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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第8話 ドレス

 パーティー当日。

 既に昨日までの内にオークションへ招待された人たちは帝都へと入っている。帝国内の貴族だけでなく、他国からも人が呼び寄せられ、帝都は多くの人で賑わっていた。


 そんな人たちにリオを紹介する目的で開かれるパーティー。

 通常、皇帝になる者なら幼い頃から姿を知っていてもおかしくないのだが、先々代皇帝が使用人との間に作った子供でしかないリオは貴族に皇族だと紹介された経験もなければ、貴族ならほとんどが参加した事のある社交パーティーに参加した経験すらなかった。

 そのため皇帝になる事が決まってもリオについて知らない貴族がほとんどだった。


「なあ、派手な服じゃないか?」

『そうかな』


 手に持って広げた服を眺める。

 白いスーツで所々に施された装飾は金色に輝いていた。


 普段は黒や紺などの地味な色合いの服を好んで着ているため真っ白なスーツを前にすると気後れしてしまう。


『僕なりに一生懸命コーディネートしてみたつもりなんだけど?』

「いや、貴族を相手にするんだから綺麗な服装の方が好まれるのは分かるんだよ」


 俺が来ているのはネリアさんの屋敷。

 リオのお披露目を兼ねた帝城で開かれるパーティーへ参加する為に着替える必要があり、部屋の1つを貸してもらっていた。


『はいはい。さっさと着替える』

「分かっているよ」


 既にスーツを用意してしまっているので着替えないという選択肢はない。

 用意したスーツも迷宮操作:宝箱(トレジャーボックス)で用意した物なので迷宮の魔力を消費してしまっている。スーツ1着ぐらいなら大した魔力量ではないが、用意した以上は使わなければならない。


 スーツに袖を通す。


『うん、似合っているよ』

「そんなお世辞を言ったところで似合っていない事は俺が1番理解している」


 どうにも落ち着かない。

 しかし、パーティーに参加する以上ドレスコードは守らなければならない。


 着替える為の控室として使わせてもらった部屋を出る。


 女性陣は他の部屋で着替えている。


 屋敷のリビングへ向かうと誰もいなかったのでソファに座って待っているとメイド服を着たネリアさんがコーヒーカップを持ってやって来た。


「ありがとうございます」


 淹れたてのコーヒーを飲む。

 先日、喫茶店で飲んだコーヒーよりも美味しい。


「ネリアさんはパーティーに参加しないんですか?」


 新皇帝の母親であるネリアさんなら貴族の多く集まるパーティーでも参加資格は十分にある。


「私が参加してもリオに迷惑を掛けるだけですから」


 ネリアさんが毒に倒れたことでリオは色々と奔走する事になった。

 最終的に俺たちのところへ辿り着く事でネリアさんは助かったが、奔走していた時の埋め合わせをしているように今は忙しい。


「私は、自分の息子が自由に生きてくれているだけで満足なんです」

「そういうものですか」

「そういうものですよ。それに私は使用人としてパーティーに参加する事はできても招待客やホストとして振る舞うことはできません。そういう事はカトレアに任せることにしています」

「……大丈夫でしょうか?」


 今日のパーティーにはカトレアさんも参加する事になっている。

 既に臨月も近く、お腹も目立つようになっているのでパーティーのような不特定多数の人がいる場所へ行くのは控えるべきなのだろうが、新皇帝のお披露目で新皇妃の姿がないというのも問題だ。

 というわけで短時間だけだが参加することになっている。


「お待たせしました」


 女性陣がリビングに入って来る。


 彼女たちは全員が俺と同じように宝箱(トレジャーボックス)で用意したドレスを着ている。

 パーティーまで数日の時間があったとはいえ、数日では既製品のドレスぐらいしか用意することができない。それならばいっそのこと自分好みのドレスを用意しよう、と俺から提案させてもらった。


