第9話 カンザス-後編-
「改めて依頼内容を確認します。依頼は『鉱山に巣食う巨大土竜の討伐』で問題ありませんね」
「ああ、その通りだが」
依頼内容の確認をしたのだが、ガンツさんはなぜ確認するのか分かっていないような様子だった。
クラーシェルで予め伝えているフィリップさんは苦笑している。
「巨大土竜を討伐した事で鉱山から金貨が採掘できなくなる可能性があります。討伐後、金貨が採掘できなくなってもこちらには落ち度がない事をこの場で確約して頂きたいのです」
「そういうことか」
俺の説明にガンツさんは納得していた。
「そもそもカンザスは鉱業だけでやって行けていた街なんだ。今さら不可思議な現象が起きている鉱山から金貨が得られなくなったぐらいで困窮するような街にはならない」
「金貨が採掘できればもっと稼ぐ事ができるのでは?」
「もっと非常にマズい事態に発展している」
今度はダルトンさんが苦笑していた。
俺たちが屋敷に来る前に二人で打ち合わせしていた事と関係があるみたいだ。
「この街は死んだ兄貴から受け継いだ街なんだ。俺には領主として領民の生活を守る義務がある」
カンザスへ来るまでの間にフィリップさんから聞いている。
元々はガンツさんのお兄さんが領主を受け継いでおり、齢の離れた弟だったガンツさんは自由気ままな冒険者になるつもりだった。
その思惑通りに冒険者となった。
だが、冒険者になってから2年もした頃に領主だったお兄さんが落石事故で亡くなってしまった。
お兄さんには奥さんと幼い息子がいたが、奥さんは領主としてリーダーシップが取れるような人物ではないし、幼い息子はとてもではないが領主を任せられるような年齢ではなかった。
そこで白羽の矢が立ったのがもしもの場合に備えて教育をしっかりと受けていたガンツさんだった。
「領主の地位も来年には甥っ子に明け渡すつもりだ。その前に問題は片付けておきたい」
「いいのか? お前にも息子が2人いるだろ」
「あいつらは領主には向かない。それよりも最近は俺の息子だからか冒険者になるんだと言い始めた。将来のことは自分たちで決めさせるさ」
「ガンツさん子供がいたの?」
イリスは子供がいた事も知らされていなかったらしい。
「こいつがお前を可愛がっていた理由だけどな。自分の子供が男だったから女の子のお前が可愛くて仕方なかったんだよ」
「いいだろ別に。自分の子供は生意気で可愛くない。それに比べて幼い頃から素直で丁寧な態度だったイリスは可愛かった。それが、数年ぶりに会えば美人になってくれていたのは嬉しいが、口調が変わってしまっている。最近、反抗期を迎えた息子たちと同じで遅い反抗期が来たのかと本気で心配していたんだぞ」
本気で泣き出してしまった。
自分の息子よりも本当にイリスを大切にしていたみたいだ。
とりあえず後継者については問題がなさそうだ。
「ええと……それで、マズい問題というのは?」
「お前たちも街で見たと思うが、冒険者がたくさんいただろ」
泣き出したガンツの代わりにダルトンさんが答えてくれる。
「ええ、この街の需要を考えるとかなりの数がいました」
「人数そのものもそうなんだが、この時間にこれだけの冒険者が街中にいるというのが問題なんだよ」
窓から外を確認してみる。
現在の時刻は太陽の昇り切った昼過ぎ。通常ならば、夜に危険な街の外に出掛けるのを避けて仕事をしているべき時間である。
にも関わらず、街の大通りには多くの冒険者が暇そうにしており、中には酒瓶を片手に呑みながらウロウロしている者までいたせいで少しばかり治安が悪そうに見えた。いや、実際に治安は悪くなっていた。
「そういうことですか……」
同じ冒険者として困った話に気付いてしまった。
恥じているのはベテラン冒険者であるフィリップさんやダルトンさんも同じだ。
