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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第16章 競売怪盗
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第1話 帝都門前の騒ぎ

 グレンヴァルガ帝国の帝都グレヴァル。

 大きな壁で囲まれた都市には東西南北の4箇所に門があり、門へと続く街道には帝都へ入る為の身分確認の為の列がズラッと続いていた。

 並んでいるのは人だけではなく馬車もあるため最後尾から門の方を見ると門番がポツンと立っているのが見えた。


「どうして、こんなに混んでいるんだ?」

「理由はいくつか考えられます」


 いつものように俺の呟きにメリッサが答えてくれる。


「帝国は、春先の戦争で人手不足です。そのため門番の数も不足しているのでしょう。それから私たちと同じような理由で帝都を訪れる人が多くいるため混雑しているようです」


 俺たちの目的。

 帝都で開催される事になるオークションに参加する為だった。


 オークションには貴族や貴族に対して伝手のある人物でなければ参加する事はできない。列の中には商人や冒険者にしか見えない者も混じっている。中には本当に伝手を持っている人物も含まれているのかもしれないが、全員が持っているはずがない。

 この列を成している全員が関係者とは思えない。


「もちろん全員が関係者です。オークションには他国からも貴族などが集まります。そういう場所こそ商人が成り上がる絶好の場所ですし、冒険者も色々と仕事を求めて集まって来ます」