 ちなみに俺は地味なスーツを要求させてもらっていたのだが、全員から却下されてしまったので迷宮核(ダンジョンコア)のコーディネートで白いスーツを着ることになった。


「やっぱり似合っていないですよね」

「そんな事はない」


 シルビアが選んだドレスは肩口が露出した薄い桃色のドレスで、裾にはフリルが何重にも重ねられたことで大きく広げられていた。髪には白いバラを模した髪飾りが付けられており、普段はしない化粧をしていた。


 思わず見惚れてしまった。


「うん、綺麗だよ」

「な、何を言っているんですか……!?」


 恥ずかしがったシルビアがソファの陰に隠れる。

 普段はしないような格好のせいで自信がないのだろう。


「あたしはどう?」


 アイラが訊ねて来た。

 彼女が選んだドレスは、髪よりも濃い真紅のドレスで裾にスリットが入っているおかげで長い美脚を惜しげもなく晒している。普段はポニーテイルにしている髪も後ろへ流していた。


 何か違和感があると思ったら剣を腰に差していなかった。

 アイラが帯剣していないのは珍しい。


「剣は置いて行くんだな」

「頼まれた仕事の事を思えば剣を持っていたいんだけど、さすがにパーティー会場でドレスを着た女が帯剣したままっていうわけにはいかないでしょ」

「それもそうだな」


 違和感はあるもののアイラらしいドレスの選択だ。

 ただ、落ち着かないらしくソワソワしていた。


「あたし、マナーとかほとんどダメなんだけど大丈夫かな?」

「大丈夫だ。俺も大したことはできない」


 パーティーに参加すると聞いてからの数日間でそれなりの勉強と練習をしたつもりだが、本番でどれだけ通用するのか分からない。


 俺たちの中で一番不安なのはアイラだ。

 これから行く場所を思えば緊張からソワソワしてしまうのも仕方ない。


「マルスも似合っている」

「そうか?」


 そう言って来るイリスは蒼いミニスカートタイプのドレスを選んでいた。

 アイラと同じように美脚を晒して動きやすさから選んだみたいだが、ソワソワするような事もないので落ち着いたイメージを与えていた。


「随分と落ち着いているな」

「さすがにドレスを着て参加するのは初めてだけど、パーティーに参加するのは初めてじゃないから」


 Aランク冒険者として貴族と接する機会にも何度か恵まれていたイリスにとって貴族が多く集まるようなパーティーは多少の緊張をすることはあってもソワソワするほどではない。

 ドレスは気に入っているらしい。


 だが、後ろにいる人物が気に入らない。


「これ、どう思う?」

「どうって……」


 最後に入って来たのは黒いロングドレスを着たメリッサ。

 体のラインが出るドレスを選んでおり、胸元と背中が(はだ)けていることが彼女のスタイルの良さを更に強調させていた。


 4人の中で一番刺激的な姿をしている。


「……どうして、そんなに派手なドレスなんだ?」

「パーティー会場ともなれば色々な人が集まります。こういう格好の方が男性の口も軽くなります」


 見た目の美しさもあって知的な美人。

 たしかに煽情的な姿をしたメリッサに話し掛けられればペラペラといらない事まで喋ってしまいそうだ。


「こういう場所で人脈を築くのは私の仕事です。任せて下さい」

「いや……普段は参加する事ができないパーティーを楽しんでくれればいいんだけど……」


 そう言ったところでメリッサが引かないのは分かっている。

 彼女たちの自由にさせる事にしよう。


「みなさん。準備は整いましたね」


 同じ白いドレスに身を包んだマリーさんとカトレアさんがリビングに入って来る。

 お揃いのドレスを選んだ事には理由がある。


「本当に入れ替われるんですか?」


 長時間の出席を遠慮して欲しいカトレアさんの影武者としてマリーさんが入れ替わる事になっていた。

 二人とも同じような体型をしており、髪の色や顔については迷宮魔法で誤魔化すつもりでいる。迷宮魔法なら高位の魔法使いでなければ見破るのは難しい。


「元詐欺師の実力をお見せしましょう」


 影武者に選ばれた最大の要因はマリーさんの詐術にあった。

 彼女なら他人に成りすますのもそれほど難しくない。


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