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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第15章 金貨採掘
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第7話 変装色々

「もう、聞きたくない!」


 夜、宿屋で直接顔を合わせながら報告を行う。

 【迷宮同調】のおかげでリアルタイムに情報を共有できるとはいえ、全ての情報を共有しているわけではない。こうして情報のすり合わせを行うのは必要な事だ。


 ただし、そこに嘲笑う必要性はない。

 報告を聞いていたイリスがベッドの毛布で体を包み込み、体を震わせている。

 その傍にいるのはニヤニヤとした笑みを浮かべて囁いているアイラだ。


「どうしたのよ『蒼剣』さん。そんなに恥ずかしがる事ないじゃない『蒼剣』さん。かっこいいわよ『蒼剣』さん」

「本当に止めて!」

「それぐらいにしてやれよ」


 合流してからというもののずっと揶揄っている。

 アイラもイリスも剣士なので仲が良いはずなのだが、こんな光景は今まで見た事がなかった。


「あたしも二つ名とか欲しいな」


 二つ名が欲しかったアイラは先に手にしたイリスを羨ましがっていた。


 ただし、パーティ内で二つ名を欲しがっているのは今ではアイラだけだ。

 メリッサは既に貰っていた事を恥ずかしがっていたし、俺とシルビアは恥ずかしくなって毛布にくるまっている姿を見ていると可哀想に思えて来て苦笑しかできない。


「私が何をしたの!? ここは私の生まれ故郷なのにそんな名前で呼ばれるなんて恥ずかしくて外なんて出歩けない!」


 外を出歩けばイリスを知っている人から『蒼剣』と呼ばれ、恥ずかしい思いをしてしまう。現に宿屋へ行く途中も2度ほど見つけられてしまってぎこちない笑みで対応していた。


「もう嫌! 私はずっと引き籠っている!」


 本当に毛布からも出て来ないつもりらしい。

 おかげで夕食を食べに行く事もできないでいた。


「いえ、明日クラーシェルを離れてカンザスへ行けば解決される問題なのですから出掛ける事にしましょう」


 メリッサが諭す。

 要は二つ名を知らない土地へ行けば解決される問題だ。


「ちょっと注目されるぐらいが何だ。それぐらい我慢すれば……」

「あ、ちなみにマルスの話もそれなりに出回っていたわよ」

「……!」


 パッとアイラの方を振り向く。


「具体的に」

「えっと……」


 両肩に手を置いて訊ねるとゆっくりと語り出してくれる。


「名前とかは知られていないみたいだけど、黒髪に黒コートの男だっていう容姿は知られているわよ」

「よし、脱ごう」


 知られているのが髪の色とコートだけなら対処のしようはいくらでもある。


 まず、コートを脱いでシャツ1枚だけになる。


「なんか軽いな」

「そう言えば洗濯の時以外で脱いでいるところは初めて見ますね」


 思えば迷宮主(ダンジョンマスター)になった日からシルビアに言われて洗濯をする日以外はずっと着ていたコート。

 何も着ていないのは落ち着かない。


「安物でいいからプリーズ」


 宝箱(トレジャーボックス)から灰色のコートを取り出す。

 衝撃吸収能力が僅かに付いただけのランクの低いコートだが、クラーシェルにいる間だけなら問題ない。


「後は髪の色だな……何色がいい?」

「え、変えられるの?」


 アイラが首を傾げているが、それぐらいは迷宮魔法を使えば問題ない。


幻影(ミラージュ)


 闇属性魔法:幻影(ミラージュ)

 対象に幻影を被せて姿を誤認させる魔法。姿を誤認させているだけなので、手で触れれば幻だと分かってしまうし、対象よりも大きな幻影を生み出してしまうと姿が維持できないという欠点がある。

 ただし、髪の色を誤認させる程度なら問題ない。


 とりあえず仲間と被らないように『緑』にでもしてみる。


『おお~』


 4人から拍手と共にそんな声が漏れる。

 毛布に包まっているイリスも気になったのか中から覗いている。


「髪の色を変えるだけで印象が随分と変わりますね」

「人間なんて大雑把にしか見ていないからな。色を変えるだけでもかなりの効果があるんだよ」


 ただし、あまりやりたくない方法ではある。

 イメージが強く根付いてしまっている人物の場合、元の姿から変え過ぎてしまうと本人だと証明する場合に困る事になってしまう。俺も街から出る時には身分証を提示すると同時に髪とコートの色を元に戻さなければならない。


