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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第2話 案内人マリー

 帝都2日目。


「起きて下さい」


 寝ていた体がゆっくりと揺らされる。

 逆にその揺れが心地よく再び眠りそうになるが、もう何度も体験した事のある起こし方なので上半身をベッドから起こす事にする。


「おはよう」

「おはようございます」


 朝らしい朗らかな声による挨拶が返って来る。

 用事があるにも関わらず起きられない朝はこうしてシルビアに起こしてもらうのが日課になっていた。


 シルビアがベッドの俺が寝ていた方とは反対側へ回り込む。


「いつまで寝ているの!」

「いたっ!」


 俺を起こした時は異なり、寝ている人物の脳天にチョップを入れるという方法で強制的に起こした。


「もっと優しく起こす事はできないの?」

「はっ、今日はマリーさんから呼ばれているって知らせていたのにいつまでも寝ているアイラが悪いの」

「マルスだって寝ていたじゃない」


 隣に寝起きの人間がいれば直前まで寝ていたかどうか分かる。

 それに、こんな問答は初めての事ではない。


「疲れているんだから、ご主人様はいいの」

「あたしだってここまで走って来て疲れているんだから」


 帝都までは徒歩……というか走って来た。

 普通は馬車で移動するのだろうが、自分たちの足で走った方が速いので馬車を使わずに移動させてもらった。

 おかげで10日以上は必要になる旅程を3日まで短縮する事ができた。


 しかし、強行軍の影響で久しぶりに疲れていた。

 だから休ませておいて欲しかった。


「そろそろ起きるぞ」

「はい」


 そっと濡れタオルをシルビアが差し出して来たので受け取って顔を拭く。

 濡れタオルを近くにあったテーブルの上に置く頃には着替えを手にして待っていたので受け取って着替える。


 シルビアがドアを開けてくれたので1階にある食堂へと向かう。


「あ、ちょっと待って」


 部屋からアイラが出て行く。

 彼女の着替えなどの荷物は自分の部屋に置いてあるので食堂へ向かう前に部屋を移動する必要がある。


「先へ行きましょう」

「……そうだな」


 どこか不機嫌な様子のシルビアに先導されながら1階の食堂に辿り着くと既にメリッサとイリスが食事を始めていた。


「おはようございます」

「やっと起きて来た」

「まだ朝だろ」


 彼女たちの隣に座ると食堂のカウンターで朝食を受け取ったシルビアが俺の前にトレイを置く。

 朝食のメニューはサラダにスープ、パンが添えられていた。

 朝からガッツリ食べるような状態でもないのでちょうどいい。


「朝ですが、早い時間から仕事のある人たちは既に忙しく動き回っている時間です」

「待たせたみたいでごめんなさい」


 俺たちの正面には昨日も案内してくれたマリーさんが座っていた。


「いいえ、昨日から数日間はあなたたちの案内を仰せつかっているので問題ありません」


 そう言っているマリーさんはのんびりとした様子で朝食を楽しんでいた。

 たしか帝国は現在、人手不足で彼女たちも皇帝の手伝いで色々と忙しくしていたはずだ。


「……暇なんですか?」


 思わず尋ねた言葉にマリーさんが表情を険しくする。


「暇などではありません!」

「な、何……?」


 部屋で着替えて朝食を受け取ったアイラが合流したが、それどころではなく挨拶をしているような余裕はない。


「私たちはリオ様が皇帝になるにあたって必要な人たちに会ったり、書類を作成したりしていたのですが、そういった仕事をできるのが眷属の中ではカトレア様、ボタンさん、リーシアさん、私しかいないんです。ナナカさんも書類仕事はできますけど、接待関係はできません」


