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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第15章 金貨採掘
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第6話 戦争の詩

メリッサ視点です。

 大賢者。

 今は王都に住んでいる齢90を超える女性の魔法使い。


 エルフのルイーズさんと違って、その体に老練さをしっかりと刻み、経験による凄味が現れています。


「会った事があるの?」

「残念ですが、王都にいた頃に遠くから一目見ただけです」


 あの時は、王子の誰かがパレードをしていたらしく、王城で召し抱えらえていた『大賢者』様が護衛のように傍にいました。


 今でも忘れません。

 パレードの最中に群衆の一人でしかなかった私に『大賢者』様は気付いてニッコリと微笑んでくれました。

 年齢も年齢なので普段は出歩く事がないらしいのですが、王都のギルドマスターであるルイーズさんとは若い頃からの知り合いらしく、何度か顔を合わせていてもタイミング悪く私が出向いた時には会う事ができませんでした。


 ルイーズさんと『大賢者』様。

 どちらのように将来なりたいかと言われれば『大賢者』様だと即答します。


「いや、そこはルイーズさんが可哀想だからルイーズさんの方がいいって答えてあげなさいよ」

「そうね」


 二人からどのように言われてもそこだけは譲るつもりがありません。

 そもそも幼い頃からルイーズさんを知っている身としては、彼女は若作りのお婆さんにしか見えないのです。


 その点、一度しか拝見した事のない方ですが『大賢者』様は凄い方でした。


 一日中魔法を使い続けても尽きる様子のない魔力。

 通常は1つから2つしか持てないはずなのに全ての基本属性に適性がある。

 様々な知識に精通しており、王家の相談役も務めている。


 調べれば調べるほど憧れる要素が増えて行きました。


 そういった憧れの人に関する事を説明して行くのですが、二人には凄さが全く伝わりません。


「だって、あんたも似たような物じゃない?」


 改めて自分のスペックを確認してみます。


 魔力――スキルのおかげで6万を超えているので簡単な魔法なら1日中使い続けていても問題ありません。

 適性属性――これも眷属になって得たスキルのおかげで全てに適性を持てるようになりました。

 知識――幼い頃から色々と学んでいたおかげで様々な知識に精通し、主の相談役のような立場に収まっています。


「……あれ?」

「気付いた? あんたみたいなハイスペックが身近にいるせいで似たような人を凄いって本人から説明されてもいまいち伝わらないのよ」

「そ、そんな……」


 私は凄い人の弟子みたいな位置づけの二つ名を頂くのが恥ずかしい。

 けれど、どれだけ凄い人なのか伝える方法が私にはない。


 頭を悩ませていると広場のような場所に辿り着き綺麗な歌声が聞こえてきます。


「あれって吟遊詩人?」


 声にアイラさんも気付いたようで歌声の内容に耳を傾けています。

 吟遊詩人の歌声には道行く人を惹き付けるだけの魅力があるらしく、何人もの人が足を止めて聞き入っています。


「でも、おかしくない?」


 シルビアさんもおかしな部分に気付いたみたいです。


 吟遊詩人の歌声が大変素晴らしいのは間違いないのですが、謡っている詞の内容がおかしいのです。

 最初はありきたりな戦場における恋愛模様を謳った内容かと思いましたが、よくよく聞いてみると遠く離れた地にいる戦場へ駆り出された知人を助けるべく自分も戦場へと駆け抜けた男の物語。男は必死に戦場へ向けて駆け抜けた甲斐あってギリギリ女性の窮地に間に合い、女性の故郷も救う事ができるという内容。

 男性がいなければ戦場となっていた都市は蹂躙されているはずであり、助けられた恩から女性は男性に付いて行く事にした。


 ……どこかで聞いた事がある内容ですね。


 内容に首を傾げている間に詩が終わり、吟遊詩人の前に置かれた鞄の中に聞いていた人々から次々と硬貨が投げ込まれて行きます。


「今日もよかったよ」


 中には声を掛けている人もおり、この街では人気のある吟遊詩人だという事が窺えます。


 ただ、真実を正確に知っている私たちとしては微妙です。

 男性冒険者は、女性冒険者を助ける為に戦場へ向かったわけではなく依頼として引き受けただけですし、女性冒険者とは一度しか顔を合わせていません。ただし、戦場へ訪れてからの内容に関しては正確だったので聞き込みが行われた事は間違いありません。


「あの人は有名な人なんですか?」


 気になったシルビアさんが近くにいた男性に声を掛けています。


「有名っていうわけじゃないけど、この街では一番上手い吟遊詩人かな。歌声もそうなんだけど、詩の内容がしっかりと聞き込みをして正確な情報を仕入れたうえで作られているから真に迫っているんだ。俺も何度か聞いているけど、歌声が聞こえる度に足を止めてしまうよ」