 それに闇魔法にはリスクが伴う。

 幻影(ミラージュ)の場合は、あまりに長時間被せ過ぎていると元の姿を忘れてしまうという欠点がある。忘れてしまえば、元の姿に戻しても違和感が残る事になる。

 自分の姿に違和感を持った生活は御免だ。


「私にも使って髪の色を変えて!」


 毛布の中から出て来たイリスがガシッと俺の手を掴んで髪の色を変えるようお願いして来た。


「私、これからクラーシェルにいる間は魔法使いに転職する! メリッサ、ローブと杖を貸して! それで誤魔化せるでしょ」

「貸すのはいいのですが、夜なので静かにして下さいね」


 メリッサが予備に使っているローブを受け取ったイリスが羽織り、杖を持つ。魔法も使えるので魔法使いに見えなくもない。

 その上から髪の色を『白』に変える。


 というよりも……


「フードを被れば顔が見えないんだから問題ないんじゃないか?」

「そんな事をしたら視界が狭まる」


 やっぱりイリスは魔法使いではなく、魔法が使える剣士だ。


「これなら私だとバレない」

「メリッサはどうだ?」

「魔力量は問題ありませんが、行動が著しく制限される事になりますがよろしいですか?」

「え、どうして……?」


 幻影(ミラージュ)にはもう一つ欠点がある。

 使用中、常に魔力を消費するせいで魔法を使用した者と対象が離れるわけにはいかない。


「具体的にはメリッサか俺と100メートル以上離れると魔法は解けるからな」

「そ、そんな……」


 もっとも元の姿に戻ってしまうだけで特に人体への影響はない。


「街中にいるだけならそこまでの危険もないし、フードを被っていればいいんじゃないか?」

「素直にそうする」


 フードを被ってベッドの上で膝を抱えて丸くなる。

 さっきまでの毛布に包まっていた姿とあまり変わらない。


「わたしたちはどうしますか?」

「ん、どういう事だ?」

「わたしとアイラの容姿については知れ渡っていませんが、中には知っている人がいるかもしれません。わたしとアイラがご主人様たちと一緒に行動する事から素性が知られてしまう可能性があります」


 そこまでは考えていなかったな。

 だけど、そこまで気にするほどの問題でもないだろう。

 バレたらバレたでその時に対処すればいいだけだ。


「……いや、せっかくだから二人にも変装をさせよう」


 どこか自棄になった様子のイリスが呟く。

 怖いので、お願いだからフードを被った状態でボソッと呟かないで欲しい。


「でも、わたしたちにまで魔法を使うとかなりの負担になるんじゃ……」

「大丈夫ですよ。魔法を使わなくても少し印象を変えるぐらいなら簡単にできますから」


 メリッサがどこかから取り出した櫛でシルビアの髪を梳いて行く。


 されるがままにしていると右側の編み込みも解かれ、髪が後ろで束ねられる。


 髪型を少し変えただけなのだが、イメージが随分と変わった感じがする。


「どう、でしょうか?」


 不安そうに俺へ訊ねて来るシルビア。


「に、似合っているんじゃないかな?」

「ありがとうございます」


 それしか言えない自分が恥ずかしい。


「あたしもやってみたい」

「いいですよ」


 笑顔で応えたメリッサがアイラの後ろに回る。

 髪型を整え、幻影(ミラージュ)で疑似的に服装まで変える。


「ちょっと!」


 鏡の前まで移動して自分の姿を確認したアイラが憤る。

 今のアイラは真っ赤な髪をウェーブさせ、黄色いドレスを着せられていた。


「ぷっ」


 シルビアが我慢できずに笑い出してしまっていた。


「ど、どうして笑うのよ!」

「だ、だって……」


 笑いを堪えるのに必死なシルビアは答えられない。

 イリスもフードを深く被って笑いを堪えているのを見られないようにしている。


「ど、どう?」


 シルビアのように訊ねて来るアイラ。

 ここは正直に言った方がいいかな。


「に、似合ってないんじゃないかな?」


 笑いを堪えているせいでどもってしまった。


「シルビアの時と反応が違うじゃない!」

「だって、本気で似合っていないんだよ」


 なんというかドレスに着させられているという感じがする。

 それに大人しくしていられればそれなりに見ていられるのかもしれないが、アイラがいつまでも大人しくしていられるとは思えない。


『あはははははははははは!』


 迷宮核なんてずっと笑いっ放しだ。


「昼間、貴族令嬢なんて無理だと言っていたので貴族令嬢をイメージして変装させてみたのですが、ダメでした」

「ダメって何よ!」

「いえ、予想以上に似合っていないので」


 メリッサまで顔を背けて笑い出してしまった。


「笑うな! だからあたしには貴族令嬢なんて無理だって言ったのよ!」


 結局、宿屋の従業員から注意されるまで騒ぐ事になってしまった。


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