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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第38話 アンデッドの街

 ――帝都迷宮地下41階。


 昨日、時間が夕方になってしまったせいで探索を切り上げてしまったものの41階から先にどのような光景が広がっているのかは確認している。


 しかし、改めて見ると嫌悪感で一杯だ。

 一緒にいるシルビアとメリッサも嫌そうにしている。


 シルビアの体調も快復したという事で今日は初日と同様のパーティメンバーに戻し、3人での探索となった。


「あの、本当にこの中を突撃するんですか?」

「仕方ないだろ」


 メリッサのおかげで出口が目の前にある廃墟となった街の中心にある事は分かっている。


 しかし、そこへ至るまでが問題だった。

 その問題があったからシルビアにはどんな場所だったのか伝えずに連れて来た。俺としては伝えておいた方がいいと言ったのだが、女性陣3人から反対されて仕方なく教えない事になってしまった。


 その理由となったのが……


「どうして、アンデッドだらけの街を突っ切らなければならないんですか!?」


 目の前には廃墟となった街がある。

 そして、当然のようにそこに住んでいた人も腐った死体――アンデッドとなって今でも暮らしている。

 そんな設定だろう。


「出口がこの先にあるから」

「迂回ルートは!?」

「街の入口なら他にもいくつかあるみたいだけど、出口は一つしかない」


 結局のところ街を突っ切らなければならない事は変わらない。


「いいですか。女の子には絶対に許せない物がいくつかあります」

「う、うん……」


 なぜか説教のような物が始まってしまった。


「その代表格とも言えるのがキッチンにいる黒い虫と不潔な存在です」


 いや、アンデッドは不浄な存在です。


「街中にいるゾンビを見て下さい。明らかに洗っていない体、そのせいで腐臭がここまで漂ってきています。斥候能力を鍛えたせいか嗅覚まで敏感になっているんです。もっと簡単な攻略ルートはありませんか?」


 そんな事を言われても困る。

 いや、単純な解決策ならある。


「俺とメリッサだけで進もうか?」


 ルートの確認にメリッサの力は必要不可欠。

 主である俺さえ先へ進めれば後からシルビアたちを呼び出す事は可能。

 シルビアは迷宮の最下層で留守番をしていればいい。


「いえ、昨日と一昨日も休みを頂いてしまっているので今日は最初からしっかりと働きたいと思います。仕方ないので護衛として後ろから付いて行きます」

「……何を言っているのですか? シルビアさんも先頭を走ってください」

「え?」


 メリッサの言葉がよほど意外だったのか、それとも信じたくなかったのかシルビアがキョトンとした表情のまま固まってしまっている。

 そんなにアンデッドに支配された街を突っ切るのは嫌か。


「私は探索ルートの割り出しに集中する事になります。周囲への警戒はシルビアさんが担当して下さい。当然、先頭を走る私を守る事も含まれますから私の傍で警戒してくれますよね」