「ちなみに、さっきの詩って……」

「あんたたち、この街へ来るのは初めてかい?」

「はい。久しぶりに帝国へ行く事になったのですが、その前にこの街へ立ち寄らせていただきました。今は、従者と護衛を連れて散歩をしていたところ、先ほどの詩を聞いてしまったので思わず足を止めてしまいました」


 どう答えるべきかシルビアさんが迷っていたようなので私も加わります。

 事実、クラーシェルは帝国と王国を行き来する貴族の多くが立ち寄る場所になっており、何人もの貴族がいるため不審には思われないですし、お忍びで散歩をしているという事にしておけば私たちの服装も気にならないはずです。


 冒険者だと名乗らないのは万が一にも私たちが詩に出て来た人物だと悟らせない為。シルビアさんとアイラさんはともかく、私は『賢者』だと勘付かれてしまう可能性があります。


 ですが、苦情は仲間から届きました。


『従者ってわたしの事?』

『じゃあ、護衛はあたしよね』


 念話で届いた二人の声には不満が含まれていました。

 シルビアさんはあくまでも主のメイドですし、アイラさんも下の立場にいる事が気に入られないみたいです。


『では、どちらか配役を交代しますか?』

『『結構です』』


 二人とも貴族令嬢の振りができるほど器用ではないですからね。


「先ほどの詩は春頃に起こった戦争での話ですか」

「ああ……いえ、その通りです」

「普通に話して下さって結構ですよ」

「実際に起こった話で兵士や捕虜から話を聞いて得た実際にあった出来事みたいです。今はいないけど、助けられた蒼髪の女性冒険者も以前はいたらしいから、助けてくれた男性に付いて行ったという話も真実みたいです。ただ、吟遊詩人はモデルになった本人に配慮して名前なんかは伏せているみたいです」


 具体的な名称は伏せていても容姿については伏せていませんでした。

 助けに来た男性冒険者の方なら黒髪と黒コート。助けられた女性冒険者の方なら剣と魔法を使う蒼髪。


 男性冒険者の方はともかく、クラーシェルを拠点に活動していた女性冒険者の方は容姿が知られてしまっているので顔見知りの冒険者や門番のような兵士の方々にはイリスさんだと知られてしまっています。


「ありがとうございました」

「い、いえ……俺はこの辺で」


 微笑みながらお礼を言うと緊張した面持ちで男性が離れて行きます。


「凄いわね」

「普通ならお礼と一緒にお金でも渡すところじゃない」

「相手が貴族令嬢となれば自分から謝礼を請求してくる事はありません。少しばかり気持ちを込めてお礼を言うだけでありがたみを感じてくれます」


 私が貴族令嬢の振りをしたのは、この辺りにも理由があります。

 冒険者が情報を求めたならお礼に銀貨でも渡しているところですが、話を聞いた男性から要求されたわけでもないので私は無料の笑顔だけを渡す事にしました。

 知り合いに使うには気が引けますが、今日しか会わない人が相手なら問題ありません。


「ですが、面白い話が聞けましたね」

「後で合流したら揶揄ってやることにしましょ」


 本人の名前を出すわけにはいかない。

 そこで付けられたイリスさんの蒼髪から『蒼剣』という二つ名。

 私ばかり二つ名を貰って笑われるのは不公平なので合流したら揶揄う事にします。


「いらっしゃいませ」


 そろそろ主とイリスさんの2人が冒険者ギルドに着く頃なので広場の近くにあった喫茶店の中に入ります。

 喫茶店の中は落ち着いた雰囲気で私たち以外にもお菓子とお茶を楽しんでいる女性の姿がありました。これなら女性3人で店にいても不審に思われるような事はないでしょう。


 注文を済ませ、店内の様子に意識を向けていると聞こえてくるのは先ほどの詩について。

 女性たちが目を輝かせてイリスさんの話をしています。


「なるほど。こうしてイリスさんのパーティ加入がラブロマンスのように改変されてしまったのですね」


 なぜ、恋人のような立場になっているのか疑問でしたが、噂話と言うのは得てして尾鰭が付いて広がってしまうもの。戦場で助けられた事に憧れた女性が話を盛ったせいでラブストーリーになってしまったのでしょう。

 事実とは少し違いますが、イリスさんには恥ずかしい思いをしてもらう事にしましょう。


「みなさんも興味がおありですか?」


 ウェイトレスが注文したケーキを運んできてくれます。


「ええ、そうですね」

「戦争の後って言えば暗くなってしまうものだと思っていたのですが、みんな一生懸命に生きていますね。娯楽がないよりも娯楽になってくれる話題があるおかげで私も笑顔で仕事ができています。ネタになっている女性には申し訳ないですけど、女性冒険者には感謝しかないですよ」


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