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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第7話 怪盗の噂―後―

 聞き覚えのある声に振り返ると見知った相手だった。


「久しぶりだね」


 迷宮へ挑んだ時に攻略地図を売ってくれた情報屋。

 久しぶりに会った彼はひょうひょうとした様子でこちらに近付いて来た。


「さっきの話は聞かせてもらったよ」


 受付嬢との会話を聞かれていたらしい。

 それなりに注意していたつもりだったが、現在の冒険者ギルド内には聞き耳を立てている人物が多すぎて気付けなかった。


 だが、こっちの目的を分かったうえで接触して来たということは、情報屋として商売をするつもりがあるに違いない。


「今度は怪盗の懸賞金が目的かい? それとも、この前と同じようにグロリオから頼まれたかい?」

「ちょ……!」


 情報屋の失言に気付いたが既に遅い。


「グロリオだって!」

「新皇帝の関係者か!」


 周囲から話を聞きつけた連中が近寄って来た。


 彼らの目的はリオ。

 少しでも関係のある情報が欲しく、帝都の冒険者ギルドでは見かけない俺から自分の知らない新しい情報を得ようとしている。


「ちょっと、どこ触ってんのよ」


 話を聞こうとしていたところ、俺へ伸ばして来た手がアイラに触れてしまったらしく、彼女の手によって見知らぬ男が床に叩き付けられていた。

 護衛としての役割は果たしてくれた。


 だけど、アイラとしては掴まれたところをイライラして叩き付けただけみたいだ。

 その証拠に怒気が撒き散らされている。


 近寄って来た連中はいきなり床に叩き付けられた人物が現れたことで怖がって近付くに近付けなくなっている。


「テメェ!」


 だが、中には床に叩き付けられた男の仲間がいたらしく、剣を抜いて襲い掛かって来た。


「こんな場所で武器を抜かない」

「ぐはっ」


 剣を握っていた手を左手で受け止めると右手で男の腹を殴っていた。

 アイラの攻撃によって気絶させられた男が床に叩き付けられた男と仲良く並んで寝ていた。


「何をしているんですか!」


 騒ぎを聞きつけたギルド職員が出て来た。

 俺たちは武器を抜いていないし、完全に被害者なのだが、ギルド職員から注意されると面倒な事になるのは間違いない。


「出よう」

「ちょ……!」


 アイラと情報屋の体を掴んで人混みを跳び上がる。

 冒険者ギルドで情報を求めて成り上がりを目論んでいるような連中では反応するのが精一杯で誰にも阻まれずに冒険者ギルドを後にする事に成功する。



 ☆ ☆ ☆



 冒険者ギルドから少し離れた場所にある喫茶店に3人で入る。

 どこか落ち着ける場所で話がしたかった。


 注文したサンドイッチとコーヒーが運ばれてくる。


「ごめんね。僕が迂闊だったよ」

「気を付けて下さいよ」


 現在の帝都でリオの名前を大多数の人に聞かせれば騒ぎになるのは分かっていた。

 それが分からない情報屋ではないはずだが、敢えてリオの名前を出したような気がする。


「さて、失敗を気にするよりも商売の話をしようか」

「こっちが求めている情報は分かっていますね」

「もちろん。怪盗バットの情報だよね」


 怪盗バット。

 予告状を出して蝙蝠を思わせる姿をしている事からそんな名前が付けられた。


「まず、怪盗バットは神出鬼没だ」

「またなんだ……」


 アイラが呟いた。

 巨大土竜(ジャイアントモール)に続いて神出鬼没な相手が多い。


「また?」

「こっちの話ですから気にしないで下さい」

「そうかい? 神出鬼没というのは現れる姿を誰にも見られていないからなんだ。厳重に警備していたはずなのにいつの間にか財宝が盗まれている。そして、盗み出した姿を多くの人に見せつけた後で逃げ出すんだ」


