられたいくつものテーブルが置かれ、招待客がテーブルの上にある料理を楽しんでいた。

 招待客は誰もが上等な服を着ており、一目で貴族だと分かる。


「あの、場違いではないでしょうか?」


 生まれが普通の村娘であるシルビアはパーティー会場の空気に呑まれていた。

 綺麗なドレスで着飾り、貴族令嬢だと思われてもおかしくないほどなのに度胸は簡単には身に付かない。


「大丈夫。誰にも不審に思われていないみたいだから」


 現にパーティー会場へ入っても不審人物を見るような目を向けて来る者はいない。

 その為に用意したスーツとドレスなのだから不審な目を向けられては困る。

 ちょうど視界に金髪の貴族令嬢の姿が映ったので失礼だと思いつつも見比べさせてもらったが、身内補正を含めても負けていないと思える。


 だが、口でどれだけ言ったところでシルビアは納得してくれない。


「だったら、俺の世話をしてくれないか?」

「世話、ですか?」

「こういう場所に男性が来た時、隣にはどんな女性がいる?」

「あ……」


 シルビアの視線の先には会話をしている40代ぐらいの貴族男性が二人いた。

 片方の男性の隣では同じくらいの年齢の女性が微笑みながら男性の会話に加わっている。おそらく男性の奥様なのだろう。

 自分に何を求められているのか分かってシルビアが顔を赤くしていた。


「よろしいですか?」


 料理を取りに移動していると一人の男性が話し掛けて来た。


「私はクダン男爵家のパルフと申します。帝都へはあまり来ない故、新たに皇帝となられる方のお姿を恥ずかしながら知らないのです。貴方はご存知ですか?」


 クダン男爵と名乗った男性はパーティー会場にまだ現れていないリオについて少しでも情報を集めたいのだろう。

 冒険者を相手に情報を集めれば人相などの情報は簡単に集まる。


 しかし、彼が知りたいのは皇族としてのグロリオだ。

 パーティー会場にいる人たちを相手にした方が有意義な情報収集になる。


「少し知り合う機会がありましたので知っております」

「ほう、それは凄い。つかぬ事をお伺いしますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「マルスと言います」

「つ、妻のシルビアです」


 名乗らない訳にはいかない。

 変に名乗らずにオドオドしている方が不審者だと思われてしまう。

 ただ、妻だと名乗る事への緊張からシルビアが噛んでしまっている。


「失礼ですが、家名の方は?」

「申し訳ありません。私は貴族という訳ではないのです」

「そうですか。立派なお召し物をされているため、貴族だと思ってしまいました」


 クダン男爵の目には侮蔑が含まれていた。

 パーティーには招待客でなければ参加する事ができない。

 貴族でなければ帝国の中でも重鎮と取引のある商人が新皇帝と顔を繋ぐ為に無理を言って招待してもらったぐらいだ。


 そんな相手には畏まる必要はない、という事だろう。


 本当は適当な事を言って流そうと思っていたが、隣にいるシルビアにまで侮蔑の含まれた視線を向けられるのは我慢ならない。


「たしかに貴族ではありません。それどころか冒険者です」

「やはり、所詮は成り上がり者。新皇帝の主催するパーティーにこのような下賤な者が紛れ込んでいるようでは程度が知れている。おい!」


 近くで待機していた執事を呼ぶ。

 ドレスコードは守っているものの不審者がいるとして叩き出すつもりなのだろう。


「しかし、新皇帝であるグロリオ様に懇意にして頂いた事がありますので今回のパーティーにも招待してもらう事ができました」

「……」


 クダン男爵は開けた口が塞がらなかった。

 パーティーに冒険者が紛れ込んでいる。それを見破った者として周囲の注目を集めようと後ろにいる執事を呼ぼうとしていたみたいだけど、俺がリオと個人的な繋がりがあると知ってあっさりと引いていた。


「どうされましたか?」


 クダン男爵に呼ばれた執事が近付いて来た。


「い、いや……何でもない!」


 困ったクダン男爵が離れて行く。

 彼にしてみれば個人的な繋がりを持つ俺と話をして余計な事を言ってしまった為に、その言葉が伝わったリオに変な印象を抱かれてしまう方が問題だ。

 だから、さっさと退く事にした。

 こちらとしては被害もないので問題ない。


「では、パーティーをお楽しみください」


 執事が離れて行く。

 そのまま会場内にいる招待客の対応をしていた。


「凄いですね」

「何が?」

「あのように怒った客を相手にしていたにも関わらず、冷静に落ち着いて対応していました。わたしもあのようになりたいです」


 今でもシルビアは十分に役立ってくれているのだが、まだまだ精進したいらしい。

 なんとなく帝城に仕えている使用人に目を向けていると忙しいながらも落ち着いて料理や飲み物を運び、招待客の要望に応えていた。目で追っていると、メイドの一人と目が合う。


「飲み物はお決まりでしょうか?」


 メイドが持つトレイにはグラスに入ったシャンパンなどが載っていた。


「では、お酒以外の物をお願いします」

「わたしも」


 お願いすると透き通った黄色い飲み物が入ったグラスが渡される。

 飲んでみると甘い味が口の中一杯に広がり、果実を絞ったジュースだというのが分かる。


「やっぱり、こういう場所だとお酒が飲めた方がいいのかな?」

「そうかもしれませんが、無理に飲む必要もないかと思われます」


 しかし、シルビアまで俺に合わせてお酒を遠慮するのはいただけない。


「それよりもさっきのはよかったのでしょうか?」

「さっきの?」

「はい。相手は男爵とは言え、貴族である事には変わりません。あのような態度を取っては恨まれてしまうのではないでしょうか」


 平民にとって爵位に関係なく、貴族であるというだけで脅威だ。

 俺も本来なら身分を隠してパーティーに参加するべきだったのだろうが、新皇帝に伝手があるのだから利用しない手はない。


「今日の俺の仕事は普段から世話になっているお前に楽しんでもらう事だ。あんなのに馬鹿にされたままっていうのは俺の気が済まない。せっかくだから料理を堪能させて貰う事にしよう」

「はい」


 笑顔になったシルビアを連れて料理の置かれたテーブルへと向かう。

 空腹を満たすにはどれも小さな品物ばかりだったが、色とりどりの料理はどれも美しく、手間暇掛けられているのが分かり、非常に美味しかったためシルビアを満足させていた。

 レシピを欲しそうにしていたが、カトレアさんかリオに頼めば貰えるかもしれないな。


「皆様、お待たせしました。新皇帝グロリオ様がお越しになりました」


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