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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第3話 カトレアの礼

 マリーさんに連れられて来たのは帝都の中でも厳重な警備がされた区画だった。

 その場所へは検問を通らなければ入ることができず、検問を通る為には貴族である事を示さなければ入る事ができない。


 残念ながら俺たちは貴族ではない。

 しかし、帝都の門で見せた物と同じ物をマリーさんが見せるとすんなりと通して貰えた。


 貴族区。

 帝都に住んでいる貴族の屋敷や普段は離れた領地に住んでいる貴族が帝都内に所有している別邸が集められた区画。

 貴族しか利用しない区画なため普段は静かな場所なのだが、数日後に控えているパーティーの為に貴族が次々とやって来ていた。おかげで警備兵も忙しく動き回っている。


 自分の庭のように進んで行くと古びた屋敷の前で止まる。

 どこか古びているものの屋敷だけでなく庭も広いため、周囲にある他の屋敷よりも大きな印象を抱かせる。


「ここに?」

「はい。私たちの義母(はは)が住んでいます」


 リオの母親であるネリアさん。

 側室となる彼女も自分の娘のように迎え入れてくれた彼女の事を実の母親のように慕っていた。


 次期皇帝の母親ではあるものの彼女は現在この屋敷で生活していた。


 マリーさんの用事は、自分を苦しめしていた毒を治療する為に必要な神酒(ネクタル)を提供してくれた俺たちにネリアさんがお礼を言いたいというものだった。


 解毒は済んでいるのだが、次期皇帝の母親という立場で命を脅かされている状況なのは変わっておらず、本人には襲撃があった場合に身を守れるだけの戦闘能力もないので何があっても問題ない俺たちの方から出向いて欲しいので屋敷へと招かれることになっていた。

 貴族区など招待されなければ入ることはできないので訪問は問題なかった。


 門を叩いて訪問を告げると黒髪の使用人が出て来る。


「これは、マリー様」

「ネリア様はいる?」

「はい。奥の部屋におります」

「そう」


 使用人に素っ気なく答えている。

 俺たちのような顔見知りやリオに対する態度とは違う。

 相手が使用人なので、これでいいという事だろう。


「お客様を連れて来ました。ネリア様に知らせて下さい」

「あの……」

「何か?」

「カトレア様も城からいらしています」

「あの人は……」


 屋敷にカトレアさんもいると聞いて額を手で押さえていた。


「まずは、彼らを客間の方へ案内して下さい」

「はい」


 使用人に案内されながら屋敷の中を奥へ進む。


 案内されたのは玄関ホールのすぐ近くにある応接室。

 黒髪の使用人と入れ替わるように茶髪の使用人が俺たちの前に紅茶とクッキーのようなお菓子を置いて行く。高級な茶葉が使われているのか、これまで飲んで来た紅茶よりも芳醇な香りがする。


 10分ほど待っていると黒いメイド服に身を包んだ長い金髪の玄関で出迎えてくれた使用人とは別の使用人に連れられながら次期皇妃であるカトレアさんが入って来た。後ろにはマリーさんもおり、万が一後ろに倒れてもフォローできるようにしていた。


 カトレアさんがゆっくりと向かいのソファに座り、マリーさんも隣に座る。

 使用人の女性がソファの後ろに立っていつでもフォローできるよう待機していた。


「みなさん、お久しぶりです」

「大丈夫なんですか?」


 シルビアが不安そうに尋ねる。


 以前に会った時は目立っていなかったお腹だが、現在はそこに新しい命が宿っている事が一目で分かるほど大きくなっている。この状態なら以前は気付けなかった俺も妊娠していると分かる。

