第3話 金貨の出る山
「まずは依頼人についてだ。カンザスの街の領主ガンツが困っていたところ、元冒険者仲間である俺の所へ相談に来た」
依頼人:ガンツ。
仲介人:フィリップ。
「現状は、俺の方でギルドマスターと相談してAランク冒険者パーティを派遣してもらったが、巨大土竜に撃退されAランク冒険者は問題ないが、パーティメンバーのBランク冒険者は重傷、Cランク冒険者2人に至っては亡くなった」
「それはマズいですね」
「ああ、俺は自分の目で巨大魔物を確認したわけじゃなかったから事態を甘く見ていた」
普通のAランク冒険者パーティでも対処できると判断してしまった。
対処へ向かったパーティもそれなりの自信があったのだろう。
だが、これまでに3体も巨大魔物を相手にして来た俺から見れば、Aランク未満の冒険者では足を引っ張られているようなものだ。普通のAランク冒険者パーティでは勝ち目などない。
「まず、何があったのか最初から説明してくれますか?」
「そうだな。事の発端は2カ月前。カンザスは近くに鉱山を持つ鉱業で栄えた都市だったんだが、鉱山の中には定期的に魔物が生まれる。そのため冒険者に依頼を出して定期的に魔物を討伐してもらっているんだが、討伐依頼を引き受けていた冒険者が日没になってもなかなか戻らない日が続いた」
「犠牲になったんですか?」
「どうやら採掘をしていたらしい」
鉱山はもちろん街の所有物となる。
当然、街の許可を得ていない者が勝手に採掘をすれば泥棒と同じように窃盗となり、犯罪者として処罰される。
「鉱石を採掘していたんなら処罰するのは簡単だったんだが、そいつは魔物と戦い易くする為に道を整備していただけだと言っていた。現にそいつが削っていたのは出っ張った壁や地面ばかりだった」
「まあ、普段から鉱山の魔物討伐を引き受けているならあり得なくはないですね」
「そんな事をしていた本当の理由だが、魔物との戦闘の最中に壁を傷付けてしまったらしく、その時にこいつが壁の中から出て来たらしい」
フィリップさんが金貨をテーブルの上に置く。
「まさか金が出て来たんですか?」
俺の答えに首を振る。
「出て来たのは金貨そのものだ」
「は?」
意味が分からない。
金貨は金を用いて加工するから出来上がるのであって最初から金貨として採掘できる物ではない。
それぐらいは知っている。
「このまま採掘できるんですか?」
「そうだ。俺も実際に採掘してみて壁の中からソレが出て来た」
改めて壁の中から出て来たという金貨を確認させてもらう。
素人目では正真正銘本物の金貨にしか見えない。
「目利きに優れた商人にも見せたが、本物の金貨で間違いないそうだ」
「金貨の出る鉱山。さぞかし儲かるんじゃないですか」
「ああ。残念ながら金貨まで街の所有物とする事はできなかったから採掘した金貨を徴収する事はできなかった。けど、金貨が採掘できるという話を聞いてこれまでに見た事がないほどの冒険者が押し寄せた事で街が賑わっている。そういう意味では儲かっているな」
金貨の出る鉱山には魔物が出る。
そのため鉱山へ行けるのは普段から採掘作業で魔物が現れても逃げられるだけの力がある鉱夫。魔物を討伐できるだけの力がある冒険者に限られる。
危険を承知で一般人も挑む事もできるだろうが、やはり勇気が必要になる。
それでも街で商売をしている人たちは採掘の為に訪れた冒険者を相手に商売をして十分な稼ぎを得ているらしい。
「1カ月もする頃には、カンザスに200名近い冒険者が集まっていた」
「そんなにいて大丈夫なんですか?」
冒険者の多くが自分の力に自信を持っているため荒くれ者の方が多い。
そんな者が多く集まれば治安も悪くなる可能性が高い。
「幸い、と言っていいのか分からないが集まった冒険者の多くが1日で金貨を1枚でも手に入れられれば儲けられる程度の連中ばかりだ。手に入れた金をすぐに酒場で使って煩くするような事はあっても街の連中に当たるような事はなかった」
「え、もしかして未だに出続けているんですか?」
俺の質問にフィリップさんが頷く。
200人の冒険者が毎日のように金貨を1枚以上手に入れている。
