第16話 金貨を出す魔物
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名前:ジャイアントモール
レベル:250
体力:4500
筋力:4200
敏捷:3800
魔力:5000
スキル:土中潜行 爪爆 金貨吸収 金貨変換
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アイラの鑑定した結果を確認する。
俺たちの感覚から言わせてもらえば、ステータスはそれほど高くない。
しかし、持っているスキルが厄介だ。
【土中潜行】がある限り、土壁の向こう側へ逃げられてしまう。
だが、鑑定ができたおかげで誘き出すのがそれほど難しくないことが分かった。
【金貨吸収】と【金貨変換】。
巨大土竜は、【金貨変換】によって土壁の中に染み込ませた自分の魔力を金貨へと換えることができる。それを回収し、【金貨吸収】によって自分の力へと還元することで生き永らえている。
スキルの詳細を知った結果、採掘で得た金貨を多く持っている冒険者を優先的に襲っている理由が分かった。
向こうにしてみれば自分が一生懸命育てた餌を横取りされているような物。
自分の餌を奪い返すと同時に盗人を撃退している。
「どうなっているのか俺たちにも説明してくれないか?」
「あの……あなたには何が起こっているのか分かるんですか?」
ガルト君が不安そうにしている。
先ほど少しだけ現れただけだが、いきなり襲い掛かって来た。
周囲は土壁に囲まれ、どこから襲ってくるのか分からない状況。
どこもかしこも死角みたいなものだ。
子供にとっては不安だろう。
いや、大人な囮の冒険者も怯えている。
「現在の状況を説明します。巨大土竜は地中にいながら攻撃する瞬間を伺っています」
「お、おい! 逃げた方がいいんじゃないか!?」
「逃げても構わないですけど、あと20秒ほどでここへ巨大土竜が戻って来ます」
「な、なんで!?」
冒険者の質問には答えず天井を見上げる。
すると、一人の少女が巨大土竜と一緒に落ちて来る。
「お待たせしました」
落ちて来た少女はシルビア。
【壁抜け】を持つシルビアなら【土中潜行】で隠れている巨大土竜を追うことができる。
「ですが、本気で逃げられるとわたしでは追い付けません。今回は、上から落ちて来る途中でいましたからここへ落とすことができましたが、何度も可能な方法だとは思わないでください」
「ああ、気を付けるよ」
今度こそ逃がさないように巨大土竜の前後をシルビアと囲む。
巨大土竜は顔からナイフを抜いており、刺さった傷口を必死に押さえていた。
「……何をしたんだ?」
「【土中潜行】ですり抜けることができるのは『土』のみ。ですから巨大土竜のいる場所まで擦り抜けたところでナイフを何本も置いて来ました」
【壁抜け】は、使用者だけでなく触れている物にも影響させることができる。逆に言えば、シルビアの手を離れた瞬間に擦り抜けることができなくなってしまう。
透過能力を失ったナイフが何本も突き刺さったことで痛みに苦しみながら落ちて来た。【壁抜け】と違って【土中潜行】は、自身にしか影響を及ぼさないためナイフを抜く為には土の中から脱出する必要がある。
ウルウルと潤んだ瞳で睨み付けて来る。
正直言って全く怖くない。
壁を背にした巨大土竜が後ろへ倒れ込む。
「逃げんな」
壁に触れれば逃げることができる。
逃がさないよう壁との間に滑り込むと背中を踏み付けて地面に伏せさせる。
「雷撃」
体から雷撃を発し、足元にいる巨大土竜へ雷撃を流す。
雷撃によって小刻みに震える巨大土竜の体から飛び出て来る金貨。
「おお、本当に出て来るものなんだな」
鑑定によって金貨が出て来ることが分かっていても本当に金貨が溢れ出て来ると驚いてしまう。
【金貨変換】は魔力を消費することによって体の傷を癒すこともできる。
その際、魔力を消費しており、消費された魔力が【金貨変換】によって金貨へと変換される。
傷の治癒も魔力が続くまで。
魔力も無限にあるわけではないので魔力が持続する限り、こうしてダメージを与え続ければ倒すことはできないものの金貨を吐き出し続ける。
「この調子だと金貨を何十万枚と吐き出してくれそうだな」
周囲に散らばった数百枚の金貨を見ると思わず頬が緩んでしまう。
「おっ……」
巨大土竜が雷撃のダメージに耐えながら立ち上がろうとする。
「重量10倍」
闇魔法の加重によって自分の体を重くされた巨大土竜が『ベタン!』と地面に叩き付けられる。
叩き付けられた時の衝撃によってさらに金貨を吐き出す。
「……ん?」
動かない体を必死に動かして体の下にある地面を掻いていた。
【土中潜行】で地面の下へ逃げようとしているみたいだが、既に対策済みだったりする。
「お前の【土中潜行】は、土の中へしか逃げられない。だったら土の前に別の物があれば【土中潜行】の対象とすることはできない」
水魔法を用いて氷を張り巡らせている。
体の触れている物が地面ではなく、氷であるため地面へ逃れることもできない。
「せっかく、こんなに稼げる魔物がいるのに簡単に逃がすはずがないだろ」
潤んだ目を背中にいる俺へ向けて来る。
ちょっと可愛そうな気もするものの【金貨変換】を持つ巨大土竜が相手では魔力を完全に消費させなければ倒すことはできない。
心を鬼にしてダメージを与え続ける。
「その……少し可哀想ではないですか?」
「じゃあ、どうする?」
「わたしが魔石を一気に突き刺して砕きます。どうやら胸の部分にあるみたいなので簡単に終わります」
しかし、今もこうして金貨を吐き出し続ける光景を見ていると勿体なく感じてしまう。
依頼を完了する為にも巨大土竜の討伐を優先させた方がいいのかもしれない。
地面へ逃れることを諦めた巨大土竜が左手を背中へ回す。
爪先が俺の足まで僅かというところまで届く。しかし、ギリギリのところで届かない。
「なんだ?」
5本ある爪の内の1本に魔力が集中する。
次の瞬間、魔力の集中していた爪が爆発を起こす。
「ご、ご主人様!?」
爆発の届かなかった場所にいたシルビアが声を荒げるのが聞こえる。
「残念だったな」
爆発の直撃を受けた俺だったが、あの程度の爆発ではダメージを受けることはない。
「今のが最後のスキル【爪爆】か」
爪に魔力を集中させることで爆発させることができる。
片手に5つずつある爪。
【爪爆】によって爆発させた爪は、しばらくすれば生えて来るらしいが、少なくとも次に生えてくるまで1日近い時間を必要としている。
つまり、残りは9発。
「残りの爪も全て使って攻撃してみるか? もっとも、それでも俺はノーダメージだと思うけどな」
しかも【爪爆】によって受けたダメージを癒す為に大量の金貨が吐き出されている。
既に周囲には1000枚近い金貨が散らばっている。
「こら、その金貨は全て俺の物だぞ」
ちゃっかり転がった金貨を回収しようとした冒険者を注意する。
「な、なんでだよ! 採掘中に得た金貨は俺たちの物だろ」
「この金貨は明らかに巨大土竜との戦闘で出た金貨だろ。採掘中に得た金貨はともかく、その辺に散らばっている巨大土竜から出た金貨は全て俺の物だ」
契約によって約束した金貨はともかく俺の手で得た金貨まで渡すつもりはない。
シルビアが呆れたような視線を向けて来るが、気にしない。
いや、気にするべきだった。
冒険者との口論に意識を向けてしまった俺は、巨大土竜が両手の爪をおかしな場所へ向けていることに気付けなかった。