 どこから侵入したのか全く分からない。

 だが、逃走する姿だけは必ず見られている。


「何か特殊なスキルを使って盗み出す瞬間だけは姿を消しているとかそんな感じですかね」

「そうだね。固有のスキルまで含めれば、盗み出す方法なんていくらでもあるよ」


 シルビアの【壁抜け】だって厳重な警備がされていても壁の向こうから侵入して財宝を盗み出す事ができる。

 現にシルビアの父親は【壁抜け】で完全な密室に侵入し、盗みを成功させている。


 それと同じように怪盗バットも特殊なスキルを使って盗み出している。


「捕まえるにはどうすればいいと思います?」

「神出鬼没だったとしても守られている財宝を盗まなければならない。盗み出す財宝に目を光らせていれば盗み出す瞬間を捉える事はできるんじゃないかな?」


 やっぱり、それぐらいしかないか。

 同じ方法は既に考えたが、それをする為には盗み出す財宝が分からなければならない。


「こればっかりは分からないね」

「考えたのは元の所有者を調べる事ぐらいなのよね」


 怪盗バットは、民衆から嫌われている貴族や商人を狙っている。

 その線から怪盗の狙いを探れないかと考えていた。


「今回の怪盗のターゲットは数日後に開催されるオークションだったよね」

「そうです」

「追加で情報を買うつもりがあるなら怪盗バットが狙っていそうな財宝についても教えてあげるよ」

「本物?」

「本物だよ。こっちはリオが皇帝になってからした事を追っていたんだ。裏の世界にはリオによって粛清された貴族のリストなんて物まで出回っている」


 それだけ皇帝になった男の情報に価値があるという事だ。

 そして、わざわざ取引を持ち掛けて来ているなら偽物を掴ませるような真似もしてこないだろう。


「帝国はかなり広い。当然、貴族なんかもそれだけ多くいるんだけど、オークションに出される事になる財宝を持っていた人物で怪盗バットが狙いそうな人物となると限られてくる」

「なるほど」

「領主貴族だったマクダカート家、ランドール家。この両家はメティス王国とは反対側の国境近くに領地を持っていて隣国との小競り合いが絶えない地域だったね。そのせいで戦争の度に領民は重税を課せられていて苦しい生活を強いられていたらしいから怪盗が狙うには十分な理由だね」


 そんな戦争の好きな貴族だったから王国との戦争にも反対側にも関わらず喜々として参加していた。

 結局、敗戦の責任を取らされる事になり、財産のほとんどが没収されることになった。


「他には宮廷貴族だったサールウェル家とテンパリー家。こっちは汚職や癒着なんかが酷い事で有名な家でね。元皇太子の有力な後ろ盾だった事からリオの手によってあっさりと粛清された家だよ。当然、賄賂も受け取っていたから怪盗が狙うべき財宝も持っていたはずだ」


 狙われそうな貴族の情報は得られた。

 カトレアさんからのリストと照合すれば彼らから没収した財宝についても確認できたので守り易くなる。


「ありがとうございました」


 テーブルの上に金貨5枚を置く。


「おや、随分と奮発するね」

「これぐらいは価値のある情報でした」


 コーヒーを飲み干す。

 俺が喫茶店を出て行くつもりだと悟ったアイラも急いでコーヒーを飲む。


「できれば、お金よりも情報が欲しいね」

「情報、というのはリオに関する事ですか」


 周囲に隠れている人に動揺が広がる。

 喫茶店に場所を移したが、リオに関する情報を求めているプロがそこかしこに隠れているのが気配を探れば分かる。


 あまり、ここで情報を晒したくない。

 迷宮主であるという情報は可能な限り秘匿してあげるべきだ。


「口止め料も含んでその金額です」

「どうやらリオを探るのは藪蛇みたいだね」

「あまり行き過ぎると消される事になりますよ」


 一度、情報を買っただけの俺に接触して来てくれた。

 帝都には全く伝手のない俺にとっては頼りにして行きたい情報屋だ。


 リオに関して行き過ぎた情報収集をしていれば眷属の誰かから粛清されてもおかしくない。


「気を付ける事にするよ。既に行方の分からなくなった同業者が何人かいるからね」


 既に粛清した後でしたか。


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