「なるほど」


 つまり、オークションによって集まった人々を目的に集まった人々。

 オークションには直接の関わりはなくても関係して帝都へとやって来た。


「ま、俺たちには関係ないけどな」


 列に並んでいる人々を無視して横を歩いて行く。


 多くの人々を対応している門だったが、その隣には一回り大きい門があった。

 その門の前には少ないながらも列があったので、その最後尾に並ぶ。こっちの列ならそれほど時間が掛からずに帝都の中へ入れそうだ。


「おい、きさま」


 列の最後尾には馬車が待機しており、馬車に乗った小太りで派手な服を着た人物が上から語り掛けて来た。


「なんですか?」

「この列が並んでいるのは貴族専用の門だ」


 まさか貴族を商人や冒険者と一緒に並べるわけにも行かず帝都のような大きな都市にはこのように貴族専用の門がある。

 本来なら待たせることなく帝都の中へと入れる為の物なのだが、招待した貴族の数が多すぎるせいで専用の門を設けるだけでは対応し切れていなかった。


「忠告ありがとうございます。もちろん分かっていて並んでいます」


 王都に住んでいたメリッサがその辺りの事情に詳しくないはずがない。

 俺たちは最初から貴族専用の門に並ぶ権利があって待っている。


「……ほう。貴族には見えないが?」


 そう言う小太りの男は貴族みたいだ。

 服装も派手で馬車の中には従者らしき人物が何人か見える。


「はい。冒険者です」

「ならば、隣の列に明日まで待つべきではないか?」

「やっぱり……」


 隣に列に並べば今日中に帝都へ入る事ができないのか。

 ここまでかなり急いで走って来たので可能なら帝都の中にある宿屋で休みたいところだ。


「これだから平民は困る」


 俺の呟きを自分の言葉に納得した、と勘違いした貴族と思われる男が馬車の中へと戻って行く。


 だが、すぐに戻って来た。


「なぜ、いつまでも並んでいる!?」


 列を移動しない事を憤っていた。


「俺たちは冒険者です。ですが、招待された身ですのでこちらに並んでも問題ないと言われているんです」

「ええい、そんな訳がないだろ」


 どうしてそこまで怒るのか分からないが、貴族の男が指示を出すと馬車の護衛をしていた貴族の兵士が武器を向けて来た。


 はっきり言って全く脅威にならない。

 武器を向けられたならアイラあたりが臨戦態勢になりそうだが、両手を頭の後ろで組んで退屈そうにしていた。


「あ、来たみたい」


 退屈そうにしながらも門の方をずっと見ていたアイラが呟く。


 待ち合わせをしていた人物が出て来たみたいだ。


「この騒ぎはなんだ!」


 それよりも早く帝都の兵士が騒ぎを聞きつけてやって来てしまった。


「こいつらが貴族でもないのに貴族専用の列に並んでいるのだ!」

「そうですか……」


 貴族の言葉は事情を知らなければ正しい。

 彼の主張を聞いた兵士が俺たちの方へ歩み寄って来る。


「申し訳ないが、こちらの列は貴族でなければ使用する事ができない。冒険者――平民なら隣の列を利用してくれるだろうか?」

「俺たちが帝都の中でも権力を持っている人物から招待されている場合にはどうなりますか?」

「なに……?」


 訝し気に俺たちを見て来る兵士。

 もう色々と取り繕う必要もないので任せる事にする。


「申し訳ございません。彼らは私たちの招待客です」


 門の方から急いでやって来た橙色の髪をした少女。

 次期皇帝であるリオのパーティメンバーにして側室になるマリーさんだ。


「あなたは?」

「マリーという者です」


 名乗りながら身分証のような物を兵士にだけ見えるよう提示していた。


 マリーさんの服装は冒険者として活動していた時の物を今でも使用しており、街中にいても不自然ではないが、こんな状況で冒険者が現れる意味が兵士には分からない。


 だが、マリーさんが見せた物を見せられた兵士は汗を流しながら驚いていた。


「も、申し訳ございません。そのような方だとは知らずに」

「いえ、職務に忠実なだけですからそちらも気にしないで下さい」

「はっ」


 マリーさんに対して敬礼をする兵士。

 兵士はそれなりにベテランだったため身分証などにも詳しかった。


「では、行きましょうか」


 貴族専用の列を無視して門の方へと歩いて行くマリーさん。


「あの、いいんですか?」


 次期皇帝から招待されているのだから貴族専用の列に並ぶ権利ぐらいはある。

 彼女たちへは事前に帝都へ向かい、今日には着く事を魔法道具の『遠話水晶』を使用して伝えてある。


 その時、迎えも出すので心配しないで並んで待っていて欲しいと伝えられていたので遠慮することなく貴族専用の列に並んでいた。


 だが、その列まで無視してしまっている。


「さすがに私が一緒にいないとダメですが、権力を使用する事にしました。私が持っているのは貴族よりも強い、皇帝に準ずる物です」


 なにせ相手は皇帝の側室になる人物。

 政治的な口出しはできなくても、それなりの権力を持っている。


「さっき兵士に見せたのも皇帝の関係者である事を示す証です」

「そんな物を使っていいんですか?」

「いいんです。いくら貴族専用の列が早いとはいえ、こんな物に並ぶだけで数時間もの時間を潰してしまいます。明日、あなたたちにはあって欲しい人がいるので今日は早く予約しておいた宿屋で休んで欲しいんです」


 帝都へ入るだけでこれだけの人が並んでいるという事は、帝都にはもっと多くの人がいる事になる。


 そんな中、休める場所を確実に確保できる確率は低い。

 マリーさんの方で宿を確保してくれたのは純粋に助かる。



 ☆ ☆ ☆



「おい、奴らはどうして並んでいる奴を無視して進んでいるんだ」

「彼らは皇帝陛下の招待客です」

「なに……!」


 貴族の男性が驚いている。


 私も初めて目にして驚いていた。


 銀の短剣が施された意匠。

 それは、皇帝及び皇族の中でも許可された者だけが持つ事を許された証。


 春先に起こした戦争によって皇位継承に関して大きな変更があった。そのため以前は所持する事を許されていた皇族も持つ事を許されなくなった。


 現在、持つ事が許されているのは次期皇帝。

 そして、その奥方様たちのみ。


 あれを持っていた女性という事は、彼女は次期皇帝の側室の誰かという事だろう。


 次期皇帝は、冒険者となった皇位継承権の低かった皇族が成り上がったという話らしく、次期皇帝以外は女性のハーレムパーティだったためパーティメンバー全員が側室入りしていた。

 彼女は平民にしか見えなかった……実際に平民だ。それでも側室である事には変わらない。


 目の前にいる貴族とは比べようもないほどの権力を持っている。


「あ、あんな連中が皇帝の招待客だと……?」


 元冒険者だった次期皇帝に招待された冒険者。


「何もなければいいんだけど……」


 今の帝都には色々と騒ぎもあるし、波乱が待ち構えているのは間違いないみたいだ。


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