 同じ女性として体調を気遣わずにはいられなかった。


「今日は調子がいい方なので大丈夫です。それにみなさん心配し過ぎなんです。少しぐらい運動はした方がいいんです。そういうわけで素振りを……」

「駄目です」


 素振り。

 帝都の迷宮地下45階で使っていたように双剣を振るうつもりだったのだろう。


 さすがに当時はギリギリ振るうことができたとしても現在はそこまで激しい動きができるような状態ではない。


「残念です」


 カトレアさんが心底残念そうにしている。

 そんな姿を見ていると体を動かさない方がストレスを与えそうだが、子供の事を考えると我慢してもらわなければならない。


「あ、あの……!」

「なんですか?」

「触ってみてもいいですか?」

「どうぞ」


 遠慮しながらもシルビアが尋ねるとカトレアさんが了承してくれた。

 カトレアさんの隣まで行くと優しくお腹を撫でていた。


「ここに子供がいるんですね」

「そうですね」


 そう言いながら目元が慈しみ、緩められていた。


「あ、あたしもいい?」

「いいですよ」


 シルビアとカトレアさんの姿に触発されたアイラも駆け寄っていた。


「ありがとう。私みたいな者の為に気を遣ってくれて」

「何を言っているんですか」

「私は貴族の六人姉妹の末女。本来なら望まない結婚をさせられて道具のように扱われる人生が待っていたはずだったけど、こうして大切な人の子供を授かることができた。あの時は、本気で戦ってごめんなさい」


 あの時――地下45階で戦場へ出て来たカトレアさんと直接戦ったシルビアだ。

 彼女は本気の殺意をシルビアへ向けていた。しかし、殺意を向けられているはずのシルビアは最後までカトレアさんの身を案じていた。それと言うのも同じ女として妊娠している女性を思い遣っていたからだ。


「あの時は、事情があったんだから仕方ありません。気にしないで下さい」


 シルビアは本心から言う。

 本当に本気で戦いを挑んで来た事は気にしていないみたいだ。


「今日、私がここにいるのはあなたにお礼を言う為なの」

「少し歩くぐらいならわたしも大丈夫だと思いますけど、皇妃なら城にいなくて大丈夫なんですか?」


 玄関で出迎えてくれた使用人の言葉からカトレアさんは普段は帝都にある城で生活しているはずだ。

 距離は冒険者として活動していた時に比べればそこまでではないが、妊娠している状態を考えれば徒歩での移動はあり得ないし、馬車を使っても相当な負担となるはずなので反対されるのは間違いない。


「今の帝城は色々と騒がしいのです。体の事を想うなら城よりもこちらの方が落ち着けます」

「たしかに静かな場所ですね」


 現在は貴族区に次々と人が来ているせいで大通りの方は騒がしいものの庭が広く造られているため喧騒が聞こえて来るような事はない。


「それだけではない事は迷宮主(ダンジョンマスター)や眷属のみなさんなら分かりますね?」

「まあ、そうですね」


 屋敷をチラッと見ただけでも物理・魔法に対して強力な防御力を誇る結界をいくつも感じ取る事ができる。ただ強力なだけではなくきちんと隠蔽がされており、魔法使いが見ても簡単に見破る事はできない。

 俺たちが見破る事ができたのは、隠蔽が迷宮の力を利用して施されていたため迷宮の力を感じ取る事ができたからだ。


 これなら下手な要塞よりも安全だと言える。


「この屋敷はリオ様が毒で苦しむネリア様の為に用意された屋敷です。ある意味、帝都の中で最も安全な場所だと言えます」


 それにこれだけの結界が施されているなら『拠点』と言える。

 拠点であるなら転移での自由な移動が可能だ。


「あなたたちの提供してくれた神酒のおかげでネリア様の毒は治療されました。本当にありがとうございます」

「私からも、もう一度お礼を言わせて下さい」


 カトレアさんとマリーさんが頭を下げる。

 俺としては死蔵していた神酒を提供しただけのつもりなので、そこまで感謝されるような覚えはない。


 しかし、彼女たちにとっては大切な母を救ってくれた大恩人。

 そのお礼を受け入れない方が失礼に当たるだろう。


「本当にありがとうございました」


 カトレアさんの後ろに立った使用人が頭を下げている。


「申し遅れました。私、あなた方に命を救って頂いたネリアと申します」


 使用人だと思っていたメイド服を着た人物はネリアさんだった。


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