第11話 金貨採掘
仲間を連れて鉱山へと入る。
鉱山へは迷宮でしか入った事がないが、迷宮と同じように広い通路に等間隔で木製の柱や梁で支えられていた。
入口に入ったばかりのところでは魔物は出て来ない。
鉱山にいる魔物は日の光を嫌う者ばかりだ。
それ故、日の光が届く入口付近は安全になっている。
「さて、鉱山に到着したわけだけど」
仲間の装備を見渡す。
特に用意などしていなかったので普段通りの服装だ。メリッサは丈の長いスカートを履いているもののシルビアとアイラは動きやすさを優先させてスカートだ。
ギリギリだけどイリスがパンツルックスタイルだが、そのイリスには今朝から覇気がない。
「……早く帰ろう」
自分の二つ名が広まっていると知って早速帰りたそうにしていた。
帰る――アリスターにある屋敷にだ。あそこを帰るべき場所だと認識してくれているのは嬉しいのだが、悲しい事実を告げなければならない。
「諦めろ。アリスターへは行商で多くの商人が訪れる。商売の種になりそうな話になら何でも飛び付くような商人が戦争で何があったのか話さないはずがないだろ」
というよりも噂が広がっていない方がおかしいぐらいだ。
帰っても噂が広まっているかもしれないという事実に絶望している。
「……本当に大丈夫なのか?」
不安になりそうな光景に眉を顰めているのは引率のように付いて来たフィリップさんだ。
俺たちが頼れる人物の中で唯一巨大土竜を目撃した人物ということで着いて来て貰った。
ただ、その視線は娘の成長を確認する父親――だらしない姿を見守る父親のようだったので引率とあまり変わらない。
「とにかく奥の方へ進んでみましょうか」
ある程度進んだところでフィリップさんが足を止める。
「巨大土竜の出現条件は教えた通りだ」
これまでに襲われた人物からある程度の統計は得られた。
金貨を多く所有している者から優先的に襲われている。それもカンザスへ来る前から大金を持っていても鉱山に来たばかりで採掘は進んでいない者は襲われておらず、採掘を何日も続けていて金貨を何百枚と手に入れていた者が襲われている。
そういった被害者の統計から巨大土竜の標的が分かった。
「奴を引っ張り出したいなら鉱山で金貨を採掘しまくれ」
大量の金貨を必要としている俺たちにとってはありがたい条件だった。
「とりあえず、これ」
道具箱からハンマーを取り出す。
魔法効果など付与されていない普通のハンマーだ。
「随分と便利なスキルだな。お前のか?」
「そうですよ」
フィリップさんは箱よりも長いハンマーが出て来た事に驚いていた。
どうやら実際の容量も大きい物を収納できる箱を呼び出すスキルだと思われたらしい。実際には、迷宮に繋がっており、ほぼ無限に収納することができるスキルだとは知られない方がいいだろう。
「誰からやる?」
今日はお試し。
道具箱の中に採掘に必要な道具がいくつか入っていたので壁をとりあえず削ってみることにする。
「まかせて」
アイラが俺の持っていたハンマーを奪い取って右側の壁に近付く。
――ガン!
全力で振り下ろしたハンマーによって壁が大きく削り取られる。
足元に岩の大きな塊が落ちて来る。
「おい、少しは加減しろよ」
「昔、鉱山に入ったことがあったからその時の感覚を頼りに思いっ切り叩いてみたんだけど、ちょっと力加減を誤っちゃった」
その時――眷属になる前の感覚から全力で叩かなければ鉱山の壁は砕けないと判断した。当たり前だ。あの頃と比べれば筋力は10倍近く上昇している。同じ感覚でいいはずがない。もっとも、さすがに全力はマズいと思ったらしく、ある程度の手加減はしていたらしい。
「てい!」
今度は手加減した状態で足元に転がって来た岩を砕いて粉々にしていた。
中から金貨が2枚出て来る。
「見なさいよ」
ドヤ顔がムカつく。
それはシルビアも同じだったらしく俺が新たに取り出したハンマーを受け取って左側の壁に向かってハンマーを打ち付ける。
アイラとは違って静かに叩いて行く。
ハンマーを打ち付ける音に混じって聞こえて来る「チャリンチャリン」という硬貨の音。
「は?」
シルビアの足元を見てみる。
そこには既に5枚の金貨が落ちていた。細かく削って行っているので壁から零れるように落ちて行った。
「なんで!?」
アイラが壁を削った時には2枚の金貨しか手に入らなかった。
しかし、シルビアが壁を少し削っただけで5枚もの金貨が出て来た。
「これがわたしの実力よ」
「いや、神の運使っているでしょ」
運を驚異的なまでに上昇させるスキル。
運頼りな金貨の採掘においてこれ以上に効果的なスキルはない。
シルビアが狭い範囲を削るだけで金貨が密集している場所を削ることができる。
「そっちが狭い範囲で効率的に金貨を手に入れるならこっちはガンガン削って行くだけよ」
シルビアから離れてアイラが壁を次々に壊して行く。
鉱山を崩壊させるつもりか!
