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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第3章 報復計画
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第2話 リーエル草―前―

 あれから数日。


 俺は一件の依頼を受け、その依頼も難なく終えてギルドへと帰って来ていた。


 そして、今は打ち上げとしてギルドに併設された酒場で酒を正面にいる人物のコップに注いでいた。


「悪いな兄ちゃん」


 俺と同じテーブルを囲んでいる冒険者は4人。


「いえ、こっちは勉強のつもりで同行させていただいたのに報酬をかなり弾んでいただいたようなので、ここの支払いぐらいはさせて下さい」


 打ち上げをしようという話になった時、俺の方から奢らせてくれるよう提案させてもらった。


「何言っていやがる。初めての護衛依頼なのにベテランの俺たちにしっかりと付いて来たし、途中で出て来た魔物も難なく倒せていたじゃないか」


 俺が今回受けた依頼はDランクになって受けられるようになった商人や他の街へ移動したい人たちを運ぶ馬車の護衛。


 ギルドでどんな依頼があるのか確認しているとベテラン4人の冒険者から声を掛けられ、同行することになった。最速、というわけではないが、かなりのペースで冒険者ランクを上げている俺は、いつの間にか先輩たちから一目置かれる存在になっていたらしい。

 まあ、これも計画通りだ。


 冒険者としての戦闘能力、依頼の成功率がいいだけではダメだ。俺よりも優秀な冒険者は多くおり、そんな人たちとの関係は円滑に進めなくてはならない。時折、先輩冒険者と交流し、友好的な人物だと思わせる必要がある。

 それに俺がランク以上の実力を持っていることを見せることができる。


「それにしても凄かったな」

「ああ、ナイフを投げて当たったと思ったら、ナイフから電撃が弾けてオークなんて一撃で黒焦げになっていたぞ」

「うん。あんな使い方見たことないかも」


 口々に褒められ恥ずかしくなる。


 オークの集団と遭遇してしまい、苦戦しそうだと思ったために魔法を埋め込んだナイフを投げて倒しただけだったのだが、彼らからしてみれば冒険者になって数カ月の新人が使うには強力な魔法に見えたようだ。

 あれでも限界まで手加減していたつもりなんだけどな。


 俺たちは依頼の間よりも親密になって、これまでにどんな依頼を受けて来た、どんな魔物を倒して来たなどで話が盛り上がっていた。俺としてもこういう話を聞いて勉強しておきたくて先輩冒険者と親しくしていた。


 時刻は昼過ぎ――酒を飲むには早すぎる時間だったのだが、依頼を終えたばかりで疲れていた俺たちは、戻って来てすぐに打ち上げをおこなっていた。


「みんな、聞いてくれ!」


 冒険者ギルドにある階段を下りて来た2人の内の1人が大声を上げて注意を引いていた。

 その声にギルドの中にいた全員が視線を向ける。その中には、酒場で酒を飲んで酔っ払っていた冒険者も含まれる。


「ありゃ、あれはギルドマスターじゃないか?」

「あの人がギルドマスターなんですか?」

「そうよ。ランクが上がってそれなりに実績を積めば面会する機会もあるだろうから顔を覚えておいた方がいいわよ」


 改めて叫んだ人物を見る。

 人の好さそうな顔をした50歳ぐらいの男性で、髪は白髪が混じり始めていた。しかし、冒険者の前衛のような鍛えられた体をしており、今はともかく昔は強かったことが窺える。


(ギルドの運営能力を買われたっていうよりも戦闘能力を買われたのかな)


 アリスターの街は、人の多く集まる街だが、アーカナム地方は国の中でも辺境に位置しており、危険な魔物が出ることも多くあった。そのため、強い冒険者を求めており、Bランク冒険者も数多くおり、Aランクも冒険者もいる。

 そんな強い人物を率いる為には、率いる人物も強くなければいけない。

 自分の力を信じている者ほど自分より弱い者には従わない。


「さて、今より緊急依頼を出したいと思う」


 自分に注目が集まったことを確認するとギルドマスターが用件を告げる。


「緊急依頼?」


 しかし、俺は今まで聞いたことのない言葉に首を傾げる。


「簡単に言えば、急いでいるからランクを問わずに誰が受けてもいい。おまけに報酬は格別っていう依頼だ。クソッ、こんなことなら酒なんて飲まなければよかったぜ」


 いくら緊急依頼を出すほど急いでいたとしても酒を飲んで酔っ払っているような冒険者に依頼を任せようとは思わない。そこに命が懸かっているなら尚更である。


「まだ、わたしたちでも受けられる依頼かもしれないわよ」


 隣に座る女冒険者の言うとおりだ。


「依頼内容だが、近くの村で熱病が流行してしまったらしい。だが、困ったことに特効薬であるリーエル草の在庫が足りない。通常の買取価格の3倍の金額で買い取るから、誰か持っている者はいないか?」


 依頼内容を聞いて多くの冒険者が、自分の持ち物を確認する。


「クソッ、リーエル草なんて持っていないぞ」

「他の薬草じゃ、ダメなのかよ」

「リーエル草なんて、この近くには生えてない薬草だろ」


 冒険者が言うようにリーエル草の生えている場所は、ここから馬車で2日掛かる場所にある。早馬を走らせればもっと速く辿り着けるが、それでは今度は採取できる量が制限されてしまう。

 この辺りでは、あまり採取される薬草ではなく、特効薬になる病気も土地柄あまり流行らないため在庫は少なかった。


「お願いします。村の人口は150人、その内の7割近い村人が感染してしまい、残りの者も一生懸命看病しております。どうにか50人分は確保できましたが、それでも半数近くしか助かりません!」


