第14話 犯人は
『俺を殺した犯人は、村長だ』
それは、半ば予想していた答えだ。
行方不明になってから伯爵にお金を借りに行くまでの行動が早すぎる。最初から計画していたのか、それとも突発的に思いついたのかは分からないが、行方不明になったことが発覚する前に準備をしておかなければ確実に間に合わない。
しかし、それだけではなかった。
『それから兵士長のヴェズンに、名士のランドだ』
「三馬鹿全員かよ」
三馬鹿――それが、俺たちの世代による村長たちの評価だ。
俺が生まれ育った村――デイトン村は、村長の親の親の世代がこの辺一帯を開拓して作り上げた村だ。開拓を行った世代が優秀で、苦労したおかげもあって豊かな村となり、それを継いだ子供の世代も後に続くよう保っていた。
だが、親の苦労を見てきた村長の親の世代は、子供にはそんな苦労をさせたくないと考えて多少……かなり甘やかされて育てられた。そのせいか未だに子供のようなところがあり、教育されていたこともあって無能ではないが、有能でもない――人望の薄い村長や名士というのが俺たちの評価だった。
『あの三人は以前から街に時々出掛けては、金の出処が心配になるほど遊興していた。俺はそれが気になって独自に調査していて、村が貯め込んでいたお金にまで手を付けていたから村長たちを呼んで問い質したんだ』
金庫の鍵を開けられたことから中身の推移や村長たちが出掛けている間に減った金額、独自に聞き込みもして大金が使い込まれた証拠を突き付けた。
『そうしたら兵士長に後ろから頭を殴られて気絶しそうになった』
「気絶しそう?」
『ああ、3人は気絶したと思い込んでいたらしいけど、ステータスは俺の方が高かったから耐えたんだろう』
村の中で一番強いのは父だ。
実力を考えれば父が兵士長として村の兵士をまとめるべきだった。フォレストウルフを退治した時など兵士長ではなく、父の指示に従って戦っていたぐらいである。にもかかわらず父が兵士長になっていないのは、先代の村長や兵士長の遺言があっていつまでも兵士長の座に居座っていたためだ。
兵士長の実力など大したことがなかったはずである。
『それでも頭を殴られたショックで体が動かなくなってしまったから何もできないまま3人の会話だけ聞いていた』
その時に交わされた会話を教えてくれる。
『まったく、こいつは何様のつもりだ』
『村の金だ。ならば村長である俺たちが自由に使っても問題ないだろう』
『ああ、こいつは昔から兵士長の俺より強くて目障りだったんだ』
そこで、今後のことについて計画された。
まず、この場所に大きな穴を掘り、体が動かない父をこの場所まで運びそのまま捨てるように放り投げた。後は、そのまま土を被せて生き埋めにした。
その後、ある程度の時間は意識があったらしいが、次の意識を取り戻した時には、死魂の宝珠を使った状態だった。
つまり……
「奴ら、父さんを生き埋めにしたのか!?」
『そういうことになるな』
父は冷静に答えるが、俺の心は怒りで煮え滾りそうだった。
『それで、お前はこれからどうする?』
父の行方は知ることができた。犯人も分かった。
後は……
「報復させてもらう」
『そうか』
父はそれだけで何も言わない。
「真面目な父さんなら復讐なんて反対するかもしれないって思っていたのに」
『俺も殺されたことに対しては復讐してやろうとは考えていない。村長たちを問い詰める時に一人で行動しないで、誰かに相談するなりしてからすればこんなことにはならなかったはずだからな。けど、無関係な家族まで巻き込んだことは許容できない。お前が復讐したいっていうなら、俺は応援してやる。それが迷惑を掛けてしまった俺の最後の責任だ』
「父さん……」
父の許可を得たことで心が落ち着いた。
『ただし、ただ村長たちを殺してしまうのだけはダメだ。村長たちに自分たちの罪を認めさせたうえで痛い目に遭ってもらうっていうなら何をしてもかまわない』
俺のステータスなら村長たちを叩きのめすなど簡単だ。
だが、それでは意味がない。
村長たちには地獄に落ちてもらう。
「もちろん人に謂れのない借金を背負わせた村長たちには使い込んだ金を払ってもらう。なおかつ自分たちの罪も認めてもらおうじゃないか」
『罪を認めさせる。それは、俺の存在があっても難しいぞ』
死魂の宝珠を使って会話が可能になった父に証言してもらっても俺がそういう風に言わせているだけ、と言われてしまっては意味を成さない。
それに死魂の宝珠の存在について公にするわけにはいかない。
誰も到達したことのない地下77階から得られる宝箱から手に入れた、などということが教えられるわけがない。
「まだ具体的なことは決めていないけど、村長たちにはまず自分たちの罪を認めなければならない状態にまで追い込まれてもらう。その為に村そのものを危険に晒すこともあるかもしれないけど、問題ないでしょ」
もはや俺にデイトン村に対する思い入れなど何もない。いや、村に残してきた実家には少しばかり思い入れが残っている。
まあ、気にしても仕方ない。
『ああ、そうだな』
父も賛同してくれた。
村長たちほどではないが、裏切ったのは村人たちも同様だ。父に世話になった者もいれば、友達と呼べる者も多くいた。にもかかわらず、誰も助けてくれないどころか、村から出て行く俺たち家族を犯罪者を見るような目で見ていた。
村人たちもどうなろうがどうでもいい存在に成り下がっていた。
『お前がやりたいようにやれ、俺はここから見させてもらうことにするよ』
俺の自由にさせてくれると言う父。
だからこそ聞かなければならないことがあった。
「父さんは何かやり残したことはないか?」
『やり残したことか、他の家族に別れを言えなかったことが心残りかな』
どこか遠い目をして言う父。
父は叶わない願いだと思っているようだが、それぐらいなら叶えられる。
遺体の上に浮いた死魂の宝珠を回収すると、父の姿が消える。だが、死魂の宝珠の効果が消えたわけではなく、宝珠からは父の声がまだ聞こえていた。
『おい、何をするつもりだ!?』
「死魂の宝珠は吸い集めた魔力を記憶して生前の姿を人格や記憶まで含めて再現する魔法道具だ。遺体に残っていた魔力を集め終わった今なら、こうして魔力を宝珠の中に留めて持ち歩くこともできる。全ての事が終わるまで父さんの今の状態を教えるわけにはいかないからしばらく待ってもらう必要があるけど、全てが終わった後で必ず別れを言える時間を作る」
俺が何をしようとしているのか理解した一言だけ『分かった』と言うと黙ってしまった。
死魂の宝珠の効果時間はまだ数分残されている。別れを言うぐらいの時間はきちんと用意してあげるし、村長たちが地獄に落ちる瞬間もきちんと見せてあげようじゃないか。
たとえ、その相手が魔法道具によって再現されただけの父だったとしても、そこに何の意味がなかったとしても……。