「いいわ。どっちが多くの金貨を手に入れられるのか競争と行きましょう」
シルビアも適当に選んだ20メートルほど奥の壁を再び削り始める。
数分もしない内に二人の間には数十枚の金貨が落ちていた。
「お前ら、勢いよく削って行くのはいいんだけど、拾う方の身にもなれよ」
一応、声を掛けてみるものの返って来ることはない。
相当集中しているみたいだ。
仕方なく競争しているみたいなので、2つの袋に分けて金貨を詰めて行く。
「この分だと今日中に目標金額に届きそうですね」
「今日中、というよりも数時間以内に終わりそうだぞ」
こうして金貨を集めていれば巨大土竜が現れる。
決して的外れな方法ではなく、既に実績のある方法だ。
「俺が依頼に失敗したAランク冒険者の連中と採掘をしていた時は、金貨を200枚集めるのに4日掛かったぞ。それが、まだ10分ちょっとしか経っていないのに……」
「そろそろ100枚になりそうですね」
とりあえず依頼に失敗したAランク冒険者が集めた金貨200枚を目標に数日は採掘を続けるつもりでいた。
この分だと1時間もしない内に目標金額が集まりそうだ。
金貨の採掘は二人に任せておけば問題ない。
「それにしても本当に金貨が採掘できるんですね」
改めて拾った金貨を確認してみる。
手触りもそうだし、持った時に感じる重さも国が造っている金貨と全く変わらない。ついでに1枚だけこっそりと魔力変換させてもらったが、普通の金貨を魔力変換した時よりもちょっとだけ多い魔力が得られた。
迷宮核によると、どうやら採掘で得られた金貨には特殊な魔力が混じっているらしく、そのせいで魔力が少しだけ多いらしい。おそらく、金貨が造られた過程で特殊な魔力が混じっているみたいだ。
「ああ、正真正銘の金貨なんだが……」
質問に答えてくれたフィリップさんだったが、その視線は呆然と採掘を続ける2人へ固定されたままだった。
「普通、採掘をする時は同じ場所へ何度も打ち付けて脆くなったところを回収するものなんだ。実際、俺たちはそうやって金貨を得ていた。そのせいで金貨1枚を得るのに何時間も掛かっていたわけなんだが、あの紅髪の嬢ちゃんは一撃で砕いて行っているぞ」
競争に夢中になるあまり自重という言葉を忘れて採掘を続けている。
「それに、あっちの嬢ちゃんはどうしてあれしか削っていないのにあんな大量の金貨が手に入るんだ?」
「……気にしないで下さい」
だから引率は連れて来たくなかった。
俺たちの普段通りの行動がベテラン冒険者でも信じられないような力なのは分かっていた。
「まさか、イリスまでこんなことができるようになっているのか?」
「私を彼女たちと一緒にしないで」
アイラの落とした金貨を回収していたイリスがぼやく。
「私はあそこまで非常識な力は持っていない。もっと効率的に回収する」
イリスを中心に魔力が広がる。
数秒ほど意識を集中させた後で壁に手を突っ込んで引き抜くと手の中に金貨が2枚握られていた。
「こんな感じ」
「なんでだぁぁぁ!」
鉱山の中にフィリップさんの絶叫が響き渡る。
イリスが行ったのは【迷宮操作:地図】。自分の歩いた場所、周囲にある地形を地図にするスキル。このスキルを使えば奥の方は不可能だが、壁の手前なら金貨のある場所が分かる。
さらに強化されたステータスによって壁に手を突っ込むことも可能になった。
「今は、あの二人が張り切っているので任せることにしましょう」
「あ、ああ」
「お取込み中の所、すみません」
シルビアの落とした金貨を回収して来たメリッサが困った表情をしていた。
「もう、金貨200枚溜まっています」
「は?」
思わず袋の中身を確認してしまう。
うん、どちらも金貨が100枚以上詰まっていそうだ。
「始めてから30分も経っていないぞ……」
とりあえず目標金額を達成してもシルビアとアイラが採掘を止めそうにないので巨大土竜が現れるまで採掘は続行することにする。




