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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第15章 金貨採掘
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第2話 イリスの里帰り

 1階の受付前で合流したフィリップさんと一緒にギルドマスターの執務室へと向かう。

 以前に会ったフィリップさんは筋肉という鎧の金属製の装備を身に着けていたのだが、現在はそんな様子は全く無く動きやすい革製の鎧を身に着けているだけで金属の装備は左腕に装備しているガントレットのみ。


「やっぱり右腕に違和感がありますか?」

「ん?」


 フィリップさんがゆったりとした動きで振り向く。

 そこに現役冒険者らしい鋭さはない。


「私の治療はダメでした?」


 俺でさえ気付けたのだからイリスが気付いていてもおかしくない。


「ああ、気にするな。別に違和感があるとかそういうわけじゃない。ただ、右腕の方はお前に貰ったような物だから大事にしたいんだ。だから戦闘になるような事があっても右腕は使わないようにしている。装備をしていなければ俺もうっかり使ってしまうような事がないからな」


 そう言って笑っている。

 けれど、どこか寂しそうだった。


「引退か……」


 ボソッと呟いていた。


「今は何をしているんですか?」

「今回の依頼にも関わる事だが、ガンツを覚えているか?」

「ガンツ叔父さんですか? もちろん覚えていますよ」


 俺の知らない人の名前だったが、イリスの表情を見る限り嬉しそう……というよりも懐かしそうにしているので悪い人ではなさそうだ。


『フィリップさんの若かった頃の冒険者仲間。私がパーティに入るきっかけになった戦争の前には引退して実家の方に帰っていたらしいけど、フィリップさんたちに会いに何度か遊びに来ていた』


 その時にパーティメンバーだったイリスも親しくさせてもらっていた。

 フィリップさんたちにとって娘のような存在だったイリスにとってフィリップさんの昔の仲間だったガンツさんという人物は叔父のような存在だったらしい。

 分からない俺にこっそりと念話で教えてくれる。


「成長した今のお前になら言っても問題ないと思うが、ガンツはクラーシェルの北にあるカンザスの街で領主をしているんだ」

「そ、そんなの初耳!」

「俺たちの所に来ていたのは愚痴を言いにお忍びで来ていたからな。俺たちの方から出向いても良かったんだが、愚痴を聞いてもらうのが目的だったから領主として会うわけにもいかなかったんだよ」


 それで、幼かったイリスには詳しい仕事の内容は教えずに元冒険者仲間とだけ紹介していた。


「ど、どうしよう……」


 イリスがいつになく動揺している。


『私、ガンツ叔父さん……ガンツ様に失礼な事言っちゃっていたかもしれない』

『失礼な事?』

『ガンツ様と会う時は決まって酒場だったから「口が臭い」とか「仕事をしていないの?」なんて言っちゃっていた』


 それは幼い頃の話だろう。

 話の内容を聞いても領主が愚痴を言っているとは思えなかった。


 どうやって慰めようかと考えていると元領主の娘という事で、こういう事にも詳しいメリッサから言葉が届いた。


『相手もお忍びで会っていたようですし、幼い子供の言動です。相手が領主だったとしても大目に見てくれますよ』

『そ、そう……?』

『それに何か問題になるような事を言われた時には主が守ってくれます』


 隣を歩くイリスがこちらを見上げて来る。


『ああ、眷属に何か危害が及ぶようなら俺は全力で守るさ』

『と言う事です』


 俺の言葉にイリスがホッと胸を撫で下ろしている。

 そんな緊張してしまうような事を言ってしまっていたのか。


「お前ら、何をしているんだ?」


 念話だけで会話をしている場合ではなかった。

 すぐ傍にはフィリップさんもいる。

 フィリップさんから見ればお互いに見つめ合ってアイコンタクトで意思疎通しているように見えている事だろう。


「仲が良いみたいで何よりだけど、ギルドマスターの部屋に着いたぞ」

「えっと、お願いします」


 リナリーが申し訳なさそうにしている。

 せっかくの憧れの人なんだから失望されないようにしないと。


「ギルドマスター。冒険者マルスさんとイリスさんをお連れしました」

「入ってくれ」


 執務室の中にはクラーシェルのギルドマスターであるディクソンさんが待っていた。


「お茶を頼む」

「は、はい」


 緊張した様子のリナリーが出て行く。


「彼女はまだまだ新人でな。私への対応も未だに緊張している。ちょっと至らない所があるかもしれないが目を瞑ってくれると助かる」

「あれぐらいなら問題ないですよ」


 執務室の中にあるソファに座る。

 俺の隣にイリス、正面にギルドマスター、その隣にフィリップさんが座った。分かっていた事だったが、フィリップさんとギルドマスターが今回の依頼の依頼人という事になるらしい。


