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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第14章 迷宮踏争
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第36話 水没リゾート

リオ視点です

 ――アリスター迷宮地下37階。


「なんだ、ここは……」


 目の前に広がる水を前にしてそう言わずにはいられない。


 この階層には水しかないように見える。

 それは正しくない。きちんと足元には足場があるし、遠く離れた場所には背の高い木が見える。だが、顔を水面から僅かに出せる程度でギリギリ足が着くぐらい。木以外の物は全て水没してしまっている。本来なら入口横にあるはずの転移結晶まで水没してしまっている。


「え、あたしが聞いた情報と違う……」


 情報収集を担当していたソニアが呆然としている。

 俺が聞いた時も地下37階は魔物が全くおらず、リゾートのように解放されている階層だと聞かされていた。


 決して水没してしまった階層ではない。


 情報食い違う現実。

 原因は相手の迷宮主にある。


「階層にある物のほとんどを水没させるほどの階層。いったい、どれほどの魔力を消費しているんだ」

「それよりもどうするの?」

「どうするって……」


 目の前には、ただ海が広がっていた。

 俺たちも荒野フィールドから物を排除して目印になる物を失くしていた。

 だが、水没した海は荒野フィールド以上だ。


「わふっ!」


 探索をしようとアイリスが歩いていると足場がなくなったせいで水の中に落ちていた。

 幸い、すぐに引き返せば立てる場所へ戻る事ができたので問題ない。


 だが、今ので分かったように少し歩いた先は深くなっている。

 とてもではないが、まともな探索ができるような場所ではない。


「【未来観測(フューチャーヴィジョン)】」


 マリーがスキルを使って未来を予測してくれる。

 しかし、そのスキルはこれまでに集めた情報を元に未来を正確に描き出す事ができるスキル。

 当然、リゾートが水没している情報すらない状況では本当の力を発揮する事はない。


「ごめんなさい」


 こんな状況では失敗するのも無理はない。


「この状況。どうするべきだと思う?」

「まず、出口は必ずあるんですか?」

「それは間違いない」


 迷宮の目的上、集めた魔力は最下層へと送られる。

 その為には常に転移魔法陣を起動させ続けなければならない。

 出口があるのは間違いない。


「けど、この状況だと水中のどこかにあるって事ですよね」

「それも問題ない。転移魔法陣を設置するうえで気を付けないといけないのは魔法陣の上に物を置いて魔法陣が正しく機能しなくなる事だ。水中にある程度なら問題ない」


 転移魔法陣を隠される。

 これほど困る足止めはない。


 だが、水中にあるだけで上に岩を置くなどして隠されているわけではない。

 見つけようと思えば見つける事はできる。


 問題は場所が全く分からない事。


「私が見た光景でよければ参考にしますか?」

「いいけど、見えたんじゃないのか?」

「いえ、未来を見る事はできました」


 ただし、それは全く参考にならない未来と言っていい。


 【未来観測】で見た未来では、入口から500メートルほど真っ直ぐ進んだ場所にある転移魔法陣を見つける事ができた。その時、すぐ隣にはヤシの木があった。


「なるほど」


 マリーの見た未来からある程度は候補を絞る事ができた。


 今いる場所を起点に500メートルぐらいの場所にある木は全部で8本

 どれかの近くに出口はある。


「どこへ向かうべきだと思う?」


 未来を予測したマリーは首を横に振る。

 他のメンバーを見ても根拠を見出す事ができないでいた。

 こういう時にパーティの指針を示すのがリーダーの役割だ。


「とりあえず太陽のある方向へ向かって進んでみよう」


 500メートルをどうにか泳ぐ。

 水中には危険な魚もいないおかげで10分もすれば辿り着く。


 大きな木の幹に手を着いて周辺を探索する。水中の探索になってしまうので大変だが、目に見える場所にあるのは間違いない。