 ギルドマスターの隣に立っていた人物が叫んでいた。

 どうやら流行り病が発生した村から薬を求めてやって来た人物らしく、アリスターの街でも薬が必要数手に入らないと知って、冒険者ギルドを頼って来たらしい。

 このような仕事を任せられるのなら名士のような人物が来るはずなのだが、その人物は若い。俺と同年代だ。


「本来なら名士である父が来るはずでした。しかし、その父も病に倒れてしまい、困っています。どうか助けて下さい」


 その姿は、とても必死だった。


(助けてあげてもいいけど……)


 俺には、リーエル草を確保する手段がある。村で苦しんでいる人々のことを思えばすぐに


 だが、この状況を利用させてもらうことにした。


「あの……」


 酒場の方から手を挙げながら近付いていく。


「なんだ?」


 ギルドマスターが訝しみながら俺を見る。

 まだ年若い冒険者が酒の匂いをさせながら忙しい時に近付けば邪魔に思うかもしれない。


「リーエル草って、これですよね」


 ギルドマスターの視線を無視して、収納リングから少量のリーエル草を取り出す。


「こ、これです……! マルス君、リーエル草を持っているんですか!?」


 担当であるルーティさんが声を上げる。

 その声に反応してギルドの中にいた冒険者も俺に注目する。

 恥ずかしい思いをしながら持っていたリーエル草について告げる。


「はい……これだけですけど」

「この量では1人分にも足りませんな」


 俺が申し訳なさそうに告げると、村から来た名士がガッカリする。

 けど、これでいい。俺が持っているという事実を知れば、ルーティさんなら気付いてくれるはずである。


「マルス君、このリーエル草をどこで手に入れたの? マルス君は、まだリーエル草の採取依頼を受けたこともなければ生えている場所に行ったこともないよね」


 さすがはルーティさん。俺の思惑通りに気付いてくれた。


 ここで大嘘を吐く。


「はい。迷宮で手に入れました」

「迷宮、だと……?」


 その言葉を聞いて再びギルドマスターが訝しんで眉を顰める。


 今まで迷宮でリーエル草が手に入るとは知らなかった……いや、迷宮では手に入らない。


「ええと……リーエル草を目的に迷宮に潜ったわけじゃなくて、母が迷宮で採れるハーブを使ったハーブティーに最近凝っていまして、それで他にも使える薬草がないかと色々と採取していたんです」


 その内の一つがリーエル草だと伝える。


 もちろん嘘である。


 ハーブティーに母が凝っているのは本当だが、薬草の採取なんてしていない。ギルドの中にいる全員の意識が村の名士の息子へ向けられている間に、こっそりと道具箱(トレジャーボックス)から収納リングに移し替えていた。


 ギルドにいた人たちには迷宮で採取したリーエル草を収納リングから取り出したようにしか見えないはずである。


「おい、収納リングなんて初めて見たぜ」

「馬鹿……! そんな高価なもん持っている方がおかしいぜ」

「あいつ、たしか最近冒険者になったばかりの奴だろ? なんで、そんな新人が収納リングなんて持っているんだよ……」


 どうやら予期せぬ方向へ目立ってしまったらしい。


 早く、誰か気付いてくれないかな。


「待てよ。ギルドマスター、リーエル草はどこで得られた物でもいいのか?」

「ああ、外で採取してきた物だろうと迷宮で採取してきた物だろうとリーエル草であることには違いないからな」

「ヨッシャ……ちょっくら迷宮へ行ってくら!」


 一人の冒険者が慌てたようにギルドを後にする。


「おい、抜け駆けは行けないぞ」


 また一人、また一人と冒険者が出て行く。


 肝心な事を言っていないんだけど、いいのかな?


「おい、坊主。そのリーエル草は、何階で手に入れた?」


 その言葉にまだギルドに残っていた冒険者も出て行こうとした冒険者の足も止まる。

 というか聞かずに出て行った冒険者は迷宮のどこへ行くつもりなのだろう?


「えっと、地下12階です」


 地下12階が最も多くハーブを得られる階層ということで適当に選んだ。


「地下12階のどの辺りだ?」

「いえ、地図もなかったので正確な場所は分かりません」


 そういうことにしておいた方が俺にとっては得だ。


「地下12階だな。俺たちも行くぞ」


 質問してきた冒険者がパーティメンバーを引き連れてギルドを後にした。

 それに次々と冒険者が続いている。


「えっと、とりあえず俺が納品したリーエル草の買取をお願いしてもいいですか?」

「はい。もう準備はできていますよ」


 さすがはルーティさんだ。騒ぎの間も業務を続けてくれていたらしい。


「すみません。今日のところは帰ります」

「なんだ、帰っちまうのか?」


 迷宮へは行かずに酒場で飲んでいる冒険者に挨拶をする。


「はい。このままギルドに残っていると色々と質問されて騒がしくなりそうなので、俺は先に帰ることにします。あ、みなさんはこのまま飲んでいて下さい。料金は後日、俺の方で払っておきますので」

「おう、また一緒に仕事をしようぜ」

「わたしたちのパーティに入ってくれればいいのに」

「ごめんなさい。まだ色々とやることがあるので、しばらくは自由に動けるソロでやっていくつもりです」


 挨拶を済ませると屋敷……ではなく、人目に付かない裏路地へと急ぐ。


 転移が使えれば、俺の方が確実に先に辿り着くが、急いで迷宮へ向かわなければならない。


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