金貨が出るようになったのが今から2カ月前で、1カ月前には200名の冒険者が集まっていた。少なくとも金貨が数千枚……1万枚以上は手に入っていないといけない計算になる。
「お前の疑問はもっともだ。街が把握しているだけで既に10万枚以上の金貨が鉱山の中から出ている。そして、金貨が尽きるような様子は今のところ見られていない」
「それは異常ですよ」
通常の鉱石にしても掘り続けていれば鉱石の出が悪くなり、最後には尽きるようになってしまう。
永遠に出続けるなどあり得ない。
ましてや今回出てきているのは金貨。
「金貨が尽きるような様子は今でもない。だが、街に冒険者が溢れるようになった頃に別の問題が発生するようになった」
「現れましたか」
「最初は何が起こったのか分からなかった。ある日、鉱山から帰らない冒険者が何人か確認されるようになった。魔物にやられてしまったのか、羽振りがよかったせいで他の冒険者から恨まれて殺されたのか分からないが、相手が冒険者だからという事で誰も気にしていなかった」
色々と行方不明になる理由が考えられたのだろう。
一人が行方不明になった程度では調査も行われなかった。
「ただ、それが10人も続くようになると採掘をしている冒険者連中も不安になってくる。採掘をしている間も数人で固まって動くようになるのさ」
数人で固まって動いていれば急な不意打ちにも対応できるようになるし、何かがあっても察知する事ができるので安全になる。
ただし、固まって行動していては1人が得られる金貨の量は少なくなる。
そうして一組の冒険者が見つけたのが……
「巨大な土竜の魔物」
「ああ、この1カ月の間に7回も確認されている。俺も実際に見たが、全長が10メートルほどの魔物で鋭い爪の生えた腕だけでも人よりも大きかった。あんな爪を向けられた時には生きた心地がしなかったな」
「遭遇したんですか?」
「鉱山に危険な魔物が生息しているとあっては街も黙っているわけにはいかない。鉱夫に被害は出ていなかったみたいだが、いつ被害が出るとも分からない早急に対処する必要があった。だが、これまでみたいな鉱山に住み着いた魔物の討伐依頼なんてレベルの問題じゃない。そこで、領主のガンツが元冒険者仲間だった俺を頼ってAランク冒険者を紹介するように頼み込んで来たんだ」
お金の方は冒険者が街に落としてくれたのでどうにかなった。
だが、カンザスにはAランク冒険者などいなかったのでクラーシェルから派遣する事になった。
「俺も仲介人っていう事で依頼を引き受けてくれたAランク冒険者パーティに同行させてもらった。俺は最後尾で付いて行っているだけだったから無事だったが、結果はさっき言った通りだった」
パーティは壊滅的な被害を受けてしまった。
「あいつが現れたのはあっという間の出来事だった。出て来る魔物が土竜って聞いていたから壁を掘り進んでくるのかと思えば、いつの間にか先頭を歩いていた奴の隣に立っていた。気付けば1人が瞬殺され、残ったメンバーが応戦しながら逃げていたが、最後には本当に逃げるだけで精一杯だった」
困ってしまったフィリップさんは再度クラーシェルへと戻り、ギルドマスターに巨大土竜の詳細を報告し、今後について相談した。
普通のAランク冒険者パーティの手にも余る魔物。
誰を派遣するべきか頭を悩ませていたところに夏頃に巨大海魔を討伐した冒険者パーティがいた事を思い出した。
「状況は分かりました。俺たちへの依頼は、鉱山に出現した巨大土竜の討伐という事でよろしいですね」
「俺の方から依頼を出しておいてこんな事を聞くのもおかしな話なんだが、本当に大丈夫なのか?」
「巨大海魔と同じで見つけるまでが大変そうですが、アレと同程度の戦闘能力なら倒すのは問題ありません」
フィリップさんは気になる事を言っていた。
――いつの間にか先頭を歩いていた奴の隣に立っていた
そもそも狭い鉱山の中で体長10メートルの魔物がまともに動き回れるとは思えない。鉱山の狭さを問題にしない特殊なスキルを持っている可能性が高い。
そっち方面での対策が必要になる。
「今回の討伐依頼問題なく引き受け――」
『ちょっと待って下さい』
引き受けようとしたところでメリッサから待ったが掛かった。