 うん、出口は近くにないな。


「どうやら別の木みたいですね」


 ここまで泳いで来たマリーが苦笑している。

 それも仕方ない。ここまで来るだけでも体力を消耗している。

 なによりも自分のいる場所が分からなくなってしまった。


「入り口はどこだ?」


 普段なら入口横にある転移結晶が入口の目印になっている。

 だが、目印となる転移結晶も水没してしまっている。


 この状況では、入口から500メートルの場所も分からない。予め確認していた木もどれだか分からなくなっている。


「どうしますか?」

「……これだけは使いたくなかった」


 だが、贅沢を言っていられない状況になってしまった。

 こんな水に浮いた状態では探索をするうえで危険はなくても休憩する事ができない。いつまでもこんな階層にいるわけにはいかない。


 道具箱(アイテムボックス)から魔法道具(マジックアイテム)を取り出す。


「使ってしまうんですか?」

「泳いで、どこにあるのか分からない出口を何時間も探すよりはマシだ。これを使う事によって向こうに色々と知られてしまう事にはなるけど、気にしていられる状況じゃない」


 1辺が30センチの台座の上に針の入った水晶の球体が備え付けられている。

 今は効果を発揮していないせいで北を指し示している。羅針盤が正しく機能しているなら南へ向かって歩いていたみたいだ。迷宮内部は圧縮された亜空間だが、方位が存在している事は自分の迷宮で確認している。


「対象:地下38階へ続く転移魔法陣」


 水晶内部にある針が向きを変えて方向と距離を教えてくれる。


「相変わらず凄い性能の魔法道具ですね」

「そうだな。俺が迷宮を攻略した後で真っ先に手に入れたのがこいつだ」


 迷宮主になれば皇帝になれるという条件を聞いた。


 だが、皇帝になる為の条件を満たしたからと言って、その後の統治まで盤石になるわけではない。

 俺の邪魔をする者、疎ましく思っている者を羅針盤の力を使って次々と見つけ出し、迷宮の力で証拠を集める。


 実に簡単な作業だった。


「よし行くぞ。『天の羅針盤』によれば北へ960メートル進んだ場所に転移魔法陣がある」


 天の羅針盤――探したい対象を指定する事によって対象のいる方向、対象までの距離を教えてくれるという機能を備えている。

 この天の羅針盤の凄いところは曖昧な指定にも応えてくれる事だ。


 今回みたいな『転移魔法陣』の位置だけではない。

 戦争時のような『帝国軍を少数で打破できる存在』などという抽象的な指定にも応えてくれる。


 これさえあれば迷う事はない。


 しかし、そんな万能に思える道具にデメリットが存在していないはずがない。


「大丈夫ですか?」


 ふらついて溺れそうになったところをリーシアが支えてくれる。

 天の羅針盤の使用には多大な魔力を一瞬で消費する事になる。迷宮主になった事で強化された魔力でも眩暈がしてしまうほどの消費量なのだから普通の人間では使用に耐えられない。


「大丈夫だ。それよりも先へ急ぐ事にしよう」


 入口と出口の位置がそれほど離れていない階層にも関わらず時間を使ってしまった。

 泳いで出口へと向かう。


『……! 急いで下さい。向こうは何らかの方法で出口が分かるようになっています』

「どういうことだ?」


 迷宮の最下層で留守番をしているカトレアから緊急の連絡が届く。


『理由は分かりません。ですが、先ほどから荒野フィールドで出口の場所が分かっているように最短距離を真っ直ぐ進んでいます。現在、足止めの為に魔物を向かわせていますが……』


 その効果も芳しくない事はカトレアの声を聞けば分かる。

 そんな事も分からないような浅い関係ではない。


「どうして向こうには出口の位置が分かるんでしょうか?」

「向こうにも俺たちの羅針盤みたいな魔法道具、もしくはスキルがあったという事だろう。モタモタしていると負ける事になるぞ」


 魔力消費量なんて気にしていられない。

 それに、これまで事情があって『天の羅針盤』を所持している事を秘匿して来たが、1度見せてしまった以上は所持している事がバレていると考えて間違いない。ここからはガンガン使って行った方がいい。


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