 ああ、メリッサの魂胆が分かった。

 先導する必要性上メリッサが先頭を走らなければならない。

 だが、彼女もアンデッドに支配された街を走りたくない。

 だからシルビアを道連れにした。


「……分かりました」


 渋々ながらシルビアも同行を了承した。


「ですが、アイラも連れて行きましょう。わたし一人では街にいるアンデッドの数を考えれば護衛は難しいです」


 護衛と言いつつ犠牲になる人間を増やしたいだけだ。

 現にシルビアの魂胆が分かっているアイラは、


『嫌よ』


 あっさりと断った。


『こっちだって地下47階の改造で色々と忙しいの。こっちはあと数時間しない内に到達されるんだから急いで改造しないと』

「イ、イリスは……」

『私の方がアイラよりも忙しい。というよりもアイラは問題がないか確認して何度か口出しをして来るだけ。正直言っていてもいなくても変わらない』

『う、裏切り者!』


 そんなに廃墟を駆け抜けるのが嫌だったのか。

 こんな問答をしている内にリオたちは先へと進んでしまう。


「どうでもいいけど、誰が行くのかさっさと決めてくれ」

「ご主人様は平気そうですね」

「……もう腹は括った」


 俺が行かない事には始まらない。

 できることなら俺だってこんな場所を通りたくない。


「というか、お前ら迷宮の墓地フィールドは問題なかっただろ」


 何度かアンデッドと戦う訓練はしている。

 それに尋問用に捕虜を送り込んだ事もある。


「それは、あそこがわたしたちの支配下にある場所だからです」

「死臭も迷宮適応があったおかげでしませんでした」

『命令一つで近付いて来ないっていうのもいいわね』

『生理的にアンデッドの顔は無理』


 そうですか。

 けど、本当に時間を掛けているような暇はない。


「先に行くぞ」

「あ、ちょっと……」


 街の中心へ向かえばいいのは分かっている。

 駆け出し、街の中へ入った瞬間、左右にあった建物からゾンビが現れる。


「こういうのは近付かなければいいんだよ」


 両手をそれぞれに向けて掌から風の衝撃を叩き付ける。

 吹き飛ばされたゾンビが背後の建物の壁にぶつかり『グチャ』という生々しい音を上げる。


 そうしている間に建物の向こうから矢が雨のように降って来る。

 剣で薙ぎ払うと矢が地面に落ちる。

 建物の屋根を見れば骸骨兵士(スケルトン)が弓を構えていた。


「これだからアンデッドは面倒なんだよな」


 気配を探ろうとしても周囲にいるアンデッドの正確な数が分からない。

 既に死んでいるアンデッド故に生きている者特有の気配という物がないせいだ。


「それでも知る術がないわけじゃないんだよな」


 弓矢での攻撃を諦めたスケルトンが剣を手に近付いて来る。

 その時、カタカタとスケルトンの骨が鳴っている。

 ゾンビについては体が腐っているせいで耳を澄ませばネチャネチャといった音がする。

 さらに死体特有の腐臭も感じ取る事ができる。


「こういうのも【迷宮適応】の弊害だな」


 アンデッドがいると思われる場所へ火の矢(ファイヤアロー)を撃ち込む。

 腐った死体であるゾンビは全身が燃え上がり、スケルトンも炎の衝撃によって骨がバラバラになっている。


「それなりに経験を積めばアンデッドの位置も分かるようになるな」


 迷宮にある墓地フィールドで訓練した時は無意識の内に【迷宮適応】を使用していた。

 人間は楽ができれば楽をしたくなってしまう生き物だ。

 たとえ強くなる為の訓練に必要な事だったとしても【迷宮適応】を使用すればアンデッドの気味の悪い顔を見なくても済むし、死臭を嗅ぐような事もない。


 こういう自分の支配が全く及ばない場所に赴いた方が訓練になる。


「ご主人様!」


 街へ入ってすぐの場所にいたアンデッドを倒したところでシルビアとメリッサが追い付いて来た。


「どうして一人で突っ込んだんですか」

「いや、アンデッドがいる状態で街を突っ切るのが嫌だったみたいだから俺が囮になって姿を現したアンデッドを片っ端から倒して行った方がいいかなって思ったんだよ」

「迷宮では魔力の消費を抑えるように言ったのはご主人様の方です。無茶な魔法の使い方はしないで下さい」


 さすがに街にいる全てのアンデッドを魔法で倒しながら進んでいたのでは魔力がもたない可能性が高い。


「そんな事をさせるぐらいならアンデッドを我慢します」

「そうですね。街を駆け抜けた方が効率もいいです」


 先導するように俺を置いて走り出すシルビアとメリッサ。


「はいはい」


 その後に付いて行く。


 周囲の建物からアンデッドが現れる。本来なら不意打ちのように現れるアンデッドを警戒し、対処しながら進まなければならないのだろうが、アンデッドは体が不完全なせいか歩みが遅い。

 左右から現れたアンデッドを置き去りにする。


 追い付けない事が分かると、今度は正面の道を塞ぐように数十体のゾンビが姿を現す。


「お願いします」

「分かりました」


 前を走っていたシルビアが後ろへ少し下がってメリッサが魔法を使いやすいようにする。

 次の瞬間、メリッサの杖から放たれる熱線が道を塞いでいたアンデッドを薙ぎ払う。

 熱線に体を切断され、地面に倒れた体からプスプスと煙が上がっている。


「容赦ないな」

「アンデッドに容赦する必要がどこにありますか? 本来なら土の下で眠っていなければならない魔物なのですから焼却処分してしまうのが一番です」


 晴れやかな笑顔でそんな怖い事を言わないで欲しい。


「そろそろかな」


 街の中を5キロほど走ったところで地面が揺れた。


「地震、っていうわけでもないな」


 ここは迷宮内に造られた空間だ。

 通常であれば地震が起こらないようになっている。まあ、地震が起こるような空間に設定していれば地震が起こらない事もないのだが、そんな設定を施す理由が分からない。


 原因はすぐに分かった。

 出口があると思われる場所の前に全長10メートルのスケルトンが立っていた。


「門番ってところか」


 巨大スケルトンが大鉈を振り下ろしてくる。

 緩慢な動き。回避は簡単だが、地面に当たった時に起こる衝撃が凄そうだ。


 道具箱(アイテムボックス)から2メートルの十字架を取り出す。


「それは?」

「せっかくだから性能試験をさせてもらう」


 シルビアの質問に答えながら十字架を投げる。

 飛んで行った十字架が振り落とされた大鉈を砂に変え、巨大スケルトンの体を当たった瞬間に消滅させる。


「今の十字架みたいな武器はいつの間に手に入れたんです?」

「先代の迷宮主たちが遺していった魔法道具だ。今の十字架はアンデッドに対して絶対的な効果を持っている。これまでは機会がなくて使う機会がなかったけど、俺の持っている魔法道具のどれかがリオの狙っている道具の可能性がある」


 性能を詳しく知っていなければ対処も難しい。

 飛ばした十字架を回収して道具箱にしまう。


「さて、どれが欲しいんだか」


 道具箱の中にある大量の魔法道具を思えば全てを試す事は出来ない。

 しかし、俺の手から離れた十字架を回収する様子もない事から目的の道具は十字架でない事が窺える。

 もっともこんなところで考えても簡単に答えが出るわけではない。


「行くぞ」


 巨大スケルトンの後ろには転移魔法陣があった。

 迷宮の奥まで進めば答えは自然と分かる。


『あ、そう言えば面白い道具があるから使ってみる?』


 迷宮核からの甘い誘惑が聞こえて来る。


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