「簡単に稼げるという話を聞き付けてカンザスにやって来た冒険者たちだったが、ここ1、2週間の間に被害者が出て危険な仕事になってしまった。そうすると被害を恐れて冒険者たちは鉱山へも行かないし、街の近くにいる魔物を討伐して仕事をするような事もしない」
カンザスへは楽に稼ぐ為に来たのに今さら面倒な討伐依頼を引き受けるはずがなかった。
そういう奴らは実力が伴っていない。
実力がきちんとある冒険者なら拠点を離れて稼ぎに来たりする必要もない。
仕事をしない冒険者たちは、危険になる前までに鉱山で稼いだ金で街中に居座るようになる。
冒険者の娯楽と言えば飲み食いだ。
最初の内は、街も金を落としてくれるという事でそこまで問題視していなかったが、いつまで経っても稼げるようにならない状況に苛立った冒険者たちは酔っていることもあって街の住人に絡むようになった。
恐喝や暴行。
鉱山から金貨が得られなくなった事で住人から巻き上げるようになってしまった。
街にも警備兵がいるが、冒険者の数が多すぎるせいで対処し切れていない。
「数日前にAランク冒険者が巨大土竜の討伐に失敗したのが痛い。Aランク冒険者と言えば冒険者の中でも最高レベルだと言ってもいい。そんな奴が失敗したんだからしばらくは危険な状況が続くと思わせてしまった。昨日なんか住人と冒険者の間で喧嘩があって仲裁の為に間に入った警備兵が重傷を負った」
冒険者のせいで治安が悪くなっている。
同じ冒険者として恥ずかしい限りだ。
「それに金が底を尽いて鉱山に入った冒険者4人が昨日から未だに帰っていない。さすがに鉱山にいる普通の魔物にやられたとは思いたくないから巨大土竜にやられてしまった可能性が高い」
「本当か?」
「犠牲者はどんどん増える一方なんだよ」
金貨が採掘できる状況に戻してしまうと荒くれ者の冒険者がさらに増えて手に負えなくなってしまう可能性が高く、治安が悪化の一途を辿ることになる。
ベテラン冒険者ということでダルトンさんがまとめようとしているらしいが、あまり上手く行っていないらしい。
「さっきお前たちが来るまでにしていた会議も冒険者に対してどのように対処するか、という内容だ。結局、兵士に負担を強いることになってしまうが、警備を強化する以上の案が思い浮かばなかった」
取り締まるにしても問題を起こした冒険者しか取り締まることができない。
最も簡単な解決方法が……
「つまり、金貨の出ない状況に戻して冒険者にいなくなってもらうのが街にとっての最良なんですね」
街にとっても最低限の冒険者がいなければ街の外に現れる魔物に対処することができない。
しかし、必要なのは最低限の冒険者。
雑用をする者も含めて数十人もいれば足りた。
「だから巨大土竜を討伐して金貨が採掘できなくなってしまったからと言って問題にするような事はない」
泣いていたガンツさんが復活した。
その顔には領主としての覇気が戻っていた。
言質は頂いた。
これで問題なく巨大土竜を討伐する事ができる。
「どうやって討伐するつもりなのか聞いてもいいか?」
「まず、相手の力を確認してみないことには始まりませんね」
巨大蜘蛛は、体が硬く、糸を吐き出して動きを封じようとしてきた。
現在、俺たちが巨大土竜に対して持っている情報は、姿が巨大な土竜というのと神出鬼没である事だけ。
もう少し情報がなければ対策のしようがない。
「まずは、ギルドで情報収集ですね」
鉱山内には巨大土竜以外にも魔物がいる。
出て来る魔物の種類さえ分かれば迷宮から得られる情報を利用して傾向と対策は用意できる。
問題は、全く情報のない巨大土竜の方だ。
席を立って部屋を退出しようとする。
「冒険者ギルドへ行くなら現在の状況を見て来るのもいい」