 これまでは8人も眷属がいるのに4人で色々と対応していたらしい。


「最近ではカトレア様が出産を間近に控えられて室内での書類仕事も最低限にするようになりました。そんな中で、リーシアさんまで妊娠したんです」

「うわ……」


 仕方ない事とはいえ人手不足に拍車が掛かってしまった。

 そんな状況だからこそマリーさんがこんな場所にいるのが信じられない。


「みなさんは次期皇帝が招待した人物です。それなりの人物が接待しなくてはならないのですが、妊娠中の二人に対応させるわけにもいきませんし、こちらの都合で色々と参加してもらわなくてはならない行事があるのでソニアさんたちに任せるわけにはいかなかったんです」


 名前の出て来なかったソニアさん、アイリスさん、ピナさんは他のメンバーの簡単な仕事を手伝っているらしい。

 彼女たちでは案内役にも不安が残るので忙しい中、マリーさんが案内役になってくれた。


「俺たちに参加させたい行事?」


 そんなイベントがあるとは聞いていない。


「みなさんは4日後に行われるオークションを目当てに帝都を訪れていますが、現在帝都を訪れている貴族が最も関心のあるイベントは新皇帝のお披露目です」


 元々皇位継承権など持っていないに等しいほど継承順位の低かったリオの顔は知られていない。

 皇帝になる事は決定事項で、既に変更することなどできないが、周囲からの支持がなければ政治を行って行くのは難しい。だからこそ皇帝になるリオの姿を晒す必要があった。


 その為のパーティーが明後日開かれる。


「そのパーティーにみなさんにも参加して欲しいんです」

「えー」


 はっきり言って参加したくない。

 面倒くさい。


 貴族のパーティーなど参加したことがなく、身内同士のパーティーと違いマナーにも色々と煩いはずだ。そういったマナーを身に着けている者などパーティ内では元貴族令嬢であるメリッサぐらいしかいない。


「もちろん理由もなくパーティーに参加して欲しいという訳ではありません。そのパーティーでは参加している貴族に向けてオークションで出品される品物のいくつかがお披露目される事になっています」


 いくつか見せる事によって貴族の興味を惹きたかった。

 そうする事で金額を少しでも釣り上げるのが目的だ。


「そっちで目ぼしい品に目を付けておく事はできなかったんですか?」


 彼女たちには俺が求めている品物について伝えている。


 ――強い魔力を秘めた道具。

 俺たちと同じように【迷宮魔法:鑑定】が使える彼女たちなら迷宮から出土した道具なら正確な価値を知る事ができる。本当にこちらの事を考えてくれているなら事前に確認してくれていた方が助かる。


「オークションに出品される品物の管理は皇帝や側室の仕事ではありません。いくつかは見せて貰えましたが、全てを見る事はできませんでした」

「それは、そうですよね」


 メリッサが同意している。


 たしかに皇帝がするような仕事ではない。

 それに皇帝として優先させるべき仕事は他にもっとたくさんある。


「それから、冒険者であるみなさんへの依頼です」


 懐に入れていた書類を取り出してテーブルの上に置く。

 それは冒険者なら見慣れた依頼票だった。


「内容は、現在帝都を騒がせている怪盗の捕縛もしくは怪盗からオークションに出品される品物を守り通して欲しい、というものです」

「怪盗?」


 怪盗と言えば予告状を出して価値のある物を奪って行く職業の事を指す。

 そういう風に認識している。


「その怪盗です。既に帝都の至る所で怪盗の予告状が出回っています」


 住人が情報のやり取りに利用する掲示板や人で賑わっている店にいつの間にか貼られていたらしい。


「怪盗は目的の品を指定していませんでしたが、オークションに出品される品物を狙っていると予告状で言ってきました。オークションに参加するみなさんも困るのではないですか?」


 もしも俺たちにとって価値のある物を狙われた場合には品物が手に入らない事になる。

 せっかく帝都まで来たのに無駄骨になるのは御免だ。


 とりあえず念話で仲間に確認してみると反対意見はなかった。


「いいでしょう。パーティーには参加します」


 明後日の予定は決まった。


「それと今日は会って欲しい人がいます」


 今日の予定も決まっているらしい。


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