 リナリーが紅茶を置いて退出する。


「さて、早速仕事の話を……」

「その前に俺からいいか?」

「どうした?」

「イリスティア……イリスに確認しておきたい事がある」

「私、ですか?」


 紅茶に手を伸ばそうとしていたイリスの手が止まる。


「どうして敬語を使っている」

「何かおかしな事があるか?」

「さっき受付前でのやり取りを見ていたが敬語なんて使っていなかったぞ。あまりの変わりように一瞬だけお前じゃないのかと思って声を掛けるのを躊躇ってしまった」

「あ、あれは……」


 イリスの目が泳いでいる。


『何かあるのか?』

『何か、というかフィリップさんたちの前では恥ずかしくて……』


 以前の敬語に戻してしまった。

 俺としては既に今の口調に慣れてしまったので普段通りにして欲しい。


「彼女は、同じ年代の俺たちとパーティを組んでいるのでタメ口で接しているんですよ」

「ほう……」

「そうなのか?」


 ギルドマスターまで驚いてしまっている。

 ディクソンさんもギルドマスターとして長いと聞いているのでイリスの幼い頃の姿を知っている。幼い頃から大人に混じって敬語を使い続けていた姿を知っているだけに敬語を使っていない状態というのが信じられないのだろう。


『お前はどっちがいい?』

『それは……』


 迷っているらしいので他者に決断を委ねてみる。


「お二人はどっちの方がいいですか?」

「育ての親としては敬語よりも普通に接して欲しいな」

「私も幼い頃から知っている身としてはそっちの方がいいな」

『っていうことだぞ』


 それでもまだ踏ん切りが付かないらしい。


『絶対命令:この部屋内での敬語禁止』

「ちょっと!」


 俺の命令に怒ったイリスが立ち上がって睨み付けてくる。


「普段通りに話せばいいんだよ。そもそも冒険者で常に敬語を使っているような奴の方が少ないんだから」

「メリッサがいるじゃない!」

「あれは例外」

『たしかにその通りですが、失礼な言い方ですね』


 少し怒った様子で返って来るが今は目の前にいる二人の反応の方が気になる。

 フィリップさんとギルドマスターはイリスの方を見てポカンと口を開けていた。


「長生きはしてみるものだ。イリスティアのこんな生き生きとした姿を見られるなんて思ってもみなかった」

「ああ、同感だ」


 あうあう言って恥ずかしさから座り込んでしまう。


「まあ、イリスとはこんな調子で仲良くやれているので問題ないですよ」


 敬語を使っていないところを見てみたい、などと言っていたが実際のところはイリスが俺たちと仲良くやれているのか確認するのが目的だろう。

 元パーティメンバーとギルドマスターというよりは親心によるものだ。

 彼女を引き取った者としてしっかりと見せる必要がある。


「今は『イリス』と名乗っているんだな」

「だったら私も『イリス』と呼ばせてもらおう」


 呼び方も『イリスティア』から『イリス』へと変えてもらう。

 今、彼らの目の前にいるのは俺の眷属であるイリスだ。


「さて、懐かしい人物に挨拶をするのはこれぐらいにして仕事の話をしよう」

「俺たちは具体的な事は何も聞いていません。詳しい事はクラーシェルにいるギルドマスターから伺うように言われています」

「今回の一件、あまり大きく広めるわけにはいかなかったのでアリスターのギルドマスターにも詳しい事は伝えていない。該当者が誰なのか詳しい事まで知らなかったが、『巨大な土竜が出現したので、巨大海魔を討伐した冒険者の力を借りたい』と伝えただけだ」


 その結果、俺に依頼が回って来た。

 さて、どんな依頼になる事やら。


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